209話 興味が無いので覚えてません!
敵をじっくり見てみると、う~む、ローブを着た奴は少しヤバいかも。
呪文の詠唱をしていたのはこいつみたいだけど、なんていうか、仮面の奴と同等か、それ以上の悪魔力みたいなのを感じる。
「例の狐と竜、それに勇者か。厄介な奴らに目をつけられたものだな」
「あら、わたしたちのこと知っているみたいね」
ローブの奴が、なんとなく苦々しいって感じにそんなことを言ってきた。
声からして男、それもジジイだね。全身鎧の奴らが身を挺して守ってるあたり、悪魔側の神官長みたいな偉い存在のようね。
しかもわたしだけでなく、エレンとレイジのことも知っているとはねぇ。
あの時の仮面から情報を得たのではない、別の奴が連携したのかしら? 仮面の時にはエレンたち居なかったもんね。
それと、どんな情報が伝わっているのかも気になるなぁ。術装の性能なんかも伝わってたら厄介ね。
「まぁなんで知っているかは後で聞くとして、とりあえず無駄な抵抗せずに、サクッと倒されてくれると嬉しいんだけど」
「ぬかせ! 貴様らの様な童子に、我が三騎士を倒せるなどと思うな!」
「すごい自信ですわね。それにしても……」
「どうしたのエレン、何か気になってるようだけど」
ローブのジジイではなく、その前に居る三人をすごく睨んでるんだよね。
しかも嫌悪感というか殺意というか、結構強い感情だし。
「ユキさん、気が付きませんこと?」
「なにに?」
「あーエレン様、きっとユキ様は気付けないのではなく〝忘れている〟だと思うよ」
「ふぇ? レイジも何かに気づいたの? なんかわたしだけ置いてけぼり感」
わたしが忘れている……う~ん、どういう事だろ?
わからないまま、エレンが三騎士、とくに真ん中の奴かな? それを睨みながら
「糞トカゲがまだ生きていたとは、正直驚きですわ。消えてくれた方が良かったですのに」
おっとー、糞トカゲとか、すごいことを言ってるよ。アリサの駄犬駄狐に並ぶ、かなーり強い言葉ですね。
まぁ糞がついてるけど、この騎士はトカゲ族の人ってことか。
「おいおい、ひさびさに再会した兄に向かってその言葉は何だ?」
エレンの言葉にムッとしたようだけど、三人は兜のフェイスガード部分を変形させ、素顔を見せてきた。
う~ん、やっぱり見覚えないわ。わたしの知らない人なんじゃないかなぁ。
「ユキ様、忘れてるのかもしれないけど、向かって左はエレン様の元従者のジョイス、中央は上の兄のゼーロン、右は下の弟のボーネンですよ」
「うそ、エレンってお兄さんが居たの!?」
「アリサたちが言ってたけど、本当にユキ様って、興味のない対象は完全に忘れるんだね……」
あら、レイジが何となく呆れてるけど、そんなにかな? まぁ覚えないのは自覚してるけど。
こいつらのことも、ほんと―に見覚えないからねぇ。記憶の片隅にすらいないとか、相当です。
まぁいいや、この三人のうちの誰かがサレストの言っていたお友達ってことね。
悪魔化しているけど、たぶん何とかなる。無力化のため、ぼっこぼこにするよー。
「それじゃ一人一体で」
「やはり限界ですわ! 糞トカゲは我が一族にとっての汚点。なので、潔くこの世から消し飛ぶといいですわ!」
「ちょっ、エレン!?」
気楽に考えていたわたしと違い、エレンが殺意マシマシな感じに、兄と呼ばれた男二人に向けて魔力の塊を放ったわ。
崩落しないように抑えてはいるっぽいけど、結構な強さ。これは完全にキレてる?
「甘いなエレン! そのような攻撃、このオレに、な、ちょ、ま、まってくれ!?」
「待ちませんわ! 糞トカゲはこのまま潰れてしまいなさい!」
受け止めたように見えたけど、さすがエレンですね、普通の塊じゃないわ。
見た目は球状の塊だったけど敵に当たった瞬間、敵を包み込むような形に変化して、じわじわ周囲から押し潰すような攻撃になってる。
これは殲滅系の術式を応用しているね。対象を隔離して殲滅するのがそっくりだよ。
しっかしなんていうか、余裕かまして受け止めようとしたお兄さん、ちょっと情けないね。
力量を完全に見誤ってるのもそうだし、馬鹿正直に攻撃を受けるのもあり得ないわ。
そもそも相手の攻撃は躱す、弾く、対消滅させるが基本です。命のやり取りをする状況では、受け止めるなんて論外。
もしも受け止めたらエレンの攻撃のように、追加効果があるかもしれないからね。
エレンの攻撃はやはりすさまじい。受け止めた二人の鎧はどんどんボロボロになって、その姿を……うげぇ。
「なにあの筋肉ダルマとデブ」
「ユキ様、ドストレートにそれを言うのはどうかと思うよ」
「でもさぁ、一応あの二人ってエレンと同じ血を受け継いでるんでしょ? なのにあの見た目とか」
「受け継いでませんわ!」
「あ、はい」
エレンが思いっきり否定してきたけど、でも兄妹なんだから受け継いでるよね……。
認めたくないって気持ちは分かるけど、どうしようもないと思うわ。
まぁ鎧が剥げてわかったけど、黒竜の力は持っているみたいね。角と羽、それに尻尾が生えてるわ。
ただ悪魔化の影響からか、鱗が不気味な感じの黒さで刺々もしてるね。カッコいいというより、おぞましいって感じかしら。
エレンが竜装を顕現させての竜人状態は、角や羽、尻尾は生物というより鎧の一部っぽい感じではあるけど、色が綺麗でキラキラしてて、かなりカッコいい。同じ竜族でもほんと違うねぇ。
「くそっ、どうなってるんだ! ボーネン、もっと力を込めろ!」
「や、やっている! だが、これはありえん!」
おーおー、わたしたちが話してる間もどんどん押し潰してるようで、結構追い込んでるみたいね。
必死にバリアの様な魔法を何度も発動しているけど、発動するたびにどんどん破壊されてる。圧倒的だねぇ。
「ねぇエレン、一応お仕事だから、殺さないようにしてもらいたいんだけど」
「大丈夫ですわ。ギリギリ虫の息になるよう調整してますもの」
「そ、そうなんだ……」
うん、エレンの目が割とマジに殺る気の目だったから、本当にギリギリにするみたいね。
ちょっとコワーって感じなので、これ以上は突っ込まないようにしておこう。
「さてと、それじゃ残りもサクッと倒そうか」
「ユキ様、ジョイスは僕に任せてくれないか?」
「あー、ひょっとして、元従者仲間だからとかそんな感情から?」
「まぁね。ジョイスの今の状態を見たら、少し負い目みたいなのを感じてね」
「もしかしたらレイジとジョイスって奴は、今の立ち位置が逆になってたかも、ってことかな?」
「そういうこと」
なるほどねぇ、ほんとレイジらしい考えだわ。
わたしからすると、レイジとジョイスって奴が逆の立ち位置になることは、絶対にありえないと断言できる。
だってわたしが忘れてるってことは、このジョイスって奴は嫌いな相手ってことだもんね。
「それじゃわたしはローブの奴を、エレンはそのままあの二人ね」
「わかりましたわ。このまま地獄を見せて差し上げますわ!」
「やり過ぎないでね? んじゃいっくよー」
エレンの攻撃で少し慌ててる感じだし、わたしもあのジジイをさっくりたおそーっと。




