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207話 順調ではあるんだけど

 目的の鉱山に突入してから早5分、これはちょっと意外だなぁ。


「デーモンが居ませんわ」

「ゴブリンやオークといった、普通の魔物ばかりですね」


 二人が言うように、どういうわけかデーモンは1体も現れず、普通の魔物しか出てこない。

 だけど坑道の奥深くからは、悪魔特有の嫌な気配をしっかりと感じるし、デーモン系の魔物も居そうなんだけどなぁ。


「う~ん、なめられてるのか、それともデーモンが間に合わないだけなのか」

「理由はどうあれ、楽に進めるのは良い事ですわ」

「まぁねぇ」


 ゴブリンやオークといったザコばかりだから、作戦らしい作戦を立てなくても簡単に倒せる。

 狭い坑道での戦いは周囲に気をつけなきゃいけないので、特殊な方法をとらずに済むのは、精神的にも気楽なので良い事です。





「それにしてもこの魔物、天然ものじゃないですよね?」

「だね。召喚魔法を使って呼び出した駒だわ」


 ダンジョンや自然に発生した魔物と違い、召喚で呼び出した魔物は倒すと消えてしまう。

 これは召喚主の魔力や精霊力を使って、現世へと仮初の体を形成して顕現するから。仮初の体は倒されると形成していた魔力などが拡散し、形を保てなくなる。最後は大気中の魔素などに還元される。


 ただ、仮初の体という事は、倒されても本体には影響がない。

 本体に影響が無いという事は、再度召喚すれば元通りという事。召喚主の魔力などがある限り何度でも、だね。

 それこそゾンビアタックのように、何度でも敵にぶつけることも可能、なかなか厄介な戦法です。


 もっとも、召喚される側にも意志や感情が存在することが多いから、捨て駒のように扱っていると、いずれ召喚できなくなる。仮初の体とはいえ、何度も倒されるのって良い気はしないだろうからねぇ。

 この坑道に出てくる魔物も捨て駒の如く何度も登場だし、いずれ召喚できなくなるんじゃないかな? いっそのことそれを狙うのもアリか。


 それにしても


「ゴブリンやオーク、スライムやトレントといった魔物の混成部隊も増えてきたあたり、試行錯誤をしてるっぽいね」

「今後に向けてですわね。誰を相手にするための試行錯誤かはわかりませんけど」

「特定の相手ではなく、町や国という可能性もありますね」


 レイジが指摘したように、個人相手ではなく、もっと大きなものを相手にする可能性もある。国を亡ぼすためという線もあり得るね。

 なにより悪魔は、大量虐殺などをして負の感情を集めると強くなるって文献があるからねぇ。ほんとヤバい存在だわ。





 考えはそこそこに進むこと数十分、小部屋みたいなのを発見したので中に入ってみる。お宝あると良いな~。


「さーてさて、何がある~……はい?」

「これは死体、ですわね」

「神聖王国に仕えていた騎士の物みたいだね。この鎧、見覚えがあるよ」

「しかも結構たくさん。むぅ、お宝じゃなくて残念」


 部屋には無数の死体、それも白骨化したのから腐ってるもの、数日しか経っていないものまである。

 目立った外傷はないことから窒息、もしくは呪いなどの精神系の攻撃で倒されたようね。


「偵察しに来た騎士の成れの果てなのか、それとも悪魔の実験の被害者か」

「謎ですわねぇ。念のため調べますの?」

「んー、気にはなるんだけど、今回のお仕事とは無関係だからねぇ。この死体が魔物化して襲ってきたら、その原因を探ることはできるけど、ただの死体に対する死因の特定は越権行為になっちゃうかなぁ」

「それもそうですわね。これは神聖王国が対処すべき問題、わたくしたちが対処すべき問題じゃないですものね」

「そゆこと」


 ここが神聖王国である以上、わたしたちは部外者だからね。

 放置したことで神聖王国が悪魔の巣窟になる未来があったとしても、他国のわたしたちが許可なく干渉することはできない。

 それに、良かれと思ってしたことでも、神聖王国の様なひねくれた存在には逆効果にもなる。余計なことをしてって非難されることだってある。

 そんな思いをしてまで慈善活動ができるほど、わたしの心は広くないのです。


 ただ、正式な許可が下りるのであれば、ちゃんと調べておきたいのもまた事実。

 ナナとネネが住んでいた村もこの北部にあり、そこで神聖王国の騎士に襲われたって話だからね。

 ここにある死体がその関係者かは分からないけど、なんとなく繋がりがありそうな気がするからなぁ。許可が無いのがちょっと残念です。





 部屋を後にし、さらに奥へと進んでいく。

 敵は相変わらずデーモン以外の魔物しか出てこないから、トラブルもなくて順調。この調子ならサクッと帰れそうだなぁ。


「そういえばこの坑道、何のために作られたんですの?」

「んっと、そもそもこの坑道、神聖王国が掘った物じゃないの」

「神聖王国が掘っていない、それは興味が湧いてきますわ」


 そう言いながら、エレンはわたしの手を握ってぶんぶん上下に振りだした。いつも通りぐいぐいきますね~。

 でも、う~ん、気のせいかな? 普段よりも距離が近いよーな。いや、エレンだけでなく、アリサもここ数日距離感が近かったよーな。

 ミツキの行動に刺激されて、もっと積極的にって感じになったのかしら? わたしもちょっと驚く位、ミツキは大胆な感じだからねぇ。


 そういえば、一緒に寝る順番みたいなのも決めてたっけ。

 基本は日替わりだけど、何らかの用で一緒じゃなかった場合はその都度調整するとかなんとか。割と細かいです。


 まぁ三人の仲は悪くないようで、わたしも一安心だけど。

 あとはメイが来たらどうなるか……。関係悪化しないといいなぁ。





「ここに来る前に、念のためお母様に確認しておいたんだけど、どうやら大昔のエルフさんが掘った坑道らしいの」

「エルフの方が、ですの? と言いますか、神聖王国にエルフの方が居たんですの?」

「居たようだよ。しかも精霊さんもいっぱい居たみたいなの」


 二人に神聖王国ができる前のあれこれを話していくと、衝撃的な事実を知ってしまった、って顔をしちゃったね。


 もとは精霊がたくさん住んでいて資源も豊富、管理をするエルフも大勢いた。

 だけど、神聖王国の初代国王たちが勝手に国を興し、精霊とエルフを追い出すようなことをした、って聞いたらこうなるか。


「まぁ、神聖王国王は今も昔も腐ってるってことだね」

「ですわねぇ。ほんと迷惑しかない国ですわ」

「だねぇ。しかもこの鉱山、エルフさんが途中まで掘っていたのを、神聖王国の奴らがそのまま利用してるみたいなの」

「なぜだろう、残された鉱山を利用するのは当たり前のことなのに」

「悪いことをしている様に思えてしまいますわ」


 二人がそんな風に思うのも当然かな、わたしも同じだったし。

 やっぱね、精霊とエルフを追い出して支配したっていう経緯が最悪すぎるからね。鉱山と坑道も受け継いだっていうより、奪ったっていう印象しかないわ。


「だけど技術レベルの差がありすぎたようね。うまく採掘できないようで、この鉱山は放棄したようだし」

「確かに、採掘の形跡があっても大昔のものだけですわ」

「軽く探知した限り、まだまだ眠ってそうなのに放棄だからね。技術を盗もうとしたけど失敗した、って可能性もありそうだよ」


 そもそもオリハルコンやアダマンタイトは、当然それなりに硬い岩の中に埋まってる。普通のツルハシやドリルで掘ろうとしても無理。道具の方が先に壊れちゃう。

 なので、採掘には専用の魔法や術式、もしくは魔道具を使うのが一般的。こういうところはちょっとファンタジーですね。


 だけど、魔法や術式は制御が難しく、失敗すると掘るどころか鉱山を破壊しちゃう危険なもの。

 魔道具は製造するためには相応の技術が必要なので、採掘用魔道具はどこの国も国家機密となっている。兵器への転用が容易な魔道具だからしょうがないけど。


「つまり、神聖王国には優れた術者も技術者も居ない、という事ですわね」

「そゆこと。うわべだけ盗んだ末路ともいえるけどね」


 支配して奪うのではなく、互いに手を取り合って共生の道を選べばいいのに、ほんとダメダメな国です。

そろそろ目的地に到着

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