203話 温度差もすごい
セイリアスの王子が、アリサの元主人であるロリコン勇者とはねぇ。
でも、あれ? 確かこいつ、神聖王国の勇者だった気がするんだけど、どういうこと?
「なんだ、息子と面識があったのか?」
「のようね。ねぇユキちゃん、どこで会ったのかしら?」
おや? セイリアスの王が初耳なのは分かるけど、お母様まで?
おっかしいなぁ、そのあたりは伝えてたはずなんだけど。
「えっと、アリサがうちに初めて来た日に会いました。とゆーか、勇者が連れてきた子だと言った気がするんですけど」
「そうだったかしら? シズクは覚えている?」
「たしか『タツミ様が案内されている勇者の従者』のようなご説明は受けたかと。ただ、私もですがタツミ様から託されたとばかり……」
あー、そういうことか。
わたしがお父様に頼んでアリサを連れ出したのではなく、お父様がわたしに託したって感じに伝わってたのか。
ロリコン勇者を案内する前に、従者であるアリサをわたしに……みたいな流れを想像してたのかも。
これはアレだなぁ、わたしとお父様の悪い癖だけど、些細なこととか一人でサクッと解決できちゃう事は、ホウレンソウがだいぶ適当になっちゃう。今回もそれが原因だね。
なぜか大事になりそうなものはきちんとホウレンソウできていて、こういうどうでも良い事だけできてないという、ちょっと謎な現象だけど。
「だけどお母様、アリサの元主人というのは知っていたんですよね?」
「そうよ~、忘れていたけれど」
「忘れていたんですか?」
「だってアリサちゃんはうちの子で、ユキちゃんのお嫁さん兼専属メイドという認識しかないから、正直ね」
すっごいなっとく。
うちって過去とかどうでもいい、今が大事って考えだからねぇ。
過去の評価や扱いのせいで、今の立場がダメダメになるのは論外だし。
それにお母様が言ってる通り、うちの人達はみんな『アリサは家族でわたしの専属メイド』って言う認識なわけで。勇者の元奴隷とか、みんな忘れてるね。
あと、当のアリサが元奴隷とか神聖王国生まれとか、そういうのを完全に乗り越えてる。
乗り越えてなければ話題になってたかもしれないけど、違うからねぇ。忘れて当然って感じのネタです。
とゆーかお母様、さらっと〝わたしの嫁認定〟発言してますよ? 母親公認になっちゃってますよ?
そのせいで、アリサが少し照れちゃってますよ? かわいいけど!
「ところで、ご子息は神聖王国の勇者だったようですが、なぜですか?」
「フッ、流石は大国レグラス、息子についての情報をこの短期間で調べ上げたか」
「え、えっと、そうですね」
お姉様が少し視線を逸らしたけど、まぁそうだよね。
お姉様だってアリサの元主人がロリコン勇者だというのは知っている。
だけど、それは息子が気になったから調べたのではなく、アリサをレグラスの民にするために知った情報なわけで。
お宅の息子さんにみんなが興味津々ってことじゃないんですよ? って言いたい!
「なに、理由は単純だ。息子には勇者の素質があったからな、神聖王国にて能力を引き上げようと考えただけだ」
「勇者が多いから、ですか。では、我が国の結界術に興味を持ったのはなぜですか?」
「ほう、そこまで調べているとは。レグラスの情報部はやはり優秀だな」
「そ、そうですね」
お姉様が今度はたじたじになった。情報部を動かして得た内容じゃないからだね。
話の最中にわたしも思い出したけど、ロリコン勇者はお父様に結界を教ってた。
お父様が教えるのもそうだけど、結界はレグラスの中でも重要な技術なので、当然王家にも報告があったはず。
他国の、しかも神聖王国に籍を置く者にどこまで開示するかなど、色々と相談もしてそうだわ。
なので、決してロリコン勇者が気になったから調べたじゃないわけで。多少は調べてそうだけど、細かくは調べてないだろうし。
だって、王家間お付き合いで見合いを渋々するだけなので、お断り確定な相手の情報をそこまで仕入れても意味がない。
これが断れないとか、レグラスの命運を左右するような会合なら別だけど、違うしねぇ。
「理由については僕から説明しよう」
ファサァって感じに前髪をいじった後、ロリコン勇者がそんなことを言い出した。
いちいちカッコつけたりして、この親子はマジで似ているなぁ。国民には受けてるのかもしれないけど、わたしたちからの評価は低いです!
「ご存じだろうが結界と似た効果をもたらす魔法は存在する。だが、レグラスで使用されている結界とは異なり、範囲は限定的で効果も防御だけと、だいぶ劣っている」
結界に近いのはバリア系統の魔法だったかな?
バリアは自身の周囲に防御膜を発生させるものなので、そこまで広くない。広くするには複数人がバリアを重ねて延長する方法が一般的。強引に広げることはできるけど、それだと脆くなる。
それと結界みたいに、特殊な効果を付与したバリアは作れない。回復空間の作成とも無理だし。
あとは、バリアは必ず球体になるので、用途によっては使い勝手が悪いってとこか。
対する結界は、広範囲のものには専用の術式を組むので、強度は維持できるし付与された効果もそのまま。
それに球だけでなく立方体や三角錐、がんばれば人の形そのままみたいな、とんでもない物もできる。しかも形を変えても強度はそのまま維持できる。
ほんと、結界はバリアの完全上位ですね。
「自身の安全のみ考慮すれば、バリアの魔法だけで問題は無い。だが僕は違う。愛する者や自国民を守りたい、それが王の務めだと考えている。それ故に、レグラスの結界を学んでいたわけだ」
「息子はな、次期国王として民の安心を考えているのだ。な? 素晴らしいだろ?」
「まぁそうね」
うわぁ、すっごい温度差があるよ。
この親子は握り拳を掲げたりして、ちょっと熱くなってるんだけど、お母様とお姉様はすっごい冷めてる。
まぁ冷めるのも当然で、民の安全第一なんてレグラスじゃ当たり前すぎる考えだからねぇ。
しかもなぁ、どうもこの親子が言う民の為うんたらって、押し付けというか、自分の事しか考えていない感じなわけで。
『民のことを考えるなんてすごいだろ?』って感じのアピールにしか聞こえないわ。
「まぁ堅苦しい話はここまでだ。ではサレストよ、お嬢さんとゆっくり話してくると良い」
「了解ですよ。それでは行こうか」
うげぇ、つまんない自己アピールが終わったと思ったら、今度はお見合い開始になったよ。
もうさぁ、このまま軽く話して終わりで良いんじゃない? 移動とかしなくて良いでしょ、雰囲気も何も関係ないんだし。
「はぁ……。ユキちゃん、悪いけど少し話してきてくれる?」
「お仕事ってことですか?」
「そう思ってちょうだい。疲れるとは思うけど……」
うん、お母様も少し頭をかかえながらそんなことを言うとか、相当ですね。
予想以上のバカとか自己中とか、そんな感じなんだろうねぇ。
「ごめんねユキちゃん、お姉ちゃんが代われたら良かったんだけど」
「大丈夫ですよお姉様。これもまぁ、人生経験みたいなものですし?」
「不必要な経験だけどねぇ……」
お姉様も相当呆れてるみたい。
これはアレかな、前回の打ち合わせ時にはここまでひどくなかったってことかな?
寒いアピールする人って結構いるけど、こいつらもそうってことだね。
まぁ仕方がない、これもレグラスの為です。
すこ-し、というかかなーり我慢して、ちょっとだけ話をしましょう。がんばれ、わたしの忍耐力!
セイリアス陣営に興味が無いから忘れていたというオチ




