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20話 狐の幼女と魔石の勇者・・・2

少し長いです

 光が弱まっていく。

 やられたわ、この場で魔石を吸収できるとは思わなかった。魔石を吸収するための魔法陣がなかったのに、あの聖剣の力?


「素晴らしい! 今までで一番の魔石だよこれは。この力があれば僕は魔王だって倒せる!」


 魔王? そんなのはこの世界にいないはずだけど。


 しかし参ったわ、確かにこれは想定以上だわ。強化された魔力量からして魔人以上の力は確実にある。

 同時にすごく腹が立つ。その力はアリサが使う物だったのよ! こんなゴミが使っていい力じゃないの!


「ここまですばらしい魔石を育ててくれて感謝しているよ、えっとアリサだったかな。すまない、奴隷の名前など全然覚えていなくてな。しかしここまで尽くしてくれたんだ、君は再び僕の元で飼ってあげようじゃないか」

「お前だけは絶対に許さない!」


 もうたくさん、こいつはさっさと殺す!


「ふっ、そう熱くならないでくれ。それにそろそろ終わるころだ」


 そう言いながらアリサの魔石を見せてきた。綺麗だったアリサの魔石からは輝きがなくなり、ただの石の様になっているのが嫌でもわかる。


「素晴らしかった。そして見てくれ、この溢れんばかりの力を!」


 奴は力を見せつけるように魔石を強く握りだした。石の様になったとはいえ魔石はそう簡単には砕けない。だが奴の力が増したからか、魔石はその力に耐えることが出来ず、ひびが入り、そして砕けていく……。


 うそ……、アリサの魔石が、死んじゃった……?


 魔石が取り出されただけならば、その魔石を体に戻せばよかった。魔石の力を奪われ石の様になったとしても再度魔石に魔力を注ぎ、それを戻せばよかった。

 だけどもう無理、石の様になった魔石は砕けたらそこまで、元の状態には戻せない。戻せない、それすなわち魔石が死ぬということ。

 そして死んだ魔石はもう二度と蘇らない。つまりアリサの魔石は永遠に失われたってこと……。





 ほんとバカよね、何やってるんだろね、わたし。来るの遅いせいでアリサは傷付き、もたもたしてたら目の前で魔石は砕かれるとかさ。

 なんだろ、砕けていく魔石見てたらさっきまでの怒りとかすらもう……


「では、第二ラウンドの始まりだ!」


 上段からの切り落としが来る、確かに威力もスピードも上がっている。でも避けれないほどじゃない。だけど……。


「くっ」

「おや? どうしたんだい急に止まって。先ほどのように避けたりしないのかな?」


 体が全く反応しない。敵は目の前なのに戦う気力も湧かない。

 だって、ここまでやってきたこと、何一つ正しくなかった! 良い結果に繋がらなかった!


「そらそら、避けないからその可愛い顔にも傷が出来てきたよ? このままなぶるのは僕の趣味じゃないんだがなぁ」


 縦切り横切り、切り落としや薙ぎ払いなど無数の攻撃を食らっている。体には小さな傷ができ、魔衣にもダメージが出てきた。でも死ぬほどじゃない、十分耐えれる。


 ならもういいよね。わたしがやること失敗ばっかなんだもん。これ以上失敗したら、もっと取り返しのつかないことになるかもしれないんだよ。

 だったらもう何もしない。あとはお父様とお母様に任せるでいいよね、二人が来るまで耐えてるだけでいいよね。


 そう思ってたのにさ


「ユキ様、私のこと、は、いいのです。でも、あなたは、そんな人じゃないはず、です。あなたは、いつだって明るく、前を向いていて、私が憧れる、強くて優しい方のはずです!」


 これだよ。

 長い付き合いじゃないのに、わたしよりわたしのこと知ってるんだよ。


 ……そうだよね、わたしはこんな簡単に諦めたり挫折するような性格じゃないよね。


 確かに失敗したよ、遅かったよ。

 だけどアリサは助けることができるじゃん。魔石は残念だったけど、全部が全部だめだったわけじゃない、終わったわけでもない、終わってないならなんとでもなる!


 それにさ、ここまで言われたらもうやるしかないよね! その期待に全力で応えて見せる、それが友達の意地ってやつだよ!


「ほらほ、くっ、なんだ、急にこの妙な重苦しさは」

「あーそれね、ためしにちょっとあなたを押さえつけるように魔力をぶつけてみたの。ほんと冷静になると馬鹿だねぇわたしって。まだまだ子供だなぁ、あたりまえだけど」


 うん、割と普段の調子、うじうじモードは吹っ飛んだかな。


 しっかしわたしってここまで思考とか心境、性格もかな? 割とはっきり変わるとか、変な多重人格じゃないかって心配になる。

 とくに〝普段のわたし〟と〝さっきまでの私〟のどっちが本当の自分なのかよくわからないわ。まぁ今は関係ないし、気が向いたら調べてみよっと。


「さってと、正直これは使いたくなかったんだよねー。これ使うと他国の天魔の人に狙われる可能性上がるから」

「何を言っているんだ、くそっ、この程度、僕は勇者なんだぞ!」

「まぁまぁせっかくだから説明たーいむ。実はわたしたち天魔には一つだけ、あなたの言うような神具みたいのがあります。ただこれ、すごい強いのと同時に非常に狙われるものなのです。そして厄介なのがなんと、入手方法は持ち主を殺すことなのです!」


 ほんと厄介だよねぇ、『殺してでも うばいとる』ってやつですよ。


「んでね、これを使うと探知に優れた天魔の人にバレるわけ。当然その情報は狙ってる人にも流れるわけね。なので普段は探知されないように国内の結界内でしか使えないんだ。ほら、わたしってまだ子供で弱いから狙われるとねー」

「だからなんだというのだ! ぐふぅ、ようやく動ける、か。さて、何をするのかわからないが、そろそろ終わりにしようか」

「だ、け、ど、特別にそれをここで使っちゃいます! 正真正銘、出し惜しみは一切無し、圧倒的な力をもってあなたを倒します! というわけでアリサ、ちゃんと見ててね~」


 アリサに手を振ってっと。それじゃやりますかー。


「術装展開! 魔石に宿りし精霊よ、汝の力を我に示せ! 顕現せよ、精霊刀『月華』!」


 術装展開、それはわたしの魔石の中にあるわたし専用の術装を取り出す術式。そして唯一術札を必要としない術式。


 展開された術式は巨大な魔法陣を形成し、金色に輝く巨大な光の玉を顕現させる。やがて光は収束していき、二振りの白く美しい刀へと変化する。これがわたし専用の術装、精霊刀『月華』。全ての精霊と神獣の力を秘めている、精霊刀という名にふさわしい武器。


 術装は神殺しの神器と呼ばれることもある。なぜならば、術装を使えば神と呼ばれる存在を殺すことが可能となるから。


「な、なんだ、その白い剣は!」

「ま、これがわたしの武器なわけです。といってもこれしか持ってないんだけどね~。これ以外の武器は使えません! ちなみに剣じゃなくて刀ね」


 そう、厄介なことに他の武器ってわたしの魔力に負けちゃうのよね。オリハルコン製とかアダマンタイト製とかの剣までダメだったのにはびっくりしたけど。


「まぁそういうわけで、これ出しちゃったのであなたに勝ち目は一切ありません。泣いてごめんなさいするなら今のうちですよ?」

「フッ、馬鹿を言ってくれるな。そんな君の身長よりも長い剣を二本持って、そんなの振り回せ……」


 奴が瞬きした瞬間、一気に接近

 次に右の月華で奴の左腕を肩からスパッ

 切れた腕が体から離れる前に左の月華で腕をドスッ

 刺したまま元の位置に戻りっと。


 う~ん、約1秒でできたかな? さすがわたし、自画自賛しちゃう。


「身長とか関係なく、このようにさくっと簡単に切れちゃうわけです。あっ、お返ししますね? あなたの左腕」


 左腕をぽーいっと、ほんと危ないくらいの切れ味だなぁ。さらにこれ、持ってるだけで身体能力の超強化も入るからねぇ。重さも自由自在、長さもある程度変えることができるって、やばすぎだよね。


「な、え、うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!! いたい、いたいいたいいたいいたい!!!!!」


 痛みが時間差で今来たようだね、血も今になって一気にどばーっと。

 速すぎるとやっぱこうなるんだよねぇ。意図しなくても相手に痛みを一気に与えるという、正直ちょっとえぐい結果になるから困る。

 わたし、そういう残虐性な趣味ないので。


「体験していただいたように、この状態だと戦闘にすらならないのです! だからアリサ、安心してね~」


 アリサまだ心配そうな顔してるからねぇ、つい手を振ってしまう。

 あっ、月華持ったままだった、振った影響で空間が裂けちゃったよ。すぐ戻ったけど、刃先をアリサの方に向けてたら危なかったぁ。気を付けなきゃ。





「くそっ! くそくそくそくそくっそぉぉぉぉぉ!! なんで、なんでこの僕がこんな目に!」


 回復ポーションでも飲んだのかな? 血が止まって動けるようになってきたみたいだね。でも、そろそろ終わりにしようかな。


「正直ね、拉致したこととかはどうでもいいの」

「ふーふー、な、なにをいって」

「わたしが怒っているのはアリサを傷つけた事と、アリサの魔石を壊したことなの。その罪の代償は支払ってもらうね」

「まだだ、まだ僕は負けたわけじゃないっ! 聖剣クリスタルオブマジックよ、僕に力をっ!!!」


 あの剣、急に光りだしたね。回復か強化の魔法でも発動したのかな? ならこっちも使っちゃおー。


「それじゃこっちも、月華、朱雀!」


 わたしの言葉を受け、月華の刀身は赤く光り、そして周囲に火の粉を散らすようになる。


「な、なんだその剣は! なぜ急に刀身が赤く発光するのだ!」


 説明するの? 精霊や神獣の力宿してるって言わなきゃダメ? それはやだなー。


「んー、説明めんどいからいっくねー」

「だが僕の聖剣であればどのような攻撃でも、防げる!」

「月華、神炎開放!」


 神炎開放、朱雀発動時に使用できる術。刀身へ神獣が使う強力な炎を纏わせ、その炎を使っての攻撃が可能となる形態。


 強力な炎を纏う刀とただの聖剣、その差は歴然、勝負にすらならないね。振り下ろす月華と奴の切り上げる聖剣がかち合うけど、鍔迫り合いにすらならない。接触した個所から月華がずぶずぶと聖剣に食い込んでいく。


「な、ま、まってくれ」

「待たない! このままその剣、ぶった切りますっ!」


 魔力をさらに高めると纏った炎はより強力なものになり、ほとんど抵抗を感じずに聖剣を切り裂いていく。このまま朱雀の炎で溶かし切る!


「ずばーんっと」

「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」


 振り落とした先には半分に切れた聖剣を持つ勇者、そして足元にはその片割れがどすっと突き刺さる。危ないなぁ、もう少し踏み込んでいたら足に刺さっちゃうじゃん。


「はい、ご自慢の聖剣も真っ二つになりました。これでもう魔石を抜き取ることもできないね」

「馬鹿な、神具だぞ、聖剣だぞ、どうして、どうしてこんな」


 絶望した顔になったね。んじゃさらに追加で言っちゃおっかなー。う~ん、わたしって結構小悪魔。


「はっきり言うとそれ、神具でも何でもないよ。切って分かったけど、ただの古代魔法武器。厄介な機能はあったけどね」

「そ、そんな」


 聖剣であることがそんなに重要だったのかな、さらにうなだれだしたね。何か特別な意味でもあるのかな? まぁいいわ。





「さて、最初に言ったよね、人として殺してやるって。でもあなたはその提案を破棄したの。なのであなたには永遠の苦しみをあげます」

「ま、まて、僕が悪かった、もう心を入れ替えた。そうだ、あの奴隷は君にあげようじゃないか!」

「えっとね、別にアリサの所有権についてはあなたの許可はいらないの。もしもわたしが欲しいって言ったら、とても偉い人たちがいろいろやってくれるの。お嬢様特権ってやつだね」


 あまり使いたくないやつだけどね。ちょっとしたわがままでも通りそうなくらい、みんなわたしにすっごい甘いからなぁ。まぁ悪い時にはきちんと叱ってもらえるし、厳しい時は厳しいからいいんだけど。


「でね、なんでここまで怒っているかっていうと、あなたはアリサを傷つけるだけでなく、アリサの魔石まで壊したからなの。ねぇ、魔石の生まれかたを知ってる? 勝手にできる物じゃないんだよ、くじけず努力し頑張ってきた人にできる宝物なんだよ? 強ければできるとかじゃない、一生懸命だった人に与えられるとっても大切な贈り物なんだよ?」


 何かに向けて一生懸命だった人へのご褒美のような形で魔石はできる、わたしはこの魔石の仕組みが大好きです。


 生半可な努力ではできない、ただの頑張りではできない、だからこそ魔石が出来るということはすごいこと。力や能力ではない、生き様というかな、それが認められた時にできるってのが素敵だよね。


 逆に魔石ができた後に真逆なこと、頑張っていた人が一切頑張らずに怠惰な生活を送ったり、それまで貫いていた信念をあっさり捨てると魔石はどんどん小さくなり、最悪消滅することもある。魔石はまるで自分の映し鏡みたいだね。


「そんなアリサの宝物を壊したあなたを絶対に許せないの。でもね、殺すだけじゃ正直わたしの気が収まらない。で、前世のことちょっと思い出したけど、脳って電気的な信号が流れてるんだってね。それをちょっといじったらどうなるかな?」

「や、やめてくれ、たのむ」

「月華、麒麟!」


 わたしの言葉を受け、月華の刀身が黄色く光り、そして周囲に電気を帯びた小さな球体を複数作りだす。


「話せばわかる、ほら僕は」

「ちょっとあなたの頭に電気流していじらせてもらうよー。というわけで、月華、神雷開放!」

「やめてくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」


 泣きわめいてるけど関係ない。


「……殺されないだけましと思いなさい」

ファンタジーなので電気で頭をいじれるという、少し強引な設定を使ってます。

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