2話 今度の人生はきつねっこ
何かふわっとした感触がある。自爆したところは覚えているがいったいこの感触は何なのだろうか。そもそも死んだはずなのに……。
とりあえず目を開けてみようとするが、なかなか開かない。目もそうだが全身動かない。そもそも体があるのかすらわからないわけだが。
なんとかして現状を確認しなければ。もう一度目を開けようとする。一度が無理でも何度かすればいいだけだ。
そしてうっすら開いていく瞼だが、非常にぼんやりとした景色しか見えない。……何かおかしい。両眼でしっかりと見ようとするがそのことではっとする。そうだ右目だ。勇者にやられたはずなのに一体どうなっているんだ……。
視界を確保しようと遠視の魔法を使おうとするが発動しない。魔法が封じられているのだろうか。仕方がないので目に魔力を集中させる。遠視の魔法ほどではないが多少は見やすくなるはずだ。
そうしているとまだぼんやりとだが周囲を確認できた。ただ、なんというか、巨人の国なのか、自分の視線がやたら低い。ベッドと思われるところに寝ているのだが、転倒防止と思われる柵が異常に高い。3メートルくらいの人が寝ても大丈夫なイメージだ。
周りをさらに見渡してみる。といっても体がほとんど動かないので、頭を動かす範囲しかわからないな。それでもわかったのは、この部屋の主人は女の人らしいということだ。暖色系が多いのとファンシーチックなインテリアのようなものからの勝手な印象だが。
あと何となく甘いような匂いがしている。何かの花が飾ってあるがその匂いなのだろうか。
全身を確認しようとするが、やはり体はまだ動かない。何とか頭を動かし足元のほうに視線を動かしていくと、黄色? 金色か? 妙な塊が腰の横あたりにある。大きな毛玉のような生物的な感じがする。体は毛布のようなもので隠れているが、その塊は毛布からはみ出る形で存在している。
じっと見るがその毛玉が動くことはない。襲ってこないところを見ると敵ではなさそうだが謎だ。
とりあえず手を動かして毛玉に触ろうとしてみる。しかし手が動かない、体は存在しているのだから何とかすれば動くと思うのだが。
身体強化の魔法を使おうとするがやはり発動しない。ここは視力と同じように魔力で何とか補助するしかないか。魔力を手に集中させながら何度か繰り返すとようやく触れることができた。
「!!!!」
感触があった。そうあったのだ〝触った〟と〝触られた〟という二つの感触が。これは自分の体から生えている何かになるのか? いったいどうなっているのだ私の体は……。
そうこうしていると扉から誰か入ってくる。二人のようだ。ぼんやりだが一人は着物のようなものを着た獣人、もう一人はメイド服のようなものを着た獣人だ。両方とも女性と思われるが、さすがに断言はできないな。種族によっては異なる可能性もあるが、ここは女性と思っておこう。
獣人の女性と思われる人が近寄ってきて抱きかかえられる。さすが巨人族だな、相当大きい。私の身長はたしか175くらいはあったはずなのだが、それを赤子のように抱きかかえるとはスケールが違うな。
女性が何か喋ってはいるが、聞いたことのない言語だ。翻訳魔法も試みるが、やはり発動しない。これはさすがにまずいな。だが言葉の意味は分からないが敵意は感じない。むしろ安心するのは気のせいだろうか。
しかしここはどこの国なのだ? 巨人でなおかつ獣人族というのは記憶にないのだが……。
抱えられたまま少し周りを見ると鏡のようなものがあるではないか。自分の体がどうなっているのか確認するチャンスだ。
うむ、そろそろ見えてくるぞ。うまい具合に鏡の方まで移動してくれてありがたい。さてどんなじょうた――
まて
まてまてまてまて
なんで、なんで自分に尻尾が生えてるんですか! なんか頭の上に獣の耳生えてるんですか!! なによりサイズが赤ん坊ってそういうことかぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!
ふぅ、思いっきり真面目クールキャラが壊れるほど焦ってしまった。どうやら転生したとみるべきか。小説やゲームとかでよくあったアレだ、〝転生〟ってやつだな。まさか自分が経験するとは思わなかった。
って、いやいやまてまておかしいでしょ!
さっきまで勇者たちと戦っていたんですよ、決死の自爆したんですよ。で、気が付いたら獣人の赤ん坊って、いやいやほんとどうなっているんですか!
それに神様とかの「転生してやろう。さぁボーナス選べ」とかそういうイベントもなかったんですが! ここは普通王道のそういうのがあってもいいはずでしょうが!
やれやれ、またキャラが壊れてしまった。どうも感情が不安定になるな。
しかし、この転生は転移門のせいかもしれない。おそらく死の直前に転移門が動作、その際に肉体から離れた魂のみ異世界転移、そして魂はこの世界の輪廻再生の輪に組み込まれた。だが異世界の魂のため輪廻転生の儀が正しく行われず、その結果記憶が消えなかった、という感じだな。
あの世界で調べた事だが、魂のみの転生召喚であれば過去の記憶を残したまま転生できる。私はそれと同じような現象に遭遇したということか。
となるとこの女性は母親かもしれない。美人の母親とか幸先良い気がするな。
いやまて、そうなるとこれはあれか。部屋の雰囲気からしてどうやら〝女の子〟になったわけか……。種族どころか性別まで変わったかーそうかー……はぁ。クールキャラどころじゃないなもう。
しかしどういった世界なのだろうか。魔法が使えないのも困るのだが。
ん? なんだ? だんだんと頭が痛くなってきたような。痛みがどんどん増していくのと同時に、何かいろいろと失われていく感じがする。
あぁ、おそらくこの体が前世の知識や魔力などを取り込もうと耐えているからだな。異物とも言える前世の力を取り込むのだ、それなりに負荷が高いはず。ましてや幼児の体では許容できない量だ、耐え切れないものは自己防衛のため忘れる、いや捨て去っているわけか。
しかしそうなると前世の知識を捨て去るのはもったいないな。取り込むといっても、正直どの知識が残るか不明のため不安もある。やはりここはすべて残せるよう知識を封印していくか。ある程度封印できれば、今感じている負荷も軽減できるだろう。あとは封印術が発動すればよいのだが、行けるか?
……ふむ、どうやら封印術は使えるようだ。全ての魔法が使えないということではないのか、興味深いな。
だが今は考えるのは後回しだ。早いとこ知識を片っ端から封印していくか。記憶は、まぁほどほどでいいか、時間もない。
あらかた封印できたが、だめだ、非常に眠い。魔力枯渇による疲れだろうか、それともこの母親と思われる人に抱かれていることの安心感からだろうか。だが重要な知識は封印済みだ、あとはなるようになる。
起きたらまず体の把握から、あぁ魔力の確認もだな。何よりこの世界の言語や知識も手に入れねば。やることが多いな。
まぁ明日からがん、ば、、、るzzz




