198話 悪い事じゃない不思議もあるのです
ナナとネネに8年前の騒動を聞いてるけど、う~ん、いろいろとおかしい。
なんで神聖王国の兵が虐殺っぽいことしたんだろ?
「襲われた時、何か違和感とかなかった?」
「すっごい怖い顔してましたっ!」
「な、なるほど」
ネネがドヤァって感じに答えてくれたけど、変なことじゃぁないね。
まぁ笑ってなかったってことは、遊び半分に殺しまわったわけじゃないのね。
となると、虐殺しろっていう命令があったわけか。
「そういえば~『神に仇名す獣め!』って叫んでいるのは聞きました~」
「ほほう。神に仇名すってことは、王国の勅命ってことか。ちなみにだけど、邪心崇拝なんてことはしてなかったよね?」
「ないです~。ナナ達の住んでいた〝北部の農村〟は、神様信仰自体あまりなかったです~」
「へぇ、そうなんだ。って、北部? 東部じゃなくて?」
「北部ですよ~」
まてまてまって、あの子たちを仕向けたのは東部だよ? 北部は関係ないよ?
てことは、わたしの引き起こした暴走に便乗して、ろくでもない虐殺をしてたってことかな? ほんと腐ってるなぁ、あの国。
「北部だと何かまずいのですか~?」
「まずくは無いんだけど、そうね、ちゃんと話すわ。8年前だけど――」
ナナとネネに、8年前にわたしが神聖王国で引き起こした虐殺について説明する。
もちろん神聖王国の兵だけでなく、無関係の一般市民も虐殺したことも包み隠さず話す。
話したところ、さすがに内容がすさまじかったからか、二人とも少し引き気味になっちゃった。これは勧誘失敗になるかなぁ。
「確認したいのですけど~、ユキ様はナナ達の住んでいた北部は攻めていないのですよね~?」
「それは断言できるよ。ちょっと責任逃れになっちゃうかもだけど、北部での事件には一切関係ないハズなんだ」
「なるほど~」
ナナだけでなくネネも頷いたので、どうやら納得してくれたみたい。
とはいえ本当にわたしが関係していないかは、正直わからないんだよなぁ。
東部のありさまを見て、発狂し暴走した末路って可能性もある。
だけど同時に、『神に仇名す獣』って発言から、本当に無関係の可能性も大いにある。
う~ん、これはちゃんと調べた方が良いかもしれない。
わたし自身が変に思い込みそうなのもあるけれど、なにより〝神〟って奴が関係しているのか調べておきたい。
もしも関係しているのなら、そいつが本当に神なのか、どういった力を持っているのか、なによりこの世界にとって益となる存在なのか、まるっと全部暴いてやりたいわ!
「お話は分かりました~。それで、その~」
「あー、すぐに答えを出さなくてもいいよ。1週間くらいかな? そのくらい考えて、答えを出してくれると嬉しいわ」
「ありがとうございます~」
さすがに即断即決しろとは言いません。してもらいたくても言いません!
なにより、わたしが強引に迫らなかったからか、二人とも安心した感じで、少し好意的に見てくれてるからね。
恐れられるとか、拒絶したいって感じじゃないのは良い事です。
「とりあえず今日はここまで。わたしはそろそろ行くけど、何かあったらメイドさんに言ってくれたらいいよ」
「わかりましたっ!」
「それとこの部屋は好きに使っていいからね。んじゃね~」
そう言って手を振りながら、部屋の外にでる。
うん、二人とも手を振り返してくれてたので、そこそこ好印象なのではないでしょうか!
これは勧誘、成功しちゃうかも?
さてと、用事も住んだことだし部屋に戻……る前に、寄っていきますか。
大使館内を歩くこと数分、お目当ての図書室に到着。
ほんとデカいよね、この大使館。数億冊は余裕であるくらいの、かなーり大きな図書室があるんだもん。ありがたいけど。
中に入り、かるく受付のおねーさんにあいさつ。
それと
「ここに、異世界から召喚された女の子が二人来てないかな?」
「ミツキさんとマナミさんの事ですね。お二人でしたら、東の歴史コーナーに居ります」
「やっぱ居たのね、ありがとー」
おねーさんに手を振り、歴史コーナーに向かう。
本当なら『今日のお仕事終わり!』って感じに部屋に戻っちゃえばいいんだけど、それすると、絶対にミツキが怒るからね。
あの子、前世のぼく以上に、今のわたしに入れ込んでるからねぇ。嫌じゃないけど、一歩間違うと大惨事になりそうだわ。
そんなことを考えつつ、歴史コーナーに到着。
さてさて二人は~、っと!? 急に目隠しされたって、これはもしかして?
「だ~れだ?」
「この声と感触は、ミツキだね!」
「うん、正解」
手をほどき、今度は正面から抱きついいてくるミツキ。
いやいやまってまって、前世の時からは想像もできないくらい積極的なんですけど?
これも過去のトラウマのせいなんですかねぇ。
そして案の定、近くにいたマナミがすっごい呆れてる。
だけどマナミさん、わたしのせいじゃないですよ? ミツキの意思でこうなってるだけですからね?
「ユキくん、お話、終わったの?」
抱きつきから解放され、近くの椅子に三人で座ったら、ふとそんなことを聞かれたわ。
内容も気になってるみたいね。なら少し話しておこうかな。
「おわったよー」
「どんな感じだったのよ?」
「んとねー」
何を話したか、そしてどんな反応だったか軽く説明。
だけど
「浮気?」
「違うから!」
「でも誑し込んでる感じよね」
「うそん!?」
二人の眼差しがね、ちょっと痛いのです。
おっかしいなぁ、誘惑とか全然してないのになぁ。
「だってさぁ、会って半日も経っていない子たちが、そこまで心許すっていうか、信用してるのっておかしくない?」
「そうかな?」
「普通は警戒してもっと疑った質問するわよ」
「言われてみれば」
マナミの指摘するように、怪しむというか、いろいろと質問攻めになるはずだよね。ましてや神聖王国での虐殺をしてるから、踏み込んだ質問だけでなく多少の非難はあってもいハズ。
でも当たり障りのない普通の質問だけで、そういったのが無かったのがちょっと不思議。
たしかに種族特性的な物で、わたしには多少相手に好かれやすいって能力はあるにはあるけど、そこそこ抑えてるから影響してない。
まぁ完全に抑え込めて無いから、絶対にないとは言い切れないけど。
う~ん、謎ではあるけど
「嫌われるよりかはずっといいから、不思議だけどあまり気にしないかな?」
「確かに、悪い事じゃないわね」
「マナミちゃん、心配しすぎ」
「まるでこじゅう……何でもないです」
いかんいかん、つい小姑みたいって言いかけ……あ、やっぱり気付いた?
うん、反省するから、だから、その、ほっぺつねらないでぇぇぇぇぇぇ!
「ホント子供すぎるわ……」
「でも可愛い!」
「それにバカップルよね……」
「あ、あの、そろそろ解放してくれません? つねられるの、結構いたいの」
強くても痛いのは痛いのです!
だから、その、ね? 決してマナミがオバサンくさいなんて言ってな……まって、ジト目のままつねるの強くしないでぇぇぇぇぇぇ!




