195話 帰りもイチャイチャ
旗を振りながら屋敷の外にでたけど、うん、ゴミ掃除してたの忘れてたわ。
ゴミの山と血の海という、なんとも言えない光景になってたせいで、助けた人たちが一気に真っ青になったよ。ちょっとごめんね?
そんなことを思いつつ、門の外までやってきた。ふぃ~、終わった終わった。
さてさて、ミツキたちは~。
「あ、いたいた。問題も無かった感じだね」
門から少し離れたところで待機してたので、そっちに向かう。
ヒトガタからミツキたちの状態は常に把握してたけど、実際に見るとやっぱり安堵するね。
うん、向こうも気付いたね。
ネネを連れてミツキたちがこっちに来て……むぎゅ。
何故かいきなりミツキにぎゅーっとされたんですけど!? まぁ嫌じゃないし、むしろもっと強くても、って馬鹿なこと考えてる場合じゃ無さそうね。
「どうしたのミツキ、いきなり抱きついてくるとか」
「だって、その」
「そりゃさぁ、あの光景見たら心配にもなるわよ。ウチも見た瞬間、ゾッとしたし」
あーそゆことね。
中庭での戦闘が終わったあたりで様子を見たら、ゴミの山と血の海でドン引きしちゃったってことね。
もしかしたらわたしたちも怪我してるんじゃないか、とか、そういう感情もあったんだろうねぇ。
う~ん、やはりわたしがどんだけ化け物なのか、ちゃんと教えておいた方が良さそうだなぁ。
今回だってこの程度の敵に怪我するほどヨワヨワじゃないから、安心してドーンと待っていてもらいたかったし。
ミツキの頭をなでなでして落ち着かせたところで、ようやく本題に入る。
だけど、う~ん、これはどうなんだろ?
「ねぇミツキ、この状態じゃないとダメなの?」
落ち着いたら、今度はミツキが後ろから抱っこする形になったわけでして。
ミツキも身長低めだけど、わたしはもっと小さい。なので、抱っこしやすいとは思うんだけど、地面に足がつかない状態なのは流石に……。
なんとなく『抱っこされたぬいぐるみ』みたいで、少し恥ずかしいのです。
「だめ?」
「あ、いや、ダメじゃないけど……」
「なら、ね?」
「むぅ、しょうがないなぁ」
やっぱね、好きな子にダメかと聞かれたら、ダメなんてとても言えないのです。
ちょっと恥ずかしいけど、我慢しましょう。
っと、ヤバい、マナミがすっごい睨んでる。
「あんたら、いちゃつくなら場所を選びなさいよ。で、これからどうするの?」
「んと、とりあえず一般街の方に向かう。その先は着いてからかな」
「分かったわ。それにしても、泣き止まないわね」
「ネネちゃん、お姉さんのこと、すっごい心配してたから、ね」
二人が言うように、ネネは姉であるナナに抱きつき、わんわん泣いている。
たしかになぁ、戦えないのに貧民街にいるとか最悪死亡、よくて廃人って感じだからねぇ。無事な状態で戻ってきたら、すごく心配していた反動で、思いっきり泣いちゃうよね。
とはいえ、いつまでもここに居るのも問題だし、そろそろ移動しますか。
「それじゃ悪いけど、コータはナナを、トースケはネネを担いで来てくれる?」
「それってまさか」
「うん、ナナからネネをはがす交渉は任せたぞトースケ君!」
「だよなぁ……」
トースケがなんていうか、強敵を相手にしないといけないような、しぶい表情になりましたね。
だけどまぁガンバレ!
歩くこと数十分、みんなを引き連れて一般街にとーちゃーく!
わたしたちだけならもっと早かったけど、さすがに置き去りにするとか、精神的に参ってる人に鞭打って走らせるとかはしません。
さてさて、たぶん近くに~、あーいたいた。
うちの国の親衛隊の人たちが、馬車を用意して待っていてくれたわ。
うん、向こうも気付いたようで、こちらに数名来てくれた。
「ご無事でなによりですユキ様」
そう言って親衛隊の人達が一斉に跪く。
こういうの見ちゃうと、自分の立場が結構上なのを再認識しちゃうなぁ。
わたしとしては跪くとか止めてもらいたいけど、親衛隊の人たちには立場や義務もあるから、しょうがないんだよねぇ。
「心配してくれてありがとー。んで、あの馬車に?」
「はい、この先はこちらの馬車を使い、大使館までお送りいたします」
「捕まっていた人たちは?」
「そちらの方々は、あちらにある大型の馬車で送らせていただきます」
親衛隊の人が指さす先を見ると、20人くらいは乗れそうな大型の馬車があった。
どうやら空間拡張を使った馬車は使わないみたいね。外見も貴族向けでなく、普通の馬車。
これはアレかな、身元がよくわからないので、レグラスの技術は公開しないようにしてるってとこだね。
確かになぁ、捕まってはいたけど、敵じゃないとは言い切れないからね。なにごとも用心は必要なのです。
「それではユキ様、ご友人の方々、こちらへどうぞ」
「ほーい」
「他の方々は、今馬車から駆けてきた兵が案内しますので、ご安心ください」
そう言って、わたしたちは親衛隊の人に案内されるまま、馬車に乗り込む。
うん、外見から予想してたけど、やはりわたしの乗る馬車は特注だったわ。
外見は一般的な馬車に似せてるけど、使ってる素材がね、見る人にはわかるってくらい高品質だったからね。
そして中も広いし綺麗。空間拡張に空調管理など、レグラス製の魔道具をふんだんに使ってるわ。
備え付けのソファーにテーブルも、白を基調とした綺麗で高品質な物。
しかもお菓子や飲み物は、中で控えていたメイドさんが用意してくれるみたい。ほんと至れり尽くせりですね~。
それじゃのんびりソファーに座って、到着するのをゆったり待ちますか。
……まぁ、ミツキにずーっと抱っこされたままなので、当然ミツキの膝の上に座ることになるんですけど。
「ねぇミツキ、この状態ってずっとなの?」
「だめ?」
「あ、いや、ダメじゃないんだけど……」
だからね、その答えは本当に強烈だからね。
まぁずっとでも問題は無いんだけど、そのね、マナミたちがすっごい呆れた表情になるのがね。
わたしだってこんな状況を見たら、いいかげんにしろバカップルという心情を通り越して、いっそ飽きるまでずっといちゃついてなさいって思っちゃう。
でもね、そう思われる対象が自分自身だと、けっこうというか、かなーり恥ずかしいのです。わたしにだって羞恥心はあるんだから。
そんなこんなで、馬車は大使館に向けて発車。
どのくらいで着くのかな? メイドさんに聞いてみよー。
「ねーねーお姉さん、大使館にはどのくらいで着くの?」
「混んでいますが、迂回せずに大通りを使うことになりますので、おそらく1時間はかかるかと」
「そっかー。ありがとー」
これは後ろの馬車が大型だから、大通りしか使えないからだね。
少しかかるけど、メイドさんが紅茶とお菓子を用意してくれたから、少し短い馬車の旅って感じにはなるかな。
だけど
「はいユキくん、あ~ん」
「あーむ」
「ふふっ、かわいい」
ミツキがね、メイドさんが用意してくれたお菓子をね、食べさせてくれるモードに突入したわけでしてね。
うん、すっごい恥ずかしいわ!
たしかにお母様やお姉様だけでなく、アリサやエレンにもやってもらうことはあるし、やることもあるよ。
だけど、前世の馴染集団が呆れた顔でじーっと見てくるとね、なぜかすっごい恥ずかしいのです!
う~ん、嫌じゃないけどこの恥ずかしい状態を1時間、耐えられるかしら……。




