192話 やっぱりよゆー
屋敷に入ったけど、へぇこうなってるのか。
ヒトガタである程度把握してたけど、1階はホールになっており、奥には階段が二つ見える。一つは地下に、もう一つ2階に続いてるね。
それにしても貴族のつもりなのかな? ホール中央に趣味の悪い金ぴかの像がドーンと構えてるわ。
しかもくどい感じに宝石が装飾されていて、自己顕示欲が相当あるんですかね。
そんなホールには像だけでなく、外に居た奴と同じくらいの敵が待っていた。
とはいえ自分たちは外で戦う必要は無いとでも思っていたのか、構えもろくにできてない隙だらけの状態。
あとは蹴っ飛ばした扉に巻き込まれ、潰れてるのが何人かいるね。
んー、敵はそこまで強くないから二人の経験にしても良いけど、ここはそうね
「それじゃわたしが殲滅するから、二人は地下に行ってナナと、他にも捕まっている人を助けてきてちょうだい」
「分かったが、ユキ一人で大丈夫なのか?」
「もっち余裕!」
コータが心配してきたけど、この程度のザコは脅威じゃないからねぇ。
とゆーか、わたしが化け物なのを知ってるでしょう。心配する必要皆無なの、そろそろわかってもらいたいです。
「道案内にわたしのヒトガタを1体つけるわ」
「てことはオレ達は案内に従い、道中の敵を倒して進むだけでいいんだな?」
「そゆことー」
本当はヒトガタによる案内だけでなく、道中の敵を倒しながら進むこともできるけど、その辺は二人に任せる。
おんぶにだっこは嫌だろうからね、任せられるところは任せちゃうのだ。
「それじゃ、って、その前に」
ポーチから術札を取り出し、サクッと術式展開。
すると二人が光に包まれ、掠り傷を治癒しながら、返り血などの汚れを洗浄していく。さすがわたし、治癒と洗浄の術式の同時発動も完璧です!
時間にして10秒くらいで治癒と洗浄は完了。
突然のことで二人がちょっと驚いてるけど、これもそのうち慣れるよ。
「これで良し。やっぱね、血まみれの男二人が目の前に出て来たら、人質さんが恐怖を感じるからね」
「確かにそうだな、ありがとう。だけどそうなるとボク達は、道中返り血を浴びないように気をつけないとダメか」
「だよ。難しいかもだけど、ちょっとがんばってみましょー」
二人の成長優先での行動はしないけど、それでも機会は最大限活用するのだ!
「んじゃ頼んだわ」
「あぁ!」
「任せておけ!」
そう言って二人は、ヒトガタの案内に従って駆けて行った。
当然敵が追いかけようとしたけど
「わたしが見てるだけなわけ、無いでしょ」
パチンッ! と指を鳴らし、ヒトガタを戦闘状態に変化させ、一気に敵を包囲する。
ではでは、戦闘という名のゴミ掃除を開始しますか。
まずはヒトガタによる魔力と精霊力でできた弾丸の乱射よー!
四方八方、上下左右からドガガーンって感じに撃ちまくったら、うん、あっけないね。開始10秒足らずでまた終わっちゃった。
しかも1発1発が強力だから、穴が開くよりも消滅する方が多いね。
う~ん、これはわたしが強いからか、それともこいつらが弱すぎるからか、どっちなんだろ。
反射は無理でも多少は耐える奴が居るかな? って考えてたけど、皆無とはねぇ。
まぁいいや、前哨戦はこれにてしゅうりょー。
それじゃボスがいる2階に向かいますか。ヒトガタを倒した奴もそこにいるしね。
ではでは……おっと。
階段を上ろうとしたら、矢が大量に降ってきたよ。まぁヒトガタが全部弾いたけどね!
とはいえ、今の攻撃は……アイツか。
わたしの目線の先、2階に続く階段の終点には弓を構え、苦々しい表情をした男が居た。わたしが掠り傷を負うことすらなく、すべて弾いたのが悔しいみたいね。
しかしこの男か、ヒトガタを倒したのは。
見たところ、天魔に進化している獣寄りの獣人、たぶん犬族かな? 狼族の可能性もあるか。
オリハルコンでできた騎士鎧を着て、腰にもオリハルコン製と思われる剣を帯刀している。ひょっとしたら魔道具かな? 弓も魔道具っぽい。お金もかかってるし、ここの専属傭兵ってとこかしら。
あとはそうね、遠くからでもわかるけど、嫌な臭いがする。
そう、罪もない人を快楽のまま大量虐殺した奴特有の、憎悪に満ちた返り血を大量に浴びた後の嫌な臭いが。
恐らく家主に命じられ、捕まえた冒険者や騙された人を殺してきたんだろうね。天魔になるための魔力も、人を殺して得た魔力を魔石に蓄えたって感じかしら。
だけどまぁ、たしかにコイツの力なら探索に使ったヒトガタなら倒せたね。
そこそこな装備と天魔の魔力が合わさったら、さすがに負けちゃうわ。あくまで偵察に使ったヒトガタの場合だけど。
今のヒトガタを超える力は無いみたいだし、思ってた通りわたしの脅威にはならないね。
「そこ邪魔なんだけど、どいてくれる?」
「くそっ、暗黒の力を込めた矢すら弾くとは、化け物か!」
「化け物ですけど、何か?」
そんな当たり前のことを言われましても、って感じです。
だけど正確に言うなら、かわいい化け物ですけどね! 可愛さについては、わりと自画自賛しちゃいます。
「まぁゴミはゴミだし、掃除しちゃいましょー」
奴の周囲にヒトガタを10体配置し、一気に魔力と精霊力を高めさせる。
その力を感じたようで、男の顔が一気に真っ青になり、震えだした。これは当然ですね。
「か、勘弁してくれ」
「あー、命乞いとかそういうの要らないので。今回、殲滅していいって言われてるから、徹底的にやっちゃうのです! とゆーか、そうやって命乞いをした人、お前は楽しんで殺してきたんでしょ? それが自分の番になっただけじゃない」
「ま、待ってくれ! 確かに殺してきたが、それは命令いで」
「だからそういうの要らないです!」
わたしが少しキレ気味になったからか、男はさらに震えだしたけど、どうでもいいわ。
たぶん、正義の味方なら『無実の人を殺めてきた罪を償え』的な感じに何か言って捕らえるんだろうけど、わたしは違うからね。
ゴミはゴミ、この世からきれいさっぱり掃除します!
「ま、消える前に懺悔でもしてなさい」
「やめろぉぉぉぉぉぉ!!!」
ヒトガタに高めていた魔力と精霊力を弾丸にするように指示し、一斉発射する。
結果、あっけないほどきれいに消滅した。時間にして1秒もかかってないね。
懺悔させるために、弱い攻撃でじっくり消滅させる方法もあったけど、そういう趣味は無い。
たとえゴミ相手でも、その魂を弄ぶようなことはしたくないのだ。
それにしても〝暗黒の力〟ねぇ。
落ちていた矢を拾ってよーく観察……なるほど、そういうことか。
暗黒の力って言ってたけど、これは紛れもない、悪魔の力だわ。鏃に特殊な鉱石を使って、そこに力を込めている。
入手経路は分かんないけど、悪魔が手を貸したのは事実ね。
やれやれ、悪魔ってこんなところにも関与してるのね。
ほんとこの世界の敵って感じで厄介だなぁ。どうにかならないのかしら?




