190話 準備はしっかりとしましょー
なにはともあれ、ネネのお姉さんであるナナの居場所が見つかったので、救出に向かう。
っと、その前に
「お母様たちに連絡しておかないと。ん~、最悪の状況も考慮してもらった方が良いかな」
「最悪って?」
「んとね、わたしが力を出して貧民街を消滅させちゃうってことね」
たぶんミツキの思う最悪は、ナナを助け出せなかったとか、酷い目に遭っているとか、そういうことだと思う。
だからわたしの答えを聞いた瞬間、よくわからないって顔になっちゃったわ。
正直言って、助け出すのは余裕なんだよね。
それに傷を負っていようが死にかけていようが、治すことも余裕。たとえ死んでいても、1時間以内なら蘇生もできるからね。
ただ、偵察用に力を弱めていたとはいえ、わたしのヒトガタを倒す奴が居るのがね。
どこまで強いかはわからないけど、わたしもある程度は力を出さないと倒せない気がする。
最悪、わたしが全力を出す可能性もあるからねぇ。そうならないのを祈るけど。
お母様たちに連絡した後、ヒトガタを使って再度偵察する。今度は発見されないように、光学迷彩とかも全力で発動しておきましょう。
これで内部の状況を把握できるから、作戦も立てやすいね。
っと、そんなことをしてたら、もうお母様から返事が来たわ。
どれどれ
「おー、ここまでしちゃっていいのか~」
「はい、ユキ説明!」
「えっとね、簡単に言うと生死は問わない、壊滅させてオッケーという許しが出たの」
「生死は問わないって、あんたまさか」
「マナミの想像通り、わたしはゴミ掃除、つまり、敵を全員ぶっ殺します!」
更生させるとか、罪を償わせるという甘ったるいことはしません。
世界のゴミは掃除するに限るのです。
ちょっと過激な発言だったからか、マナミたちが少し戸惑ってる。
頭ではわかっているけど、それでも人殺しをするのはって感情があるみたい。まぁこれはしょうがないか。
「まぁ貧民街を滅ぼす気は無いから、無差別の大量虐殺はしないよ」
「あくまで敵だけってことね……。それでも、はぁ、ここが異世界だっての、再認識させられるわ」
「急がなくても良いけど、敵に対する割り切りは慣れた方が良いよ。この世界、優しいようで優しくないところが多いから」
冒険者をやりだすと、命のやり取りなんて腐るほどあるからねぇ。
まぁ戦いを完全に捨てれば別だけど、マナミたちはそんな道、選ばないだろうな。
お母様からの許可も得たので、貧民街に向かい歩き出す。
でもなぁ
「ねぇミツキ、本当についてくるの?」
「うん。ここで待っているとか、嫌だから」
本当はミツキとマナミ、それにネネは一般街で待っていてもらいたかった。だって危ないからね。
だけど、三人は待たずに向かうことを選択しちゃったわけで。
ネネはお姉さんが心配だから、ミツキとマナミは丸投げしたくないから、って理由だったね。
気持ちはわかるけど、危険だから待っているという選択を選んでほしかったなぁ。
「ここまで来て帰れって言うのも無理だから、今回はわたしが折れるけど、だけど屋敷の外までだよ。中には入らない事」
「うん」
ミツキだけでなくマナミとネネも頷いてくれたから、たぶん大丈夫かな?
とはいえ、外で待たせるのも心配なんだけどね。
念のためヒトガタを待機させて、もしもが無いようにしておいた方が良さそうだわ。
歩くこと数十分、ついに到着。
「これはその屋敷か? なんていうか」
「成金って感じだな。貧民街って名前とも一致しねーわ」
コータとトースケが呆れながら指摘するのも当然ね。
門から見える中庭には金でできた像と噴水があり、さらに壁には宝石類がちりばめられている。ほんと悪趣味って感じ。
「さてと、それじゃミツキとマナミにはこの杖を渡しておくから、変な奴が来たら容赦なく魔法や術をぶっ放して」
そう言って、ポーチから出した二本の杖をそれぞれに渡す。
もともと観光予定だったから、みんな武器を携帯してないからね。ミツキも進化前だから、雪姫を魔石に取り込むってことができないから、丸腰なんだよねぇ。
「悪いわね。それにしてもこの杖、なんとなくヤバい感じがするんだけど?」
「かな? マナミに渡したのはエンシェントドラゴンの魔石を加工して作った杖で、ミツキに渡したのは精霊石を加工した杖だよ」
「魔石を加工って、まさかこれ」
「わかっちゃう? そう、この杖は魔石と精霊石〝だけで〟作った物なの!」
「魔石だけでって、はぁ……」
魔石と精霊石を伸ばしたりくっつけたりして作った、全部が魔石、全部が精霊石の杖だからね。
術装と比べると残念な性能だけど、それでもナカナカな性能なんじゃないでしょうか!
とゆーか、あれ? 驚くかと思ったら、ちょっと呆れた様子。
むぅ、思ってた反応と違うと、なんかつまんないです。
「辞書の知識だけど、魔石とかってそんな簡単に加工できないでしょ? しかもエンシェントドラゴンって、ほんと、あんたって規格外すぎるわよ」
「いやぁ、てれます」
「褒めて無いから……」
あぅ、今度はジト目されちゃった。
でもいいのです、ミツキは目がキラキラした感じに感動しているので! 認めてくれる人が一人でも居れば、わたしはどんどん突き進めるのだ!
「コータとトースケはこっちの武器を使って」
「なぁ、これってまさか」
「おっと、コータも気が付くようになったのね。その剣と盾、そして大剣は、アダマンタイトとオリハルコン、さらに魔石を混ぜ込んだ試作型の武器なのです!」
ドヤァ!
まぁ、術装以外が使えないわたしでも使える武器を模索してるときに作った、ちょっとした試作品だけど。
残念なことに、いろいろ混ぜ込んでもわたしの魔力には耐えられなくて、結局お蔵入り。だけど性能は十分なので、二人の武器としても文句なし。武器が少し強すぎる気もするけど、大丈夫でしょう。
「またとんでもない武器だな……」
「こないだの魔道具と違って、コイツって変な言い方だがデカい鉄の塊だよな? その小さい体でよく打てたな」
「がふっ!」
トースケめ、的確にわたしの気にしていることを突いてきおる。
まぁ言いたくなる気持ちもわかるよ。
だってトースケに渡した大剣、わたしの身長の倍くらいある超でっかい剣だからね。
だけど、そのくらいは余裕で作れるのがわたしなのです!
さてと、わたしもヒトガタを、ミツキたちを守れるように配置しておきましょう。
念のため100体くらい出しておこうかな? こういうことにやり過ぎはないしね。
準備も整ったので、そろそろ乗り込みますか。
「繰り返しになるけど、ミツキとマナミは、ここでネネを守りながら待機。コータとトースケはわたしと一緒に屋敷に突入。ここまで問題なし?」
「あぁ、大丈夫だ」
「いつでも行けるぜ!」
うん、コータとトースケはやる気満々って感じですね。
とはいえこの先は対人戦闘になるから、カラ元気って感じもしないではないけど。まだまだ抵抗感があるからしょうがないよね。
「ウチらのことは心配しなくていいわ」
「だから、気をつけて、ね?」
ミツキたちも準備万端みたい。
少し緊張している感じだけど、恐怖心に押し潰されてるって感じもないし、心配しなくても大丈夫そうね。
ではでは、わたしもちょーっとだけがんばりますか。
それじゃ救出作戦の開始だよ!




