188話 お約束の連発かな
花を売っていた女の子が落ち着いたし、そろそろ本題に入ろうかな?
でもその前に
「トースケって惚れやすい体質だった?」
「ちょっ!? 急に何言いだすんだよ」
「だってソレ」
「いっぱい買っている、ね」
わたしとミツキが指摘するくらい、トースケはお花を大量購入していた。
まだ『お花が大好きです!』ってキャラならわかるけど、真逆のキャラなわけだし。
だとすれば何らかの理由があるのだけれど、どう見てもこの女の子に興味があるからっぽいんだよねぇ。
「オ、オレはただ、その、可哀そうだなって思っただけだぜ」
「ふーん、同情したからってことですか~」
「な、なんだよ、その疑いの眼差しは」
「べっつに~?」
「おま、信じてねーな!」
トースケが必死に違うんだアピールしてるけど、すればするほど逆効果だわ。
コイツもホント変わってないなぁ。人の恋愛には首を突っ込みたがるくせに、自分のことになると恥ずかしいからか、妙に隠そうとするんだよね。
いつもは玉砕するというオチまでついてるけど、今回はどうなるかしら。
「まぁトースケのことは置いといて」
「いやいや、振ってきたのはユキだろ? オレは被害者じゃねーか?」
「気にしない! でまぁ、えっと、ちょっとお話ししたいんだけど、良いかな?」
「あの、ネネとですか?」
「そだよー」
お花を売っていた女の子、ネネって言うみたいね。
話をしたいって言ったら少し驚いたようだけど、嫌がっては無いみたいね。
「それじゃ最初に、何年くらいお仕事してるの?」
「は、8年くらいですっ」
「結構長いんだ。となると接客経験は豊富ってことだね」
人見知りとかだとメイドさんになるのは少し厳しいけど、無さそうなのは良いですね。
それに計算も大丈夫だったから、頭も悪くない感じ。もしかしたら学校に通っているのかな?
「若いけど、お嬢ちゃんって何歳なの? ウチらよりも年下っぽいけど」
「今年13歳ですっ!」
「わたしのいっこ上かぁ。……だけど」
栄養がちょっと足りてない感じがするなぁ。
身長がわたしと同じくらいって、よく考えたらすっごく小さいよね。わたしは魔石の修復に魔力を使ってるからだけど、ネネは違うからねぇ。
体も少し痩せ気味かな? ガリガリじゃないけど、少し気になる体型だわ。
「13歳で8年って、5歳から働いてるのか? 日本感覚の残るボクたちからすると、想像すらできないな」
「それ言ったらわたし、2歳くらいかな? その辺から一人でダンジョン行って乱獲してたんですけど」
「あんたは規格外すぎるのよ……」
おっと、なぜかわたしがディスられてますよ?
まぁ規格外なのは自覚してるから、あまり反論できないけど。
それにしても5歳からここでお花を売ってるとか、なかなか厳しい生活ね。
良くて1日銅貨10枚くらいだから、正直言って暮らしていくのは相当困難。貯金がすごいとかなら別だけど、そうは見えないし。
「失礼かもだけど、お父さんやお母さんっていないの? ネネ一人だと厳しそうなんだけど」
「お父さんとお母さんは、ネネが小さいときに居なくなったです。だけどネネにはお姉ちゃんが居るので、寂しく無いですっ!」
「お姉ちゃんが居るんだ。ちなみに、お姉ちゃんってどんな人なの?」
「お姉ちゃんは――」
家族構成を調べるのも重要だからね。
それに、お姉さんを誇りに思ってるからか、ネネがすっごく楽しそうだね。姉妹仲は良好ってことですね。
それからお姉さんについて聞いてたけど、ちょっとまずいかな。
冒険者をしているようだけど、どうもよくないパーティに所属しているみたい。
出会いは二人がセイリアスでお花を売っていた時。
たまたま通りかかった冒険者パーティが気まぐれでお花を買いに来たが、その時にお姉さんを気に入ったようで、パーティへ勧誘されたとのこと。
ネネも一緒に働きたかったけど、小さいことを理由に断られたらしい。
ネネのことが心配だったようだけど、お姉さんは稼ぎを増やすために、二つ返事で話に乗ったみたい。
普段の生活費はお姉さんが稼いでいるわけね。
だけど、労働環境と賃金を聞いたら、どうにも納得できない状況なのが分かった。
稼ぎは1日あたり銀貨2枚のようだけど 朝から晩まで働いて、さらに休日もほぼない状況で銀貨2枚って、どう考えてもおかしいわ。
しかもボロボロになって帰ることが多いみたいで、正直どんな劣悪環境なのか想像できない。
普通に考えたらそんなパーティさっさと抜けるなり、ギルドの人に助けを求める。
だけど契約を結んだらしく、お姉さんは勝手にパーティを抜けることができないらしい。
しかもギルドは、わたしの所属している冒険者ギルドではなく、転生者の作った偽ギルドの方なのがさらに厄介。
弱者の声を聞かず、強者に従うようなところがあるから、おそらく相談しても改善されず、むしろ悪化するだろうね。
「お姉ちゃんはネネのためって言って、無理してがんばってます。だからネネもがんばって、お姉ちゃんを助けたいのですっ!」
「なるほど、ネネがお花を売り続けてるのはそういうわけね」
う~ん、勧誘が失敗してもまぁいいかなって気持ちが強かったけど、これを聞いちゃうとダメだなぁ。
ネネとお姉さんの両方を、うちで雇えるような方向にもっていこうかな。
「よっし、いろいろ分かった。それじゃネネ、あなたに二つ、道を示すわ」
「ネネのです?」
「うん。一つはこのままの生活を続けること。今に不満が無ければそれも良いと思うよ」
「不満……」
「そしてもう一つ、それは、わたしの家に雇われてメイドさんになること」
「メイドさん? あの、それって」
あー、うん、メイドさんに対する認識が国によって違うからね。それこそ小間使いのようなことから、過酷な労働、夜のお勤めが当たり前って国もある。
ネネの反応を見る限り、メイドさんに対してそういう悪い印象しかないみたい。セイリアスだとメイドさんってそういう扱いなのかな?
逆にうちの国やアルネイアだと、メイドさんってなりたい職の上位なんだけどね。
お仕事は少し軽めだけど、文武両道、炊事家事洗濯なんでもできないとダメ。だけどその分給料が他職よりも高い、そういう感じになってる。
メイド育成学校も複数あるくらい、みんなの憧れ的な職でもあるんだよねぇ。
とりあえず、ネネにうちのメイドさんの仕事内容などを軽く説明していく。
説明するたびにネネだけでなく、ミツキたちも驚いてる。
そりゃね、うちのメイドさんって超優秀だから、仕事の幅がほんと広いんだよね。
うちのでの家事関係だけでなく、偉い人の警護、若手冒険者の育成、学校での講義など、ほんと幅広。
とはいえ、本人がやりたくない仕事は一切させず、やりたい仕事のみをお願いしている。やっぱね、やる気が無い仕事はしても効率よくないからね。
まぁそんなことできるのも、うちにはメイドさんと執事さんが大勢いるので偏りが少なく、しかも超優秀なので問題が起きないってことなんだけど。
「――とゆーかんじ。うちで言うメイドさんは、超優秀な何でも屋さんって感じかな?」
「それに、ネネを?」
「そだよ~。それに、お姉さんも一緒に雇おうかなって考えてるよ」
「お姉ちゃんも……あのっ!」
おや? ネネが少し切羽詰まったような顔になったけど、なんだろ?
「ネネがメイドになったら、お姉ちゃんを助けてくれますかっ!」
「助けるって、えっと、どうしたの?」
「お姉ちゃん、昨日すごい怪我しちゃって、もう戦えないんです。だけど今日もお仕事行って、不安なんですっ!」
戦えないのに仕事に行った? ……ヤバいな、すっごい嫌な感じがする。
ネネの話を聞く限り、ろくでもないパーティなのは確実。
そんなパーティのもとに戦えない者、しかも女の子が行ったらどうなるか……。
う~ん、ただの勧誘じゃなくなりそうだわ。




