187話 異世界あるある
路地裏に居る貧困というか、結構落ちた人たちを見て、ミツキたちは複雑そうな顔をしている。
そりゃねぇ、一般の人との差がホント酷いからねぇ。
汚い身なりをしており、冗談抜きに少し臭い。しかも一目でヤバいのが分かるくらい、精神に異常をもたらしてる感じの奴が多い。
「ねぇユキ、あの人たちって」
「お察しの通り、完全に脱落した人たちだよ。一言で言うなら〝クズ〟かな?」
「クズって、酷い言い方ね……」
マナミが少し引いてるけど、これはしょうがない事なのだ。
だって、こんな状態になる前、というかならない方法は幾らでもあるもん。それをしていない時点でダメダメ。
自分が頑張らずに、ただ貰うだけって感じなのもダメなところだし。
「なぁユキ、その」
「あー、コータのしたいことは分かるけど、それは止めた方が良いよ」
予想通りだけど、やっぱり親切心というか同情心というか、そういうのが出ているね。
ほんと、こういうのもテンプレですねぇ。しかもわたしが嫌いな方のテンプレ。
「簡単に説明すると、この人たちにお金なり物を渡しても、改善しないですぐに元通りになるの。クズは一生クズって感じかな?」
「やけに厳しいんだな」
「まぁね~。そりゃ傭兵帝国みたいなところだと、自分の意思で抜け出すのは難しい感じだけど、セイリアスなら抜け出せるはずなの」
レグラスとアルネイアの同盟国なだけあって、そのあたりは一応整備されている。
まぁレグラスみたいに、こういうクズが一人もいない状態にするのは難しいけどね。
「それに、なんでこの世界の冒険者って年齢制限が無いか知ってる?」
「確か、身寄りのない子供が孤児院に入らなくても生活できるように、だったか?」
「そそ。んで、それはこういう人にも当てはまるわけ。冒険者ギルドが無償で貸し出してくれる宿泊所もあるから、こういう路地裏生活は簡単に回避できるの。だけど、こいつらはここで生活している。それは何故か?」
「抜け出そうって意思が無いから、か」
「せいかーい」
この世界は弱肉強食な部分が多く、たしかに厳しいかもしれない。
だけど同時に、どん底に落ちても抜け出しやすい仕組みがたくさんある。
なのに、こういうクズはその場に甘んじているのか、それとも自分は悪くない、誰かが何かしてくれると思い続けてるのか、腐った生活をいつまでも続けてる。
そんな奴らには何をしても無駄なのです。自分が動かなければ何も変わらない、そういうものだからね。
この世界の現実というか、クズの事情を知ったからか、コータが奴らを助けるようなそぶりはしなくなったわ。
とはいえ、コータだけでなく、みんなも少しモヤってるみたいだねぇ。解決しないのはわかっていても助けたい、って感情かしら?
となると
「まぁクズにお金を渡すのは無意味だけど、そこのお花屋さんに渡すのは良いと思うよ」
『お花屋さん?』
あら、みんなしてナニソレって反応してきたわ。
う~ん、この辺りも日本の生活とのズレみたいなものかなぁ。
みんな分かってないようなので、路地の傍でお花をいくつか抱えてる女の子のもとに行く。
そして元気よく
「お花一輪くーださいな」
「あ、ありがとうござい、ますっ! え、えと、銅貨1枚ですっ!」
「銅貨ね~。はい」
女の子に銅貨を渡し、変わりに花を一輪貰う。
受け取った花は野原咲く野草の一種なので、特に珍しい物じゃない。だけど街に運んでくる人件費を考えれば、銅貨1枚はお安いね。
「花屋って、その子供が? オレはてっきり」
「あー、大きなお花屋さんも確かにあるよ。だけどこの子のように、自分の脚で採ってきたお花や薬草を売り、その日の路銀にする子もいるの」
何らかの事情で冒険者登録せず、国のお世話にもならない人がいる。
そのままクズになる人もいるけど、この子は違う。ちゃんとお金を稼いで、クズにならないようにがんばってる。
何より目が違うよね。
クズの目は本当に死んでるけど、この子は生きた目をしてるもん。
「なるほどね。言われる前に色々察したかったけど、まぁいいわ。それじゃウチも買うわ」
「わ、私も」
多少同情心もあるからか、みんながこぞってお花を買いだしちゃった。
おかげで女の子が少し慌ててますねぇ。ちょっとかわいい。
歳はわたしと同じくらいかな? 身長がわたしよりもちょっとだけ高いね。
少し幼い感じのする顔付きで、髪は焦げ茶色のセミロング、頭の上に熊耳があるから、人よりの熊族みたいだね。
それにしても、ふ~む、悪くないな。
「ユキくん?」
「どうしたのミツキ、急にぐいぐいっときて」
少し女の子を調べていたら、突然わたしに抱きついたと思ったら、そのまま思いっきりぎゅーっとしてくるんだもん。
さすがにちょっと驚いたよ、嫌じゃないけど!
「浮気、するの?」
「なっ!? いやいやミツキさん、そんな気は無いから」
「でも、ずっと見てた、よ?」
そう言うなり、さらにぎゅーっとしてきたけど、なんていうか、すごい嫉妬ですね。
見ず知らずの子に対してまでこうなるとか、よくアリサとエレン、それにメイを認めたなぁ。
もしかして、既に仲の良い子は認めるけど、新しい子はダメって方かな? 増やす気は無いけど。
「いやね、うちのメイドとしての適性がある感じがしただけなの」
「メイドの適性?」
なんのこっちゃって反応だね。しかもミツキだけでなく、マナミたちも。
まぁわたしも〝メイドの適性って何よ〟って思わなくもないけど、実際にあるので諦めてる。
しかも、どういうわけか適性のある子を目にすると、適性があるって感じちゃうからねぇ。ほんと謎です。
「そういうわけで、雇えそうか少し調べてたの。恋愛感情的なのは一切ありません!」
「そうなの?」
「そうだよ~。仲良くしてみたいなぁ~って感情は良く沸くけど、それ以上はほとんどないよ~」
そう言って、今度はわたしからぎゅーっとする。うん、少しふにゃけたね!
う~ん、このアリサともエレンとも違う感触、これも素晴らしいですね。出来ることならこのままずっと抱き……
「あたっ!?」
「いい加減にしなさい」
「むぅ、ちょっとイチャイチャしてただけなのに、急にチョップしないでよ」
「まったく、場所を考えなさいよ……」
マナミがかなーり呆れた目で見てる。
これは変に歯向かわない方が良いね。何か言ったら怒られそうなので、ここは素直に受け入れておこう。
しっかし頭にチョップとか、わたしの知っているマナミの対応そのままね。
これはアレかな、今のわたしに対する抵抗みたいなのが薄まったってことかな? 変に余所余所しくされるのは嫌だから、この方がうれしいわ。
「マナミちゃん、嫉妬?」
「違うから!」
「ほんと? でも、邪魔した、し?」
「邪魔って、ミツキもミツキで、ちょっと恋愛脳すぎるわよ……」
マナミが今度は額に手を当てて、すっごい項垂れてる。
たぶん『このバカップル、ほんと面倒すぎる』って思ってそうだなぁ。事実だけど!
「とりあえず、ちょっとお話ししてみようかな」
「勧誘、するの?」
「そゆことー」
うちのメイドさんと執事さんは引く手あまたなこともあり、人が不足気味なんだよね。
なので、めぼしい人材はジャンジャン確保したいのです。
んで、目の前には素質のありそうなフリーの子がいるわけで。これは運が良いとしか言いようがないね。
他の貴族に取られないよう、絶対に勧誘を成功させるわ!
勧誘は次回にもちこし




