182話 国が違うと色々違う
民族衣装という名のコスプレが完了したので、他の店舗も見てまわる。
想定外だったのは、このコスプレって結構流行ってるのね。他国からの観光客らしき人がこぞって着てるわ。
ただ、男の人もドレスを着ているのは間違いな気がするんだけど。もしかして男女兼用のドレスなのかな?
だとしても通り過ぎる人を見た感じ、ちょっと無理があるわ。ズボンタイプなら問題ないのに、なんで生足なんですかね……。
レイジが頑なに着替えるのを拒否したけど、うん、着替えなくて正解だわ。
その後、いろんなお店に入ったけど、う~ん、なんか違和感。
「どうしましたの? 少し違和感があるって顔をしてますわ」
「んとね、レグラスやアルネイアにあるお店とは、な~んか違う気がするんだ」
具体的に何が違うって言い表せないもどかしさがあるけど。
そんなことを言ってたら、お姉様がニコニコしてる。もしかして、答えを知っているのかな?
「ユキちゃん、それ正解!」
「あぅ、やっぱり心読まれてる」
「そこはお姉ちゃんだからね! それで答えだけど、セイリアスはレグラス、アルネイアと違い、機械化を推し進めているの」
「魔科学や精霊科学じゃなくて?」
「純粋な機械を使った科学、機械科学って言うべきかな? それになるよ~」
へぇ、ちょっと変わってるなぁ。
ただの機械を使った科学は、うちの国だとかなり廃れてる。
廃れたのは単純に、魔科学や精霊科学の方が圧倒的に優れ、さらに機械科学で出来ることを全て再現できるだけでなく、低コストで同等以上にできちゃうから。
あとは機械科学だと自然に悪い側面がどうしても出ちゃうけど、魔科学や精霊科学は自然に配慮するのが大前提だから、自然というか世界に優しい。
機械科学にも利点が無いわけじゃないけれど、うちの国の技術レベルだと、あえて使う必要は皆無なんだよね。
そんな機械科学を前面に推し進めるとは、セイリアスって不思議な国。
「レグラスとかだと、空調は魔道具を使うのが一般的でしょ? でもセイリアスは魔道具じゃなく、空気清浄をする専用の機械を付けてるの」
「えっ!? 空気清浄専用って、それ以外はできないんですか? 大気中の魔素や霊素を調整したり、酸素に弱い種族が多ければ酸素濃度を調整したり、そういう〝あたりまえな機能〟ってないんですか?」
「ないみたいだよ。加湿や除湿はできるみたいだけど、細かい機能は無いみたい」
なんてこった、機械ってすっごい使い勝手が悪……あれ?
前世というか日本のこと思い出すと、むしろいろんな機能がある魔道具の方がおかしかったわ。
しかも機械と異なり、すっごく小さいのに多機能で、さらに機械よりも低コストで量産できるとか、地球の技術者さんごめんなさいって感じだわ。
「ですが、どうして機械科学を推し進めていますの? アルネイアにも機械科学はありますけど、魔科学と精霊科学ほど熱心ではないですわ」
「それはねエレンちゃん、セイリアスは他国と違って特殊な国と付き合いがあるからなの。わかるかな?」
「聞いたことがありますわ。たしか、あの悪しき傭兵帝国メルセンですわよね?」
「せいか~い。エレンちゃんも良い子だね~」
そう言ってお姉様がエレンをなでなでする。あらまぁエレンも照れちゃって、かわいいですね!
お姉様の妹はわたしだけど、エレンたちも妹みたいな存在だからねぇ。スキンシップも多めになるのだ。
アリサたちは従者という立場もあるから一歩引いてるけど、お姉様はお構いなしに妹弟扱いしちゃう。さすがです!
「帝国から安く資材や製品が届くみたいで、この国だと魔道具よりも安価に機械が買えちゃうの」
「うちの国とは逆なんですねぇ。まぁ値段関係なく、わたしは魔道具の方が好きだけど! やっぱね、ママ様たちが基礎を作った魔道具の方が良いのです!」
「私もだよ~」
レグラスの王女としても嬉しかったようで、お姉様がわたしをぎゅーっとしてきた。
街中なのでちょっと恥ずかしいけど、嫌じゃないのでわたしからもぎゅーっとする。なんとなく他のお客さんの目が集まりそうだけど気にしない!
「とはいえ、面白い機械製品もあるかもしれないから、そのあたりも見に行こうか」
「は~い」
機械ならではっていう製品があったらいいなぁ。ちょっとだけ期待しちゃう。
その後も何件かお店に入ったけど、ほんとうちの国と違うわ。
魔道具は比較サンプルみたいな感じに置いているだけで、同等機能を持った機械製品を勧めてた。同等未満な気もしたけど……。
一番違ったのは空間ディスプレイの使い方だね。
うちの国だと空間ディスプレイの魔道具を、商品の説明から値札の様な小物にまで使ったりする。
だけど、ここだと空間ディスプレイは壁に飾るような大型の物のみ。他は小型端末、スマホとかタブレットみたいな物を使ってる。
この違いは空間ディスプレイの普及度の差ってことかな?
それにしても、ここまで機械だらけだとファンタジーって言うより、サイバーとかSFって感じだね。
だけど、わたしの居た時代の地球人からすれば、ここは近未来って感じに見えるから、人によっては他の国よりも馴染み易い気もするわ。
事実、セイリアスって勇者召喚というか、異世界からの召喚を結構やってるからねぇ。
この状態も、そうやって召喚された人が過ごし易いようにした結果かしら?
そんなことを考えつつ、機械製品を色々と眺めてたら
「こ、これは!?」
「どーしたのレイジ、すっごい驚いてるけど」
「ユキ様なら分かるはず」
「わたしなら分かるって、え? これはまさか!?」
驚いているレイジが示す先を見たら、さすがのわたしもびっくらいこいた。
だって
「なんで日本の古いゲーム機が、しかも箱入りの新品で置いてあるのよ!?」
「さらにブラウン管のテレビまであるよ!?」
「とゆーか、ここだけ日本の80年代!?」
このお店には機械製のゲーム機や家電がいっぱいあったけど、この世界で作られた物だけだった。異世界からの輸入品は皆無……あったら怖いけど。
だけど、その一角に『これぞレトロゲームコーナー!』って感じに、古い日本のゲーム機や、それに必要な家電が置いてあるんだもん。
さらによく見ると、そのすべてが日本製。この世界で再現した物ではなく、まぎれもなく地球の日本で作られた製品。
どういう事なのよ。
わたしの場合、物質創造の術で日本の家電やゲーム機なんかを再現する。
だけどそれは完全再現でなく、同等の物をこの世界の物質で再構成する技術。外見は同じでも中身は魔道具って感じになっちゃう。
とはいえ、ゲームなんかは製品名を思い出せれば、内容をほぼ完ぺきに再現できる、ちょっとチートじみた技術だったりする。
まぁわたしが知らない、というか触れたことが無い物は再現できないという欠点はあるけど。
まずいなぁ、すっごい気になっちゃう。
完全再現できる方法があるのなら、ぜひとも使えるようになりたい! やっぱね、完全再現はロマンなのです。
となれば
「ねーね―お姉様、お店の人に話を聞いても良いですか?」
「いいよ~。それじゃ誰か、呼んできてちょうだい」
お姉様が親衛隊の人に指示し、店員さんを呼んでくれる。
さてさて、どうなるかしら。
全部教えてくれるとは思えないけど、完全再現へのヒントが見つかるといいなぁ。
レトロなゲーム機はファ〇コンとかゲーム〇ォッチとか、そのあたりの製品です




