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18話 捕まった先に待つものは・・・4

 自分の状態がよくわからない、ここまで弱くなかったはずなのに。

 友達だからなのかな、ショックがひどい、吐き気もする。もう嫌だ、すごく泣きたくなる。


 でも本当にこのままでいいのかな? 本当に終わりなのかな?


 ……そうだ、まだ決まったわけじゃない。見つかったのは血が付いた服だけ、アリサが見つかったわけじゃない。


 それに、わたしはなんのために水の精霊神に再生術の付与を頼んだの。即死でなければ再生術が働く、生きている可能性だってある。

 なら迷う必要はない。


 だって


「わたしはアリサを連れて帰るって決めているんだから! 出し惜しみは無し、全力でやる!」


 使える術札は3枚、いや4枚か、治療用に1枚残っていれば十分。ならまずは私の邪魔をするゴミどもを完全に殲滅する!


「ユキ、君はいったい何をしようと」

「術式展開、我が前に顕現せよ、不死の王ノーライフキング!」


 展開された魔法陣は黒く、禍々しい光を発する。やがて魔法陣の上には漆黒の門が現れ、ゆっくりと開かれていく。そして門から出てくるのはアンデッドの王、ゴミどもに慈悲なんていらない。


「ノ、ノーライフキング!? 勇者数人がかりでも歯が立たず、たった一体でいくつもの都市を滅ぼしたアンデッドの王!? ユキ、君はなんてものを……」


 ショージ君が何か叫んでいるけど、どうでもいいわ。

 しかし相変わらずね、私のノーライフキングは。出てきたら綺麗に跪き、私の手を取るところとかほんと紳士。


「ノーライフキング、あなたにアビスドラゴン3体をつける。そして速やかに敵を殲滅しなさい、一匹たりとも逃すことは許さない」


 残りの3枚の術札からアビスドラゴン、モンスターでありながらアビス種に進化し、魔狐や魔人と同格となった規格外のドラゴンを召喚。ゴミ相手にはオーバーキルだろうが関係ない、敵は殲滅するのみ。


 ノーライフキングが頷きアビスドラゴンを従え壁をすり抜けて行く。

 それじゃ始めましょうか、私の邪魔をするゴミたちに贈る、救い無き最後の宴を。





「ユ、ユキ、君どうしたんだい。さっきまでとは雰囲気、いや人格すら違うように冷たく恐ろしいのだが」

「私は何も変わっていませんよ。ただゴミを早いところ片付けたいだけです。あ、もしも今の光景をどこかに口外したら、次はあなたたちがゴミと同じ運命となるのでお忘れなく」


 リスクを考えるとこいつら全員ここで処分したほうがいいのだけど、正直その時間すらもったいない。自然と処分するなんて思っちゃうあたり、私にとってこいつらはその程度の物ってことだね。


 自分でも残忍とか非道なこと考えてるのはわかっている。でもだから何? 私の中で一番重要なのはアリサと一緒に帰ることなの。それ以外はどうでもいい。


 おや、どうやら殲滅対象はこの館の外にも居るようね。召喚したあの子たちの位置はすべて把握できるけど、2体のアビスドラゴンが遠くの方でゴミ掃除を開始したわ。

 ふふっ、このまま行けばどこかの都市の一つや二つ滅ぶんじゃないかな。


「あのユキさん、すごい怖い顔になって、その、魔力も先ほどから」

「あぁ気にしないでください。ちょっとゴミが遠くに散らばっていまして、一つか二つくらい都市が滅ぶんじゃないかなって思ってただけですよ。ちなみに私の魔力はいたって普通です。あの子たちに合わせた魔力を供給しているから、それを感じ取っているだけでしょう」

「は、はい……」

「ユキお姉さん……」


 冷酷な感情が前面に出ているからか、周囲に漏れ出る魔力もそれに応じて冷たくなってるわ。こんな姿見せてたら怖がられて、さらに嫌われるだろうなぁ。さっきまで仲良くなれそうな気がしてたのにね。

 それにこのただの虐殺ともいえる状況、人によっては悪夢だろうなぁ。少しだけ心が痛むわ。


 あと、正直に言えばわたしも気持ちわるい。

 ノーライフキングとアビスドラゴンが蹂躙しているゴミどもから、死の間際に発せられる恐怖や怨念などがイメージとしてこっちに来る。

 これは感情任せにただ召喚した反動だわ。本来は殲滅行為を行う際はイメージの流入を防ぐ専用の術式に変えなければいけないのに、そのまま召喚した自業自得の結果。

 まぁ体に影響はないけど、何千何万も襲ってくると結構きつい……。





 ん? ノーライフキングだけ転移してきたわ。命令を無視して勝手に戻ってくるとか、普段ならありえないことなんだけど。

 命令を無視しなければならない状態にでもなったのかしら。


「どうしたの? まだゴミの片付けは終わってないでしょ?」


 ノーライフキングが頷き、手を差し伸べてくる。その手を握り、ノーライフキングからの情報を受け取る。


「見つけたのね! 早く私をその場所に転移させなさい!」


 その情報はアリサの場所を示すもの。殲滅しか命令しなかったのにアリサも探していたのね、ほんと良い子だわ。

 ただ、ノーライフキングからの情報だとアリサは血だらけらしい。でもまだ死んでいない、それだけは確実なのがはっきり伝わった。つまり助けることができる!


 周りの奴らが何か言ってきてるけど、知らないしどうでもいい。もう少しだけ待っててねアリサ、すぐ助けるから!





「ん、ここは……アリサ!?」


 転移すると目の前にアリサが居た。だけど状況は最悪、天井から鎖で吊るされ、鎖との接合部である腕輪は腕に食い込んでいるのか血で赤く染まっている。

 衣服は破れ、胸には剣のようなもので刺された傷があり、床は流した血による水たまりができている。


「ユキ、様、はやく…逃げ、て……」


 アリサは生きていた、生きていたけど瀕死じゃない……。目は虚ろ、体はあんなに綺麗だったのに今は傷だらけ、大きな刺し傷や切り傷なんかもある。

 痛くて苦しいはずなのに、それでもわたしの方を心配するとか、どんだけお人好しなのよ。


「おや? 確か君は捕まえていたはずなんだが。外も騒がしいようだし、何かやったのかな?」


 そう言ってアリサとの間に入ってくるのは騎士風の男。装備が変わってるが間違いない、昼間見た瓶を持った男だ。


 そしてこいつなんだね、アリサをこんなに痛めつけたゴミは!


「アリサを返してもらいに来た。今なら人として殺してやる、だからさっさとどけ」

「アリサ? あぁこの奴隷のことか。まったく奴隷の分際でここまで手間かけさせられるとは思わなかったよ。だがおかげで良い物が手に入った」


 そう言って何かを見せてくる。あれはまさか


「おや、気が付いたかい? そうだよ、これはこの奴隷の体内にあった魔石さ。いやはやここまで大きいとは思わなかったよ。おかげで取り出すのに苦労したものさ」


 あぁこいつはそういうことか。他人の魔石を手に入れ、そしてその力を吸収して自分の力にする能力を持った存在だ。

 進化を阻止するだけならば魔石はさっさと破壊する。だが完全な状態で保持しているということはそういうこと。


「一応聞いてやる、お前は誰だ。そしてどうやってアリサの魔石を奪った」


 睨みつけながら次の手を考える。正直どっちもどうでもいいことだけど、今はアリサの命がかかってる。感情任せのごり押しは絶対にできない、慎重に助けないと。


 油断している今なら助け出すのにはもってこいだけど、ノーライフキングに任せるのは無理。今のアリサの状態を見ると、おそらく触ることすらできない。

 ほんと失敗したわ、賢いからってノーライフキングを選んだツケがここに出るなんて。健康な状態であれば触っても大丈夫だとは思うけど、今の状態じゃ侵食されちゃう。


 かといってノーライフキングを囮にするのも危険がある。このゴミの手の内が分からないし、対アンデッド用の広域魔法でも使われたらさらに厄介。攻撃を対消滅するためノーライフキングが勝手に魔法を使ってしまい、その余波がアリサに向かう可能性が非常に高い。ほんと参ったわ……。


 しかしこの男、魔石を吸収しているからか、ただの只人ではなさそう。魔人くらいの力は持っていると仮定した方がいいか。

 それにこの余裕、やはり何か策があるとみて間違いない。


「そうだな、せっかくだから答えよう。僕の名前はサッケルタ、神聖王国の勇者だ。そしてこの奴隷の元主人、いや真の主人だ!」

本作品のノーライフキングは紳士的なキャラです。

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