17話 捕まった先に待つものは・・・3
アンジーさんとミスト君を助けて、その他も一応助けるになりました。
二人はいいんだけどそれ以外も助けるとか、今のわたし、精神的に余裕ないから本当は拒否したいんだけどな。受け入れるしかないのかな。
それに、う~ん、術札使いたくないんだけど……。
「本当に申し訳ない、俺たちまで助けてもらうことになって」
「いやいいから、とりあえず立たないで、見たくないものが余計に見えるから!」
そう、こいつら裸なんだよね。いろいろと見えるのでほんと勘弁してください。下心が全然沸かない相手だと眼福でなく苦痛になるんだよ……。
なので何かで隠そうと思ったけど、布などの気の利いたものは無いわけで。物質創造で服作って隠すしかないかなぁ、でもここで術札を1枚使うの? えー。
「俺たちがしっかりしていればミストが殴られる必要もなく、そして君に迷惑かけることもなかったんだ。改めて謝罪と、そして礼をさせてくれ」
「わかったから立たないでー」
リーダー格の青年、名前はショージ。彼は歯向かったようだけど敵わなかったらしく、しかも見せしめの意味も兼ねてぼこぼこにされたみたいね。ダメージも相当なものだったようで、さっきまで気絶してたし。
その割に今は元気だね。しかも復活した早々、全員の鎖を外す手伝いもしてくれたし、ほんとタフだねぇ。
まぁ結果はぼこぼこだったけど、無抵抗じゃなく現状を打破しようとしたのはえらいわ。しかも複数人相手に一人で挑んだとか、なかなか度胸もあるね。
んー、ショージ君のようなケースもあるってことは、二人以外も助けるのは正しいのかな? 同じように抵抗したけどダメだったって人もいるかもだし、こういうのはほんと難しい。
というかこのショージ君、勇者なんだよねぇ。しかも地球から召喚された日本人! だけど残念なことに『召喚されたので最強になりました』とかが無くてすっごい弱い。
そもそもこの世界の勇者って職業じゃなくて種族の一部、只人族の勇者種みたいな感じになるのがねぇ。ショージ君も進化してないようで、普通の只人族じゃ弱いのは当たり前。勇者なので転生ボーナスは持っているらしいけど、そっちも焼け石に水だったみたいね。
これが魔人に進化してれば状況は変わっていたと思うけど、それは言わないでおこう。
そういえば異世界召喚でも転生という括りだったかな? 生きている人も召喚の際に元の世界で一度殺されており、召喚後に生き返らせているっていう裏の仕組みがあるとかなんとか聞いた記憶。
しかもご丁寧に召喚された者は死の瞬間の記憶を削られ、さらに交通事故とかの定番物を偽装して殺してるとかなんとか。
拒否することもできず勝手な都合で召喚されるどころか、元の世界ではすでに死んでいるので帰ることは無理ですとか、さすがに同情するわ。
ショージ君も含めた簡単な挨拶は終わったので、現在進行形で一番頭を抱えてることに手を付ける。
「とりあえず全員並ば、いや立たなくていいから、とりあえず隠してて。これから術で簡単な服出すからそれ着てください」
わたしの精神衛生上、残り少ない術札を使ってでも隠すべきだと判断。なんで男女揃って無駄に見せようとするんですかね、アピールですか? 何のか知らないけど。
えっと男が10人、女が15人、そのうち獣人が~って、多いな! まずいわ、これ術札1枚じゃ足りない。男女兼用のワンピースで賄えると思ってたけど、身長差が結構ある。
はぁ、もう見たくないからいいや。大中小の3種類、術札3枚使おう……。隠れてこっそり物質創造っとな。
「はい、大中小とあるので身長に合いそうなの着てください、ワンピースタイプなので上からかぶるだけです」
さくっと作ったのをちゃっちゃと着させてっと、これで多少はましでしょう。って、そこの奴、裾をめくるな! 何がチラリズムだよ。
しかし困ったわ、残りの術札はたった5枚。1枚はアリサが怪我している場合の治療用なので取っておくでしょ、服も無い可能性を考えるともう1枚必要か。やばい、使えるの3枚しかない。
「あの、ユキお姉さん大丈夫ですか? 何かすごい難しい顔していますが」
「あー大丈夫だよミスト君。というかわたしの方が歳下なんだけどお姉さんって」
年下で身長も負けてるのになんでだろ。溢れる大人の魅力……がまだないのは自分でもわかってるし、謎だわ。
精神的苦痛から若干解放されたので、本題であるアリサについての情報を収集しましょう。
「えっと、ショージ君とアンジーさん、他にも捕まっている人を知ってたりする? それか居そうな場所の情報でもいいよ」
「ごめんなさい、私はわからないです。この部屋に連れてこられた人は全員居るのはわかるのですが」
アンジーさん申し訳なさそうな顔してるなぁ。助けられたのに何も返せない悔しさが出ている感じかな? 焦らなくてもいのに。
でも今の返答でアリサはこの部屋に連れてこられてないのがわかった。もしかして捕まっていないとか? そんな都合のいい話はないだろなぁ。
「俺はたぶん一番最初に連れてこられたから少しわかるよ。捕まった人がまだそこに居るかはわからないけど、牢屋とは違う別の部屋があったはずだ」
「それってどこかわかる?」
「確かこの部屋を出て左に進み――」
ショージ君が言うには拉致された人の持ち物を取り上げる部屋があるみたいね。睡眠が浅かったショージ君は途中で気が付いたので暴れて脱出しようとしたけど、逆にぼこぼこにされて今に至ると。
他に手掛かりもないし、部屋を片っ端から確認するよりかはいいかな。
「わかったわ、それじゃとりあえずその部屋に行ってみましょー。あ、ここに残りたい人は残っていいよー」
と言ったものの、ソロゾロと全員ついてきたわけで。こうなっちゃったら、通路に敵出でてきたら即排除する方法を取るしかないなぁ。ちょっとでも戦闘時間が延びると、間違いなくこの人たちが邪魔になると思うし。
しばらく進んできたけど、ほんとめんどー。これで何匹目よ、しかも必ず2匹セットでくるし。魔力込めての打撃一発で沈むけど、こう何度もだとさすがに疲れてくるわ。ゴミのくせにうじゃうじゃであーもー。
「な、なぁ、ユキ。君さっきから騎士のこと虫みたいに何匹とか、ゴミとか結構怖いこと言ってるんだが……」
「あら、声に出ちゃってた? いやぁ、えへへー」
ショージ君に言われたので、それをごまかすため可愛く笑ってみる。なーにこの自画自賛できる可愛さでみんなコロッとですよ。
……だめだ、一部は恐ろしい化け物を目にしているような状態のままだわ。まぁ半数以上は悶えさせたのでわたしの作戦勝ちってことにしましょう。
「この部屋かな、鍵がかかってるし」
目的の部屋まで来たけど、結構時間かかったわ。
わたし一人ならもっと早かったのに、2倍、もしかしたら3倍くらいかかった気がする。こんなに遅くなるのなら、こいつら全員見捨ててさっさと来ればよかったのかなぁ。それともこいつら全員助けてきたのは正しいことなのかなぁ、ほんとわかんない。正しいことだと信じたいけど……。
過ぎたことをいつまでも考えていてもしょうがないし、部屋の中の確認に移りましょう。まずは軽く気配を探ってみますか。
「ん~、中に人の気配はないけど一応入るべきかな。え~っとこの鍵だね、よいしょっと」
奪った鍵がここで役に立ったわ。しかしうるさい扉だなぁ、慎重に開けてもギギギギギって響くし。これは敵が来るのを想定して動いた方がいいか。
部屋の中には物が山積みの状態になってる。どうやら捕まえた人から奪った雑貨や衣服など、いろんなものを無造作に積んでいるだけみたい。
それにしても結構あるなぁ。今回以外にも繰り返し実行してたってことなんだろうけど、いったいどれだけの人を捕まえたのやら。
ざっと見た感じ他国の物が多いから、おそらくうちの国での犯行は今回が初なのかもしれない。
まぁそうだよね、もしも頻繁に事件が起こっていたら注意喚起が出るだろうし、そもそもわたしの外出が許可されないわ。
「とりあえず何か情報になりそうな物がないか探すってとこかなぁ。でもアリサの持ち物って言ってもリボンは使用者登録の術を付与してるから外れないし、ポーチもそうだし、あとは……」
「あぁぁぁぁぁ。俺のスマホがぁぁぁぁぁぁ」
おや、ショージ君はスマホが見つかったみたい。でも、うん、完全にご臨終してるね。真っ二つにされてたら、さすがに修理は無理だろうねぇ。アンジーさんとミスト君も何か見つけたらしいけど、そっちもやられてるっぽいね。
でもスマホを修復できないよう真っ二つってことは、もしかしたら頭のいい奴が上にいるのかもしれない。
この世界でもスマホに市販されている通信用の魔道具を取り付ければ、それこそ国外の離れた相手とも会話できるようになるからねぇ。アプリも使えるのかは知らないけど。
でもこのゴミのような山から探すって言って…も……
「これ、アリサの服だ……。一部だけど間違いない。それにこれって血だよね……」
「……なぁユキ、あまり言いたくないが俺でもわかる。その服に付いた血の状態からすると、それを着ていた子はもう……」
来るのが遅かった。
遅かったからアリサは傷付いて、もしかしたらここで死んだ……の?
……やっぱりこいつらほっといてさっさと来ればよかったのかな? やっぱり間違っていたのかな?
ねぇアリサ、わたしはどうすればよかったの?
補足:
この世界の勇者召喚も、衣服とか所持品を全部持った状態で召喚される定番のやつです。
ショージ君がスマホを持っていたのは勇者召喚のおかげになります。