168話 情報が欲しいのです!
少し長いです
捕虜を運んだ結果、予想通りではあるけど、ちょっともめる状態になった。
仲間として迎え入れようと思っていても、憎しみしか持っていない相手じゃそうもなります。
とはいえ、それでも受け入れるって決めたのはみんななので、わたしは何もしません。
「なんていうか、予想以上に酷いわね」
「恨みや妬みだけだからね。とゆーか、マナミはコータたちと一緒に、奴らの説得とでもいうか、話し合いとかしなくていいの?」
コータを中心に、クラスメイトの多くが説得でもしたいのか、捕虜と話してる。
そんなコータたちとは異なり、ミツキとマナミはわたしの傍で、その様子をただ見てるだけ。参加しようって気は皆無みたいね。
「まぁウチとミツキは、あいつらと合流するの反対だったからね。話し合うとしても、こんな場所でなく、町の中とかの方が良かったわ」
「私も同じ、かな?」
「なるほどねぇ。わたしとしてはどうでもいいというか、近くにまとめて監視をしやすくしたいだけだったからなぁ。遠くの方で監視するの、結構疲れちゃうの」
いくらわたしでも、広範囲に転々とした捕虜をヒトガタで捕縛しつつ、寄ってくる魔物の殲滅に、捕虜を生かすための水と食料を確保するという、同時作業が多すぎると疲れるのです。
ヒトガタでなく召喚を使えば負担は減るけど、召喚だと待遇の問題が出てきちゃう。ずっと働かせるとか、意思がある存在に対し命令したくないのもあるね。
「ところでユキ、一つ聞きたいんだけど」
「な~に?」
「あいつらとウチら、どっちが強いの?」
「強さかぁ。う~ん……」
「オブラートに包まなくていいから、ズバッと言っちゃって」
少し躊躇っていたら、マナミがズバッと言ってきたわ。
男らしくてカッコいいですねぇ。これは女性にもてる女性って感じですね!
「んじゃハッキリ言っちゃうと、あいつらの方が強いよ。この中では一番強いコータですら、あいつらの100分の1くらいの魔力しかないわ」
「そんなに差があるの!?」
「あるねぇ。本当に死に物狂いで生き抜いてきたからか、性格や思考はともかく、そこそこな強さにはなってるわけ」
油断したらすぐに死んじゃうような環境で生活してたんだろうねぇ。
ただ、成長を急ぎ過ぎたようでバランスが悪い。
体と魔力が馴染んでいない奴、魔力、もしくは体だけ強化している奴、使える魔法や術が初歩的な物だけな奴など、いろいろと中途半端。
これは師匠となる存在が居なかった影響もあるわ。全部手探りだと、良い感じに成長できないからねぇ。
「あいつらよりも強いのはミツキだけかな? といっても雪姫があるから上なだけで、素の力は足元にも及ばないけど」
「ミツキでも下って、ほんとすごい差なのね」
「まぁしっかりとした訓練を積んでいけば、すぐに逆転できるけどね。あくまで現状は、ってとこだよ」
聞いたところ、こっちの世界に来てまだ1ヶ月くらいだから、弱くて当然なんだよね。
まぁ神聖王国の訓練がへぼすぎて、強くなれてないってのもあるけど……。
「それじゃ、ユキくん、は?」
「あー、わたしとの比較だと、あいつらが足元にも及ばないって言うか、超雑魚になっちゃうわ。大雑把だけど今の状態でも、あいつらの約1万倍以上の力はあるので!」
「1万って、あんた、本当にとんでもない力を持ってるのね」
「まぁね~」
これも英才教育の賜物です!
現状、同年代で絶対に勝てなさそうなのはメイだけだもんね。まぁエレンとレイジにも最近敵わない感じだけど……。精霊神衣を使えば圧倒できるけど、他は魔石の修復による弱体化の影響がどうしても出ちゃうねぇ。
コータたちの話し合いが終わるまで3人でのんびりお茶をしてるけど、ほんと長い!
平行線のまま、かれこれ1時間近く経ってるんだけど。どっちも意地になってる感じで、収拾がつかない感じかなぁ。
「このまま続けても無意味な感じだし、そろそろ強制的に終わらせようかねぇ」
「強制的、に?」
「物騒なこと、するつもりじゃないでしょうね?」
「物騒というか、ちょっと威圧して落ち着かせようかな~と」
ただの良い争いっぽくて、ちょっと見苦しくなってるからね、すこーし頭を冷やした方が良いと思うのだ。
「それにまぁ、わたしも聞きだしたいことがあるからね」
「あいつらに?」
「うん。斥候が居るはずなんだけど、ソイツがどこへ行ったのかと、他にも仲間がいるのか、神聖王国との繋がりは本当に無いのか、とかね」
「まだ裏があるかもってこと?」
「そゆこと。とくに、魔物を使役してる奴もまだ見つかってないのが気がかりなの」
初日から結構捕獲したのに、使役している奴が一人もいなかった。
当初は使役している奴が複数居るから、襲ってくる魔物が大量で、さらに途切れることが無いんだと思っていた。
だけど実際は異なった。捕獲した奴だけでなく、潜んでる残りの敵にも使役している術者がいない感じなんだよね。
となると、遠距離からの使役もできるすごい術者が、奴らのお仲間に居るってことになる。
しかも大量の魔物を使役し続けていることから、わたしに匹敵する術者の可能性も出てくる。
そう考えた場合、少しでも情報を取得したいわけで。情報が無いままだと策も練れないしねぇ。
威圧するかは置いといて、いったんコータたちのもとに向かう。
まぁ妄想マンがさっきからずっと睨んできてるから、いい加減うざくなったのもあるんだけど。
「まだ続けるの?」
「ユキたちも来たのか。そう、だな、正直無理なんじゃないかってボクも思えてきた」
そう言ってコータは、あからさまにがっくりしている感じ。ここまでこじれるとはさすがに思ってなかったようね。
「まぁ続けるなら後にしてもらっていいかな?」
「構わないが、何かするのか?」
「するというか、ねぇ妄想マン、さっきからわたしのこと睨んでたけど、その理由を教えてくれないかな?」
そう言って、ジークリンドなどと改名した妄想マンを、ヒトガタを使って空中に持ち上げる。
突然の出来事だからか、ぎゃーぎゃー言い争っていたのが一気に静まり、みんな妄想マンを注視する状態になった。
「卑怯だぞ! 降ろしやがれ!」
「卑怯って、まーた意味不明なことを。単純にわたしの方が強かった、それだけでしょうに」
「くそっ、オレ様は勇者なのに、こんな、こんなことは」
この反応、異世界転移の定番だなぁ。
勇者になったので異世界で最強になったとか、そんな考えのやつだね。しかも召喚失敗から生き残れたのもあって、選ばれし存在とか、物語の主人公とか完全に思ってるわ。
こういう奴の心を折るのは簡単だけど、それをわざわざやる気はない。
わたし、小悪魔的な嫌がらせはするけど、無意味に心を完全にへし折るような悪魔じゃないので!
なので、軽く流しながら先に進みましょー。
「はいはい、で、その勇者様にもう一度聞くけど、なんで睨んでたのよ?」
「……聞いたぞ、お前、あのカズヤだってな」
「前世がそうだってだけよ。とゆーか、それが何か問題?」
「大有りだ! くそっ、日本だけでなく、この世界でもオレ様はお前に負けるのかよ!」
はて、わたしに負けるのが相当悔しいのか、泣きながら叫んできたよ。
そういえば妄想マン、ミツキに好かれようといろいろやってたっけ。まぁ傍から見るとストーカーにしか思えないような行動ばかりだったけど。
当然ミツキの心象も良くないわけで、しょっちゅうわたしに相談したり、助けを求めたりしてきた。
そのせいか、妄想マンはわたしを敵視しだし、やがてライバル扱いし、そして勝手に敗北していった。まさに空回りの自滅ですね!
でまぁまた負けるというのは、この世界にはわたしが居ないから、今度こそミツキと付き合えるとか考えてたんでしょう。
だけど残念なことに、なびくどころか完全に敵対、しかもミツキは前世に続きわたしにべったりだから、勝手に敗北したって感じか。
「なんていうか、ご愁傷様?」
「お前には言われたくない!」
「そうかも? とゆーか、ミツキたちがこの世界に、しかもここに居るって誰に聞いたのよ?」
同じ場所に召喚されてたのならわかるけど、こいつはハグレてる。
となると、誰が召喚され、どこに居るかなんて普通は知らないはず。でも知っているってことは、おそらく斥候をしている人物から聞いたってこと。
だけど、そこまで詳しく情報を収集できる斥候なんて、こいつらの仲間程度に収まる器じゃない気がするんだよなぁ。
「話すわけないだろうが!」
「まーそうだよね~。しょうがない、自白させますか」
そう言って、ヤバい闇の魔力塊を6個作りだしてお手玉する。今回は4個からの増量よ!
「くそっ、またそれか」
「脅しには最適だからね!」
「ふざけやがって! だがな、いずれお前は終わる」
「はい? えらい自信満々に語るけど、どういう意味よ?」
「お前は確かに強いようだが、姫ほどじゃない! なによりオレ様が倒れようとも、姫が必ず助けてくださるからな!」
そう鼻息を荒くしながら叫んでるけど、姫って誰? メイのことじゃないのは確かだしなぁ。
たぶん斥候と思っていた奴が姫って存在だと思うけど、さてどうしたものか。
う~ん、深く考えるのもなんかバカバカしいし
「じゃぁその姫ってのが助けてくれるか、実験しましょー」
「ちょっとユキ、何する気なの?」
「いやね、倒れても助けてくれるって言うんだから、実際に妄想マン倒してみようかなぁって!」
うまくいけば主犯を誘い出せるかもしれない!
って、マナミさん、そんな呆れた目で見ないでください、照れちゃいます!
「というわけで、覚悟は良いかしら?」
「くそっ、オレ様もここまでなのか……。姫、申し訳ない」
なんか三文芝居みたいになってきたんですけど?
これってあれかなぁ、攻撃しようとしたら、声がかかるのかしら?
とりあえず流れで、振りかぶるように構えを変えたら
『お待ちなさい!』
ババーンって感じに誰かの声が聞こえてきた。
いやほんと、なにこの茶番劇は。誰かの仕込みですか?
「だ、誰だ!」
「声は聞こえたが、どこにもいないぞ!?」
あー、うん、みんなノリいいですね。一気に白けたわたしとはえらい違いです。
そんなことを考えていたら、妄想マンの前にスポットライトらしき光が集まり、地面を照らす。
さらに謎のテーマ曲が流れだしたと思ったら、花吹雪が舞いだした。
花吹雪が1分ほど続いた後、その中から一人の女が現れた。……演出さん、頑張り過ぎです。
「待たせたわね、ジークリンド!」
「姫! 来てくれたのか!」
「当たり前よ!」
そう語り合う妄想マンと、えらい露出の多いドレスを着た女。
はぁ、三文芝居の次は露出狂の女とか、お腹いっぱいです……
あくまでシリアスモドキ
なお、ギャグ展開に近いですが、本人たちは真面目です




