163話 力は求めたくなるものです
細かいトラブルはあったけど、何とか野営できたのは良かったわ。
なにより、初日のトラウマで発狂する人が居なかったのが良かった。発狂されると、嫌な連鎖が起きたかもしれないからねぇ。
そして今日は2日目、天気が良くて一安心。雨がザーザー降ってるとか、気落ちしちゃうもんね。
そういえば昨日、アリサからの連絡だと『セイリアスへの到着が遅れそうです!」ってちょっとご立腹だったなぁ。これ、4日以上かかるのかしら?
まぁこっちが気にしてもしょうがないし、大人しく待ちましょー。
とはいったものの
「ねぇ、まだやってるの?」
「みたい、だね」
「ほんとあいつら、飽きないわねぇ」
視線の先には、男衆が模擬戦をしている。
朝食が済むなりコータが『この世界で生き残れるよう、少し修行させてくれないか?』って言いだしたら、男衆がわらわらと賛同した。
しょうがないのでゴーレムを使い、少し訓練モドキをさせたけど、まさか1日中訓練する勢いになるとは思わなかった。
そんな訓練をしているのは男衆のみ。
男衆と違い、女衆は辞書に夢中。武力でなく、知識を身につけようってことですね。
確かに知らないことが多いと、いろんなことで面倒になったりするからねぇ。
しかも辞書には簡単な魔法や術式についても書かれてるから、各々が少し試したりしている。
どうやら完全に後衛にまわる子ばかりですね。
でもこうしてみると、前衛組と後衛組でわかれて、案外バランスの良いパーティなんじゃないかって思う。
となると、全員同じ国に住めるようにした方が良さそうだねぇ。
「ところでユキ、一つ聞きたいんだけど」
「な~に?」
「ミツキの様に、ウチも精霊とかって使えるようになるものなの?」
そう真剣な眼差しで聞いてくるマナミ。
初日から辞書を読み漁ってると思ったら、そうきましたか。
これはおそらく、初日の騒動でミツキが居なければ、確実に全滅だったことに負い目を持ってるからだね。
なので、ミツキの手助けができるよう、精霊術を習得したいってことか。ほんと親友ですねぇ。
「ん~、ミツキと同程度になるとか、精霊術が使えるようになるとかは、相当厳しいと思うよ」
「そう、なの? もしかして、この杖が無い、から?」
「それもあるんだけど、う~ん、教えていいものか……」
「何か隠してるわね? 気にしないから、はい、説明!」
ほんとマナミも変わってないわ。
たとえ自分に都合が悪いことでも、ちゃんと説明させようとする男らしさ、惚れちゃいますね!
まぁその性格のせいで、あまり男性受け、あ、やめて、口に出してないから、だからほっぺつねらないでぇぇぇぇぇ。
「ほんとお子様になってるわね……」
「でもかわいい!」
「ミツキはミツキで、盲目すぎるわ……」
あらまぁマナミさん、すっごい呆れてますね。
でもまぁ、うん、諦めよーか!
「んと、簡単に言うと素質の問題で、仮に雪姫と同じ術装を作っても、マナミには使えない術装なの」
「素質なんてあるの?」
「あるよー。とゆーか、実はミツキもその素質は無かったはずなの」
「でも、使えている、よ?」
「それはね、ちょっと失礼……このネックレスのせいなの」
そう言ってちょっとミツキの首元に手を入れ、ネックレスを取り出す。
って、やばい、やってしまった……。
「ユキくん、だいたん」
「人の服の中に手を突っ込むとか、完全に犯罪よね」
「すみません、ついやってしまいました……」
アリサやエレンといちゃつく時、たまにイタズラ心で服の中に手を突っ込んでいるから、どうもその感覚でやってしまったわ……。
まぁやりだしたのは二人からだけど!
「え、えーっと、実はミツキが過去をちょっと変えちゃってね、このネックレスが日本ではありえない存在に変化しちゃってるの」
「それって、ミツキが言ってた神様関係だよね?」
「だね。んで、どういう変化が起きたかって言うと、このネックレスにはわたしの魔力と精霊力が込められています。そして、このネックレスを長期間つけていたことで、ミツキはわたしと同じような魔力と精霊力を手に入れちゃったの」
「ユキくんと同じ、うふふ」
うん、ミツキがすっごい嬉しそうにしてますね。
同時にマナミがすっごい呆れて、うん、バカップル爆発しろって気分ですね、わかります。
「まぁそういうわけで、ミツキはわたしの精霊力に近いものがあったから、わたしの作った術装を使うことができ、同時に精霊さんがすぐに懐いたわけ」
「なるほどねぇ。わざわざそう言うってことは、同じようにネックレスをウチらが付けていても、同じようにならないってことでしょ?」
「そゆこと。召喚される前につけていたのが重要で、この世界に召喚されてからじゃ大きな変化が起きないの」
あくまで日本のように、魔力も精霊力も無い環境で付与し続けたことが要因だからねぇ。
すでに魔力に目覚めている状態じゃ、変化が起きるとしても数万年単位な気がするわ。
「そっかぁ、ちょっと残念だわ」
「だね。私も、マナミちゃんと同じなら、良かったな」
そう二人ががっかりした感じだけど、わたしの話、まだ終わってませんよ?
「えっと、ミツキと同じにはなれないけど、似た力は得ることができるよ」
「えっ、そうなの?」
「うん。それが精霊魔術って言う術なんだけど――」
精霊魔術について二人に説明。
ミスト君問題があったから、正直教えるのは躊躇していた。
だってあの事件、わたしもまいっちゃったもん。そのせいで、誰かに教えるの、ちょっと怖くなっちゃった。
だけどマナミなら大丈夫、そんな気がする。
なによりね、ミスト君の時以上に小精霊がマナミのこと、興味深そうに見てるんだもん。これはなかなか期待大ですよ。
「――というわけ。ミツキの力とは違うけど、似た感じなのはわかった?」
「わかったわ。それと同時に、注意しないと迷惑をかけるどころじゃなく、かなり危ないってこともね」
「そゆこと。まぁここに居る全員は無理かもだけど、ミツキとマナミなら、わたしが頼めば同じ学園に通うこともできるだろうから、そこで学ぶという手もあるよ」
「あんた、それって裏口入学って言うのよ?」
「そーともいう!」
そんなことが出来るほど、わたしの権限はヤバいのだ!
あ、そんな呆れた目で見ないで。別に権力を振りかざす! とかしてないから、ね?
「でも学校、ねぇ。ウチ、卒業してOLだったんだけど?」
「私は院だったから、気にしない、かな?」
「勉強といっても日本の勉強とは違うから、ためにもなるし役にも立つよ。まぁ慌てないで、二人、もしくはみんなと相談するといいよ」
「そうするわ。もっともミツキは決まってそうだけど」
「うん。私、ユキくんと一緒に、通う」
「ほらね?」
「あ、あはは……」
ほんと一途ですねぇ。
しっかしこれ、わたしもミツキのこと好きだからいいけど、嫌いだったらどうなってたんだろ? なんとなーく恐ろしい状態な気がするわ……。
「あーでも、マナミ好みの男の子、いるかもしれないよ?」
「ウチ好みって?」
「ちょっと内気で少し頼りないけど性格は割と真面目、しかもお金持ちの子!」
「うっ、そ、それはちょっと惹かれるけど」
「たまのこし?」
「そういう狙いじゃないから!」
玉の輿は置いといて、マナミは割とお姉さんというか、ぐいぐい引っ張っていくような性格なんだよね。
だから逆に我の強い子とはうまくいかない。恋愛の場合はさらにだね。
そんなマナミにうってつけなのは、そう、ちょっと頼りないけど真面目である、エレンの弟ことユリアン君!
弟君も、ぐいぐい引っ張ってくれる相手の方が付き合いやすい感じだからね。
なので、良い組み合わせなんじゃないか、と割とマジで思うのだ。
「そういえばマナミは日本に彼氏……はいないか」
「ちょっとそれはどういうことかな?」
「あ、いや、その~」
「えっとね、居なかった、よ?」
「ミツキ!?」
「やっぱりね~。だってマナミの性格じゃ彼氏なんてでき……あ、いや、えっと」
い、いかん、つい口を軽くしたら恐ろしい般若が!
あ、ごめんなさい、般若なんて言わないから、お美しいマナミさんって言うから、だからほっぺつねらないでぇぇぇぇぇぇ。
「ホント、完全にお子様よね……」
「でも、好き」
「ミツキはミツキで、ほんと一途なことで」
マナミの気持ちはよーくわかります。
わかりまくるので、そろそろひっぱるのやめてください、お願いします。ちゃんと反省してるからぁぁぁぁぁぁ。




