160話 昔とは考え方が違うのです
いろいろあったけど、ひとまず全員落ち着いたので野営の準備を開始。
わたし作成のテントでもよかったけど、今後を考えて普通のテントを配り、それを組み立てさせる。
だって全員、わたしがずっと面倒を見るとかできないからね。わたしにおんぶにだっこだと、この世界で生きていけない気がするからねぇ。
配り終わった後、わたしはミツキとマナミの手伝いをする。
ミツキは好きな子だし、マナミは前世同様親友になれそうな子だから、特別扱いしちゃうよー。
「ところでマナミ、ここに居ないけど召喚された人って他にもいるの?」
「居ないわ。召喚に失敗したって人は分からないけど、ここに居るのが全員」
「へぇ、思ったより少ないね」
女性6人、男性8人の計14人。
1クラス40人以上はいた記憶だから、半分にも満たないわ。
「それがさぁ、ミツキがせっかく防壁出したのに、浅はかな考えで飛び込んで死んだ馬鹿が居てね。ちなみに一緒に居た先輩たちと、神聖王国の騎士もよ」
「私が、ちゃんと、止められたら」
「ミツキのせいじゃないって。ユキもそう思うでしょ?」
「だね。それに大方、勇者ってのに浮かれて、自分の実力を知らなかったんでしょ。この世界、召喚ボーナス程度じゃ生き残れないくらい敵が強いからね」
召喚あるあるだからなぁ、これ。
特に異世界召喚で勇者なんて漫画やゲーム、小説なんかの定番の一つだから、どうしてもこういう犠牲者が多くなる。現実はそんな甘くないのにね。
神聖王国の騎士は単純にバカなのでスルーしよう。
「それにしても、はぁ、あのカズヤがねぇ」
「まだ言ってるねぇ、そんなに今のわたしが意外?」
「意外というか、どうしたらこんなに可愛くて、ぷにぷにで、男受けする感じになったのかしらってね」
「ほ、ほっぺ、ひっぱりながら、いわにゃいで」
ほっぺを引っ張ったとおもったら、今度はさわさわしたりとか、わたしの体を調べ過ぎ!
そりゃまぁ、マナミよりもかわいくて、発育も上ですけど! あ、まって、また引っ張らないでー。
「マナミちゃん、もしかして、嫉妬?」
「するわよ。ウチだってミツキほどじゃないけどそこそこ自信あったのに、コイツったら軽く超えてるんだから。オマケに獣耳と尻尾付きよ? ウチが男なら速攻襲ってるわ」
「ダメ、だよ。ユキくんは私の、だから」
「奪ったりしないわよ。良かったわね、こんなに想ってくれる子が居て」
「そ、そうだねぇ……」
一瞬ミツキの目からハイライトが無くなったような気がしたんですけど……。
もしかして、マジにヤンデレ系? なわけない……よね?
そんなこんなでミツキとマナミのテントは完成。まぁわたしが手伝ったからすぐに終わっただけだけど。
なので、他の人の状況も見てまわる。各自の技量も見ておかないとね。
ふーむ、全くダメなやつはいないけど、感心するようなのもいないなぁ。
良くも悪くも普通って感じなのはなんとも言えない。まぁ神聖王国の教えじゃこんなものか。
「ねぇユキくん、手伝って、あげない、の?」
手を繋いで歩いていたミツキが不思議そうに尋ねてきた。マナミも同じような表情しているね。まぁ不思議がるのもしょうがないか。
「えっとね、最初に言っちゃうと、今のわたしって好き嫌いが激しいの。好きな子とか気に入った子には甘いけど、嫌いな人と無関心な人には結構冷たくなっちゃうの」
「それってどうしてなのさ? カズヤの時は嫌なやつでも普通に接していたよね?」
「それはあくまで〝カズヤ〟という人物がそうだっただけだよ。〝ユキ〟という狐族の少女には当てはまらないってこと」
二人ともなんとなく納得したようね。
そもそもどうしてこういう性格なのか、それはわたしもよくわかってない。ただ、お母様も似た感じだからきっと遺伝だね。わたしとしてはお母様要素が増えるので嬉しい限りですが!
「なんか複雑そうねぇ。あれ? でもウチらの手伝いはしてくれたよね?」
「だから言ったでしょ? 好きな子とか気に入った子には甘いって。ミツキは当然だけど、マナミだってカズヤ時代からの親友でしょ? なら手伝ってあたりまえってことだよー」
「ふふっ、よかったね、マナミちゃん」
「悪い気はしないわね」
おやおや? マナミさん、ちょっと照れてますねぇ、デレ期ですか?
なにより、あの真面目委員長のマナミさんがそんな仕草をするとは、なんとも貴重な、あ、ちょっとまって、おちょくらないから、だからほっぺひっぱらないでー。
「なんていうか、見た目相応に精神年齢もだいぶお子様ね……」
「でも、かわいい」
「だ、だからひっぱらにゃいでー」
むぅ、子ども扱いされてる。
失礼しちゃいますね、マナミよりも発育がい、あ、もう言わないから、だから、ごめんなさいだってばぁぁぁぁぁぁ。
マナミに頭が上がらない感じになってきたところで、コータとトースケのテントに来た。
ほほー、こうなりますか。
「ちゃんとできてるってことは、リーダー能力全開ってこと?」
「あぁ、三人とも見に来たのか。まぁその通り、ボクが指示をしてトースケをうまく扱った」
「その言い方だと、オレ一人じゃ何もできねーみたいだぞ?」
「事実、あんたはできないでしょうに……」
どうやら二人も昔から変わってないみたいね。
コータはいわゆるリーダー的な感じで人を使うのがうまく、トースケは考えるのが思いっきり苦手だが力はある。
でもそういうことなら、ちょっと閃いちゃった!
「ではコータ君、君を物資調達のリーダーに任命する!」
「どういうことだ?」
「ユキ、説明!」
「んっと、さっきのお母様たちの通話を聞いたとおり、4日位はここで野営することになるの。となると当然食料とか必要でしょ?」
「確かにそうだな。馬車に多少は備蓄があるが、4日はもたないだろう」
うん、みんな納得した……一人してないのが居たわ。
「ならようカズヤ、じゃなかった、ユキに出してもらえばいいんじゃねーの? さっきみたいにアイテムボックスから出してくれよ、な?」
「ちょっとトースケ、あんた、なに言ってるの?」
「何って、物資の調達について、だろ?」
「はぁぁぁぁ。ユキ、コイツがほんとバカでごめん」
マナミが思いっきり謝罪してきちゃった。トースケ本人はなんのこっちゃって感じだけど。
しかしこういうところ、さすが委員長って感じですねぇ。
「気にしなくていいよ。まぁ簡単に言うと、わたしだって食べ物や水を無尽蔵に持っているわけじゃない。この人数を賄えるかって言うと無理なの」
実際は余裕で賄えるけど、それは言わない。
言ったら最後、ここにいる奴ら全員わたしを頼ってくる。それはごめんなのです。
「それと、わたしがずっと面倒見るわけじゃないからね」
「へ? それってどういうことだ?」
「あんたってほんとバカね。ユキはこっちの世界の住人なのよ? ウチらと違って家族だっているし、友達だっている、立場もあるでしょうが」
おぉーさすが委員長、ちゃんと分かってるじゃない。
トースケもさすがにわかったようで、ちょっと複雑な顔してるわ。たぶん、昔のように5人で行動とか想像してたんだろうね。
別に仲良くすること自体は嫌じゃない。
ただ、あくまで〝カズヤという前世からの知り合い〟なだけで、〝ユキの幼馴染〟じゃないんだよね。一歩踏み込んだ関係ではないのです。
それにわたしの幼馴染は、アリサにエレン、レイジにノエル、カイルにルーヴィちゃんなど、この世界の人なんだから。
ミツキとマナミに関しては、今のわたしも気に入ったからこういう対応をしているだけ。
コータとトースケはどっちつかずなんだよねぇ。もうちょっと話したりして、仲良くなれば変わるかもだけど。
「まぁ安心したまえ、ここに居る全員がどこかの国に落ち着けるようにはするから。そこから先は各自の自由になるかなぁ」
「そこまでしてくれたら十分だな。よし、それじゃボクはみんなを集めて周囲を探してみるよ」
「たのんだ! まぁヒトガタを展開してあるから、危ない魔物はほとんどいないから安心してね」
「ありがとう。ならそうだな、ボクとトースケは――」
うん、あとはコータに任せておいて大丈夫だね。
何でもかんでもわたしが手伝うは今後のためにならない。なら今できること、そしてできないことを、それぞれ把握してもらいましょう。
あーでも
「ねぇミツキ、ドラゴンのお肉、食べてみたくない?」
「ドラゴン? えっと、興味はある、よ?」
「んじゃさくっと数匹狩ってくるねー。今日の夕飯はドラゴンのお肉祭りよー」
ちょうどいいところにエンシェント級のドラゴンが数体いるもんね。
それに、日本に帰れないのが分かってみんな不安だろうから、おいしいものを、しかも異世界定番の珍しいものを食べて、元気を出してもらわないと。
さーて、何匹狩ろうかな~。




