159話 突然の誓いなんですか?
やっぱり日本に帰れないってことは相当ショックだったようで、みんな俯いちゃった。
しばらくそっとしておいたほうが良さそうだし、わたしはミツキと一緒に近くの湖に足を伸ばした。
ただ、その、う~ん、いろいろと複雑。
ミツキの好意はわかるんだけど、それって〝カズヤ〟という人物に対してであって、〝ユキ〟に対してじゃない気がするんだよねぇ。
そのあたり、きっちりしておかないとダメかな。
「また、考え、ごと?」
「まぁそんなとこ。ところで、ミツキはこの世界でやりたいことってある?」
「やりたい、こと?」
突然すぎたかな、首をかしげて不思議そうな顔しちゃった。
「えっと、さっきも言った通り日本には帰れないの。だからこの世界にミツキたちも住むことになるんだけど、何か希望があるなら聞いておこうかなって。聞いておけば、それに合った手段を考えることができるから」
「私は……」
ミツキは目を閉じ、少し考えてるみたい。
本当ならわたしの希望を言いたいところだけど、これはミツキの人生だからね。判断は任せるのだ。
1分くらいかな、何かの決意をしたようで、ミツキがゆっくり目を開いた。
そして、って、ちょ、まっ!?
「あ、あの、ミツキさん? え、えっと、急に迫ってきて、その、か、顔が近いんですけど?」
両手で頭を押さえられたから、逃げようにも逃げられない。
あ、いや、別に嫌じゃないんですよ? ただ、ちょっと、近くて、はうぅ。
「私、決めた」
「な、なにを?」
「ユキくんと結婚する!」
「……へ?」
「ユキくんの、お、お嫁さんになる! それが私の、やりたいこと!」
そのまま、え、ちょ、まじ? あ、あわわわわわ。
「? ユキくん、顔、真っ赤、だよ?」
「しょ、しょうがないじゃん! わたし、自分からは大丈夫だけど、攻められるのは弱いの! とゆーかミツキも真っ赤じゃん!」
「でも、私、勇気出して、その、ね?」
勇気出しって、マジかぁ。
唇じゃなくおでこにだったけど、まさか、その、はうぅ。
「え、えーと、ミツキさん? その、わたしは〝ユキ〟であって〝カズヤ〟じゃないんですよ?」
「うん」
「それに薄々気づいてると思うけど、仲の良い子、他にも居るんだよ?」
「大丈夫」
「冗談とかじゃないってこと?」
「だって私、ユキくんと、一緒がいい、から」
なんていうか、変わってないなぁ、こういうところ。
ミツキはわたしが知っている限り、決めたことは絶対に曲げない、壁があっても乗り越える、そんな子。
これはもう、わたしの方が覚悟を決めろってことですね。
エレンは大丈夫だと思うけど、アリサ、怒らないかな? あの子、なんだかんだで嫉妬しちゃうからなぁ……。
「よーし分かった。ならば、これからはミツキを、わたし好みの子にどんどん改造していきます!」
「え? 改造?」
「あ、別に体弄るわけじゃないよ。だからそんな心配そうな顔しないでー」
「う、うん」
「簡単に言うと、わたしと同じくらいの強さになってもらいます。わたしって結構危ない目に合うから、そこについてきても大丈夫な状態ってことね」
わたしが狙われるだけなら良いけど、敵になる奴ってずるがしこいのも居るからねぇ。まず間違いなく、わたしにとって弱点になる人を狙ってくるし。
ならばどうするか、
わたしが守るのには限界があるので、強くなってもらえばいいだけ。簡単ですね!
「それに、雪姫を扱えるなら、結構楽に成長できるんじゃないかなぁと」
「この杖?」
「うん。軽く説明したけど、わたしたちの体内には魔石があります。でも、わたしの中にあるのは魔石と精霊石が融合した特殊な物なの。そんな特殊な魔石を2割くらい、それも精霊石の部分を抽出する形で生み出した術装が、その杖〝雪姫〟なの」
「それって、この杖、ユキくんの一部、みたいなもの?」
「そうだよー。まぁ術装が〝ユキヒメ〟とか、偶然にしては出来過ぎた名前だけどね」
まさか自分の名前を含んだ術装になるとは思わなかったからなぁ。
ひょっとしたらアリサの術装も……ありえるわね。
「それをミツキが持つとか、ちょっと運命的なものなのかねぇ」
「だとしたら、うれしいな」
「だね~」
そう言って二人で笑いあう。
でもほんと、偶然にしてはいろいろと出来過ぎてる。ひょっとしたら、メイの未来予知に近いものでも働いたかな?
わたしの精霊石を使って術装の素を作り、精霊石が基礎となる術装を生み出し、それを半覚醒状態で精霊神に預けておくとか、どうしてそんなことしたのかわからないしねぇ。
その結果が今だから、良い事ではあるんだけど。
その後は湖の傍に腰を下ろし、ぽけーっとしながら二人で雑談。
主にわたしが今までどう過ごしてきたのか、どういった交友があるのか、前世と違ってどういう性格なのか、などなど。
あとは毎度よろしく……
「ふわふわぁ。ユキくん、すごい」
「あ、うん、わ、わかったから。その、ちょっと、あ、あまり強く、はぅっ!」
「ふふ、可愛い」
モフモフの虜がまた一人増えましたとさ。
まぁね、もう覚悟決めてたからね、好きにさせたけどね。だけど予想以上にヤバくて
「ふにゃぁ」
「あれ? だいじょう、ぶ?」
「だ、だいじょう、ぶ。ちょ、ちょっと、好きな人に触られると、一気に弱くなっちゃって、ふにゃけちゃう、だけだから」
「そ、そうなんだ。好きな人……うれしいな」
あらまぁ真っ赤になっちゃって、可愛いですね!
とゆーか改めて思うけど、ミツキってかなーり可愛いんだよね。そういえば日本で何度もスカウトされてたっけ。
身長はアリサと同じくらい、体型もかな?
それに対し、前世のわたしってただの一般市民、それこそモブって感じだった。
そんなわたしをどうしてミツキが好意を持ったのか、詳細な所は分からない。
だけどまぁ幼馴染で、小さい頃からずっと一緒に過ごして、苦楽を共にしてきたって感じだから、そのあたりかな。今となってはどうでもいいけど!
ただなぁ……
「でもさぁミツキ、ほんとにいいの?」
「なに、を?」
「ミツキたちって地球だと20代だったんでしょ? なら彼氏の一人二人、居たんじゃないの? なら、その人たちへの未練もあるんじゃないかなぁ、と」
「ううん、居ない、よ」
「でもほら、コータと仲が……うひゃ!?」
つい気になったことを口に出したら、いきなりミツキに押し倒された!?
それに、その、ちょっと怒ってらっしゃる?
「私、ユキくんだけ、だよ?」
「でもほら、あいつってミツキのこと好きだったから、交際してなくても彼氏一歩手前、デートくらいはする仲にはなっていたんじゃ?」
「してない、よ。それに、その、手も、握ったことない、よ」
「マジ?」
「うん」
……なんてこった。
わたしのモヤモヤというか、変な独占欲からとんでもないこと聞いちゃったけど、ちょっと予想外過ぎたよこれ。
つまりあれでしょ、ミツキって〝ぼく〟が死んだ(事実は召喚だけど)のに、誰とも付き合わなかったってことでしょ。
いったいぜんたい、どこまで想ってたんですかね。
だけど同時にわかった。
なんとなくマナミがミツキのことをひどく心配してたけど、こういうことね。死んだ人を想い続けないで前を見ろとか言ってそうだなぁ。
「ごめん、ね、ちょっと重い、感じで」
「んー、わたしは気にしてないからいいよー。まぁそれに、わたしって結構独占欲あるので! 好きな子は絶対に渡さない主義なので!」
「そう、なんだ。ふふっ」
あらまぁ喜んじゃって、可愛いですね!
そもそも、ミツキって昔からちょっとヤンデレ、とまではいかないけど、結構重めなところあったの、既に知っているからね。今更どーってことないのだ!
それにしてもこの状態、いろいろとマズいんですけど!?
「あ、あの、ミツキさん?」
「なに?」
「そろそろ起きませんか?」
「どう、して?」
「あ、別に嫌ってわけじゃないからね! ミツキが嫌いとは絶対に無いからね! ただ、あの、この体勢は、いろいろと誤解を招いちゃう感じで」
「そう、なの?」
「え、えーっと、その、えっちぃ行為に移る一歩手前、みたいな感じなんだよねぇ……」
「!?」
ようやく気付いたのか、すっごい慌ててはなれ……ない!?
逆に覆いかぶさってきて、あ、いや、その恰好はさらに誤解が。
こんな状態、誰かに見ら……れ?
「……」
「……、ごめん、取込み中だったわね」
「いやいや待ってマナミさん、してないから、ここでそういうことしてないから!」
心配されたのか、マナミが様子を見に来たようで、その、バッチリと目があったわけで。
しかも、その、思いきり勘違いされてるわけで。
「まぁそうよね」
「あ、わかってくれた?」
「ウチらって体は若返っても中身は20代、そりゃムードがあればしちゃうか」
「だからしてないから!」
まぁね、わたしが逆の立場でもそう勘違いしちゃうよ、この状態は。
だけどほんとーにしてないんです、信じてください。




