157話 問題は問題じゃないのです
ポーチからレジャーシートを取り出し、座れる状態を作る。
あとはお菓子と紅茶と、お手拭きとかも多めに出しておくか。
「んじゃまずは、って、ちょっとごめんね」
魔道具が着信を知らせたので出る。周りは少し驚いたようだけど、まぁ流しておこう。どうせもっと驚くし。
「あ、お母様、どうしたんですか?」
『あぁユキちゃん、そっちは終わった?』
「バッチリです!」
『さすが私の娘、ほんと偉いわぁ』
特に隠す必要もないので、空間ディスプレイでお母様と話してたら、なんか周りが騒然となった。
空間ディスプレイに驚く者、お母様に見とれる者、そして
「いやいや、カズヤ、あんた本当にカズヤなの? 表情といい仕草といい、すっごい女の子なんだけど?」
「キャラ違いすぎだろ、ボクとヒーローごっこしていたカズヤとはどうしても思えない」
うん、そういう反応になるよね。
だけどコータ、お前とヒーローごっこしたのは小学生までだ。そこは間違えないでもらおうか。
『じつはね、すこ~し問題があるの』
「問題ですか?」
『ユキちゃん、国際問題ギリギリなんだよ!』
「おっとお姉様まで。って、やっぱりそうなっちゃいました?」
お姉様が会話に入ってきたことで、更に騒然。
まぁね、狐族の次にはエルフ族だからね、しょうがないよね。あとは国際問題うんぬんもか。
『なので、私とサユリ様も一度セイリアスに向かうことになったの』
「とゆーことは、一緒に観光できますね!」
『あっ、そうなるね! ユキちゃんと観光、楽しみだね~』
「ですです!」
国際問題どうなったんだよって言うツッコミが聞こえてきたけど、気にしない。だって国際問題っていってもねぇ。
「でもでも、セイリアスに直接出向くってことは、またやっちゃうんですか?」
『それが一番早いからね。ユキちゃんの事は不問にするように脅し……お願いするためにね。そもそも魔物を倒したのはユキちゃんなんだから、悪く言う資格は無いわ』
『だよ。ギルドの依頼発行前に倒しただけだから、何も問題ないからね!』
お母様、脅すって言っちゃってるよ。
でもお母様とお姉様が言うように、放置しての予想被害を考えれば、御咎め無しになるのは確実。念のためレグラスとして派遣したって流れにするんだろうね。
ただ、お母様ってセイリアスの国王が嫌いだから、きっと穏便じゃなくて脅すんだろうね……。
あれ? でもオカシイナ
「それだと国際問題ギリギリって? わたしに関してはいつも通り不問になりそうなんですけど」
『それがねぇ、問題はその子たちなのよ。シズクに調べてもらったけど、その子たち、許可無しの違法入国をしているそうなの』
『ユキちゃんが助けたことに問題は無いよ。ただ、その子たちは神聖王国の勇者だから、うちの国の騎士として扱えないの。ユキちゃんのお供扱いにもできないわけ』
『だから私とシエラちゃんが直接出向き、その子たちはただの被害者だって説明する予定なの』
「なーるほど」
いくら神聖王国と交友があるセイリアスでも、許可無しでの入国は犯罪になる。なので、そうなった理由を説明しないとダメ。
だけどミツキたちが説明しても自作自演って思われるから、お母様とお姉様が代わりに説明するってことなんだろうね。他国の超偉い人が言うんだから間違いない、みたいな感じだね。
『4日後くらいかしら、アリサちゃんたちが飛空艦で迎えに行くから、それまではユキちゃん、悪いけどその子たちを守ってね』
「は~い」
『それと捕虜はちゃんと生かさないとダメだよ? お姉ちゃんとの約束、いーい?』
「わかりましたー」
『よろしい。それじゃユキちゃんセイリアスでね~』
『無理しない範囲でがんばってね』
「は~い、テキトーにがんばっておきます! ではでは~」
二人に手を振って通信終了っと。
さてと、たぶん説明の嵐だろうから、少し甘いもの食べながらにしようかな。
「まず聞きたいんだけど」
「はいマナミさん、どーぞ」
「カズヤ、あんた一体何者?」
「えーっと、最初に言っておくけど、わたしはユキ、カズヤじゃないよ。前世がそうだっただけで、今は全くの別人、そこはお忘れなくー」
「凄い割り切ってるわね……、まぁいいわ」
あくまで前世は前世だからね。今はただの狐族の女の子ですから!
「えーっと、まずわたしはレグラスって言う大きな国に住んでいるの」
「レグラスって、それ敵国じゃん!?」
「あーなんか嫌な予感。ミツキ、ちょっと失礼するね」
「え? いったいなに、きゃっ!?」
ミツキのおでこにわたしのおでこをくっつけたら、ちょっと驚かれちゃった。
まぁいいや、それじゃちょっと記憶を探らせてもらいましょう。数日分じゃなく、1日毎しか見れないのがちょっと大変だけど。
本当はこんなことしなくてもできるけど、それだとミツキの記憶を他の人も見ちゃうからね。
なので記憶をわたしの頭に直接転送、これが一番個人情報を守れます。
ではではババーッと……って、あー、はいはい、そういうことか。
となるとまずは全員の状態を魔道具で確認……同じか。ほんと腐ってるな神聖王国。
「現状は分かった。なので」
「なので?」
「まずは隷属魔法を解除します」
「隷属って、やっぱりウチら……」
「そ、神聖王国の奴隷になってるよ。とゆーかその反応、既に疑ってたんでしょ?」
「まぁ、ね。都合のいい話ばかりだったし、先輩勇者の態度とか、いろいろおかしなことがあったからね」
洗脳に近い状態だったのに真相に辿り着きつつあったとは、さすが委員長!
「ちなみに、ミツキは隷属されてないよ」
「そう、なの? どうして?」
「ミツキさ、この人見たことない?」
サクッと光の精霊神を顕現させる。
またまた予想外の現象だからか、騒然となっちゃった。召喚される人ってこういう反応になるのねぇ、すっごい新鮮。
「あ、神様」
「やっぱり、そういうことね」
『お察しの通り、私がこの娘の隷属を解除しておきました』
「だよね~。ミツキだけ解除されてたから、そんな気がしてたわ」
精霊神にかかれば、神聖王国の隷属魔法なんて児戯に等しいからね。
なので
「お願いなんだけど、他の人たちのも解除してくれる?」
『わかりました。それと闇の精霊神も呼んでいただけますか?』
「あっ、正しい知識を刷り込むわけだね」
『その通りです。彼らの知識は召喚時の魔法によって付与されたものですので、正しい知識を伝えても上書きされてしまいます。ですので魔法の解除と、正しい知識の一部を展開します』
「ほんとあの国は腐ってるなぁ。でもわかった、顕現させるね~」
サクッと闇の精霊神も顕現させる。
いやぁ精霊神衣顕現状態のわたしってすごいね、召喚術式使わなくても精霊力だけで顕現できちゃう。
『話は聞いておったぞ。それじゃ早速始めようかの』
『ですね。私が解除した後、闇の精霊神は知識をお願いします』
『心得た』
「二人ともお願いね~」
光の精霊神が隷属を解除し、闇の精霊神が正しい知識へと修正していく。
ここまでくると超常現象すぎるのか、ほとんどのクラスメイトはポカーンとしてるだけだわ。
ただ、ミツキはさっきからわたしに抱きついていて、マナミは二人の精霊神を興味深そうに見ている。
コータは『は? え?』とかを繰り返して若干パニックになっていて、トースケは……二人をえっちな目で見るんじゃないよ!
『終わったぞい』
「ありがとー。何か問題はあった?」
『何かに寄生されている様子も無かったので、大丈夫です』
『しばし記憶の混乱がおきると思うが、すぐに慣れるはずじゃ』
「つまり、完璧ってことだね!」
さてと、全員が落ち着くまでしばらく時間がかかるだろうし、精霊神のこととかをミツキと、比較的冷静なマナミに説明しようかな。
コータはしばらく混乱だから様子見、トースケは……どうでもいいか。
話すこと、いっぱいありそうだなぁ。




