151話 昔に戻りまーす?
過去のターン
うにゅー、なんかさっきから変な音が聞こえる。
ピピピピって感じに、変な電子音なんだけど、何これ。
まさかアリサが変なタイマー起動させたとか? さすがにそれはないか!
しょうがない、起きるかぁ。
おやつ食べたら眠くなったので、アリサと一緒にお昼寝してたら、急に変な音がするんだもん。
しっかし睡眠を邪魔するとはいい度胸です、音の発生源を完全破壊してやるわ!
でも、もうちょっともぞも……ん?
おかしい、アリサに抱きついてたはずなのに、感触が変わってる。
ま、まさか、わたしに悟らせないように脱出したってことか!?
さすが専属メイド、わたしの抱きつきから華麗に抜け出すとは。ならば、今後はもっとぎゅーっと抱きついて抜け出せないようにしよう!
「ふにゃぁ……ほんとうるさ……い?」
はい? なにここ、どこここ、マジで意味不明なんですけど?
確か飛空艦の一室だったはずなのに、なんかよくわからない部屋に居るんだけど。
とゆーか
「声がちっがぁぁぁぁぁう!?」
誰なのこの声、わたしじゃないよ。
わたしは自画自賛しちゃうけど、もっとかわいい声ですよ、こんな男みたいな声じゃ……男?
ま、まさか……。
胸をさわさわ……ぺったんこ!?
ほっぺをふにふに……ぷにぷにじゃない!?
い、嫌な予感が……。
おもむろに頭をさすさす……狐耳が無い!?
お尻もさすさす……尻尾もない!?
やばい、コレ、わたしの体じゃない。とゆーか性別も違うし、どうなってるのよマジ。
ま、まずは状況を確認しよう。
の前に、とりあえずうっさい電子音を止めないと。
えーっとどこかなぁ……あ、これか。ベッド横の机に置いてあった機械式の目覚ましどけ……い?
……これ、見たことある。
いやまって、うっすらだけど全部見覚えがある!
この部屋って、わたしが前世で住んでいた部屋じゃん!?
まさか……。
立ち上がり、記憶を頼りに洗面所へ向かう。うん、場所もあってるね……。
しかも鏡を覗くと……懐かしいね、この顔。前世の、しかもあの世界に召喚される前のわたし、いや〝ぼく〟だよ。
そういえば、目覚まし時計表示されていたカレンダーの日付が、だいーぶ昔だったわ。
つまり、ここは召喚される前の世界ってこと? いやいやそんな馬鹿な話は無いでしょう。もしかして、今までの生活の方がわたしの妄想、もしくは夢オチだったとか?
たしかになぁ、召喚されたら人類と戦う側で、しかも幹部になって、さらには勇者と戦って、そして死んだら狐娘になるとか、意味わかんないよね!
でもそっかぁ、全部夢オチ……なわけあるかーい!
どう考えても夢オチとは思えない。リアルすぎたし、この世界、というか時間がすっごい不自然。
だって今日だよ、わたしが召喚されちゃうのって。
そんな偶然、ありえない。ありえないということは、誰かしらの意図が絡んでるってことか。
とりあえず軽く朝食を食べ、さくっと身支度して学校に向かいますか。
なんとなくだけど、当時と同じ行動をとった方が良い気がする。
ここが本当の過去かはわからない。だけど違う行動をした場合、帰った時に変なことになりそうな気がする。
そう、わたしは絶対に帰る!
だって今の自分が大好きだし、みんなが大好きだもん。他の誰かになっちゃうとか、絶対に認められません!
さてと、決意はそこそこに、まずは朝風呂を……うぬぅ。
なんか抵抗がある。いや、自分の体なのはわかる、わかってるよ。
でも今のわたしは女の子なんですよ? なのに男の体を洗うって、どういう状況なんですかね? なんか複雑だわ。
いろいろと悪戦苦闘しながら、朝の身支度が完了。やっぱ普段と違うから、どうも戸惑うわ。
そもそも体の基本性能が違うからか、ババーッと料理できなくてほんともどかしかったし。
食材も違うから、味もなんか変だったし。まぁこれはきっと〝化学調味料〟任せだった前世と、調味料は自作、もしくは魔道具で作った物が基本な今世との差かな。どっちかに慣れちゃうと、味覚もそれに合わせたものになるってことだね。
着替えもちょっとなぁ。
なんとなーく男物を着るのに抵抗がある。やっぱ転生して0歳から女の子として生きてたらこうもなるか。
とはいえ、一番の問題は狐耳と尻尾がないってことなんだよなぁ。
違和感がすっごいあるし、どうしても落ち着かない。幸いなのは重心が変にならなかったってこと、体の方が記憶してるからってことかね?
はぁ、これ以上一人愚痴り大会をしてても何も変わらないし、前向きにがんばってみますか。
んでは、学校に行きますか。それに召喚されたのは下校途中だったはずだし。
本当は行きたくないけど、わたしの記憶と違う行動は出来るだけ避けたい。回避できない変化もあるとは思うけど、なるべく同じようにしていきましょう。
はて、そういえばこの時代のわたしって、毎朝必ず何かあったような……。
えーっと、えーっと……。
考えながらドアを開けると、一人の女の子がドアの近くに居た。
あー、そうそう、思い出した。確かこの子は
「あ、カズくん、おはよ」
「おはよーミツキ」
幼馴染のミツキさんが居ましたね。日本語だと確か……って、まぁそれは後でいいや。
しかしこれは最初からピンチかも。わたしの記憶をフル活用して、当時の〝ぼく〟を再現しないとダメな気がするわ。
だけど結構キッツいなぁ……。うっすらとしか覚えていないところがあるから大変だよ。
しかも自分の名前すら忘れてたし。カズことカズヤね、うん、なんとか思い出せた。
「そういえば、えっと、マナミは先に行った?」
「うん、マナミちゃんは生徒会のメンバーだから、ね」
「そういえばそうだった。まぁ時間もあるし、のんびり行きますか」
「うん、行こ」
そう言って二人でって、うぉい!?
なんで手を繋ぐんですか? しかもミツキさん、どうして顔が赤くなっているんですか?
えーっと、えーっと、当時のわたしはミツキとはただの幼馴染……だったはず。いやまぁちょっとばかり? だいぶ? 仲良かったですけど。
でも手を繋ぐほど……だったわ。たーしかこの年の夏祭り、結構良い雰囲気になったっけ。
で、そっからミツキがこうぐいぐいくるというか。
いや違う、手を繋ぐのはもっと幼いころからか。
そもそも〝ぼく〟とは違い、ミツキは幼いころから好意を表してたわ。あくまで夏祭りはきっかけ、〝ぼく〟が自覚しただけだ。
そのまま手を繋ぎ、他愛のない話をしながら知った通学路を進む。ギリギリ覚えていてよかったわぁ。
「そういえば、この辺りに駄菓子屋なかったっけ?」
「あるよ。でも、どうしたの?」
「あー、いや、ちょっとだけ気になって」
「? おかしなカズくん」
ちゃんとあるわけですね。
たしか今日の帰り、駄菓子屋に寄ることになって、その店先に入ろうとした瞬間に召喚されたんだよなぁ。
つまり、駄菓子屋に行かなければ召喚されないのか……。
「ねぇカズくん」
「ん?」
「その、えっと」
「もじもじして、どうしたのさ」
「あの、お昼、一緒に、食べよ?」
「おっけー。ほんとミツキは奥手ですなぁ。そのくらい、どーんと言っちゃえばいいのに」
「だ、だって、断られたら、怖い、から」
「断るとかナイナイ」
うん、照れてるミツキを見たら、いろいろと思い出しちゃったわ。
確かミツキ、〝ぼく〟のために料理の勉強を始めて、お昼作ってきたんだったか。ほんと一途ですねぇ。
まぁミツキの腕前、お世辞にも上手じゃ無かった記憶だけど……。
その後もちょっといちゃつきながら登校すると、下駄箱の前で見知った、いや、〝ぼく〟が知っている人物がいた。
確かこの二人も幼馴染だっけ。
「おいおい、まーた夫婦で登校かよ。相変わらずだなぁ」
「やめとけトースケ。おはようミツキ、それとカズヤ」
「おいーっす」
「お、おはよ」
確かコータとトースケだったはず。
コータの方はよくいるクラスのリーダーで、ちょっとイケメン。そして女子にもてる。
トースケは体育会系の筋肉馬鹿。女好きだが女子からの評判はすこぶる悪い、だったかな。
そんな二人の後ろから、眼鏡をかけた女の子がやってくる。
あらま、思いっきり苦笑いしてますね。
「来たわね熟年夫婦」
「おーマナミ、おはよー」
「おはよう、マナミちゃん」
「はいおはよう。たださぁ、あんたたち、いつまで手を握り合ってるの? さすがにこっちが恥ずかしくなるわ」
……いかん、すっかり握ったままだった。指摘されると結構恥ずかしいものです。
てか冷静に考えると、これって浮気になるの? アリサとエレン、それにメイから糾弾されないよね? あの子たち、最近割とガチでわたしに迫ってくるからなぁ……。
三人と合流した後は、記憶の通りに教室へ入り、すっごーくつまらない授業を受ける。
わたし、こんなつまんない授業受けていたのか……。すっごく眠くなっちゃうくらい、つまんない。
しかも内容がしょぼい。
ここで教わる数学とか化学って、わたしが2歳くらいの時に全部覚えた内容だしなぁ。まぁうちの教育が凄いだけかもしれないけど。
「なぁカズヤ、ここってどうなってんだ?」
反対側の席に居るトースケが絡んできた。お前、授業中に聞いてくんなよなぁ。しかも聞くなら先生に聞けよ。
「えっと、そこの公式は、こうなってこうだよ」
「マジか!? いやぁスゲーな、オレはちんぷんかんぷんだぜ」
ほんとこの筋肉馬鹿は……。
あれ? 隣の席のミツキが少し珍しい顔を……あぁぁぁぁぁ、やってしまったぁぁぁぁぁぁぁ!!!
そうだよ、当時の〝ぼく〟はそこまで頭良くないよ! サラッと答えちゃおかしいでしょ! あー、えっと、どう言いつくろう。そうだ!
「昨日宿題をするときに、ついでに見たところが今日の授業とはね、ついていたよ」
「なるほどな。確かにカズヤがすんなりできるとか、異常というか奇妙というか、ありえないことだしな!」
お前、余計怪しまれるようなこと言うんじゃないよ!
やれやれ、こんなので今日一日、やっていけるのかな……。
少し過去に行っちゃった話が続きます
それとネタバレ気味の補足:
数話先くらいに出てきますが、ミツキたちのことを今まで忘れてたのは、覚えてると未練が強すぎるから意図的に忘れたからです。
その結果、友人などが一切居ないと思い込んだ(自己暗示のようなもの)状態ですね。




