148話 長旅になりそーな
やってまいりました海外旅行! じゃなかった、海外見学!
勉強しながら海外に行けるのって、やっぱりいいよねぇ。まぁ遊び気分たっぷりだけど!
今年の見学はセイリアス帝国、只人さんがいっぱい居る経済大国。
治安はそこそこだけど、レグラス、アルネイアと並ぶ3大国の一つでもあり、一番お金持ちな国。敵である傭兵帝国とかとも商売してるから当然ではあるね。
セイリアスまでの移動手段は学園が用意した飛空艦、ブルジョアだねぇ。
しかも参加者は貴族とか関係なし、希望した人全員なのがまたすごい。まぁわたしやエレンのように、強制参加も居るんだけど……。
理由はわかるんだよ、学園としてもお偉いさんの家の子供を海外見学に出席させれば、相手へのアピールにもなるからね。うちの学園はこんなすごい子が通っているんだぞーって。
ただなぁ……
「これはやりすぎだと思うんだ」
「ですね……、ちょっとドン引きしました」
お偉いさんの子供には個室が割り振られたけど、装飾がね、ちょっと貴族向けすぎて嫌。
成金って感じの金ぴかばっかだし、妙に光るものが多いし、絵画も悪趣味なやつだし。
「エレンの方も同じなのかなぁ」
「だと思いますよ、同型艦と聞いていますので」
残念なことに、エレンとは別の艦になっちゃったんだよねぇ。
というか、お偉いさんの子供を分散させてるんだっけ。危険分散のためなのは分かるんだけど、わたしはがっかり。
まぁエレンの方は弟君も居るから、いろいろと話す時間ができて良いとは思うけど。
「ところで、セイリアスまでは何回休憩挟むの?」
「1日1回の計4回です。セイリアスへの到着は5日目の朝になります」
「うへぇ、すっごく時間かかるのね。飛空艦なんだからもっと早いと思ってた」
「お嬢様、これは学園の用意した普通の飛空艦ですよ? レグラス王家で使用する飛空艦と比べたらダメです」
「そういえばそうだった!」
わたしの中で飛空艦って言ったら、王家が借りる高級なやつか、ママ様が設計している最新鋭の飛空艦だからなぁ。そりゃ規模も速度も違うよね。
「となると、もしかしてエレンたちとはその間会えないってこと?」
「休憩の時に会うことができますよ。本当は自由に艦を行き来できればいいのですけど、安全上の理由から無理みたいです」
「そっかぁ。みんなでワイワイしたかったけど、ざーんねん」
旅行って道中も重要なのになぁ、ほんと残念です。
残念なので、アリサに思いっきり甘えます! ぎゅーっと抱きつき!
「お嬢様? どうしまし、って、なるほど、そういうことですね」
「うん、残念なのでアリサにいつも以上に甘えることにしたの」
「分かりました。それでは私もいつも以上にお嬢様を甘やかしますね」
「にゅふー、それは楽しみ」
残念気分のままは嫌だし、思いきり甘えようと思うのだ。すこしばかり羽目を外しちゃうよ~。
部屋でモフモフしてもらった後は、せっかくなので艦内を探検。
レグラスの飛空艦ほどじゃないけど、そこそこ広くて娯楽設備もいくつかあるようで一安心。
だけどここは学生たちが多い飛空艦、ちょっと問題もあるわけで。
「はぁ、まーた距離置かれたよ」
ふらっと入った図書機能付き談話室だけど、わたしが近づくと避ける生徒ばっかなんだもん。
別に敵対してるわけじゃないのに、あからさまなのはホント気分悪い。
「そこはしょうがないかと。お嬢様は学園でも非常に有名ですから」
「でもさぁ、その有名な理由がちょっと嫌なの」
「お気持ちは分かりますが、お嬢様はレグラスで一番大切にされている方ですし。不敬な態度と思われて自分たちが処分される、といった状況を恐れるのは仕方のない事かもしれないです」
「わたし、よっぽどのことじゃないと不敬罪とか言わないのになぁ」
時が経てば経つほど、わたしがレグラスでどういう存在か学園に知れ渡るわけで。お嬢様として生きるのも大変です。
それになぁ、どこから流れたのかわからないけど、エレンのお披露目の時にあった騒動、あれが広まっちゃうんだもん。不敬を働いたら一族路頭に迷うと思われてるとか、ほんと困る。
「まぁあの子たちも相当だけど……」
「あら、ここにも居ましたね、お嬢様の自称親衛隊の方々が」
いつできたのかわからないけど、なんか親衛隊を名乗る者が結構いるのがなぁ。
そんな親衛隊は距離を置いて見守ったり、見知らぬ人が近寄ると勝手に検査したりする、何とも言えない状態。
迷惑とか以前に、そういうの間に合ってますって感じなんだけど。
その親衛隊には、どうやら序列みたいなものがあるとかなんとか。
しかもわたしに話しかけて良いのは序列上位の人だけとか、なんともはた迷惑な掟まである。勝手に順番付けて、勝手に交友相手を決めるなってマジで思うわ。
まぁ親衛隊とか関係ない、わたしは気に入った子が居れば話に行きますけどね!
「それにしても、この談話室に置いてある本ってちょっと変わってるね」
「変わってる、ですか?」
「うん。どうやら戦いに関する書物が一冊も無いの」
「一冊もですか? と言いますか、この部屋にある本をすべて把握したんですか?」
「そだよー。たまたま見た一角にそういう類の本が無いのが気になって、コレを使って調べたの」
「こ、これはまさか……」
むふふ、ちょっとアリサが驚いたね。ドッキリ成功って感じ!
それもそのはず、目の前に光学迷彩を解除した小さなガーディアンが現れたら驚くよね。
「じゃーん、この子はわたしがこっそり作ったミニガーディアンです! まだ試験運用の段階だけどね」
「ガーディアンの解析を続けられていたのは知ってましたが、まさか修復されるとは。回収したガーディアンのコアを使ったのですか?」
「ちがうよー、コレはわたしが1から作ったガーディアンなの。元のガーディアンと違って、ちょっとカッコいい見た目にもしたしね!」
大きさは20センチくらい、白を基調としたカッコいい甲冑を着た騎士の姿にした。やっぱね、どうせ使うならカッコいいか可愛いにしたいもんね。
「精霊やヒトガタを使えない空間を想定して、新たなゴーレムを作っていたの。そこで思いついたのがガーディアンなんだ」
「それはつまり、手に入れた技術を有効活用、ということですね」
「そゆこと。しかもガーディアンはゴーレムと違って術者が要らないから、誰かの護衛に貸し出すってこともできるはずなの。ゴーレムの場合、術者からの魔力供給が切れたら終わりだからね」
ゴーレムは便利だけど、どうしても解決できない問題がある。
ならばそれを補う存在を作ればいい、というすっごい安易な考えからガーディアンに手を出したわけだけど。
「最終目標として、形状だけでなく、大きさも変化できるようにするのも考えているんだ」
「大きさもですか?」
「うん。小さくして持ち歩ける通信機能付きカメラみたいな使い方から、20メートル近い大きさに変形して防壁にもなるゴーレム、みたいな感じかな」
「それを術者なしで、ですか」
「結構便利そうでしょ」
そう言いながらガーディアンの頭を撫でる。
騎士の見た目だけど、小さいからか何となく可愛くも見えるからつい撫でちゃう。いっそのこと可愛い系にするのもアリだなぁ。
「でまぁコレを使って調べたんだけど、戦い関係の本が無いのは何か理由があるのかなって」
「理由……確かに謎ですね。冒険科があるので、戦いから遠ざけるためとは考え難いですし」
「なんだよねぇ。なのでたぶん、悪い噂が多いセイリアスに配慮してなんじゃないかなぁ、と。配慮しすぎて少しでも関連しそうな書物を徹底的に排除したら、戦い関係の本が一冊もない状態になった、ってとこかな」
「その可能性が高そうですね。この学園、やりすぎな対応をすることが多々ありますし」
そう言ってアリサが苦笑いするけど、うん、その『やりすぎな対応』って、主にわたし関係なんだよね……。
最近はそうでもないけど、向こうにも立場があるからねぇ。
しかもお母様だけでなくレグラス王家が定期的に脅し、じゃなかった、圧力をかけてるのもある。
もしも学園でわたしが命を狙われる状態になるとか、イジメにあって通えない状態になるとか、そういう好ましくない状態になったら学園を完全に潰すって明言しちゃってるし。過保護すぎな部分もあって、ちょっと恥ずかしいです。
「しかし、今回はセイリアスなんですよね」
「何か心配があるっぽいね」
「それはもう、飛び切り大きな心配があります。そもそもセイリアスは、あの神聖王国や傭兵帝国との取引をしています。その者たちが潜んでいる可能性が非常に高いです」
「確かに、街にはそういった国の人もいっぱい居そうだね」
「です。さらに街の治安もあまり良いとは言えないので、お嬢様が危険な目にあわないか心配なのです」
「心配性だなぁ。でもまぁレグラスの治安に慣れちゃうと、余計にそう感じちゃうかもね」
世界で一番安全な国に住んでいると、差がハッキリわかっちゃう。
そして安全な国を作ったパパ様やママ様たちがどれだけすごいかも再認識。そういう意味でも、他国を見るのって勉強になるねぇ。
でもそうだね、治安が少し悪いってことを念頭に置いて行動しないと。
街で急に襲われてもサクッと撃退できるくらいにはしておきましょー。
ちなみにミニガーディアンには意思はありません(ロボットのような物)




