146話 突然の来客
少し長いです
それと今回も第三者視点になります
召喚された少年少女たちは各自名前を決めた後、神聖王国で用意された部屋へと案内された。
その一室、勝気な眼鏡少女と怯えた少女の二人は今後について話し合うのだった。
「へー、思ったよりも豪華じゃん。中世っぽい感じもするわ」
「ね、ねぇ、マナミちゃん、私たち、どうなっちゃうの?」
マナミと呼ばれた眼鏡少女は、部屋に備え付けられた紅茶の準備を進めながら、少女の方を見返す。
「そうね、まず間違いなく戦場に放り込まれるでしょ」
「戦場って……」
「あの宰相の話を聞く限り、モンスターだけじゃない、他国の人とも戦う場所ってことね」
「人って、それ、人殺しじゃない!?」
「そういう世界なんでしょ。ほらミツキ、紅茶淹れたよ」
「あ、ありがと」
ミツキと呼ばれた少女は怯えながらもマナミの渡した紅茶を受け取り、二人は神聖王国が誇る紅茶を口に運んだ。
「うげぇ、この紅茶まっずい。100均でもこんなマズイ紅茶売ってないってーの」
「た、たしかに、ちょっと、美味しくない、ね」
だが、不味い紅茶が逆にミツキの緊張をほぐす。不味い物を不味いと言える、そんな日常のあたりまえが言えるからかもしれない。
「それにしてもミツキ、あんたも名前変えなかったのね」
「うん。やっぱりお父さんとお母さんに付けてもらった名前だから。それに……」
「あー、そういうこと。でもさぁ、この世界に居るとは限らないよ?」
「分かってるけど、でも、日本から召喚される人が居るのなら、もしかしたら」
そう言ってミツキは紅茶をじっと見つめる。
その状態を見てマナミは『またか』と思い、少々呆れてしまう。
(確かに異世界はあった。だけどミツキ、死んだ人が呼ばれることは無い、生き返ることは無いんだよ? だからいい加減、現実を受け止めて今を生きなさいよ)
ミツキの脆さ、それは幼いころに死別した幼馴染を未だに引きずっていること。
そしてマナミは、そんなミツキを放っておけないどころか、ミツキのために多少無茶をしてしまうのが弱点である。
そんな二人の弱点を宰相が気付いた場合、確実に利用されるわけなのだが……。
「しっかし昨日まではただのOLだったのになぁ。って、ミツキは院の方に行ってたんだっけ」
「そう、だね。私、勉強とか研究が好きだから」
「ほんと真面目ちゃんねぇ。しかも若返りとは、ほんとファンタジーって感じ」
「でも戦いは、嫌だな」
「それは同感」
そんな話をしていたら、ノックと共に二人の男が入ってきた。
「二人とも、今大丈夫か?」
「この馬鹿、返事する前にもう入ってるじゃないか。こらトースケ、あんたが止めないと馬鹿がまた一人で暴走するでしょ!」
「わりぃわりぃ」
注意されてもまったく悪びれないガタイのいい男、それがトースケというキャラである。
悪い奴ではないが、きっちりしているマナミは彼を苦手としていた。
「で、ムサイ男二人が何しに来たのさ」
「おっと、それは我らがコータに聞いてくれ。オレはただの付き添いだぜ」
そう言ってトースケはコータと呼ばれたイケメン風な少年の肩をたたく。
片やガタイのいい男、片やイケメン風な男、何とも変わったコンビである。
二人に対し苦笑いをするミツキと、心底嫌そうな顔をするマナミ。そんな四人は幼馴染であり腐れ縁状態である。
「大丈夫かいミツキ、不安そうな顔をしていたけれど」
「う、うん、だいじょう、ぶ」
「安心してくれ、ボクが必ず守るから」
「うはー、まーた始めたわ。ウチはついていけん」
「さすがにオレもちょっと引くぜ」
コータは幼馴染であるミツキに対し好意以上の感情がある。
しかし当のミツキは死別した幼馴染を未だに想っているため、二人の関係は一切進展していない、ただの幼馴染同士である。
そんな二人の関係をマナミやトースケ、それにコータ自身もよしとはしていなかった。
亡くなった人を想い続ける、それは一見美談のようだが、亡くなった当人はその状況を望んでいるのか疑問、そう三人は考えるからである。
男二人が居座るので、マナミが渋々ではあるが、不味い紅茶を二人にも出す。案の定、その不味さに二人もしかめっ面になったが。
「それにしても、四人とも名前を変えなかったとはね」
「変えてもしょうがねーしな。まぁ変えた奴も数人いたが」
「異世界なんだからカッコよくとか言ってたな。ボクとしては日本に帰った時のことを考えると、別の名前に慣れるのは問題だと思うが」
「それもそーだな!」
二人の会話を聞き、マナミは考える。
(なるほど、コータたちは帰れると信じてるわけね。確かにこれがゲームの世界なら帰れるとは思う。だけどこれは現実、そんなうまい話なんてありえない。それにあの王や宰相がキナ臭いし)
そんなマナミの懸念などお構いなしで、コータとトースケはファンタジー世界に対する夢や希望を語りだす。良く言えば前向き、悪く言えば考え無しなのがこの二人である。
「とりあえずは明日から始まる訓練ってのを受けてみないとだよな」
「そういえばそんなこと言ってたわね。ウチらの潜在の能力? とかいうのを測るんだっけ」
「だな。ボクとしては少し心配なのだが」
そう言ってコータの視線はミツキへ向けられる。
コータは心配していた、ミツキのような奥手で争いとは真逆の者まで戦力としてカウントされていることを。
それと同時に、ミツキが戦わなければならないのであれば自分が全力で守ろう、と考えるのである。
その後は他愛無い話をし、解散となった。
誰もが寝静まった夜中……
「……だれ?」
ミツキは何者かに呼ばれた気がし、つい目を覚ました。
同室であるマナミかと思ったが違う、マナミはうなされてはいるが寝ていた。
ときおり『電話が、電話が止まらん~、課長、助けて~』などと寝言を言っている、OL時代の名残だろうか。
マナミでないことを確認した後、再度周りを見渡しても誰もいないことに、ミツキは不安になってきた。
「まさか幽霊、じゃない、よね? ど、どうしよう」
マナミを起こして助けてもらうか、布団をかぶり何もなかったと自分に言い聞かせて眠るか、二つに一つ。
そんなミツキにとって究極の選択をしようとしたとき
『ふむ、何もせずとも私の声が聞こえるのですね、異世界からの来訪者』
どこからともなく澄んだ声が聞こえてきた。
「だれか、居るの?」
『えぇ、居ますよ。訳あって姿を現すことはできませんが』
自分の問いかけに返事をされたことで、ミツキは恐怖心よりも『返事をしてくれたなら、相手をしないといけないよね』という、ちょっとずれた思考に陥った。真面目な子である。
「えっと、私にご用、なんですか?」
『そうです。実は、あなたがこの世界に転生されたのはよいのですが、少し問題がありまして』
「問題、ですか? それと、あの、転生って?」
『あぁ、この国の王はそのあたりを告げて無いのですね。この世界で行われている勇者召喚は転移でなく転生、つまりあなた方は元の世界で亡くなっています』
「亡くな、え? だって、それじゃ」
『残念ですが、あなた方が元の世界に帰ることは不可能です』
姿無き声に、ミツキはただ呆然とするのであった。
元の世界には両親と弟、祖父母も健在だ。ごく普通の家庭だが、特に不満も無かった。それ故に、元の世界への未練があった。
よくわからない世界に召喚され、戦いたくないのに戦力として期待され、何れ命の奪い合いもすることになる。それらすべてから逃げ出したい、その気持ちが元の世界へ帰りたいという意思と、平和だった日常への未練となっていた。
だが、それが否定された。
そして声の主が言ったことは真実だとなぜか理解した。
「わ、わたし……」
『無理もありません。そこであなたに試練、いえ、希望といった方が良いでしょうか、それを持ってきました』
「希望、ですか?」
『ただし、これはあなただけです。ですがその希望を掴めば〝やり直すこと〟ができます。このことはお友達に相談されてもかまいません』
「やり直す……それって、あの」
『えぇ、あなたの〝一番やり直したいこと〟を含めて、です』
ミツキにとって一番やり直したいこと。それは……
「やります!」
『あら、相談されなくてもよいのですか? それに、どういった内容かもお話ししていませんが』
「でも、やり直せるんですよね? 全部無かったことに、できるんですよね?」
『できます。ただし保証はしません。それに、望まぬ別の結果となる可能性もあります。ですので、一度冷静に考えてください』
望まぬ別の結果、その言葉を聞いてミツキは少し不安になった。
もしかしたら今が無くなる、マナミと離れることもあるのかもしれない。ならば受けない方が良いのか、それとも賭けるべきか、ミツキは判断に迷いだした。
『まずはこの世界を、その目でしっかりと見てください』
「世界を、ですか?」
『えぇ。世界を知ることで、やり直しでない別の道が見える可能性もあります。または、やり直したい気持ちがより強くなるかもしれません』
「見るだけで?」
『見るだけで、です』
謎の声は断言したが、ミツキとしては納得がいかなかった。
この世界を見るだけで、やり直しのチャンスをふいにするような気持ちになるのだろうか? と。
『それと、この試練を受けることができるのはあなた一人、お友達が代理になることも不可能です。おそらく妬む人もいるでしょう、代われという人もいるでしょ。ですが流されず、あなた自身の気持ちを優先し、決断してください』
「わ、わかりました。でも、どうして私なの、ですか? それこそ物語の主人公のような、コータくんのほうが」
こういう神から何かを与えられるのは、みんなのリーダーでありヒーローとなる人が受けるべき、そうミツキは考えるのだ。
『そうですね、簡単に言えば、あなたでしたらこの世界で大きな力を得ることができるからです。どのような力かは語れません。ですが、そのような力がある方がこの国に属するのは、少々問題なのですよ』
「ということは、この国の益にならないようにする、ため?」
『今はそう捉えてください。さて、今日はここまでにしましょうか。そうですね、世界を見るのを考えて30日後の夜に、もう一度あなたの前に来ます。そこでお返事を聞かせてください。それでは』
「あ、あのっ、最後に、あなたは誰なんですか?」
『何者、そうですね、あなたにわかりやすく言うならば〝神〟ですよ』
そう言い残し、姿無き訪問者は去っていった。
神と呼ばれる存在との遭遇、そして希望。
これがミツキにとって良きことなのか悪しきことなのか、それは誰にもわからなかった。
5章は少し視点変更が多めになるかもです
ちなみに次回はユキの視点に戻ります




