145話 勇者クラス、召喚!
第5章の開始です
それと今回は第三者視点となります
神聖王国アークルス、その召喚の間にて新たな物語が始まる。
「お待たせしました陛下、準備が整いました」
「うむ、それでは始めるがよい」
そう命令を下すのはクレイス13世。相変わらず偉そうである。
「召喚陣、起動します」
「魔力充填正常、30秒で出現します」
「いよいよか。8年、8年か……待ちわびたぞ、この時を!」
研究員らしき者たちが装置をせわしなく操作し、召喚を完了させようとしている。
その光景を見て、クレイスはニヤケ続ける。
クレイスにとって待ちわびた瞬間である。
勇者が召喚できれば、8年前の王国を襲った狐に対する復讐をようやくすることができる。
10年かかると思われたが、宰相や各大臣、研究員の働きにより8年に短縮することができた。復讐に加担する行為でなければ褒められるところなのだが……。
時間とともに、床に描かれた召喚陣は巨大な光を発する。
光は一気に強くなり、そして人の像を作り出しながら徐々に拡散していく。
やがて光は収まり、十数名の少年少女たちが姿を現した。
しかし召喚が成功したというのに、なぜかクレイスは不満顔である。
「宰相よ、少なくないか? この数で足りるのか?」
クレイスが召喚された彼らを目にしての第一声がこれだ。
成功に対する労いはない、それは成功して当たり前だと考えているから。王の命令は絶対厳守、そんな考えもあるのだろう。
「確かに少ないですな。そこの、これはどういうことか説明を」
そう宰相が睨むように一人の研究員を呼び出す、リーダー格のようだ。
苦労して召喚したのに労いどころかクレーム対応とは、少々可哀そうである。
「恐れ多くも陛下、今回の召喚ついては条件が複雑でございます」
「複雑なのか? クラス召喚というものをし、あの狐どもを駆除できる力を持つ勇者を呼び出しただけではないのか?」
「そこが重要なのでございます。今回の勇者は他の勇者よりも強力な者を指定したため、召喚に耐えきれないものが多く存在してございます」
召喚はするが、自分たちの基準にそぐわない者は途中で廃棄しているのだ。まるで悪魔の所業である。
廃棄された者は召喚されず消滅、もしくは別世界、別の場所へ召喚されることになる。巻き込まれた者はたまったものではない。
「ですが陛下、この結果は想定以上でございます。数もそうですが、個々の力が今までとは比べ物にならないほどでございます」
「それほどか。だが力ある者が余に盾突くことは許さんぞ」
「ご安心を陛下。この者たちは召喚の際、既に隷属魔法と翻訳魔法、それと『我々の常識』を刷り込んでおりますゆえ、陛下に剣を向けることはございません」
研究員の言葉を聞き、クレイスは大変満足そうな顔をする。
特にこの『我々の常識』というものがクレイスにとっては喜ばしい内容だった。
神聖王国の常識、それは只人族を寵愛する神が存在し、只人族は神に選ばれし種族、世界の頂点となるべき種族という考えがある。
もっとも現実は異なる。神のような存在はいるが、只人族は選ばれた種族ではない、あくまで世界に存在する一つの種族程度。もちろん頂点ではない。
「では陛下、そろそろ」
「うむ」
宰相の言葉に頷き、一歩前へ出るクレイス。若干芝居がかった演出もしている。
「よくぞ参られた異世界からの勇者たちよ! 余の名はクレイス13世、神聖王国アークルスの王である!」
クレイスの言葉により、少年少女たちは現在の状況に戸惑いだす。数名『異世界召喚キタ!』と言って浮かれている者もいるが……。
「まずは現状を説明しよう。宰相よ、頼む」
「お任せください陛下」
そう言って宰相に丸投げをするクレイス。あくまで自分が王だというのをアピールしたかっただけなのかもしれない。
王から命じられた宰相は世界についての説明をする。
しかし神聖王国の宰相である、内容が事実と異なる箇所が多々ある。
特に酷いのは、神聖王国がこの世界の中心であるという虚偽。中心どころか、レグラスなどにちょっかいを出す厄介な国という立場なのだが。
さらに只人族は選ばれた種族、他種族は只人族の亜種、下位種族という虚偽。事実は上下が無く、すべての種族は平等である。
そしてレグラスなどの大国に攻められているという虚偽。これも事実はその逆、神聖王国側が攻め入り、返り討ちにあっているだけである。
「――という世界となっており、我が国は非常に苦しいのです。そこを勇者であるあなた方の力をお借りしたいのです」
「分かりました。こちらかも質問してよろしいですか?」
宰相の言葉を聞き、冷静に対応する少年。どうやらクラスのリーダー的存在のようだ。
「まず、敵をすべて倒し平和になれば、僕たちは元の世界に帰れますか?」
「それは保証しましょう。必ず皆様を元の世界へ送還いたします」
そう自信満々に語る宰相。
しかし事実は真逆、送還する方法が無いどころか、元の世界では既に死亡扱いという、元の世界を諦めざるを得ない状況なのである。
そもそも神聖王国にとって勇者は戦力であり兵である。手放す気など無い。
「分かりました。次に、ボクたちの目の前にあるこの画面は何なのですか?」
「それはステータス画面といいます。皆様の世界で馴染みのあるゲームの物と同じと思って構いません。その画面へ意識を向ければ、使い方については脳に直接流れてくるはずです」
それを聞き、一部の者が更に騒ぎ出す。『テンプレ展開キタ』や『これはもうオレが主人公だな!』など、完全に異世界転移のノリである。
「なるほど。それとこの画面ですが、どうして名前が空欄なのですか?」
「皆様に新たな名前を設定してもらうためです。これは皆様の世界と比べると、名前の文法や単語の意味、使い方が異なるからです。実際に入力したほうが分かりやすいと思いますので、試してみてはいかがでしょうか。決定をしなければ修正可能です」
名前設定とか、完全にゲームのノリである。
だがそれが神聖王国の勇者召喚の特徴。召喚された者はあまりにもゲーム的な要素が強いため、現実とゲームの境があいまいとなり、やがて命を軽く見る。死んでもコティニューできるという妄想まで生まれる。
そうやってできたゲーム脳的勇者こそ、神聖王国が使いやすい駒となる。
少年たちは各々ステータス画面を操作したり、内容の確認をしたりしている。
「なるほど、カタカナしか入力できないのか」
「なぁ爺さん、ここで今と違う名前にしたらどうなるんだ?」
ガタイのいい少年が宰相に訊ねる、もっともな質問である。
それを聞いた宰相はきらりと目を光らせる、どうやら予測していた質問のようだ。相変わらずの切れ者である。
「神の力により、その名前が皆様の魂に刻まれます。この世界での真名とお考え下さい。そして真名は魔法に使用することもございますので、慎重にお決めください」
「ちなみに改名って何回できるんだ?」
「残念ですが、神の力も万能ではないので、最初の1回のみとなります」
「ちなみに文字数制限は?」
「ございません。時間制限もありませんので、焦らなくとも大丈夫です。それでは皆様、名前を決めながらで構いませんので、次の質問に移りましょう」
宰相としては慣れたチュートリアル対応である。
それゆえ全員の名前が決まるまで待つなど、時間の無駄なのが分かっている。ならば並行して進めるのだ、あくまで勇者たちを気遣っているように見せかけて……。
「なぁおっさん、どうしてウチら若返ってるのさ?」
そう宰相に問いだすのは眼鏡をかけた少女。勝気な性格をした委員長といった感じである。
「先ほどご説明したように、皆様の世界とは1年の流れが少々異なります。その影響で若返った、とお考えください」
「見た感じウチら、15.6歳なのに今までの記憶があるのはそういうことなの?」
「左様でございます。記憶はそのままで、体のみ若返った状態となります」
「なるほどね。それじゃ次に、なんでウチらだけなの? 高校の時のクラスメイトっぽいけど、全員じゃないのはなぜ?」
「それは皆様が選ばれたからです。ここに居られない方は勇者としての素質が無かったとお考えください」
宰相の言葉で一部の者が三度騒然とする。『やはり俺が主人公』とか『異世界ハーレム展開キタ!』など。宰相にとってもテンプレな反応である。
しかし、質問をした少女はそうは思わなかった。
(なんかキナクサイ。本当に選別できるなら、あの子まで召喚する?)
そう思う少女の先には、今にも泣きそうでうつむいてる一人の少女が居た。この少女たちは幼馴染である。ゆえに、戦いの素質は一切ない臆病な子だというのを、この眼鏡少女は知っていたのだ。
その後も他の者たちが質問をしているが、宰相にとってはほぼ想定通りの内容であった。
一夫多妻は良いのか、エルフは居るのか、魔法はあるのかなど。
しかし宰相は気が付いていた。
(あの眼鏡の少女、どうもこちらを探っているようですね。信用もしていない、質問もこちらの事情を調べるような物ばかりでした。刷り込みをしていてこの反応です、謀反の可能性も考慮すべきですね。となると念のため、弱みを探っておきますか。余計な騒動は陛下の負担になりますゆえ)
この宰相、下種ではあるがやはりキレ者である。
事実、頭お花畑の者が多い中、眼鏡の少女は慎重に、そして確実に神聖王国の嘘を見破っていたのだから……。




