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141話 それぞれのこれから

今回は第三者視点での閑話となります

それと長いです(5000字超え)

 とある異世界、とある王城の謁見の間にて、人族の王と家臣が何やら話し込んでいる。


「つまり、ガーディアンの工場は破壊され、あろうことか勇者の一人が捕まった、ということか?」


 そう淡々と口にするのは人族の王。明らかな失態ではあるが怒るのではなく、冷静に対応するようだ。神を祀るどこかの国の王とは違う。


「その通りだ。工場の再建設を進めているが、条件に見合う場所が確保できるかは……」


 王に報告しているのは眼鏡をかけた研究者風の男。対等の関係なのか礼儀作法は適当、しかも髪はぼさぼさで少々メタボである。


「しかもだ、あの世界へ転移するにも少々問題がある」

「まさか壊れたんじゃないだろうね?」


 睨みながら男に詰め寄ったのは戦士風の女。露出が多い鎧を装備していることもあり、城に勤務する男連中からの人気が高い。


「いや、そっちは大丈夫だ。プロイエットに渡した鍵とのリンクも既に解除した」

「なら何が問題だってのさ?」

「あの世界にはレイジだけでなく、ガーランド、コルトの2名まで転移していた」


 男の告げた報告により、謁見の間に集まった大臣や兵たちが騒然とする。どうやら想定外の報告だったようだ。


「ガーランドと言えば我が国最強の勇者、コルトは魔法軍の長ではなかったか?」

「その通りだ。侵略にあたりレイジを引き入れる算段をしてたが、あの二人も居るとは計算外だった」

「三人はその世界に転移したってことなのかい? アタシはてっきり魔物にでも食われたものかと」

「そういうことだ。それと転移でなく召喚されたって方が正しい」


 そう言って懐からスマホを取り出し、傍に置いてあったプロジェクターにネットワーク接続し、何やらスクリーンに投映しだした。ファンタジー要素皆無な光景である。


「問題は工場を破壊したのがコルト一人だったことだ」

「はぁ? なんで味方の工場を壊してるのさ。そもそもあの男、たしかアタシよりも弱かったはずでしょ」

「落ち着け、問題はそれだけじゃない。断片的な情報しか得られなかったが、ガーディアンがたった一匹の魔物にやられたようだ」

「はぁぁぁぁ? ガーディアンってアタシたち勇者ですら数人がかりでないと倒せないのに、それを特効対象の魔物、しかも一匹にだって? アンタ、その情報間違ってるんじゃないの?」


 女が疑うのも当然だ。

 巨大な工場を術者が一人で破壊するのもバカげているが、魔物相手ではほぼ無敵を誇るガーディアンが、あろうことかたった一匹の魔物に破壊されるなど理解できない状況なのだから。


「オレを睨んだところで事実は変わらん。しかもだ、ガーディアンの欠点まで利用されて、残存するガーディアンすら多数の魔物によって破壊されている」

「いや待ちなさいって、あの欠陥を利用って、そんなのアンタですら無理なことじゃないのさ」

「あぁ、だからまずいのだ。王よ、これからオレが言うことはあくまで予測なのだが」


 男の放つ緊張感からか、周りの者が息をのむ。


「一つ、あの世界に召喚された者は強くなる。コルトもそうだが、手に入れた情報だとガーランドとレイジも相当強くなっている」

「召喚って、じゃぁプロイエットはどうだったのさ?」

「奴は能力に変化は無かった。おそらく転移では起きない、召喚された者にのみ起こる限定的な変化だ」

「ふむ、それは我らの勇者召喚を同様の技術になるのか?」

「おそらくな……」


 王の問いかけと男の返答により、周囲が騒然となる。

 それもそのはず、この者たちにとって勇者召喚とは『自分たちの国にしかできない魔法』という認識があった。

 それを異世界とはいえ、他の者が行えるなど想像していなかった。もっとも、自分たち以上は出来ないという愚かな思考に陥っていただけなのだが。





「召喚については分かった。それで一つということは、他にもあるのか?」

「あぁ、どうも攻めようとしている世界、オレ達の知っている魔物とは別の存在かもしれん」

「どういうことだ?」

「オレ達の倒してきた魔物と同系統のはずなのだが、スペックが違いすぎる。推測も入るが、知能はオレ達以上、力もオレ達の知る魔物の上位クラスが当たり前とみている。ガーディアンを倒した魔物に関しては正真正銘の化け物、勇者でも敵わん」


 再び騒然となる。自分たちの誇る最大戦力をもってしても倒せない存在がいるのだ、侵略するなど不可能ではないかと考えがよぎりだす。


 しかし王は冷静だった。ただ侵略を諦めきれない意地から、次の手を考えようとしているだけかもしれないが。


「聞くが、お前は侵略を諦めろというのか?」

「現状ではな」

「……続けろ」

「簡単なことだ、勇者がもっと強くなればいい。強くなれば勝てる、それだけだ」

「強くなるって、どうやってよ。勇者同士で戦って切磋琢磨でもしろってかい?」


 女が皮肉を込めて男にそう告げる。現実的じゃない、そんな意を含んだ目で。

 しかし男は気にしない、逆にニヤケ顔になる。どうやら女の指摘は想定内だったようだ。


「言ったろ『あの世界に召喚された者は強くなる』って。おそらく召喚された者が強くなるのは、魔物が強いからそれに合わせてだろう」

「まさかアンタ、召喚して貰おうって馬鹿な考えじゃないだろうね?」

「そんな博打はしない。そこでだ、王よ、許可をもらいたい」


 先ほどとは打って変わり、真剣な眼差しで王を見る。何やら覚悟がいる内容らしい。


「言ってみろ」

「勇者に対する人体実験の許可をくれ」


 その一言で周囲がみたび騒然となる。

 この世界では魔物と呼ばれる存在への実験は数多く行われてきた。しかし人、それも勇者への実験は皆無、邪道とまで言われている。

 それをこの男は申請したのだ、非難する者も現れるだろう。


「貴様に問う、何をする気だ?」

「簡単なこと、勇者召喚を応用し、勇者送還の儀式を完成させる」

「送還だと?」

「召喚と送還はほぼ同じ魔法、つまりあの世界へ自らを召喚させ、そして強大な力を得る。力さえ得れば侵略も楽になるはずだ」

「なるほどな。しかし勇者をか……」


 勇者の数は少ない、これ以上戦力を減らしてもいいものか、王はそう考える。

 そんな王に対し、男は淡々と続ける。


「安心しろ、勇者の前に奴隷で試す。奴隷が成功したら一般兵、その次が勇者だ。そのための人員は確保している」

「手回しが早いな。すでに実験をしていたか?」

「そんなとこだ。オレと仙人で新たな勇者召喚を構築していたが、その時に送還に繋がるヒントを得てな。簡易実験止まりだったが、これを機に詳細実験を開始する」


 王が許可した場合、これは国を挙げての人体実験をするということである。当然周囲からは反対の声が多く出るが……。


「よかろう、許可する」

「感謝する」


 所詮は欲に溺れた王である、資源が豊富な異世界という財宝の魅力にはあがなえなかった。


 かくして異世界の王による侵略は本格稼働を始めたのだった……。









 同日、とある王国


「そろそろか」

「えぇ、こちらにも連絡が入ってきました」


 王と側近たちが城の会議室にて今後の方針などを決めていた。

 そんな会議室の扉を


 バーン


「パパー、たっだいまー」


 勢いよく開けて入室してくるのはメイその人。会議をしていたのはメイの父であるベラルゴ王と側近たちである。


「よく帰ってきたな。どうだ、会えたのか?」

「うん! 会っていっぱいお話しした!」


 笑顔で語りあう二人、側近たちもほっこりしている。どこかの国の殺伐とした会議とは偉い違いである。


「お土産はさっきママに渡したよ! あとで配ってくれるって!」

「そうかそうか、お土産まで用意するとは、ほんとメイは偉い子だなぁ」

「むふー」


 父親に褒められたのが嬉しいようで、尻尾をフリフリしているメイ。その姿はなかなかの破壊力である。


「ところで姫様から見て、姉君様はどのように感じられましたかな?」


 そう訊ねるのはこの国の元帥、王の懐刀である。


「えとね、あたしよりもずっと弱かった!」

「メイよ、それは本当か?」

「うん! 尻尾も5本だったよ!」

「そうか……」


 ベラルゴは疑問に思う。

 ユキがサユリの娘だということはすでに知っている。それ故に、ユキがメイよりもずっと弱いというのが信じられないのだ。

 サユリの娘であるならば、メイと同程度の力をもっているはず、父親似だとしても弱いとはありえないはずだから。


「しかもね、おねーちゃん更に弱くなったみたいなの」

「どういうことだ? 詳しく話してくれないか」

「えとえと、たしか魔石のほとんどを人間にあげちゃったんだって。7割って言ってたかな?」

「7割も、だと?」

「陛下、おそらく秘術である魔石の譲渡を行ったかと。しかしその場合は5割、7割ともなると他にも何か行った可能性がございます」

「ふむ……。なぁメイ、その人間について何か不思議なことは無かったか?」

「んー……そうだ! あの人間、天魔じゃないはずなのに術装もってた! そういえばあの術装、お姉ちゃんの月華と同じ匂いがした」


 メイの言葉を聞き、ベラルゴたちは理解した。

 ユキがアリサに対して魔石だけでなく術装も与えたということ、そして経緯はともあれ、己を弱体化させてでも行ったという事実にも。





「なるほど、そういうことか」

「どうしたのパパ?」

「ちょっとな。なぁメイ、お姉ちゃんは弱い以外に何か感じなかったか?」

「んー、すっごく優しくて、あたしをちゃんと見てくれて、それにかわいくてモフモフで、いっぱい好きなところあった!」

「そんなにだったのか? だがメイは未来予知である程度わかっていたはずだが」

「それがね、予知した未来よりもずっと優しくて、ずっとかわいかったの! 他にもね――」


 しばらくユキについて気が付いた良い点を語りだすメイ。ユキ本人が居たら完全に赤面ものである。

 笑顔で語り続けるメイを見てベラルゴは確信した。


(力ある者を子にするのではなく、優しき者を子にすることを選んだか。おそらく力に関しては意図的に弱体化させてるな。しかもメイの様子からして、戦闘面よりも人に対する好感度とでもいうか、そちらの成長を優先しているわけか)


「陛下、何かお気づきになられましたか?」

「あぁ。どうやらメイとは異なり、普通の娘として育てられているようだ」

「となると、姫様のような才能は無いと?」

「いや、おそらくメイと同等かそれ以上だろう。何らかの理由があって、今は力ではなく心の形成を優先しているとみて間違いないな」


 ベラルゴの推測は当たっていた。

 ユキは精神面が脆く非常に不安定であり、暴走しやすい。そのような状態をサユリたちはよしとしないため、精神がより良い状態で安定するよう教育してきた。これは過剰ともいえる愛情を注ぐ理由の一つでもある。

 もっとも、サユリたちにとっては暴走しない落ち着いた精神を形成させるのが目的ではなく、ただ可愛がりたいだけという別の理由が大きいのだが……。


「そういえばね、おねーちゃんから良い物もらったんだよ!」

「ほう、何を貰ったんだ?」

「これ! ちなみにおねーちゃんとお揃いなの!」


 そう言ってメイは元気よく腕につけた魔道具を見せる。


「これは……凄いな」

「陛下、この魔道具に組み込まれているのはおそらく」

「あぁ、精霊神の力がとんでもないほど込められた魔石、いや精霊石だな。これを与えられている娘もそうだが、それをメイに譲ってきたとはな」

「やはり対応は慎重にすべきかと。これほどの物を姫様に贈られた以上、万が一悪意ある行動をとった場合、仲は永久に断たれてしまいます」

「そうだな。そして決断した」


 何かを決意したベラルゴだが、野心や欲に溺れた様子は一切ない。ただ


「なぁメイ、そのお姉ちゃんとまた会いたいか?」

「うん! いっぱい会って、いっぱいお話しして、いっぱい遊びたい!」

「そうかそうか、そのお姉ちゃんのことがよっぽど気に入ったんだな」


 そう言ってメイの頭をワシワシと豪快に撫でる。撫でられているメイはうれしそうな顔をし、その光景を見る側近たちもほっこりしている。


「娘の願いだ、叶えてやらんとな」

「では陛下、彼の国へのゲートの建設と国交樹立、前倒しで進めてよろしいですね?」

「前倒しだけではない、最優先で事に当たれ。予算については限度を設けん、必要な分はすべて出せ。ただし、長くとも10年で結果を出せ」

「10年以内とはいやはや、これはなかなか忙しそうですな」

「建国以来、一番の難題かもしれんな!」


 レグラスとの国交はベラルゴたちも前向きではあった。だが大国同士、事は慎重を期すため、様子見の状態が長く続いていた。

 しかしメイのため、国交樹立に向け大きく前進することになった。国家の問題だろうと娘を優先する、ベラルゴも相当な親バカである。


「ねーパパ、あたし、おねーちゃんと結婚したい!」

「そ、そうか。だが、その、結婚はまだ早くないか?」

「それじゃ大きくなったらする!」

「いやはや、予想以上に懐いたようだな」

「陛下、これは覚悟を決めませんと。子離れの時期が近付いたわけですからな!」


 そう言われて複雑な表情をするベラルゴ。

 娘の幸せは大切だが、娘が嫁に行くのは断固反対という、正真正銘ただの親バカである。


 そんな和気あいあいとした話し合いの外、一人だけ負の感情に満ちている者が居たのだが、話が弾むベラルゴたちは気付けずにいた……。

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