140話 残った問題のアレやコレ
今回も少し長いです
メイがさっそく魔道具でアレやコレをやってるけど、かなーりはしゃいでるねぇ。
相当気に入ったようだし、あげたわたしもちょっと嬉しい。
「では姫様、そろそろ行きますぞい」
そう言って執事のお爺さんは転移門をどこからともなく取り出した。
う~む、巨大な転移門なのに、魔力の流れがすごくきれい。これは技術も相当高い国ってことですね。ここまでくると、メイの国はレグラスに匹敵する大国な気がするわ。
「わかったー。それじゃおねーちゃん、次に来れるのは何年後か分かんないけど、またねー!」
「うん、また、って、ちょ!?」
「むふー、おねーちゃんのほっぺ、ぷにぷにのすべすべで良かったです! じゃぁね~。ほらおにーちゃん、さっさと行くよ!」
そう言い残し、メイたちは転移門使い転移した。
だけど……やられたわ、完全に不意打ちだったよ。まさか去り際、頬に口付けしてくるとはね……。なんとも油断ならない子です。
さてさて、嵐が去ったところで
「それでアリサ、話したいことって何? とゆーか大丈夫? 途中から固まってた感じだけど」
「え、えぇ。決してあの方たちを非難するわけではないのですが、正直怖くて動けませんでした」
「あー、たしかにメイたち、魔力や殺気とか駄々洩れだったもんね」
「はい。その圧のせいで畏縮してしまいました……」
「それはしょうがないよ、わたしも結構ビビってたから。でもなんだろ、メイと話してたら平気になったかな?」
最初は怖い感じが強かったけど、最後の方はただの可愛い妹的な感じになってたわ。これはあの子の才能ですかねぇ。
「それでお話ししたかったことですが、まずは彼らに会ってください」
「メイに吹っ飛ばされた人たち?」
「です。実はその方の中の一人が、その、エレン様の弟殿でした」
「……マジ?」
「マジです」
「うげぇ、それって結構マズいじゃん」
実の妹かどうかは置いといて、わたしに関係しているメイがエレンの弟君をぶっ飛ばすとか、ちょっと問題あり過ぎでしょ。
ひょっとしたら国際問題、うちに対して抗議や慰謝料請求なんかも……。
よし、とりあえず土下座して謝ろう!
そうと決まれば
「んじゃアリサ、連れてって」
「わかりました。ですが、そこまで気を張らなくても大丈夫ですよ?」
「いやいや、ここが運命の分岐点かもしれないのです!」
エレンの家とのもめ事は絶対に回避します!
「え、えっと、初めまして。ぼく、じゃなかった、私はユリアンといいます。ご存じの通り、エレンの弟です」
「あ、ご丁寧のどーも。わたしはユキって言います、よろしくね! ってそうじゃなーい! なんで弟君の方が急に土下座するのよ」
自己紹介する流れになったら、なんか思いっきり土下座されちゃったんですけど。どゆこと?
「その、申し訳ありませんでした! ユキさんの妹殿に対し、大変無礼な真似をしてしまい」
「いやいや、たぶんメイがちょっと我儘だっただけじゃないの? むしろメイが暴れて申し訳ないって、こっちが謝りたいんだけど」
「いえいえ、お気になさらずに。非があるのはこちらですから」
「どゆこと?」
とりあえず土下座されたままはちょっとあれだから、レジャーシートを敷き、お茶とかも用意して談話できる状態にする。
だけど少し恐縮してる感じだなぁ。次期当主なんだしドーンとしてほしいわ。
「そもそもの発端ですが、実は私の部下が妹殿に対し無礼を働いてしまいまして」
「部下って、そっちの人たちのこと?」
「その通りです。姉に従者が居るように、ぼく、じゃなくて私にも従者が付き、それが彼らなのです」
弟君、次期当主として礼儀作法とかも教わってるようだけど、慣れてないみたいね。素がちょこちょこ出ちゃってるわ。でもこういうの、なぜか好感が持てます!
それはさておき、お供の人は冒険者じゃなかったのね。しかもそこそこ強そうだし、結構いい感じの従者じゃないかな?
ただなぁ、全員男ってどうなの? かわいい子が居ないとか、わたしなら絶対に無理です!
「それで、無礼って何をしちゃったの?」
「一言で言ってしまえば『子供が危険なところに来るな、遊び場じゃないんだぞ』ですね」
「あちゃー、それはまずいわ。たぶんあの子も興味のない対象についてはホント無関心だから、そんな対象から上から目線で注意されたらキレちゃうわ」
「仰る通りです。彼らも経験が浅く、外見と実際の戦闘力との乖離が分かっていなくて」
「ふつーの子供に対する対応をしちゃったわけだねぇ」
ちょっと経験を積んでいれば、こんな最下層に子供が一人でいるとか、普通の力の持ち主じゃないって考える。だけど経験が浅ければその考えに至らないってことだね。
「ところで、弟君はどうしてここに来たの?」
「一つは自分の力を確認するため、もう一つは、その、姉さんへのプレゼントで……」
「なーるほど、エレンが大好きなんですね!」
「いや、まぁ、その、はい。で、ですが、あくまで姉弟としてですよ? 男女の仲じゃ無いです!」
「そこまで思いっきり否定しなくてもわかってるよー」
聞いてた通り、結構真面目な子ですね。
外見はエレンと違い、まさに黒竜族って感じの角と羽、それに尻尾があり、さらにちょっとがっしりしてなかなか強そうな感じ。
だけど根は普通というか、ちょっと弱気って聞いたけど、そんな感じが結構するわ。
その後も弟君のアレやコレを聞いてみたけど、ほんと真面目な子だねぇ。
特にエレンに対し、周りが勝手に竜槍を譲れとか騒いでるのがすっごい申し訳ないらしく、会うたびに謝っちゃってるそうで。当人はまったく悪くないのにね。
真面目なのは修行にも表れてるようで、力に溺れずひた向きに努力していると。
最近じゃエレンとほぼ互角に持ち込めるあたり、才能もあるみたい。とはいえ術装が無い分、最終的にはエレンの圧勝になるみたいだけど。
「ユリアン様は術装が欲しくなられないのですか?」
「思ったことが無い、と言えば嘘になりますが、あまり興味が無いという感じです。竜槍のせいで姉さんに迷惑をかけているせいかもしれませんが」
「気にしすぎだと思うなぁ。エレンの場合そんなの気にしないで、むしろ竜槍に匹敵するくらいの術装を手に入れなさい! って言いそうだけど」
なーんてことを言ったら
「その通りですわ!」
「うひゃぁ!?」
「ね、姉さん!?」
エレンが気配を完全に殺して、後ろから抱きついてきたよ。不意打ちすぎます。
「突然すぎてびっくりしちゃったよ。気配も全然だったし」
「もちろんわざとですわ! 少々気配を殺すのがうまい方に会いましたので、少し真似てみたんですの」
「気配の殺すのがうまいって、あぁ、メイの執事さんか。とゆーか、ちょっと見ただけですぐ真似できるエレンって、やっぱ半端ないわ」
教わったわけじゃないのにすぐに習得とは、さすが戦闘に特化した竜族だねぇ。
「ところでユリアンはどうしてここに居ますの? 確か今日は修行すると言ってたはずですわ」
「その、修行がてらにこのダンジョンに来てたんだ。あとは、まぁ……」
「なんですの? 含んでいないでハッキリ言いなさいな」
「えっと、姉さんのプレゼントを取りに来てたんだ。失敗したけど」
「失敗、ですの?」
「んとね、弟君はこの桜をエレンに見せたかったみたいなの。だけどエレンがここに来ちゃったからねぇ」
サプライズを封じられたって感じだもんね。ちょっとだけ同情しちゃうなぁ。
「まぁまぁ、なるほど納得ですわ」
「本当は姉さんを驚かせたかったんだけどね」
「気にしなくていいですわ。それにいつも言っているでしょう、気持ちが重要だと」
そう言ってエレンは弟君の頭を撫で始めた。姉が弟をねぎらう感じで、なんかいいですなぁ。
やっぱ家族ってこういうのがいいよねぇ。メイの兄妹関係を見た後だから、さらにそう思っちゃう。
「そういえばユキさん、先ほど『メイの執事さん』とおっしゃいましたが、そのメイさんというのは誰ですの?」
「せっかくだし、そのあたりの情報も共有しますか。さっきカイルからも連絡があって、こっちに向かってるそうだから」
「駄狐は無視ても良いのでは?」
「こういうときでも平常運転なんだね……」
ほんとアリサってカイルのことが嫌いだねぇ。
しばらくして全員集合したので、弟君の自己紹介も兼ねてちょっとした情報共有をする。
ただ、衝撃的なのが
「ウソ、あのメイドさんって男の子なの!?」
「し、信じられません……。どう見ても女性としか……」
「わたくしもそう思いましたわぁ」
「声も女性でしたしねー。ほんと異世界ってすごいですー」
コレット、本名コルトちゃん? くん? は男の娘だったってことですか。
なんというか、メイってすごい従者を引き連れてるのね。
「だけどちょっと安心したかな」
「何がですの?」
「メイがガーディアンと関係が無くてよかった、ってこと」
多少思うところはあるけどれ、なんとなくメイのことは大事にしたい、そんな風に考えちゃう。
そう考えちゃうのは、事実どうあれ、あの子がわたしの妹ってことを受け入れた結果なんだろうねぇ。
「ちなみにそのゼイラムって奴はどのくらい強いんだ? ユキにとっては雑魚かもしれないが、俺やルーヴィだときついんじゃないか?」
「んー、あくまで推測なんだけど、ルーヴィちゃんでもギリ勝てるくらいかな」
「自分でも勝てるのですか?」
「うん。もしもルーヴィちゃんが術装もってたら圧勝になるかな」
「術装か……。やはりコイツにも持たせるべきかもしれんなぁ、考えておくか」
カイルが言うように、術装があるとないとじゃかなり違うからね。術装が無くても強い人はほんの一部、むしろそういった強い人ほど術装を持ってるからねぇ。
とはいえ天魔に進化していないルーヴィちゃんだと、手に入れてもしばらくは模造品になるか。まぁアリサのように、模造品でも武器としてはかなり強いから、どうにかして手に入れさせたいんだろうね。
「それにしても、あの、エレンさん?」
「なんですの?」
「ひょっとして、癒されようとしてます?」
「してますわ!」
「やっぱりそうなのね……」
真面目な話の傍ら、隣に座ったエレンが尻尾をモフモフしたり、指を絡めたりしてくるんだもん、さすがに気付くよ。
しかも弟君が『姉さんって結構大胆なんだ』って少し驚いてぼやいてたのをバッチリ聞いちゃったよ。エレンって実家ではどんな風に振舞ってるんだろ、ちょっと気になるわ。




