14話 もうデートでいいんじゃないかな
アリサ強化月間も順調、この調子なら1年くらいで魔人になれるかも。中級層もそこまで苦戦せずに行けるのは幸いだったわ。
それにしてもあの勇者、思っていたよりも長期間この国に居るなぁ。必死に結界のこと学んで何しようとしてるんだろ。悪いことに使うならお父様が全力で阻止すると思うけど、そうしてないってことはまっとうな使い方なのかな?
気になるけど気にしないでおこう、だって勇者だし。
そんな勇者が今日は珍しく来ません。なのでアリサもいません。しかし抜け目のないわたし、今日来ないのはすでに把握済みです。アリサが来ないのなら迎えに行けばいいだけなのだ!
というわけで街で待ち合わせしたわけだけど、外国からの観光客も減ったので今日は狐耳と尻尾を出して歩けるわ。隠しているとやっぱ変な感じなんだよね、有って当然な体質になっているというか、やはりわたしも獣人なんだなぁ。
さってと、アリサはまだ来て…もう来てるわ。待ち合わせの時間よりも若干早いのに、ほんと真面目ね。
「アリサ~、まった~?」
「いえ、私もついさっき来たところですよ」
手を振りながらアリサのもとに駆けていくけど、あれ? これってなんかデートの待ち合わせっぽくない?
あ、案の定察したのか、アリサが照れだしたぞ。何度もやり取りしているからか、乙女モードになってもだいぶ落ち着いてくれたのは良きかな。
まぁ見てわかるほど照れてるけど、可愛い奴め。
「今日は街で遊びましょー。まずは新作の演劇でも見にいこっか」
「はい!」
自然と手を繋いでって、意識するとほんとデートっぽいねこれ。これはもう4歳児にして大人の階段を上る可能性もあるってことだね。って大人の階段ってどんな階段?
う~ん、たまに前世での言葉らしきものがポンって出てくるけど、その意味とか内容がわからないのに出てくる単語とかがあるなぁ。なんというか知識だけどこかに置き忘れているような。
それに転生時に封印した内容じゃないし、なんだろこの現象。まぁいっか。
「そういえばユキ様、前から疑問に思っていたのですが」
「何かな何かな、なんでも答えるよ」
演劇見たり本屋行ったり、魔道具屋で冷やかしたり、やっぱ二人だと楽しいなぁ。
今は小休憩で喫茶店でケーキとお茶の時間。お父様の作ったものほどじゃないけど、ここのイチゴケーキもなかなかだね、あむあむ。
「ユキ様のいつも着けているポーチってどうなっているのでしょう? ベルトも無いのに服についているように見えるのですが」
どうやらわたしがいつも着けてるポーチが気になる様子。
以前、このポーチは中身に空間拡張、前世で言うところのアイテムボックス状態なのは説明したけど、確かに服にくっついてるよね。鞄タイプでもないからなおさらかぁ。
「そういえば言ってなかったっけ、実はこれ特殊なアーティファクトなのです。お母様に教わってわたしが作りました!」
「ということは、普通の魔法鞄とは違うということですか?」
「そういうことー。空間制御の術の応用で、指定場所との空間を圧縮してくっつくようにしているの」
ベルトとかで結ぶタイプだどワンピースとかに合わないからね。服を選ばず、なおかつ簡単に装着できるよう頑張ったものです。
まぁお母様みたいに亜空間収納の術使えればポーチすらいらないけど、まだ練習中だからしょうがない。
「可愛いポーチなのにとんでもないですね。でもそれだとすぐに盗られたりしませんか?」
人差し指を顎にあてながら頭を横にコテンと倒すとか、ちょっと最近のアリサさん、どんどんあざと可愛いくなってきたんですが。もう少し成長したら男を一発で虜にできるね。
まぁあの勇者みたいなロリコンはすでに虜にしてそうな気もするけど……。
「じゃぁ実際に試してみよう。さぁさぁアリサ全力で引っ張ってみて」
「では遠慮なく。うーーーーーーーーーん、はぁはぁ、思いっきり引っ張ったのに外れません」
「でしょ。これは登録した人以外は取れないし、開けることもできないようになっているんだ」
仮にポーチを置き忘れても中身のお財布は抜き取られない防犯設計。中に術札を入れるから必須なんだけどね。
普通の術札と違い、うちで使っている術札はそれ自体が強力な魔道具と言ってもいい物。なのでもしも悪い人が手に入れたら大変なことになる。
と言っても用心には用心で術札にも使用者登録してあるから、万が一盗まれてもすぐに悪用されるってことはないけど。
「さらに実験しましょー。ちょっとアリサ髪の毛を1本もらうね~」
「はい、でもどうするのですか?」
「まずはこれをポーチに入れて、次に術式梱包っと。はいアリサ、もう一度開けてみて」
「え? でも先ほど引っ張っても外れないし開かなかったのですが……あれ? 開いちゃった」
手渡したポーチが開いてびっくりしてるね、何となくいたずら成功した感じ。引っ張っても外れない、手渡されても開けることができなかったからそりゃね。
「このように使用者を登録すると開けることができるのです」
「さっきの術がそうだったんですね。相変わらずどういう術なのかさっぱりわかりませんが」
普段使いのちょっとした術でも毎回書き換えて、わざわざ術名なしで発動させてるからねぇ。
そもそも書き換えることは術に対する訓練の一つ。複雑な術に限らず簡単な術でも、書き換えるという行為自体が訓練になる。この訓練を続けることで術に対する理解度がどんどん増していく。
さらに魔力の制御も上手になるという嬉しい特典つき! ならやるしかないよね。
才能も有りそうだし、そのうちアリサにも似たような訓練をやってもらおうかな。魔法でなく術の方をもっと覚えたいって意思があればだけど。
「そうだ! 今度アリサにこれと同じもの作ってあげるね。今はいいけど1人でダンジョン行くことになったら必要だろうし」
実際はソロ行動させないけどね!
今までの経緯から、思いっきり情が移っちゃってるんだよねぇ。嫌いって言われない限り、最低でも進化するまでは保護者します!
そんな感じにアリサとお茶しているけど、平和だなぁ。なんかまったりで眠くなってき……、あれ? なんかおかしい。確かにいい陽気だけど、この眠気はなんか変。まさか!?
「アリサ! ここから早く逃げ……」
「ふむ、まだ起きている奴がいたか。もう一つ使っておくかな」
声が聞こえたと思ったら眠気が更に強まり、頭がふらふらする。でも確認しないと! アリサは、大丈夫、倒れているけど息はしている。周囲に助け……は無理ね、通りにいた人たちまで倒れている。
そして物陰から出てくる男、おそらくさっきの声の主だ。
でも、だめ、視界がぼやけてきてよくわからない。鎧を着た男ってのと、手に何か瓶のようなものを持っているのがわかる程度。これはちょっと本当にまずいんじゃ。
「くっ、あなた、いったい何をした、の!」
何とか意識を保とうとするけど、ほんときつい。
油断したわ。国外の人が減ったからって状態異常の耐性切っていたとか、どんだけおまぬけなのよ。さんざん注意されてきたじゃない、平和に見えてもいつ何があるかわからないから、外にいるときは必ず対策しておけって。
「狐族は最弱のはずなのに、すごい根性だね。これは追加でさらにもう一つ使うか。まぁその頑張りに応えて教えると、君たちをもっと良い所へ連れてってくれる素敵なお兄さんってとこかな。これはそのためのお薬だよ」
「な、なに、を、言って」
「ぐっすりした後にはすべて終わってるから安心してくれ。じゃぁお休み、狐族のお嬢ちゃん」
ダメだ、男の持っていた瓶が割れると当時にさっきよりも強力な眠気が。
わたしのバカ、こんな見え透いた手口に、こんな対策さえしていれば、回避できたものに、こんな…男…に……。
次回、少しシリアス? な話になります。