139話 片や敵対、片や友好ですか
少し長いです
メイの兄であるゼイラムがすっごく睨んできてて、ほんと居心地悪いです。
そもそもなんで敵対されるのか、ちんぷんかんぷんだし。
「えーっと、1から説明してもらいたいんだけど」
「それじゃ最初からだね! んとね、あたしとおにーちゃんも転生者なの。でねでね、前世でもあたしとおにーちゃんは兄妹だったんだよ!」
「そんな偶然ってあるの?」
「それがあったんだよー!」
兄妹そろって転生ですか。同じタイミングで死んで、そのままこっちに転生したってことなのかな?
「それとお嬢様が何か関係しているのですか?」
「アリサ、そっちは終わった?」
「はい、治療は済みました。ですがちょっと厄介なので、後程ご説明しますね」
「ほーい」
「ちょっとおねーちゃん、あたしよりもその人間を優先しないで!」
この子、独占欲が強そうだわ。わたしがアリサと話しただけでむくれるとか、ちょっとかわいいけど、いろいろと大変。
同時にこのゼイラムが更に睨んでくるから、わたしのメンタルはゴリゴリ削られます。胃が痛くなりそうだよ……。
「それで、結局どういうことなの?」
「えっとね、実はあたしとおにーちゃん、それぞれ別の家に生まれる予定だったの。でもね」
「お前が転生したせいでそれが狂った。お前はそもそも転生するはずのない存在、転生したこと自体イレギュラーなのに、あろうことか」
「え? まって、それってつまり、二人のどっちかが」
「おねーちゃんの家に転生する予定だったの!」
そういうことですか。
おそらくゼイラムは死ぬ前に、転生先をある程度操作することができたんだろうね。
そして転生先をメイが居る王家と、うちを選んでいたってことか。
転生先を指定するのは、確かにできなくはないことだけど、成功率が高いかと言われたら微妙。
それをほぼやり遂げたということは、前世では相当な術者だったわけね。
だけどさぁ
「前世同様、メイと兄妹として生まれたなら問題ないんじゃないの? むしろほかの家に生まれたら……」
「えっとねー、実はあたしたちのママ、すっごく仲が悪いの。あたしとおにーちゃんで争うように仕向けてるの」
「あー、なんか読めてきたわ。つまり同じ家じゃ無ければ」
「そう、あたしとおにーちゃんが争う必要は無かったの! それこそ結婚の可能性もあったわけだね!」
なるほど、メイと争いたくないのと、おそらくシスコンなんでしょう、メイと結婚したいから別の家、というかうちに生まれようとしてたわけか。
だけど〝わたし〟が転生しちゃったから、転生先が予定外のところになったと。
「ちなみに前世でも未来視できたんだよ! もちろんこうなる未来も少し見えていたの。もう一個の未来はおねーちゃんが居なくて、あたしとおにーちゃんが別々の国で、大人になってから再会だったかな」
「結構具体的だねぇ」
「ぼんやりとだったけどね! あたしはどっちでも良かったんだけど、今はこっちの方が良い!」
「そうなの?」
「うん! あたしが見た未来よりもおねーちゃんは優しいし、あたしを見てくれるし、それにかわいくてふわふわだし、好きなところがいっぱいなんだもん!」
そう言ってメイがわたしに抱きついてきたけど、この状況はちょっとマズイ。
ゼイラムが『絶対に殺す』って感じの鋭い目つきになってきて、かなーり居心地が悪いのです。わたしからメイに抱きついてるわけじゃないのに、勘弁してよほんと。
「ところで気になったんだけど、メイってお嬢様なの? お兄さんと争うって、普通の家庭じゃ無いと思うんだけど」
「ちがうよー」
「違うんだね、てっきり」
「お姫様なんだよ!」
「はい~?」
「王位継承権第一位なんだよ!」
「まって、超まって。つまりメイはどこかの国のお姫様で、そこのお兄さんと王位継承権を争ってるの?」
「せいかい!」
えーっと、突然できた妹はわたしよりも強くて、ちょっと殺伐しやすくて、だけど甘えてくるかわいい子で、さらに転生者で、とどめにお姫様と、てんこ盛りすぎでしょ! わたしだってそこまで属性もってないよ……たぶん。
「なるほど、事情はわか」
「分かったとかぬかすな! お前はオレたちの運命を変えやがったんだぞ! マジで許さねぇ!」
「いや、そう言われましても……」
あちゃー、ついに爆発したわ。
「お前は場所を奪うだけでなく、明らかな出来損ないとして生まれやがった! おまけに大して強くもない、カスみたいな人生を送ってやがる! くそっ、お前さえいなければオレ達は別の家族のもと、より強大な力を手に入れることができたのに、ふざけんじゃねーぞ!」
「……それ、完全に自己中心の八つ当たりじゃん。とゆーか、わたしの今までがカスだって? そっちこそふざけんな! お前なんかにわたしの今までを否定されてたまるか! それに出来損ないだって? えぇ出来損ないで結構、それがわたしだから!」
メイを見てわかったけど、おそらくこの二人のどちらかがお母様の娘、もしくは息子として生まれた場合、完全な九尾で今のわたしなんか目じゃないくらい強かったんだろう。
でも、それがなに? 出来損ないだから弱い? だったらがんばって強くなればいいだけじゃない! 生まれですべてが決まるとか、絶対にない!
あーもう、メイが戦わないようにしてくれたから抑えてたけど、さすがに限界。
ちょっとぶっ飛ばしたいって思ってたら、メイがすごい殺気を放ちだした。それもわたしでなく、ゼイラムに対して。
「おにーちゃんに力が無いのはパパのせいだって言うの? 侮辱してる? だとしたら……あたしの敵なんだけど、良いの?」
「そ、そういうつもりじゃない。だが、お前だって」
「別に? あたしは今の生活が好きだし、何より」
そう言ってメイが思いっきり抱きついてきた。ちょ、ゼイラムのやつが殺意込みですっごい睨んでるし、今はまずくないですか!?
「あたしはおねーちゃんのことが大好きになったからね! そこの人間と仲が良いのは少し気に食わないけど、でも我慢するよ!」
「なっ!? メイ、お前はオレでなくソイツを選ぶのかよ!」
「は? なんでどっちかだけなの? おにーちゃん、なんか変だよ? もしかして死にたいの?」
この兄妹、かなりヤバイ。
片や直ぐに殺そうとする妹、片や変な嫉妬に燃える兄、勘弁してください。
とりあえずメイさんや、そろそろ放してくれませんかね……。
ピリピリした空気が漂っていたら
「姫様、そろそろ時間ですじゃ」
「うひゃぁ!?」
「ぷぷー、おねーちゃんびっくりしすぎー」
「だって音も気配もなく、急に後ろに立たれたんだよ? 警戒していなかったわけじゃないのにだよ? 驚くなって方が無理!」
「そうかなー? コレットならわかるよね!」
「わかっちゃうね!」
「さらに増えたぁぁぁぁぁ!?」
なんなのこの人たち、マジで怖いんだけど。
「姉姫様たちはまだまだ修行不足のようじゃからの。もっと修行を積めば、わずかな空気の変化で気が付くことができますぞい」
「空気の変化って、このお爺さんとんでもないこと言ってるんだけど、メイの知り合いなの? とゆーか〝姉姫様〟って?」
「うん! あたしのじーじだよ!」
「姫様、そこは執事と言ってくれんかの。初めましてじゃ姉姫様、ワシは執事のガーランドと申す。それと姉姫様というのは、姫様の姉君様だからですじゃ」
「あたしのおねーちゃんだもんね! そしてこっちが友達兼メイドの~」
「コレットでーす。よろしくね、姉姫サマとメイドチャン」
「かるっ!? ノエルよりも軽いメイド、初めて見たよ……」
性格はさておき、なんとなくわかったけど、このお爺さんは力よりも技術がヤバい。年の功ってやつかな?
次にこの女の子は魔力がヤバい。しかも特化しているようで、わたしの倍くらいの魔力がありそう。
なんというか、メイの従者、とんでもないわね……。
こんな人材を傍に置くとか、武力も人脈も高水準な国のお姫様ってことか。
「ここで帰るなど、オレが許さん!」
少し穏やかな空気で満たされそうになったのに、水を差す厄介者が急に叫んだわ。わたし、こいつ大っ嫌い!
「あれ~? そこに居るのはシスコンキモキモ兄王子サマじゃないですか~? なんでここに居るんですか~?」
「コレットよ、姫様の兄君じゃぞ、もう少し態度をわきまえんかい。それにじゃ、表に出さず秘めておくのが淑女というものじゃぞ」
あれま、てっきり叫んだゼイラムの面目を保つ何かをするかと思ってたんだけど、違うのね。というか、メイの従者との仲は悪そう。
「ともかくじゃ、姫様、これ以上長居をすると帰れなくなってしまいますぞい」
「それはこまるー。でも、おねーちゃんと離れるのがイヤ。またしばらく会えなくなっちゃうもん」
あらまぁ、メイが更にぎゅーっとしてきたわ。何となく泣きそうな感じもするし、これは相当好かれましたね。
でも帰らないとまずいっぽいし、そうだなぁ。
「それじゃメイにコレあげる」
ポーチからわたしの使っている魔道具の予備を取り出し、メイに着けてあげる。
「なにこれー?」
「これはね、いろんな機能が入った魔道具なの。ちなみにほら、わたしのと同じやつだよー」
「ほんとだー! おねーちゃんとお揃い!」
おーおー、お揃いってわかったらすっごく喜んじゃって。
同じ型のはアリサとエレンも使ってるけど、メイにあげたのはわたしの予備の魔道具だから、ちょっとだけ機能が違うんだよね。ネタに走ったくだらない機能も追加しているのはこの魔道具だけ!
「使い方はこっちの説明書見れば分かるのと、たぶんメイのお母さんなら解析して、同じの作れるんじゃないかな?」
今までの流れから、メイのお母さんって、お母様の親戚だと思うんだよねぇ。
そうじゃなきゃ術装といい外見といい、ここまでわたしそっくりとかありえないし。
「これを使えばいつでもお話できるし、メールとかもできるよ」
「じゃぁじゃぁ、これを使えば毎日おねーちゃんとお話しできるの!?」
「できるよー。あーでも、わたしが忙しくて出れない時があっても、怒っちゃだめだよ」
「わかった!」
たぶんこの子、すごい頻度で電話なりメールしてくると思うからなぁ……。前もって言っておかないと、1回出られないだけで殺意マシマシになりそうだもん。
「すみませんのう姉姫様。おそらくその魔道具、姉姫様の国では機密扱いじゃろうに」
「たしかにそうなんだけど、まぁかわいい妹のためだし? だけど複製するならレグラス王家に許可をとってからにしてもらいたいなぁ、と」
「そこはご安心くだされ。ワシらの王も敵対する予定は皆無ですじゃ」
「キモキモ兄王子サマは分からないけどね!」
「じゃからコレットよ、そう煽るでないわ」
なんていうか、嫌われすぎでしょゼイラム。
普段の行いも酷そうだなぁ……関わりたくないわ。
念のための補足:
二人が割かしフレンドリーなのは、メイが気に入った相手(というか姉扱い)だからです。
メイの対応に合わせた結果ですね。




