138話 そして一気にデレる
メイに殺されたくはないので、月華を顕現させますか。
いやほんと、冗談抜きに気分損ねたら殺されそうなんだもん……。
「それじゃ、術装展開! 魔石に宿りし精霊よ、汝の力を我に示せ! 顕現せよ、精霊刀『月華』!」
メイの望み通り、月華を顕現させる。
その様子を見て目がキラキラしてるけど、同時にすっごく怖い。斬りあおうなんて言ってこないよね?
「っと、これがわたしの術装だよ」
「おぉー、あたしの桜華とそっくりだね! だけど詠唱が必要なんだぁ、まだまだだね!」
「うっ、また痛いところを。お母様のように詠唱破棄での顕現なんてまだできないんだもん」
「顕現させるプロセスも違うみたいだね! それになんだろ、あたしのとは何か……エレメントが違うの?」
「えれめんと?」
「おねーちゃんに合わせると『セイレイ』になるのかな?」
精霊のことをエレメントと呼ぶ? なんか別世界の人みたいな感じだなぁ。
「ベースは同じっぽいけど、秘めている存在が違うっぽい?」
「同じっぽいってことは、メイの術装も形態が変化するの? たとえば、月華、朱雀! こんな風に」
「おぉー、あたしのとそっくり! あたしの場合は、ファイアエレメント、スタンバイ!」
するとメイの桜華もわたしの月華同様、刀身が赤くなり、火の粉を散らす状態になった。
カイルのシルバームーンも似ているけど、メイのは違う、完全に同じだわ。
だけどそれが朱雀、つまり神獣の力でなく、エレメントという存在の力なのが気にはなるけど。
そんなことを気にしてるわたしとは違い、メイはすっごいニコニコしてる。
「やっぱりあたしたちは姉妹だね! お揃いだよ!」
「ちょ、わ、わかったから、今度は急にそんな引っつかないで、頬ずりしないで、いろんなところ触らないでぇぇぇぇぇぇ!!!」
こ、この子、本当に子供? 手つきがどっかのエロオヤジみたいだよ! 見たことは無いけど、たぶん前世の何かで見たのであってる。
「と、とゆーかちょっと聞きたいんだけど、メイって何歳なの? 妹ってことは、年下なの?」
「あたしは9歳だよ! ただ、おねーちゃんよりも後に生まれたから妹なんだよ!」
「同い年……同い年でこの身長の差……」
「それ言ったら、あたしは身長では勝ってるのに、この発育の差は! って気分なんだけど! 小さいのにすごいとか、ズルい!」
「ズルい言われても……ちょ、だから、それはセクハラだってばぁぁぁぁぁぁ!!!」
そもそもメイだってなかなか、まっ、やめ、この状態でさらに尻尾を強くモフモフするとか、ふにゃぁ。
疲れる、いろいろと疲れる。
妹ってこんなに疲れるものなの? お兄様とお姉様もわたしのこと、疲れる相手だって思ってるのかな……ちょっと心配。
「ところで~、おねーちゃんは何しにここに来たの? も・し・か・し・て~、あたしに会いに来てくれたの? だよね、そうだよね!」
「いやいやメイさんや、わたしには未来予知は無いから、それは無理だと思うんだけど」
「でも愛があればできるはずだよ!」
「なんで急に愛が出てきたのよ……。えっと、わたしはこの桜の花びらと実の採取に来たの」
「花びらと実? それって集めたらいいことあるの?」
「ん~、花びらは薬の材料になるけど、元気なメイには必要ないかな。でも実の方はおいしいよ。そうだ!」
サクッと近くの木に登り実をとる。
とった瞬間にわかる甘い匂い、たまりませんな! 銀色に光る大きなサクランボという、金属の塊みたいな外見なんだけど。
外見もだけど寒いところで咲いたり、花と実が一緒に生ったり、苗木の成長がすっごい早いなど、ほんと不思議な桜です。
「はい、どーぞ」
「これ、食べられるの? おねーちゃん、あたしを騙してない?」
「騙してないよー。それにほら、こっちはわたしが食べるから」
「不味かったら殺すからね?」
「そのくらいで殺さないでよ……」
「それじゃはーむっ、もぐもぐ」
「どうかな? って、うん、顔を見たら一発だね」
目がスゴイキラキラして、頬が緩みまくってるねぇ。
それもそのはず、このサクランボの糖度はめっちゃ高いのと、外見に反して皮は柔らかく、実の硬さも絶妙なんだよね。
それじゃわたしもあーむっ、もぐもぐ。
はふぅ、一気に幸せモードになっちゃうくらい素敵です。さすが一粒金貨5枚の高級果実だね!
その後、よっぽど気に入ったらしく採るのをせがまれたので一緒に収穫。
「みてみておねーちゃん、3個くっついてるよ!」
「おぉー。でも残念、わたしはこれ、4個くっついてるのを見つけたのだ!」
「すっごーい!」
なんとなくこういうやり取りって姉妹っぽい感じがするなぁ。わたしもお姉様と似たようなことよくやってるし。
「それにしてもいっぱい採ってるね」
「うん! パパとママにも食べてもらいたいからね! それにね、次はいつ来れるか分からないの。もう来れない可能性があるとも聞いたの」
「来れない可能性がある? それって……っ!? 危ない!」
「えっ?」
すごい殺気とともに何かが飛んでくる気配がしたので、メイを抱き寄せてその場から飛びのく。
飛びのいた数秒後、そこには魔力でできた槍のようなものが何本も突き刺さった。突然なんなのよ! それよりも
「アリサ! そっちは大丈夫!?」
「は、はい、何とか回避できました」
そう、アリサの方にも槍のような物が突き刺さっていた。明らかにわたしとアリサを狙ったものだけど、直前まで何も感じなかった。
これはあれね、転移を応用した攻撃だわ。相手の目の前に転移させるという高等技術、対策がほんと難しいんだよねぇ。
「ふわぁ、おねーちゃんがあたしを、むふー」
「ちょっとメイ? 桃色空間になってる場合じゃないよ、しっかりして」
「いいのいいの! きめた! あたし、おねーちゃんと結婚する!」
「はいー? とゆーか敵を探さないとほんとーにヤバいんだけど」
殺気は感じるけど、正確な場所がつかめない。隠れるのがなかなか上手な敵ですね。
となるとここは結界を張っておき、次の攻撃から敵の場所を探すのが一番かな。
「とりあえずメイ、これから結界を張るからちょっと離れて」
「その必要はないよ! というかね、さっさとでてきたら、おにーちゃん」
おにーちゃん? ちょっとまって、ほんとまって。メイの対応だけでも精一杯なのに新たな身内登場なんですか? しかもそれが敵なんですか?
いろいろ重なりすぎてて、ちょっとむーりー。
空間を切り裂いて男が出てきたけど、なんとも嫌な感じ。
「……離れろメイ、その女はオレ達の敵だろ」
「やっとでてきたね。あと30秒くらい隠れたままだったら……殺してたよ?」
あいかわらず物騒だなぁ……。本当に殺すとは思わないけど、殺さないよね?
しっかしこの男、ちゃんと見れば見るほど嫌になってくる。
メイは確かにわたしよりも強くてヤバいって感じだけど、嫌な気は全くしない。むしろ好意がわいてくる。
だけどこの男は違う、嫌いって感情しかわかない。
それにわたしの本能が、こいつは敵だって言ってる。
詳細な実力はわからないけど、さっきの攻撃から力はわたしの方が上だと思う。
だけど厄介な攻撃持ちだから、アリサとメイを庇いながらだと少し大変な気がする。まぁ精霊神衣使っちゃえば余裕だけどね!
「紹介するね! この人はあたしのおにーちゃんでゼイラムって言うの。おねーちゃんよりも早くに生まれてるよ!」
「……覚える必要はない、なぜならお前はここで」
「おにーちゃん? あたしのおねーちゃんと戦う気なら……殺すけど?」
「チッ、メイがそう言うのなら、今回は見逃してやる」
「完全にわたしを敵視してるねぇ。恨まれる覚えとか一切ないんだど?」
そもそも初対面だしなぁ。ただまぁメイのおかげで戦闘にならずに済みそう。
それに分かったのは、どうやらゼイラムよりもメイの方が上の立場ってことだね。妹だからって言うより、上司だから従うって感じがしたし。
「覚えがない、だと? ふざけるな! お前さえ、お前さえいなけばなぁ!」
「急にキレてきた!? しかも殺意マシマシで襲ってきそうだし、ねぇメイ、あなたのお兄さんなんでしょ? どうにかして」
「おぉー、おねーちゃんがあたしを頼りに、むふー。とゆーわけだからおにーちゃん、落ち着いて。落ち着かないと、前みたいに潰すよ?」
「くっ、わかった」
この兄妹一体どういう生活してるのよ!? 潰すとか、ほんと理解できないんですけど!?
ちなみにユキに対するメイの好感度は
初見:一気に好感度MAX
現在:好感度限界突破の爆上げ
つまり最初からデレ
理由の補足とかはどこかの話でサラッと書く予定です




