136話 なーにかいるっぽい
最下層付近まで来たけど、なんか拍子抜け。
「何もないねぇ」
「ですねぇ。もしかしたら予備の工場は無いのでは?」
「そんな気がしてきた。深読みしすぎたかな」
予備があるなら最下層辺りって考えてたけど、ないんだもん。
ガーディアンが来た形跡もないし、これはもう予備の工場は無しで確定かな。
「でもそうなると、エレン様たちが向かった場所だけで、ガーディアンを大量に製造しているということでしょうか?」
「かな。保険をかける必要が無い、最高の工場を建てたってことなのかもね。まぁ予備を建てるほどの資材が無かった可能性も否定できないけど」
「ですね。とりあえずどうしましょうか、念のため最深部まで向かいますか?」
「だね、依頼の品も最深部にあるからちょうどいいし」
「そういえば依頼のために来ていたんでしたね」
あらま、すっかり忘れてたって顔してるね。確かにガーディアン騒ぎでドタバタしてたからねぇ。
「ほんとは桜が大量に咲いてるところをエレンたちにも見せたかったんだけど、まぁしょうがないね。サクッと依頼の品を手に入れたら帰ろっか」
「ですね。あまり長居したくないですし」
「寒いもんね……」
寒いのはほんと嫌。早く帰りたいなー。
その後も順調に最深部に向かってる。
魔物も出てくるけど問題なし、たいてい一発で沈んでくもの。
「このまま順調に……おや?」
「どうしましたか?」
「んっと、たぶん誰かが戦ってるわ。素材発掘しに来た冒険者だと思うけど、けっこう激しく戦ってるみたい」
「激しくですか、強敵でも居るのでしょうか」
「どうだろ? 銅級冒険者でも大所帯でがんばれば潜れるダンジョンではあるから、冒険者側が弱いだけの可能性があるよ」
素材が高値で取引されてることもあり、たまーに無茶な冒険者が潜ってくるんだよねぇ。
そしてそんな冒険者たちのほとんどは、ダンジョンに潜ったっきり帰ってこられないんだけど……。最下層まで潜れるのと、最下層の魔物を倒せるかは別問題なのです。
「助けますか?」
「んー、状況と相手次第かなぁ。とんでもない化け物と戦ってるとか、可愛い女の子が戦って……うひゃ!?」
いかん、アリサに思いっきり睨まれてしまったわ。
でもしょうがないのです。だって、強くて可愛いお友達がもっとほしいのだから!
「そうそう、念のため魔衣と術装は顕現させたままにしておいてね。わたしもヒトガタの展開と、精霊衣を顕現させておくから」
「強引に逸らしてきましたね? えっと、それはつまり私が前衛、お嬢様はそのフォローにまわるというわけですね」
「そゆことー。というかそもそもだけど、わたしって本来は後衛職なんだよね。月華を使うと前衛寄りになっちゃうけど」
あくまで『前衛もできる後衛職』なのがわたしなのです。
「そういえばそうでしたね。それに、私もお嬢様が前に出るのは少し嫌ですし」
「どうして~?」
「それはですね、後衛と違い、前衛は傷つくことが多いからです」
「なるほどねぇ。ほんと心配性だな~」
よっぽどの相手じゃない限り掠り傷すら負わないんだけど、それでも心配しちゃうんだね。
でも心配されるのも悪い気はしないので、ちょっと抱きついておこう。ひしっと
「もう、お嬢様ったら。このままじゃ準備できませんよ?」
「そうなの? んじゃ次からは、わたしが抱きついたまま準備から戦闘までできるように訓練していきましょー」
「その訓練、たぶん私の理性がもたないです……」
理性がもたなくなるのか~、ちょっと見てみたいなぁ。
だってアリサが照れたりするの、かわいいからねぇ。それを見るためならどんな手でも使うわ! たとえ自分がふにゃけすぎても!
「んー、そろそろ見えてきそうなんだけど」
「そうなのですか? 私はなんとなく魔力がぶつかっているのを感じるだけで、どの程度の距離なのかは……」
「そこまでわかれば十分だよ~。それに戦ってる人はなかなかの術者なようで、攻撃の一瞬だけ魔力を高めるという器用なことをしているから、並大抵の探知能力じゃわからない感じなの」
わたしですら『おぉ!?』って感じたくらいの技術、これは是非とも会ってお話がしてみたいです。できればお友達にもなってもらいたいなぁ。
「でも注意してね、敵じゃないとは思うけど、味方とも限らないから」
「敵ではないのですか?」
「うん。なんていうかな、感じる魔力がわたしに近い感じなの。だからなのかな、邪な相手じゃない気がするの」
「お嬢様に近いのですか? でもそれっておかしいですよね」
「だねぇ。わたしに近い感じって、お父様とお母様、それにお兄様だけだもん。魔石をあげたアリサですら結構違うもんね。でもアリサの魔力、わたしは大好きだけど!」
うん、アリサがちょっと照れちゃった。ホントかわいいですね~。
それはともかく、この魔力の人ってどういう存在なんだろ。もしかして親戚とか? いるのかはわからないけど。
それからしばらく進むと、目の前に巨大な門が現れる。
「この先が白銀の桜がある広場なの。そして戦いもその近くでやってるっぽいね」
「いよいよですか。ところで、このような門があるということは、先にはダンジョンのボスも居るのでしょうか?」
「ここはボスの部屋じゃないよ~。この門は後付けで、桜のある広場に魔物が入りにくいようにしているだけなの。設置した人は不明だけどね」
誰が作ったのか、そもそもダンジョンの一部なのか、いろいろと謎なんだよね。
だけど悪意が無い、ただ桜のある広場の安全を確保するためだけなのがほんと不思議。役割に反して、デザインはボスに繋がる門そのものだけど。
「それじゃ準備はいーい?」
「大丈夫です!」
「んじゃいっくよー」
警戒しながら門の扉を開き、その先へと進む。
そして見えるのは咲き誇る桜並木と……
「は? なにコレ?」
「死体……ではなさそうですね、かすかに動いてます」
屈強な見た目の冒険者が10人かな? ボロボロになって倒れてるのと、一人の青年が小さい少女に踏みつけられてるという、何とも奇妙な光景。
戦闘があったのは間違いないんだけど、地面には焦げた様子も崩れた後もない。周囲に被害を出さずに仕留めたってことかな。
状況からして、あの少女がこれをやったはずなんだけど、なぜか嫌な感じがしないんだよなぁ。
むしろ好ましい? なんか変な感じ。
「とりあえずどうしましょうか」
「戦闘は終わったみたいだけど、う~ん……」
近づいていいのか悩ましい。
嫌な感じはしないけど、攻撃されないとも限らないし。
それに少女、青年、冒険者、この中で良い人が誰なのかわからない状況、間違って悪い人の味方に付くのは避けたい。
そんなことを考えていたら
「あっ! やっときてくれた!」
そう言って少女は踏んでいた青年を蹴っ飛ばし、こっちに駆けてきた。
蹴られた人、大丈夫なのかな? すっごい勢いで吹っ飛んだよ。
というか
「ちょっ、速すぎって、きゃっ」
「えへへー、ようやく会えたね!」
なんかいきなり抱きつかれたんですけど!?
とゆーかヒトガタが一切反応しないって、どうなってるの? 自動追撃どころか微動だにしないって、ほんとありえないんんだけど!?
「えーっと、あの、とりあえず放してもらえませんか? 軽くセクハラな気がするんだけど、これ」
「そうかな? ちょっとしたスキンシップじゃないかな?」
「いや、スキンシップにしてはその手とか、ちょっといろいろと問題あると思うんですけど!」
「気にしたらダメだよ!」
「いやいや、見ず知らずの人に抱きつかれたら気にするでしょーがー!」
いかん、完全にこの子のペースにはまってる気がする。
だけどなんだろ、わたしに似た性格をしているような? 気のせいかな?
とりあえず
「アリサ、落ち着いて! 問題はあるけど害はないっぽいから、そんな構えないで!」
「で、ですが!」
「なにこの人間? あたしとおねーちゃんの仲を裂こうって気? だったら容赦しないよ!」
「「おねーちゃん?」」
どゆこと? この子とわたし、会ったことないんだけど、ほんとどゆこと?




