134話 銀狐VS老執事
今回はカイルの視点です
それと少し長いです
ユキの提案でパーティを分けたが、正直懸念がある。
俺はルーヴィ、ショージ、アンジー、ミストとともに、他の冒険者たちの足止めみたいなことをする羽目になったが、どうもミストの奴が怪しい。
この編成に俺自身は文句ないが、奴だけは不満を持ってる感じがする。
めんどくせーことになる前に、少し戒めておくか。
「おいミスト、なんかそわそわしてるが、まさかユキを追っかけようなんて思ってないだろうな」
「えっ、いや、その、思っていませんよ」
「……はぁ、そのバレバレな返答で、俺が納得するわけねーだろ」
俺から目をそらして答えるとか、バカでもわかるぞ。
ミストの奴は精霊関係で、ユキに対して負い目がある。精霊に完全に嫌われたらそうもなるわな。
だが精霊の試練を何度かクリアした結果、多少は精霊との仲が改善している。効率は悪いが、精霊魔術も使える状態にまでなった。
だがなぁ、それはあくまで〝多少使える〟程度で、俺やユキが望んでいる形じゃねーんだよな。
しかしミストの奴はそれをわかっていないどころか、使えるようになったことでまた調子に乗ってるのか汚名返上でもしたいのか、ユキに対して妙なアピールしたがってる。
俺ですらだんだんウゼェって感じるくらいだ、ユキは相当キレてる気がする。しかもユキの大好きな精霊が絡んでるからなおさらだ。
ったく、マジでめんどくせー奴の面倒を見ることになっちまったな。
「カイル様、とりあえず自分とアンジー殿で、他の冒険者たちの様子を探ってこようと思うのですが」
「そうだな、それじゃ頼む」
ルーヴィに任しておけばまぁ大丈夫だろう。
だがルーヴィーが冒険者の元へ向かおうとした瞬間、俺とルーヴィの頭目掛けて銃弾が何発も飛んできやがった。しかも今まで全く気配を感じなかったのに、どうなってやがる!?
とっさのことでルーヴィを押し倒すような形になったが、気にはしてられん。だからルーヴィ、照れてないでお前も構えろ!
「今のは銃弾か!? カイル、どこから撃たれたか分かるか?」
「少し待ってろ……。おそらく30メートル先の、ショージ! 右に思いっきり飛べ!」
「な、え? わ、わか、うひょぉ!?」
今度はショージを狙ってきやがった。今は間一髪避けることができたが、このまま避け続けることができるかはわからん。
俺達だけじゃない、他の冒険者も狙われてるのか。しかも数人は撃たれて死んでやがる。
「くそっ、敵は移動ながら撃ってきやがる」
「もしかして、距離を保ちながら狙撃してるのか?」
「間違いない。しかもあの銃弾、俺の知らない種類だ。おそらくレイジの居た世界の兵士か勇者だろう」
たしか特殊な力を込めた重火器を使う勇者が多いって話だったからな。
しかしこの火力、レイジが捕まえたって言う勇者より強力なんじゃないか?
これはまさか、ユキが懸念していた『召喚された勇者』が居るってことか!?
「とりあえずルーヴィ、お前は防御に集中しろ。ショージ、二人を連れてルーヴィの傍に居ろ!」
「カイル様はどうするのですか? ……まさか!?」
「あぁ、そのまさかだ。俺が囮になりつつ、敵を撃破する」
「ですが危険です!」
「んなこたぁ分かってる。だがな、この場で戦えるのは俺しかいないだろ」
ショージたちじゃ攻撃を回避することができず、ただの的になりかねん。
ルーヴィならついてこれると思うが、そうすると三人を守る者が居なくなる。
くそっ、こんなことならレイジかノエルを残してもらうんだった。
一番安全だと思って三人を引き受けたが、それが裏目に出るとはな。
「わかりました、全力でシールドを張ります!」
「頼んだぞ」
ルーヴィが防御用のシールド魔法が発動し、ある程度の攻撃まで耐えられる状態なのを確認する。
ユキの使う結界ほどじゃないがそこそこの強度だ、たぶん大丈夫だろう。
ならば反撃開始だ!
シルバームーンと真魔装は全開の状態で顕現させた方が良いな。どの程度の実力か分からんこの状況、全力で行くのが最善だ。
全開状態を維持しつつ、弾丸の発射された位置を探知、そして一気に駆ける。
馬鹿な奴め、さっきからバンバン撃ってやがるが、そのおかげで場所が把握できたぞ!
「ぶっ飛びやがれ!」
魔力を限界まで込め、全力でシルバームーンを振り下ろす。
俺の全力の魔力弾だ、回避できるものなら回避してみやがれ!
俺の狙い通り、魔力弾は奴の潜んでいた付近で巨大な魔力爆発を起こしたが、さて、少しはダメージを与えることができたか?
「ワシの場所を的確につくとは、なかなかやりますのう」
そう言って物陰から出てくる不気味な男、くそっ、無傷かよ。
こいつ、只人、だよな? 見た目はジジイで執事服を着ている。
しかもどういうわけか、コイツを目にした瞬間、全身が強張るほどの悪寒を感じる。まるで全力状態のユキを相手にしたような、絶対に俺が勝てないような感覚に近い。
「あんた、何者なんだ?」
「なに、しがない老執事ですじゃ。そういうお前さんは狐族の、しかも優秀な一族の者みたいじゃのう」
「そこまでわかるのかよ……」
「執事と言ったじゃろ? 人を見る目は優れておりますのじゃ。ところでお前さん、ここは引いてくれんかの?」
「はぁ? どういうことだよ」
いきなり引けとか、何を言い出すんだこのジジイ。
だが真面目、いや、殺気が溢れた目をしてやがる。冗談とかじゃないっぽいな。
「なに、そこまで才能を持つ若者を、このようなことで殺すのも惜しいと思いましてのう」
「大した自信だな! だが俺が引いたらどうする気だ? こいつら全員見逃してくれるのか?」
「それは無理ですじゃ。お前さんたちは見逃すが、他は無理じゃな。潜在能力は知らぬが、現時点では魅力を感じぬ。なにより修行し続けても、お前さんより強くなるとは考えられんしのう」
……なにも反論できねぇ。
俺並みになれるのはルーヴィと、せいぜいショージくらいか。アンジーは魔力特化がうまくいけば、ミストは精霊次第だしな。
「それにじゃ、弱者が武器を持つとかおかしいと思わんかの? 武器が無ければ見逃したが、武器を持つということはワシらに楯突くということじゃしの」
「とんでもねー理論だな、強者の傲慢って感じがするぞ」
雑魚が粋がるなってのはわかるが、このジジイは偏りすぎる。
たしかに他の冒険者どもを助ける義理はないが、だからってただ殺されるのを見ていられるほど、俺は非情じゃない。
「とんだ貧乏くじだぜ。悪いが爺さん、俺にも正義感ってものがあってな、引く気はねーんだ」
「それは残念ですじゃ。ならば仕方ない、相手をしてもらうかの」
そう言ってジジイは銃を構えなおす。
ジジイの銃は砲身が長い、つまり遠距離からの狙撃に特化しているはずだ。
ならば一気に接近し、そのままぶった切るか!
魔力を足に集中させ、一気に駆ける。
ジジイも若干驚いたようだ、これならいける!
「食らいやがれ!」
一気に接近し、そのまま薙ぎ払う。
だがまぁそうだよな、こんなのでうまくいくわけねーよな。
「ったく、遠距離特化じゃねーのかよ」
「ふぉっふぉっふぉ、執事たるもの、いかなる距離でも戦えなくてはなりませんからのう」
薙ぎ払いに対し、ジジイは懐から二丁の銃を素早く取り出し、そのまま銃で防ぎやがった。
シルバームーンの斬撃に耐えるとか、とんでもない銃だな。しかも円筒状の砲身がない、ハンドガンってやつか?
「それでは、こちらからも行かせもらうぞい!」
そう言ってジジイは銃を乱射してきた。
くそっ、近距離で撃たれるとか洒落にならなすぎだろ。回避できず、鎧で受けるしかないとかヤバすぎる。
しかもこのジジイ、同じ場所に、しかも1ミリの狂いもなく撃ってきやがる。
俺だって棒立ちじゃない、回避しようと必死に動いてるんだぞ? なのに当ててくるとか、どうなってるんだよ!
「ほれほれ、このままではすぐに終わってしまいますぞ?」
「ったく、今日は厄日かよ! マジでレイジかノエルに残ってもらうべきだったぜ」
そう叫んだ瞬間、なぜか銃撃が止んだ。
どういうことだ? ジジイを見ると、何やら考え事をしてる素振りだが。
「お前さん、今レイジと言ったかの?」
「そう言ったが、爺さんはレイジの知り合いなのか?」
「そうじゃな、ワシの知っているレイジと同一人物なら、知り合いと言っていいじゃろう。ワシの知っているレイジはな――」
戦闘中だってのに、なぜかレイジの特徴を語り合う羽目になったぞ。
魔力が回復できる分、俺としては正直有り難いんだが、逆に言えばこのジジイ、それだけ余裕があるってことだよな。
つまり、このジジイもユキの言ったレイジと同じ勇者種で確定ってことかよ。
「――という姿をしておるんじゃが、あっとるかの?」
「あぁ、同一人物だ」
「なるほどのう。レイジもこの世界に来ておったとは、なかなか愉快じゃ」
「なぁ、爺さんはレイジとどういう関係なんだ?」
「なに、レイジを勇者として鍛えたのがワシ、つまり師匠という奴じゃ」
「どうりでレイジ並みか、それ以上の強さをもってるわけだ……」
レイジと同じ勇者種であっても、元が弱ければここまで強くなることはないはずだ。
だが師匠なだけあって、この世界でも相当鍛えてやがるな。ったく、弟子が弟子なら師匠も師匠ってことか。
「なぁ爺さん、戦いの最中に聞くのもあれだが、爺さんはなんでここに来たんだ?」
「理由が気になるかの。口止めしろとも言われておらんし、まぁいいじゃろう。ここにはの、少々お転婆な姫様の付き添いできたのじゃ」
「お転婆な姫様? それってレグラスのか?」
「もっと遠くの国じゃ。姫様がどうしても行きたいと駄々をこねてのう、渋々じゃが、今日ここに転移してきたのじゃ」
遠くの国から転移って、ヤバすぎるだろ、そんな規格外の転移魔法。
おいおい、俺達の知らない勢力どころか、マジでヤバい奴らじゃないのかこれ。
「理由は分かった、だがなんで俺達を狙うんだ?」
「それは姫様からの命令なのじゃ。『下層に降りようとする者は全て排除せよ』という内容ですじゃ」
「てことは、ただの妨害のために皆殺しってことかよ!?」
どうやらガーディアンとかいう物とは関係なさそうだが、それよりも危険だろ。
だけどどうする、さっきの交戦から、俺が勝てる見込みは皆無だぞ。自滅覚悟で魔力を高めても敵いそうもないんだが……。
「さて、無駄話もここまでじゃの」
「俺としては、このまま無駄話で終わってもらいたかったんだがな」
そう言って俺はシルバームーンを、ジジイは銃を構えなおす。
戦いで死ぬのは本望だが、まさかこんなにも早く訪れるとはな。
「それでは行くか……むむ? すまんの、どうやら時間のようですじゃ。さすがに長居しすぎたわい」
そう言ってジジイは銃をしまい、胸元から懐中時計を出し時間を確認したと思ったら、今度はどこからともなくスーツケースを取り出した。
おいおい、旅行にでも行く気かよ。
「おっと忘れるとこじゃった、お前さん、名前は何と言うのかの?」
「名前か? 俺はカイルっていう」
「カイルか、いい名前じゃの。ワシはガーランドという、ただの老執事じゃ。さて、少々せわしなくてすまないが、さらばじゃ。カイル、また会おうぞ」
そう言ってジジイはさっさと転移しやがった。
「……はぁぁ、何だったんだよあの爺さん、マジで死ぬんじゃないかと思ったぞ」
緊張の糸が切れたからか、ついそんな愚痴を放ってしまう。
とりあえずこれはアレだな、ユキたちと細かい情報共有すべきだな。
しかし化け物執事のガーランド、それを従える姫様、か。ガーディアン騒ぎより、もっとヤバい状況に陥った気がするな。
ジジイキャラは強キャラという定番




