133話 まーたトラブルだよ
休憩もそこそこできたし、そろそろ出発しましょうかね。
って考えてたら、なんかイヤーな感じがしてきた。
んーむ、これはまーたトラブル引いたのかなぁ。厄介すぎてほんと困ります。
「た、たのむ! 助けてくれ!!」
はい、トラブル確定。
別のパーティが休憩所に慌ててきたと思ったら、第一声がこれだよ。
てかさぁ、助けてくれってこいつらの装備、すっごい貧弱なんですけど。ダンジョン舐めてんですか? 遠足に来たんじゃないなら、もっとましな装備してきなさいよ。
「お嬢様、顔に出てますよ」
「おっといかんいかん。嫌いなタイプだったから、思いっきり感情が出てたわ」
「ほんとユキさんって好き嫌いがハッキリしてますわねぇ」
だめだなぁ、好き嫌いはある程度抑えようと思っているのに、むしろ年々酷くなってる。
嫌いな対象には徹底的に冷たくなってきて、逆に好きな対象には激甘になってるんだよなぁ。ホント両極端だわ。
「とりあえず話だけでも聞いてみないか? 敵が群れならこいつらの修行に向いてるかもだろ」
「あーたしかに。群れだったらエンシェント級がごろごろいるといいなぁ」
「エンシェント級って……、なぁカイル、ユキって少しずれてないか?」
「わりぃ、俺もエンシェント級が大量なのを希望してたわ」
「マジかよ……」
わたしとカイルの会話でショージ君が少しビビってるけどキニシナイ。どうせ倒すなら良い素材を得たいもんね。
なにより、ゾンビアタックという数晴らしい戦法があるからね! ショージ君たちの経験値稼ぎにも最適だよー。
「落ち着け、何があったのか詳しく説明しろ」
「す、すまない。実は見たことが無いゴーレムが大量に出現して――」
逃げてきたパーティの話を聞くと、とーってもめんどいトラブルを引いたっぽい。トラブルさん、がんばりすぎです。
というのも、正体不明のゴーレムというのがガーディアンの特徴と一致してるんだよね。ただのゴーレムなら素材でうはうはーだったのに、ちょっと残念。
だけど何でここにガーディアンが、しかも大量に配備されているんだろ?
このダンジョンを使っての資源回収の可能性を一瞬考えたけど、たぶんないな。
だって、もっと簡単に回収できるダンジョンが他にあるのに、なんでこんな極寒の世界を選んだってなる。効率悪すぎでしょ。
「これはもしかすると、ガーディアンの整備、もしくは製造施設がこのダンジョンにあるのかも。それならダンジョンの中にある利点がいくつかあるし」
ダンジョンの中だと探知系の術や魔道具だと発見しにくくなる。隠し場所にはもってこいだね。
ただし建設コストがバカみたいに高いのと、維持する難易度がめっちゃ高い。あの国が単独でダンジョン内に建造するのは難しいね。
となると、おそらくこの世界の大きな組織と手を組んだんだろうな。ダンジョンの中という発想もそうだし、工場建設の材料などは援助を受けないと無理なはず。
「面倒だけど、わたしたちも様子を見に行きますかねぇ、すっごい面倒だけど!」
「わたくしたちが対処すべきか、見極めるためですわね」
「それじゃ僕とカイルで詳細を聞いておくよ。ユキ様たちは出発の準備を進めてくれるかな」
さすが性格イケメン、さらっと最適な行動をしてくれたわ。
それじゃこっちはすぐに出発できるよう、サクッと準備しておきますか。
数分後、準備が終わるのと同時くらいにレイジとカイルが戻ってきた。
だけどなんとなく深刻な顔つきなんだけど、ヤバい話だったのかな?
「その様子、なんかヤバかったの?」
「どうやらガーディアンの製造工場があるのは間違いないみたい」
「しかも馬鹿でかいのと、そのガーディアンを1分間に10体のペースで生み出してるって話だ」
「ちょ、それマジ?」
「僕も疑ったんだけど、あそこにいるパーティの一人が偵察してきて、こんな映像を撮ってきたんだ」
そう言ってレイジが魔道具を起動し、映像をみんなに見せる。
映像は不鮮明だけど状況はハッキリわかる、ちょっとこれは洒落にならんわ。正確な広さは実際に見ないとわからないけど、少なくとも一般的なゴーレム工場の10倍以上の広さがある。
しかも完成したガーディアンが絶え間なく、異常な速さで整列している。とんだ化け物工場だなぁ。
「この規模からして、何年も前から準備してたっぽいなぁ。短期間で工場建設とか、絶対に無理だし」
「となると、今まで発見されていなかったのは偶然ではなく、何らかの隠蔽がされていたのでしょうか?」
「じゃないかなぁ。ガーディアンに人を誘きだす能力があったから、その逆もたぶんあるんじゃないかなぁ、と」
来る人が少ない極寒のダンジョンだけど皆無じゃない。となれば寄せ付けない機能があるとみて間違いないか。
今回はその機能が不調、もしくは破損したので発見されたってことだね。
ギルドに報告しに何人か帰還用の魔道具を使ったようだから、信用できる銀級以上の冒険者が居れば指名依頼、居なければおそらく緊急クエストが発生するか。
緊急クエストだと不特定多数が参加するから、悪用のリスクを考えると止めてもらいたいんだけど、放置したときのリスクの方が高いからしょうがないか。
でもガーディアンの製造工場……う~ん
「ギルドからの連絡を待たないで、さっさと殲滅用の術式使って破壊した方がいい気がする」
「どういうことですの? たしかに情報ではガーディアンはそこそこの強さみたいですけど、そこまで急ぐ必要ありますの?」
「倒すだけなら問題は無いね。わたしが気になってるのは、緊急クエストが発生した場合〝冒険者だけが参加するか〟ってことなの」
ガーディアンというのはこの世界から見ると異質な存在。通常のゴーレムはもちろんのこと、機械仕掛けのゴーレムとも違う兵器。
魔科学で似たようなゴーレムはあるけれど、それとも違う。機械のようで機械じゃない、魔法のようで魔法じゃない、何とも不思議な存在。
そんなガーディアンを欲しがりそうな人は大量に居る。
未知の技術、強力な装備、大量生産可能など、兵器としてはちょっとヤバいくらい優秀だもん。
そんな兵器を悪い人たちが見たらどうするか、考えるまでもないね。しかも今なら製造工場までついてるし。
「そういえば他のダンジョンはどうですの? 工場がここだけとは考えにくいですわ」
「んー、おそらくだけど、他のダンジョンには無いと思うわ」
「どうしてですの?」
エレンだけでなく、アリサたちも不思議そうな顔してるね。
確かに普通に考えたら他のダンジョンに作るのが賢いんだけど、今回はその可能性が低いんだよね。
「えっと、他のダンジョンだと人が多いから、そんな建造物があったら騒ぎになってるはずなの。それと人が少ないダンジョンが他にもあるにはあるけど、ここと違って空間が不安定だから、工場を建てても維持できないの」
「そういえばそうですわね。それに、そういった情報も無いですわ」
「まぁ完全に無いとは言い切れないけどね。だけど、もしもあるならこのダンジョンの最下層、そこに予備の工場を建てていると思う」
最下層なら道中の魔物がそのまま防御網になる。となれば能力に長けた冒険者の侵入も、ある程度防ぐことができるわけで。
「となると確認した方がよさそうですねー。でも最下層まで行くのって結構大変ですよね? どうするんですかー?」
「たしかに結構大変だね。なので、最下層にはわたしが全力で駆けていくわ」
「お嬢様一人とか絶対にダメです! どうしてもお嬢様が行くのであれば、私もついていきます!」
「お、おぅ、いつも以上にすごい剣幕ね……」
ほんとはわたし一人の方が早いんだけど、しょうがないか。
それに、アリサがついてくるって言いそうなのは予想してたしねぇ。
「わたくしたちはどうしますの?」
「んっと、エレンとカイルをリーダーに2班に分かれてもらうわ。エレンの方は工場の破壊を、カイルの方は残って他の冒険者の足止めをお願い」
破壊はもちろんするけど、できるなら製造過程も見せたくない。悪い人が来る可能性も考えるとさらにだね。
もしも作れるようになったら、ガーディアンをこの世界の技術で改良する奴も出てくる。当然ガーディアンの欠陥についても改修するだろうし。
それが平和目的での改良ならいいけど、そんな都合のいい展開は絶対にない。
だったら見られる前に破壊するしかない。少し物騒な解決方法だけど、それしか思いつかないし。
ほんとガーディアンって、こっちの世界でも面倒な奴ですね!
編成は
第1班:ユキ、アリサ
第2班:エレン、レイジ、ノエル
第3班:カイル、ルーヴィ、ショージ、アンジー、ミスト
となります




