130話 続!モフモフタイム
ではでは、再起動したガーディアンのコアにわたしを再登録してっと。
それにしても懐かしいなぁ。製作者である勇者の意向か、入力にはコアに内蔵されているパソコン用キーボードを使う必要があるけど、このキーボード操作って何年ぶりになるんだろ。
えーっと、ブラインドタッチは……うん、ちょっと無理になっちゃったね。
「さてさて、どんな情報があるかな~」
「見たことが無い文字がいっぱい出てきましたね」
ガーディアンのコアから映し出されている魔道スクリーンに近いものを見て、アリサが首をひねってる。
これがコアの操作じゃなく、小説や漫画みたいな楽しい物だったら全力で教えるのになぁ。ちょっとざーんねん。
「まずは搭載装備の一覧を表示っと」
「いちいちその装置を使って入力しないとダメなのですね」
「音声入力装置が内蔵されていないからね。外部入力装置にはあったかな?」
「その装置があれば、もっと楽に作業できそうですね」
「ただね、言語が問題なの。翻訳機能を使えばいける気はするけど、確実じゃないんだ」
再起動時の音声を考えれば、ガーディアンに搭載されている自動翻訳機能が動作してるとは思う。だけど、それがコアの操作でも正常に動くか分からない。
それに、もしも別の言葉として認識しちゃって、初期化とか自爆とか、動いてほしくない機能が動作したら困るし。
「むぅ、これはちょっとマズイかも」
「どうされたのですか?」
「えっとね、どうやら奴らはこの世界に本格的に攻め込もうとしてるみたい」
コアからいろいろ情報を抜き出したけど、最悪な予想がほとんど当たっていた。
転移門を修復したのか、新たに建造したのかはわからない。ただ、この世界への転移が可能となっているのが分かった。
次に、ガーディアンには転移門の簡易版が組み込まれているようで、ガーディアン単機での世界をまたいだ転移が可能。幸いなのは単機でしか転移できず、誰かを引き連れてとかが無理なところか。
だけど、同じ場所への2回目以降の転移は超低燃費で可能という、ちょっとそれズルくない? って機能があった。ほんとズルいです。
そして厄介なのは、既に大量のガーディアンが転移済みということ。
転移先はバラバラのようだけど、集合命令が既に発動しているみたい。おそらくあの軍服野郎が実行したんだろうなぁ。
これらの情報はお母様やフローラさん経由でギルドに流しておくとして、わたしは逆探知の方法とか、ガーディアンの現在の装備とかを調べておくか。
だけど
「はぁ、なーんかすっごくめんどい気分」
「私も何かお手伝いできたらいいのですが、さすがに知らない言葉ですと難しいですね」
「だねぇ。んじゃそうだなぁ、思いっきりわたしを甘やかして~、とか?」
なんて冗談を言ったら、あれ? アリサがわたしの正面に来たんだけど。
いったいなにを、うひゃぁ!?
「ま、まま、まってアリサ! た、たしかに甘やかしてとは言ったけど!」
「言いましたね。ですので、こうしてお嬢様をぎゅっと抱きしめてるわけです」
「だけど、ちょ、まっ、尻尾もとか、ほんと無理だからぁぁぁぁぁぁ」
あぅ、ぎゅーっとされながら頭なでなで尻尾モフモフとか、ほんと無理だよぉ。
「うぅ、なんか今日のアリサ、ちょっと激しすぎる」
「す、すみません。その、少し抑えが利かなくなってしまいまして」
抑えがって、まだくすぶってるのかなぁ。
そういえばそろそろエレンたちが帰ってくるから、そのせいかな?
う~ん、これは定期的に二人きりになる機会を設けたほうがいいかもしれない。それにおそらく、エレンも同じなんだろうなぁ……。
って考えていたら
「ただいま戻りましたわ!」
はい、エレンとノエルが帰ってきました。なんとなく疲れてるっぽいね。
「ではエレン様、どうぞ」
抱きついていたアリサが急に離れたってことは……。
「あら、ありがとうですわアリサさん。それでは失礼して、ふわぁ、やっぱ癒されますわぁ」
「やっぱこうなるの? って、ちょ、ま、今敏感だから、そんなモフモフしないでぇぇぇぇぇぇ」
エレンに思いっきりモフモフされて、ちょ、ほんと、はうぅ。
なんか今日のわたし、モフモフされ過ぎて、ちょっと思考が、ふにゃぁ。
「ふぅ、堪能しましたわ!」
「その代わりわたしはいろいろ失った気がするよ……」
「気のせいですわ!」
途中からアリサが再参戦、しかもノエルまで参戦してモフモフしだすんだもん、強烈すぎたよ……。
「ところでお嬢様、それって何なんですかー?」
「あぁ、これはガーディアンのコアで――」
二人にも何があったか説明する。
ただ説明中、案の定ミスト君の話で結構不機嫌になった。あきらかーにミスト君に対する好感度、思いっきり下がったね。
やっぱりわたしが教えたのにそれを身につけず、あろうことか精霊を暴走させたってのは致命的だったねぇ。自業自得ではあるけど、みんなの好感度がここまで下がっちゃうと、少し可哀そうになってきたわ。
「なるほど、このガーディアンという物をどうにかしないと危ないのですわね?」
「そして現れる可能性が高いのがこの国、アルネイアというわけですねー?」
「そゆこと」
正直なとこ、レグラスに現れるなら一瞬で終わる。
不法入国を探知する専用の結界があるのと、国内であればどこへでも転移可能な親衛隊が常時待機しているから。そして親衛隊はわたしたちと同等か、それ以上の強い人がいっぱい。
しかも冒険者ギルドとの連携もばっちりなので、万が一という事態すら起こりえない完ぺきな防御網。
だけどそれはレグラスに限ったこと、他国ではそうはいかない。
アルネイアだって上位の騎士たちは強いけど、それだけで国全体をカバーできるかと言えば無理。
しかもレグラスとは異なり、冒険者ギルドとの連携も十全じゃない。冒険者ギルドが2種類あるのも原因の一つだけど。
「でもそうなると、わたくしたちは何も手伝えそうもありませんわね」
「そうなんです。ですので先ほどお嬢様がですね」
「ちょーっとまった! アリサさん、何を言おうとしてるのかな?」
アリサがちょっと小悪魔っぽい笑みを浮かべながら、さっきの経緯をエレンに話そうとしてるんだけど!
あ、だめだ、エレンだけでなくノエルまで興味津々って顔しだした。
うん、これはまずい、逃げよう!
「――というわけで、お嬢様は甘やかされたいそうです」
「わかりましたわ!」
「じゃぁ先輩、私は左からモフリますので、右からお願いしますー。エレン様はそのまま正面からドーンと行っちゃってください!」
ちょ、なんで息の合った連携しだしてるの!?
というかさっき十分モフモフしたよね? だからもうやらな、やっ、まって、モフモフしすぎはほんとダメで、うにゅぅ。
「うぅ、なんかすごくボロボロになった気分」
「気のせいですわ!」
「気のせいですよ」
「気のせいですねー」
「こ、こいつら、完璧に連携している」
恐ろしいほどの連係プレイで、ほんともういろいろとまずかったです。というか後半、ふにゃけすぎて意識なかったし……。まぁ嫌じゃないからいいんだけど。
「しっかしどうしようかなぁ」
「何か問題ですの?」
「いやね、最初は完全な対策を考えていたけど、その必要はないんじゃないかなぁ、って」
「どうしてですの?」
うん、エレンだけでなくアリサとノエルも不思議そうな顔してるわ。
たしかにねぇ、急に手を抜いた対策にしましょうって言い出したようなものだからね。
「実は、ガーディアンって全部繋がっているの。わかりやすく言うなら、このガーディアンに呪いをかけたら、全部のガーディアンが呪われちゃうの」
ネットワーク共有みたいなものだけど、これもガーディアンの欠陥の一つ。1機が感染したら他の機体もすべて感染とか、ちょっとねぇ。
というか、敵に鹵獲されたガーディアンのリンクを切るようなシステムすらないって、ポンコツすぎじゃないですかね?
ただまぁ、あの世界でガーディアンを倒せる者がほぼ皆無だったのと、何とか鹵獲してもシステムへの介入が技術的に不可能だったから、対策なんて考える必要が無かったんだろうね。今のわたしだと鹵獲も介入も楽勝だけど!
「つまり、このガーディアンを使って、お嬢様は他のガーディアンも殲滅されるのですか?」
「殲滅は無理だけど、転移機能を封じ、再生や吸収、反射機能の効率を落とすことはできるよ。あとは今かかってる集合命令も解除しちゃえば、おそらく集団戦も回避できるわ」
「そこまでしちゃったら、ただのゴーレムモドキになりそうですねー」
「ノエルの言う通り、せいぜいオリハルコンゴーレム程度の力になるから、数が多いけど対処は楽だと思うんだ」
オリハルコンゴーレムはゴーレム系の上位ではあるけど、ちょっと強い冒険者パーティなら十分倒せる。一部の銀級冒険者ならソロでも余裕だし。
そうなると、全部をわたしたちがやらなくても大丈夫そうなんだよね。
「とゆーわけで、わたしはこいつの対策をちょっとだけ真面目にやるから、あの二人は任せるわ」
「あの二人、あぁ、ショージさんとアンジーさんですわね。任せてくださいまし!」
「おねがいねー」
うん、三人とも納得して頷いてくれた、よしよし。
ではでは、わたしもすこーしだけ真面目にがんばりましょうか。




