125話 友達のためにできることを
暴走した火と風の分体は、今にも全てを破壊しそうな雰囲気を出してる。
だけど不思議と危険を感じない。
それになんとなーく治せそうな気が、というか確信がでてきた。なんでそう感じるのかは謎だけど。
「あ、あのユキさん、いったい何をする気なんですか?」
ミスト君がすごく不安そうだけど、どう説明すべきかなぁ。
「なんていうか、いつも通りのことをするだけ、かな? なんとなくそれで治せそうな気がするんだ」
「そ、それって、ただの行き当たりばったりじゃないですか!?」
その通りなんだけど、これが最善な気がするんだよねぇ。
でもミスト君の表情を見る限り、納得してないみたいね。たしかに根拠も何もないから、納得しろって言う方が無理あるか。
「さてと、それじゃちょっと治してくるねー」
やっぱ無抵抗っぽく魔衣すら解除した方がいいかな? まぁ実際、この子たちがわたしを傷つけるとはどうしても思えないんだよねぇ。暴走してようと、分体であろうと、精霊は精霊だもんね。
それじゃ魔衣も解除っと。ヒトガタはガーディアンの対処だけさせて、こっちには来ないようにしておきましょう。
ではでは、って
「ちょっとミスト君、急にどうしたの?」
あの子たちの傍へ行こうとしたら、ミスト君が前に出てきた。
これはあれだね、諦めきれてないんだね。
「あの、もう一度やらせてください! 今度こそ、きっと元に戻して見せます!」
「んー、ちなみにどうやるつもりなの?」
「誠意を込めて謝罪し、そして僕の精霊力を渡そうと思ってます」
ふーむ、いろいろと考えた結果、一番シンプルなのを選んだみたいね。
確かにそうやって考え、諦めずにいろいろ挑戦しようとするところ、わたしも嫌いじゃないよ。
それに、わたしも同じ方法を考えてたから、たぶん正しい答えだと思う。
でもなぁ、わたしがやるのとミスト君がやるのじゃ天と地の差だからなぁ。成功しないとは言い切れないけど結構厳しいはず。
とはいえもしも成功したら、ミスト君は術士として大きく成長できる。そう考えると、わたしは裏方に徹し、ミスト君に解決させるのもアリと言えばアリか。
でもミスト君に任せるのは博打だし、どうしたものかなぁ。
「大丈夫です、成功させてみます!」
「ちょっ!?」
そう言ってミスト君、あの子たちの傍に駆けていった。
いやいやまてまてい! まだミスト君に任せるとは言ってないわよ! 言ったとしても作戦ってものがあるでしょうがぁぁぁぁぁぁ!!!
案の定、あの子たちはミスト君に対して攻撃を開始しちゃったよ。炎の精霊術と嵐の精霊術を容赦なく放ってるあたり、あれはもう完全に嫌われてるわ。
だけどミスト君は諦めず、一歩一歩近寄って謝罪を述べてるけど、まぁ、うん、無理っぽいね。
というか、あの子たちの攻撃防ぐために水と土の精霊魔術を使うとか、ほんとやめろと。水と土の分体の子まで暴走させる気かよお前は。
たぶんミスト君、精霊魔術が使えるようになって慢心しているな。
今までがダメダメだった反動からか、何でもできるとか、可能性の塊とか、変な考えに陥ってそうだわ。
それに使えたのが精霊魔術だったのも原因だね。
精霊魔術は通常の魔法や魔術と違い、少しの精霊力でも威力が高い。同じ威力を魔法で作り出す場合、10倍以上の魔力を注ぎ込まないといけないほど。
魔力が低いミスト君には最適だったけど、同時に自分が急に強くなったと勘違いしちゃったな。
「はぁ、ほんとごめんね。わたしが精霊魔術を教えたせいで、あなたたちにすっごい迷惑をかけちゃった」
そう小精霊の子たちに謝ったけど、全然そんなことはないって思いっきり否定してきたよ。むしろ自分たちがちゃんと抑えられなくてごめんなさいって、謝ってきちゃった。
それだけでなく、わたしならなんとかできるって言う絶対の信頼まで。むぅ、少しは非難されると思ったのに真逆とは。
でもそうね、それじゃその信頼にこたえるため、サクッと解決しましょー!
さてと、ミスト君は諦めてないようだけど、もういいかな。
ひょっとしたら、とか、そんな方法が! とか、ミスト君が起こす奇跡ってやつにちょっとだけ期待してたけど、それもなさそうだし。この結果は少し残念です。
なので
「僕が悪かったです! だからこれを」
「悪いけどミスト君、ちょっと眠っていてね」
「えっ!?」
一気にミスト君の傍により、さくっと昏睡用の術式を発動させる。首の後ろに手刀ドスッでの気絶をやりたかったけど、あれをわたしがやると首をズバッって本当に切っちゃうからねぇ。なかなか難しいのです。
あとはちょっと乱暴だけど、力任せにミスト君を遠くに投げる。投げずに術で運べばよかった気がするけど、まぁ男の子だから大丈夫でしょう!
ではでは
「うん、もう大丈夫だから安心してね。とりあえずもうちょっと近くに行きたいんだけど、いいかな?」
暴走している分体の子にそう伝えると、すごく悲しそうな顔をしてくる。どうやら暴走しちゃったせいで、わたしを傷つける可能性が出てきたことが原因みたいだね。
つまり、この子たちは暴走してるけど、わたしのことはちゃんとわかってる様子。だったら大丈夫、いつも通りにすればいいだけ。
「だいじょうぶだよー。それにほら、わたしって強いし? ちょっとやそっとじゃ死なないから安心してねー」
そう伝えたけど、すごく心配そうな顔をしてくる。
負の精霊力をずっと流された結果、不快な感情に支配され、わたしに対しても刃を向けそうになっているからだろうね。
「そうだよね、さんざん嫌な精霊力流されちゃったもんね」
話しかけながら、一歩一歩近寄っていく。少しくらいは攻撃されるかなって思ったけど、全然ないね。ほんとこの子たち、暴走状態なのにがんばってるね。
それにわたし一人で行こうとしたら小精霊の子たちも全員一緒に来ちゃったから、その効果もあるかもしれない。今は本体と分体は切り離されてはいるけど元は繋がっていた存在、何かあると思って間違いないわ。
「とりあえずそうね、わたしのことはわかるんだよね?」
そう言うと、暴走した分体の子はしっかりと頷いてくる。
「よしよし。それじゃわたしのことも嫌い?」
今度は思いっきり首を振ってくる、これは完全否定ですね~。いやぁこんな状況だけどちょっと照れますね~。しかも小精霊の子たちまで絶対嫌いにならない宣言をしだしちゃったよ。やめて、ほんと照れるから。
だけどこれでわかった、わたしなら絶対に治せるわ。
「じゃぁわたしの精霊力なら大丈夫じゃないかな? いつも本体の時に渡してるのと同じように流してみるから、ちょっと受け取れるかがんばってくれる? 気持ち悪かったらすぐに言ってくれていいからね」
そう言いながらわたしが手を伸ばすと、暴走していた子たちが近寄ってきてわたしの手につかまった。
そして暴走していた火の分体の子には火の小精霊が、風の分体の子には風の小精霊が寄り添う形に移動してきた。わたしが言わなくても意図を察してくれたみたいで、ほんといい子たちです!
ではでは、少しずつ精霊力を流してっと。いきなり大量は危ないからね。
これで負の精霊力を押し出せたらいいんだけど……。
っと、ちょっと流しただけでも変化は一気に起こるのね。負の精霊力が思いっきり減ったのか、さっきまでの苦しそうな顔がどんどん和らいでいってる。
それじゃどんどん流してあげましょー。
時間にして1分程度かな、流し続けたらあっという間に本来の分体に戻ったわ。って、こんな簡単に治っていいの? あっさりしすぎて、ちょっと拍子抜けなんですけど。
あぁ、そういうことか。お母様が教えてくれなかったのは、わたしにとっては当たり前すぎることだからだね。お話して精霊力あげてとか、特別なことが一切ないし。
だけどミスト君は同じ方法で失敗した。これはたぶん精霊からの信頼が足りなかったとか、精霊に対する邪な感情が少しはあったとかかな。
もとに戻った分体は、本体との繋がりも特に何もせずに再構成できちゃったようで、ちゃんと本体に戻っていったわ。戻るときに『ありがとう』ってはっきり聞こえたのはちょっと嬉しい。
さらに火と風の小精霊の子が喜びすぎて、わたしに抱きついたり頬ずりしたり、口づけまでしてきたよ。そしたら他の小精霊の子までしだすし、ちょっと大変になったけどまぁいっか。
問題なのはこれからだなぁ。
ミスト君の鍛え方、ほんとどうしたものかしら。精霊魔術をこのまま教えて良いのか、少し不安になってきたし。
それに精霊との仲が最悪になっていると思う。わたしがお願いすれば精霊は仲良くするとは思うけど、これは精霊とミスト君の問題だからなぁ。どこまで手を貸したらいいのか、正直わかんない。
あーもうヤメヤメ、ウジウジ考えると滅入ってくる。
よっし、今日はもうおしまい! 少し休憩したら帰還用の魔道具を使ってアリサたちと合流しよう。
そういえばミスト君を投げたままだっけ? それにガーディアン……はヒトガタが倒してたからいいか。
まぁ、うん、あとで両方回収しよう。今はこの子たちとイチャイチャするのに全力を出すわ!
ネタバレのようなもの:
見せ場の無いミストですが、パワーアップして活躍する話は予定してます。
それをどこで出すかは未定ですが(6章以降で差し込めれば)




