121話 ガーディアン、参上!
前の世界には勇者以外にもヤバイ敵が居た。それが『ガーディアン』と呼ばれる機械式のゴーレム。
高さ10メートルくらいの人型で、体や手足のいたるところに魔力を流す管が張り巡らされてる。頭部には主眼が二つ、複眼も二つの四つ目。能面みたいな造形も合わさってかなり不気味。
ガーディアンは人族の拠点に配備されていて、その戦闘力は勇者に匹敵する物が多かった。
それもそのはず、ガーディアンは勇者の中でも天才と言われた者が設計し作り上げた虎の子の兵器。
そんなガーディアンには厄介な能力が幾つもある。その中でも一番厄介なのは〝魔物特効〟といういかにもな能力。
この〝魔物〟は前世界基準、すなわち只人以外の種族に対する特効になる。ゲームみたいだけど実際に効果があるからほんと困る。
本来の〝魔物特効〟は魔物を相手にすると身体能力が強化されるというもの、厄介だけどそこまで危険じゃない。
だけどそこは天才勇者が作ったガーディアン、対象となる魔物の数に合わせて能力が段階的に、しかも上限なく強化されるというヤバイ感じに変化してる。
この能力のせいで強者を集めた100人部隊でも歯が立たず、あっという間に殲滅された事実がある。しかも人数だけでなく、個々の戦闘能力に合わせて効果も増減するとか、ほんと反則な能力。
そんな非常に厄介なガーディアンが目の前に、ですか……。
「むぅ、これはちょっと困ったな。レイジを見る限り、あの世界の能力ってこっちの世界でとんでもなく強くなってるんだよねぇ。たぶんわたしも標的になってるだろうし、ここはミスト君は下がってもら、って、ちょっと!?」
「敵なんですよね、だったら行きます!」
ミスト君がいきなり飛び出した。いやいや、勢いに任せて行けば倒せるってものじゃないから!
「切り裂け! ファイアカッター!」
一気に接近し、炎を刃にしてガーディアンに切りつけたけど……うん、効いてないね。
どうやら対魔法用のバリアを張ってるみたいで、表面に触れる前に炎の刃が拡散した。まったく、バリア能力も機能してるとか厄介すぎるわ。
それにおそらく、あーやっぱりだわ。受けた魔法や術を吸収し、威力を倍にして返してくるというほんと厄介な機能まで正常に動作してるわ。
しかもあの世界には無かった精霊魔術ですら吸収し反撃するとか、ちょっと反則でしょ。放ったのが射程の短い術だったので、ぎりぎりミスト君もかわせたけど、あたっていたら黒焦げどころじゃなかったわ。
今のでミスト君を完全に敵として認識したようで、ガーディアンが攻撃に移りだした。見たところ戦士型っぽいけど……あぁ予想通り両手が斧に形状変化したわ。
ガーディアンが厄介なのは魔物特効だけでなく、手足が液体金属になっているようで、戦況に合わせて形が変化する機能が非常に厄介。
しかも液体金属ということは、ダメージを与えて壊しても液体に戻せば再構成することが容易にできるということ。
それどころか手足以外の破損した部位に金属を流し込むことで一時的な修復も可能という、ほんと勘弁してくださいって機能。
そういえばミスト君、『声が聞こえる』って言ってたっけ。だけどガーディアンにはそんな機能はないので、他にも敵がいるってことだね。ガーディアンだけでも厄介なのに他にもいるとか、とんだ厄日だよ。
ここはちょっと強力な術で探知してみるべきかな。微生物まで探知できるからちょっと情報量多すぎて疲れるけど、わがまま言ってる場合じゃない気もする。
それに時間をかけるとミスト君が危ないかな。今はガーディアンが近接形態だから距離を取ること対応できてるけど、砲撃形態に変形したら無理そうだし。
さてと、それじゃ術式を展開し……
「きゃっ!?」
「ちっ、俺様の攻撃を避けやがった。思った以上に勘の鋭い魔物だな!」
お札を取り出して魔力を込めようとしたとき、なんかすっごい嫌な予感がしたので半歩下がったら、今まで立っていた場所に銃弾がドドドって感じに何発も撃ち込まれた。
ちょっと今のはヤバかった。あのまま立っていたら、たぶんそれなりのダメージを受けていたところだよ。
周囲を確認してみると、銃を構えわたしを狙っている男が居た。なるほど、前の世界の勇者がよく使っていた気配遮断の魔道具を使ってたのね。
あの魔道具は気配を完全に遮断するけど、何かしら言葉を発すると解除されるという欠陥がある。わたしが避けたことに驚いたのか、つい言葉を発したようで姿を晒したわ。
あれ~? コイツはあの時レイジと一緒に居て、思いっきりボロボロにした軍隊風の勇者じゃない? 名前は知らないけど。
んーむ、勇者とガーディアンがそろってここに居るとか、偶然とは思えない。これは予想以上にヤバイことになってそうだわ。
「向こうの犬モドキはそうでもないが、こっちの狐モドキは雑魚ってわけじゃないな。あのジジイめ、こんなのが居るならもっと強力なの用意しとけよ」
いらだってる様子だけど、う~ん、その『ジジイ』ってのが送還者、もしくは召喚者なのかな。
後者の場合、おそらく傭兵帝国あたりで召喚されたってことだろうから、危険だけどそこまで気にしなくていい。問題は前者の場合だ。
送還者がいた場合、〝この世界〟と〝あの世界〟の行き来ができる何らかの手段を得たということになる。
その中で最も高い可能性は、わたしたちが守っていた転移門のどれかを奴らが復旧させ、他の世界へ転移できるようにしたこと。それがこの世界にたまたま繋がったのか、それとも避難した先がこの世界だったのかは分からないけど。
どちらにせよ厄介。この世界はお母様たちのような強者が多いけど、一般市民まで強いかというとそういうわけじゃない。さらに国によって差はあるけど、この世界は只人以外の種族が圧倒的に多い。
そんな世界に只人以外を魔物として扱い、なおかつ一般市民よりもはるかに強い勇者が攻めて来たらどうなるか。答えは考えるまでも無い、『大量虐殺』が確実に起こる。
となるとこいつは殺さずに情報収集のために生かすべきか、面倒だなぁ……ってダメダメ、また冷酷な感情が表に出そうになってる。また暴走しちゃったらほんとまずいもんね。
にしてもヤダなぁ、視線がすごい気持ち悪いよ。
「ふむ、こっちの世界だと人間に近いのか。これならイケるな……、よし鹵獲するか! ペットとして可愛がってやるから安心しろ」
「……やはりゲスだな。お前のようなゴミが存在するだけで反吐がで……って、ダメダメ、注意しないとって考えた傍から出ちゃってるよ。むぅ、感情の制御って思ったより難しい」
こいつのいやらしい顔見たら、つい暴走しそうになるわ。注意しないとダメなのに、ほんと難しい。
それに暴走しちゃったらまず間違いなく消滅させちゃうだろうし、そうなったら情報も得られないからもっとダメダメ。ほんと気をつけなさいよわたし。
「えっと、急に攻撃してきたけど、あなたは何者なんですか? とりあえずあのゴーレムを止めてくれませんか?」
無理だとは思うけど一応交渉。これが普通の人だったら、狐族であるわたしがちょーっとかわい子ぶれば一発なんだけど、こいつって只人以外は魔物って思考だから通じないのよねぇ。なので普通にお願いするしかないのが厄介。
しっかし通じない相手が前の世界の敵って言うのもなんか皮肉。むしろ敵にこそ通じろよって思うわ。
「なんで魔物相手にそんなことしないといけないんだ? だが今日からお前の飼い主になるからな、自己紹介くらいはしてやるか」
あー、うん、我慢するんだよわたし。すっごい勝手なことを言ってるけどキレちゃダメだよ、睨んじゃダメだよわたし。
「俺様は勇者プロイエット、こことは違う世界からやってきた正義の味方だ。どうやらこの世界はお前らのような魔物が多い様子、きっと俺様の存在に感謝する奴がたくさんだろうなぁ」
「とんだ自意識過剰の勘違い君なことで……。で、あのゴーレムもそのために持って来たってこと?」
「ゴーレムぅ? 馬鹿かお前、あれはガーディアンだ、ゴーレムなどという下級の物ではない!」
すごい剣幕で否定してきたけど、いやいやこっちの世界の人はソレ知らないから。ほんとこいつらって状況とかお構いなしに自分たちが中心、周りがそれについてきてるって感じの屑ですね。
う~ん、やっぱり情報収集しないでサクッと消滅させようかなぁ。




