120話 プチ精霊勉強会?
小休憩なのに、なんだかまじめな話ばかりになってちょっと疲れてきた。休憩ってもっと楽しくないとダメなんだけどなぁ。
あ、このクッキーちょっと不思議かも。
店員さんに勧められて試しに買ってみたけど、生地にハーブが練りこんであるだけでなく、風味のいいペーストが中に入ってる。お菓子って言うよりは薬膳料理って感じかな? でも悪くないし、甘めの紅茶に合うのもいいね。
「はぁ、すごいなぁ……」
「どうかしたの? なんか恋する乙女みたいな感じになってるけど」
「その、どうすればそこまで精霊に好かれるのかなって」
ミスト君が熱いまなざしでずっと見てたけど、そういうことですか。
確かに今現在、火の小精霊がわたしの肩に座って一緒にクッキーを食べてるけど、この子って実はミスト君が顕現させた子なんだよねぇ。
精霊力の成長と精霊魔術の事前詠唱も兼ねて、ミスト君には小精霊を常時顕現させるよう指示したけど、こうなっちゃうとはね。
顕現した直後から、この子はわたしを優先してきた。
だってミスト君に対して挨拶をせず、しかも本来の姿になってわたしに抱きついてきたもん。わたしが顕現させたならわかるけど、今回はミスト君が召喚主なのに。
確かに精霊はちょっとわがままなところはあるけれど、礼儀はしっかりしている。顕現したら真っ先に挨拶をするのが普通なんだけど、わたしとお母様が絡むとそうもいかないのが厄介ね。
精霊にとってわたしとお母様は特別だからしょうがないんだけど、召喚主を完全放置してわたしに来るのはいかがなものかと思ったり思わなかったり。
まぁこの子もちゃんと仕事はしてるからいいか。
「好かれる理由ねぇ。んー、わたしがお母様の娘であり半精霊の存在なのと、精霊神を含めたすべての精霊さんと友達になってるからかな?」
「全てですか!? つまりその子も? でも、どうして姿が変わったんだろう」
「そうね、せっかくだから精霊さんについてのお勉強。そもそも精霊さんは無数に居るのではなく、本体から生まれた分体の精霊さんがいっぱい居るだけなんだよ」
火も水も風も土も光も闇も、場所が変わろうが成分が変わろうが元は同じもの。同じものが無数に分かれ、その場その場で変化しているだけ。
これは自然の一部である精霊も同じ。召喚主が違っても、顕現方法が違ったとしても、元が同じ存在の精霊が顕現する。わたしが顕現させようが、ミスト君が顕現させようが、元は同じ存在ってことになるんだよね。
ただ、わたしの場合は元の存在である本体が顕現してきて、ミスト君には分体が顕現してくるという違いがある。
まぁ本体の顕現は、わたしとお母様、それにフルーレ先生みたいなごく一部の人しか無理なんだけど。
「ちなみに、同じ小精霊さんをみんなが呼び出せるのは分体だからできるわけ。でも本体を複数呼び出すのは無理。もしもお母様が本体を顕現させていたら、わたしやフルーレ先生は同じ子を顕現できないの」
「じゃぁユキさんが本体を顕現させてたら、僕が本体を顕現させようとしても無理なんですか?」
「そうなるね。まぁ時間を操れば同時顕現もできるけど、精霊さんの負荷がすっごい高いから、お母様がやっちゃダメって禁止してるんだ」
むしろ精霊の方が無理してでも顕現しようとするから、お母様が精霊に対してダメって言ってる方だけど。お母様の言うことは絶対なのです!
「とゆーか、なんか本体に拘ってるようだけど、わざわざ本体を顕現させる意味ってあんまりないよ?」
「でも、やはり分体よりも本体の方が強いのでは?」
「んー、強いか弱いかって言えば強いけど、精霊魔術を使うだけなら大差ないよ。受け取ることができる精霊力の上限も同じだし」
なんだろ、なんとなく本体に拘ってる気がする。分体だからダメってことは一切ないのにねぇ。
とゆーか精霊魔術が使えるようになってから、なーんか勘違いしてる気がするんだよなぁ。気にし過ぎかな?
「そういえば花の精霊とかはどうなりますか? 火や水といった基本属性以外の精霊ですが、あれにも本体があるのでしょうか」
「あーそれね、花の精霊って言ってるけど、あの子は土の小精霊さんの分体だよ」
「分体ですか? ですが花の精霊は存在してるので、他の精霊の分体なのはおかしい気がします」
「えーっと、そもそも花の精霊とかって言い出したのは精霊学会の人なの。これは精霊さんの本体と分体について知らないから、分体の子を新発見だとか言って、勝手に増やしていってるだけなんだ。フルーレ先生の授業を受ければ、そのあたりのいきさつも教えてくれるよ」
わたしやお母様、フルーレ先生は当然本体と分体について熟知してるので『そんな精霊は居ない』って断言できるけど、学会の人は知らないからどうしてもなぁ。
そもそも精霊学会って、大昔にセイリアスで召喚された勇者さんの中で、ちょっとだけ精霊召喚が上手だった人が作り上げた学会だっけ。
まぁ精霊に関して間違った解釈ばかりだから、レグラスでは似非学会とか詐欺学会って呼ばれてるけど。しかもお母様の意見も無視してるから、さらに印象が悪いんだよねぇ。
「せっかくだし、そうね」
土の精霊力を集めてサクッと土の小精霊を顕現させる。うん、顕現と当時に抱きついてきたよ。ほんとこの子たちってわたしが大好きだねぇ。
「えっとね、花の精霊って呼ばれる姿になってもらいたいんだけど、できる? 綺麗なお花をいっぱいつけた分体の姿なんだけど」
そう言うと土の小精霊は腕を組んで少し考えたのち、にっこり笑った。どうやらどの分体かわかったみたいね。
すると土の精霊が光に包まれ、いくつもの花があしらわれたドレス姿に変化した。でもこれ、違うよなぁ……。花の精霊の衣装なんだろうけど、どう見ても本体が着ている。
これはあれだね、どうあってもわたしの前では分体ではなく本体じゃないと嫌だってことだね、かわいいなぁ。
せっかくなので他の小精霊も顕現させて、それぞれ別の呼び名が付いた精霊の姿になってもらう。水の小精霊ならば雪の精霊、光の小精霊ならば鏡の精霊など。
むふー、完全に精霊のファッションショー状態になったわ! みんなかわいいし、魔道カメラで激写しないとダメですね! それじゃどんどん撮っちゃうよー。
精霊のファッションショーを満喫したところで先に進む。
せっかくなのでミスト君の先導で進んでるけど、どういう基準で道を選んでるのかな? しかも普通は迷ったり、意見を求めたりするのに、それが無いんだもん。ちょっと気になってきたよ。
「今度は右に行きます」
「ほいほい。ちなみにどうして右にしたの?」
「えっと、実は声が聞こえてくるんです。こっちに進んできなさいって言う男の人の声が」
ちょっと待って、何その心霊現象。声が聞こえるってことは、ゴーストやレイスといった魔物ではないってことでしょ? となると魂を持った存在になるわけだけど、それってやっぱりお化けになるのかな?
むぅ、霊感が無いのが悔やまれるわ。そもそも霊感って何よって気もするけど。
ミスト君はそのお化け(仮)に呼ばれた方向に向かってるわけですか。
声の感じは敵意が無さそうって言うけど、いやいや普通それ信じて進みます? よくあるでしょ、親切な声に導かれた先が罠だったとか。こんなんで大丈夫なのかね……。
さらに進むこと数十分、なんかガラクタがいっぱいある部屋に来た。魔物の気配はしないけど、声の主はここに導いたってことだよね。一体何があるのかしら。
そしてミスト君は、あーやっぱそういう反応か。ここに三人が居ると思っていたようで、あからさまにがっかりした様子。そもそもそんな都合のいいことあるわけないのに。
たぶんミスト君は人に言われたことをそのまま信じる、よく言えば純粋、悪く言えば他人任せで流される性格なんだろうなぁ。
「とりあえずこの部屋を調べてみたら? 何か手掛かりがあるかもしれないし」
「そ、そうですね! よーし頑張るぞ!」
さて、ミスト君ががむしゃらに探してる間に、ちょっと真面目に術を使って調べてみますか。心霊現象なのかは置いといて、このガラクタの山に何か重要な役目がある、もしくは何らかの罠が仕掛けられてるとみたほうがよさそうだし。
まずは罠探知の術式を使って……反応無し。誘い込んで殲滅するとかそういう類ではないってことかな?
んじゃ次に生命反応……も無し? いやいや、まったく無いってどういうことよ、わたしとミスト君の反応すらないとかありえない。
何より生命反応を空間ごと遮断するとか、そんなの潜入工作に使う術か魔道具、あとは殲滅兵器を使っての隔離くらい……って
「危ない!」
山になってる機械部品に触ろうとしたミスト君の手を一気に引っ張り、山から思いっきり遠ざける。その瞬間、ミスト君が立っていた場所がドロドロに溶けていく。
「ふぃ~、間一髪だわ。引っ張らなければ今頃ミスト君もドロドロだったよ」
「あ、あの!? い、いったいなにが!?」
「そこを見ててみ、何か出てくると思うから」
溶けた個所をじっと見ていると、地面が揺れ、歯車の回るような音が部屋中に響き、そしてガラクタの山が崩れその姿を現す。
まったく、勘弁してもらいたいわ。
まさかこっちの世界でも会うとは思わなかったよ『ガーディアン』
なんとなく中ボスの登場っぽい状態




