118話 ダンジョン攻略小隊
「ミスト、そっちに行ったぞ!」
「任せて! 土の精霊よ、我が敵を縛る楔を成せ! 魔術、ストーンバインド! 今だよ姉さん!」
「こっちも詠唱が終わったわ。くらいなさい、ウィンドブラスト!」
うん、思ったよりも何とかなってるわね。
まずショージ君が犠牲者であるミノタウロス君(推定年齢5歳のオス)に対し切込み、ミスト君が構えてるところへ誘導する。
誘導できたらミスト君が精霊魔術の拘束術を使い、ミノタウロス君の動きを完全に止める。
とどめにアンジーさんが風の衝撃魔法でぶっ飛ばすという連携、悪くないよー。
そもそも今のミノタウロス君はダンジョンで言うところの中ボス。中級とはいえそこそこの強さなので、負ける人も結構多い。
事実、第1パーティの諸君はミノタウロス君にあがなうこともできず、あっさり退場となった。
というか、挑む前に先にこっちに向かってきなさいよね。わたしの計画だと『交渉する間も無く、いきなり襲ってくる盗賊』を想定してのパーティだったのに、がっかりだよ。
第2、第3パーティだとその立ち位置は無理だし、第4パーティは最終試練だし、ほんとがっかりだよ。
その後も三人は割と順調に進んでる。若干罠の探知が甘いけど、何とかなってはいるね。
罠対策としては四人目を入れるのが一番良いけど、そんな都合のいい人材は居ないからなぁ。三人の能力をもっと高めるしかないか。
それ以外は想定通りでいい感じだね。連携もしっかりしてるし、敵の急所を確実に狙う動きをしてる。
ショージ君は前衛の切込み役で、敵を分断し誘導する。ショージ君が一人で殲滅できるようになったら違う戦術も取れるけど、今はこれが一番って感じだね。
ミスト君は中衛でサポートに回ることが多い。精霊への適性があったので簡単な精霊魔術をいくつか教えたけど、これが大正解。サポートできるメンバーが居れば、状況に合わせた対応がしやすくなるしね
アンジーさんは完全に後衛、そしてパーティの最大火力。魔力をどんどん伸ばした結果、中級魔法でもなかなかの火力になった。このまま伸ばし続ければ高位の魔法使いも夢じゃないかな?
まぁ三人はいいんだよ三人は。問題はアリサなんだよ……。
まだ怒ってるし、ほんとどうしたらいいのよ。うぅ、ほんと困った、誰か助けてくださいお願いします。
「……はぁ、私もまだまだですね」
「ん? どうしたの急に?」
突然アリサがため息つきながら、なんか呆れたように言ってきたんだけど。
もしかしてまた何かしでかしちゃったのかな? 不安だらけになってきたよ……。
「ちょっと私も意固地になりすぎてるな、と。確かに相談して貰いたかったのは事実ですが、それ以上に嫉妬していたようです」
「嫉妬? もしかしてカイルに? なんで?」
「そうなんですよね、嫉妬する理由が無いんですよね。そもそもお嬢様は、その、いつも私のことを優先してくださりますし……。そうですね、これは嫉妬じゃなく独占欲に近い感情ですね」
あーなるほどなるほど、ようやく理解したわ。
たぶんあれだ、アリサの心の奥底では、エレンたちも一緒に住んでるってのが不満なんだろうね。わたしがエレンたちを気に入ってるから納得してるけど、本音は二人だけが良かったとかなんだろうなぁ。
そんな中、三人まで居候したので不満がさらに大きくなったと。
しかも鍛えてる最中はわたしはミスト君につきっきりだったし、最近はアンジーさんとも一緒にお風呂に入る仲になってたからなぁ。と言っても恋愛感情なんて皆無の仲だけど、皆無だよね?
そしてカイルに対するご褒美が発生したのが決め手だったと。
敵対視しているカイルのためというのがどうにも納得できず、その反動でしまいこんでいた不満が爆発しちゃったのね。
「心配させちゃってごめんね~。でも大丈夫だよ~」
「おおおおお嬢様!? 急に、しかもカメラがありますので、その、ちょっと、これは」
ぴょんとアリサの首に手を回す形で抱きつき、そのまま頬ずりしたら予想以上に慌てちゃったよ、かわいいなぁ。
こんな痴態はさすがに見せられないので、カメラ君は三人の方を向いたまま動かないよう、拘束の術式をこっそり使ったけどね!
「アリサはわたしの一番だから安心してね。二番はいっぱいになるかもしれないけど、一番はアリサだけなの。それにアリサだけなんだよ? わたしの魔石を持っているのって」
「ですよね……。なのに私ったら変に焦って……。お嬢様、お恥ずかしい真似をして申し訳ありませんでした」
「気にしないでいいよ~。それに原因はわたしにあるからねぇ」
何とか解決、かな?
しっかし、アリサがここまでわたしに対して強い感情を持ってるとは思わなかったわ。
だからと言って何か変わるわけでもないけど、もう少しアリサに配慮して行動した方がよさそうだね。思い詰めてヤンデレ化されたら困るからねぇ。
しかしヤンデレかぁ。自分がヤンデレの子と付き合う光景を想像したら、うん、冗談抜きに怖くなった。
ヤンデレが怖いんじゃない、ヤンデレの子の言うことをすべて受け入れそうな自分が怖いほうだけど……。
問題がひとまず解決したので、ちょっと多めにアリサといちゃつきながら先に進む。
こんな状態でも三人への簡単な助言はしっかりとします! 頼まれたお仕事を完遂してこそプロってものです、なんのプロかは知らないけど。
それにしても他のパーティと全然遭遇しないなぁ。このままだと遭遇しないでボスの階層に行っちゃうんだけど、どうしたものかな。
遭遇しないとダメってわけじゃないんだけど、ちょっともったいない気がする。
「お、宝箱発見。しかもでかいぞ」
「ほんとだ。でも見たことのない形ですね。姉さん、罠の反応はある?」
「正直わからないわ。今までの宝箱とは気配が違うみたい……」
三人が目にしてるのは、モンスターハウス殲滅後に現れた大きな宝箱。ダンジョンに来て初めて見る形状だし、慎重になるのは良いことです。
本当は罠確認用の魔道具があればいいんだけど、この三人は持っていないからねぇ。それに気付いて購入、もしくは相談してくれればいいんだけど。
でも、ふむぅ、あの宝箱はわたしも見たことない物だわ。ちょっと気になるから調べたいけど、そこは我慢しよう。あくまでわたしは付き添い、主役はあの三人だからね。でも気になるなぁ。
気になってるのが、デザインが今まで見てきた宝箱に一致する物が一切ないとこ。
これは学園ダンジョンだけでなく他のダンジョン、それこそ上級層や超級層でも見たことが無い。
次にその大きさ。
確かに大きい宝箱はあるんだけど、この宝箱の大きさに一致する物が無い。おおよそ1メートル四方の大きさだから、普通の宝箱とボスが落とす宝箱の中間って感じかな。
最後に気になるのが、どうやら魔法や術での解析ができないような仕掛けが発動しているところ。罠確認の魔道具は使えそうだけど、解析系の術は弾かれたし。
だけど解析系の術を狙った反撃型の罠はないようだから、単純な解析ができないようにしているだけっぽい。
「変な罠があるとまずいし、困ったな。なぁユキ、ちょっと助けてもらってもいいか?」
「いいよー。まぁわたしも気になってたからね。んじゃアリサ、解析用の眼鏡ちょーだい」
「こちらですね、はいどうぞ」
アリサから解析用の眼鏡を渡し、というか掛けてもらっていざ解析開始。
気のせいかな、いつもよりアリサからのスキンシップが多めになっているような……まぁいいか。
ふむふむ、開けたら毒ガスとか矢が襲ってくるみたいな定番の物は無し。地面が抜けたり天井が落ちたりするような連動式の罠も無し。
中には箱のサイズには見合わない小さなオーブが入っているようだけど、ほほう? これは、なるほどなるほど。
「ねーね―アリサ、実はね……」
「なるほど、わかりました。ではそのようにしますね」
「二人とも何を話してるんだ?」
「それは乙女の秘密です!」
こっそりアリサに話したのが気になったみたいだけど、最強の言葉『乙女の秘密』で回避。ここで教えちゃったら後が面白くないからねぇ。ショージ君は何か言いたそうだけど、秘密は秘密ですので!
「えっとね、『毒ガスが吹き出たり、矢が襲って来たりする致命傷となる罠』は無かったよ」
「そうなのか、ありがとう。それじゃミスト、開けてみようぜ」
「そうだね!」
そう言って二人は宝箱を開けにかかる。
うん、たしかに『致命傷となる罠』は無いって言ったけど、それ以外の罠があるのかは言ってないんだけど、いいのかな~?
だって開けると、ほら、発動しちゃったー。
今のところヤンデレ化の予定はないです




