117話 気分転換にダンジョンへ
三人を鍛えてそろそろ1週間、なかなか順調ですね。
まぁめんどいので結局三人ともうちに泊めてるけど、さすがにちょっと甘すぎるかなぁ?
カイルに状況を話したら『弟子にするのか?』って真顔で聞かれたくらいだし。やっぱ家に泊めるってのは相当なことみたいだねぇ。まぁ今更だからいいけど。
ショージ君は勇者だけあってか、そこそこ強くなった。といっても鉄級冒険者に届く程度なのでまだまだ先は長い。
少し気になるのは、ショージ君の勇者ボーナスのいくつかが消えたこと。ステータス表示とか言うのを使って確認したら消えてたみたい。
代わりに別の能力が追加されたようだけど、どういうことなんだろ? 転生者に能力を付与させる神様ってやつが何かしてるのかしら? まぁ答えが見つからないのでいったん忘れておこう。
アンジーさんは魔力の伸びが予想以上に良かった。でも術式との相性はあまりよくないので、今後は魔法を使うことになりそうだね。
術式と魔法は、魔力を使うのは共通してるけど、どうしても使い手側の相性がある。わたしは術式との相性がすこぶる良いけど魔法はからっきし、アンジーさんはちょうどその逆みたいだね。
ある程度は教えることはできるけど、細かいところはエレンかレイジに任せた方がいいわね。魔法が使える人に教わった方が良いだろうし。
そしてミスト君はちょっと予想外だね。小精霊が興味を持っていたから可能性は感じてたけど、想像以上に精霊との親和性が高かった。
精霊力もメキメキ上がったので、小精霊の顕現にも成功。これなら精霊魔術でなく精霊術も使えそうだね。
ただなぁ、まさかご褒美にデートを選ぶとは思わなかったよ。
さらにやる気を上げるため、訓練の課題を達成したら何かしら褒美を授けることにしたけど、まさかまさかだよ。
褒美としてショージ君が希望したのは、刀へ銘を入れることだった。
どうやら相当気に入ったらしく、特別な刀として扱いたいみたい。わたしも悪い気はしないので、銘を入れるときに強化のオマケもしようかなって考えてる。
アンジーさんの希望は包丁だった。
もともと料理が好きなようで、うちで使ってる各種道具に興味津々だったから、褒美として選んだってとこだね。せっかくだし、予想以上の結果だったら料理道具一式あげようかな。
二人は無難な物だっただけに、ミスト君の選んだ褒美はなんだかなぁって気持ちが強い。
まぁカイルいわく、今は憧れの方が強いようだけど、結構意識してるとかなんとか言ってたからなぁ。よくわからないけど、きっと男同士だとそういう感情を見抜けるんだろうね。
……あれ? わたしって前世男じゃなかったっけ? なのになんでわからないんだろう、ふっしぎー。
まぁデートすること自体はどうでもいい。わたしはミスト君に対して恋愛感情は一切ないので、デートとは名ばかりのものになるし。
だけど、アリサがすっごい嫌そうな顔してたからなぁ。しかも嫉妬じゃなく、ミスト君に対する嫌悪感の方だったから、ちょっと心配だわ。
「ねーねーアリサ、明日って冒険科の授業だよね?」
「ですね。エレン様たちがまだ帰ってきませんし、今回も座学だけにしておきますか?」
そうなんだよなぁ、エレンたちがまだ帰ってこないんだよなぁ。
なんか予想以上に面倒なことになってるみたいで、まだ帰れないとかなんとか愚痴を言ってきたし。
エレンと弟君、それにお爺さんがもめてるわけではない。
まぁ弟君はシスコンだけど、エレンの躾けが功を奏して、面倒なことにはなっていないらしい。学園に通うまでは週1くらいは会ってほしい、って言われたみたいだけど。
問題は他の親族で、一族を継ぐのが弟君なら〝竜槍〟はエレンではなく弟君に渡せと騒ぐ派閥が結構いるとかなんとか。
確かに間違ったことではない。竜族としての術装なんだから、代表となる一族の次期長が持つのが当然ってのは正しいといえば正しい。
ただ、〝竜槍〟は長が持つものではなく、竜の巫女が持つ術装なんだよね。長と巫女が同一人物でないのが当然ともいえる。
だけど今回は事情が異なる。厄介なことに、弟君も竜の巫女の血が覚醒してたと。
条件としてはエレンも弟君も全く同じ、むしろ弟君は竜族なのでやや上か? エレンは人族の状態から竜族に変化するから、その違いは大きい。
純粋な竜族の長に、伝統の術装を預けたいと思うのも間違った考えじゃない。
だけど現在〝竜槍〟に選ばれてるのは間違いなくエレン。術装自身が選んだ相手であるから、わざわざ変える必要はないという意見も正しい。
結局、どっちも間違ってないんだよね。だからもめてるみたいだけど、どうなることやら。
「座学もいいんだけど、ちょっと考えがあるの。どうせなら三人を鍛えるのにダンジョン使ってみようかなって」
「なるほど、実戦で鍛えるわけですね。確かに私たちが相手をしていると、自分の実力がどの程度なのか判断しづらいでしょうし、良さそうです」
アリサが言うように、わたしたちが鍛えるってそういう欠点もあるんだよね。
わたしはもちろんだけど、アリサも相当な化け物になってるわけで。そんな二人が相手だと、ぼっこぼこーのけちょんけちょんになるのが当たり前、強くなった気が全くしないのがひたすら続くことになる。
さすがにそれだとやる気が落ちる可能性が高い。
かといってわたしたちが相当手を抜いても結果は変わらない。それだけわたしたちと他の人との力の差が酷いってことなんだけど。
その欠点を補う、というよりは強くなってることを実感させるためには別の何が必要になる。
そこで登場するのがンジョン攻略。とくに三人はパーティなので、ダンジョン攻略はうってつけ。
なにより冒険科の試験もダンジョン攻略だし、ちょうどいい予習にもなる。
でもそうだなぁ、せっかくなら競争させてみようかな?
あとは念のための策も講じておこうか。
そんなこんなでやってきました学園ダンジョンの中級。
ほんとは上級でもよかったけど、まずは中級で下調べ。マクレン先生としても、三人をいきなり上級に送るのは抵抗があったしね。
わたしとアリサなら余裕だけど、三人だけで戦わせるって言ったら不安にもなるわ。
そして今回も当然のごとく配信カメラが付いてるわけだけど、必要なの?
わたしたちは今回ほとんど戦わないって言ったのに、配信係の人はそれでもって押し通してきたし。なんか、本来とは違う目的でカメラを付けてる気が……。
「さってと、それじゃこの先は三人でうまいこと連携していってね。助言はするけど、基本は三人で考えること。それと学園ダンジョンでは死んでも復活できるから、基本的にわたしたちは助けません。危なくなったら助けてもらえるなんて考えないこと。以上だけど、何か質問ある?」
「質問って言うか、その、気になってることが」
「なにかな?」
「さっき競争させるとかなんとか聞こえたんだけど……」
あら、ショージ君って結構地獄耳だね。わたしとマクレン先生がこっそり話してたの、聞こえちゃったか。
本当は隠しておきたかったんだけど、まぁいっか。
「えっとね、今回は他のパーティが複数存在します。その人たちに負けないよう、サクッとボスの部屋まで行くのが目的の一つになります。ちなみに他の人たちと共闘するもよし、争うもよし、そこは任せるよ」
とは言ったものの、争うで確定なんだけどね。
第1パーティは、マクレン先生の授業から去ることが決まってるヨワヨワパーティ。
もしも今回の競争で一番になれたら、学科に残留できるという報酬のために参加してる。
必死なので、おそらくというか間違いなく遭遇したら即戦闘。いきなり襲ってくる奴らへの対応を見るのにもってこい。
第2パーティは、いつぞやのハーレム勇者君たち御一行。
何でもアピールしたい女性が居るとかで、華麗にクリアして見せるとかなんとか言っていた。
とゆーかそのアピールしたい女性、たぶんわたしの事なんだよなぁ……。宣言してるとき、明らかに視線がわたしの方向いてたし。脈は皆無なので、すっぱり諦めればいいのに。
第3パーティもまためんどくさい、あのお食事券の人が率いるパーティ。
こっちは本当にウザい。3年前の出来事から、毎日毎日ほんとまぁしつこいほど求愛してくる。まさかカイルの方がましだとは思わなかったよ。
しかも勝手に今回の競争に参加して、一番になったらわたしとパーティ組むとか一方的に決めてきたし。かんべんしてもらいたいわ。
第4パーティはサクラ。カイルに頼んで、ルーヴィちゃんに参加してもらった。
ルーヴィちゃんは最下層のボスの前まで一気に攻略し、最後の関門としてショージ君たちを待ち構える。そしてショージ君たちをサクッと倒してもらう予定。
わたしたち以外にも強い人はいっぱい居るという認識を作るためだけど、そこまでやらなくてもよかったかな?
しかしその代償は大きかった……。
アリサに相談せずに勝手にやったのがほんとまずかった。おかげでなんか刺々しいんだもん、かんべんしてよー。
「ねーねーアリサ、もうやらないからほんと機嫌治して?」
「別に怒っていませんよ? メイドである私が主であるお嬢様に対し、そのような感情を抱くわけないですよ」
「うぅ、これはぜったい怒ってるよぉ」
表情は普段通りだけど、いつもと違ってなんか刺々しいんだもん。
原因はカイルたちへの報酬。
報酬として、わたしが二人に手料理を振舞うってことになった。料理だけとか、報酬としてはかなり安い物だね。
だけどアリサの中ではそうじゃないみたいで、それを聞いてからすっごい不機嫌なんだもん。
ほんとどうしたものかなぁ……。
物で釣るのはダメだろうし、なぁなぁにするのはもっとダメだろうし。
むぅ、ほんと困ったわ……。




