113話 けっかはっぴょー
学園には生徒に開放された庭園がある。部外者は入ることができないので安全だし、学園で試験的に栽培されている植物があったりするので面白い。
しかもカフェまで併設されていることから、休憩に訪れる生徒が多い人気の場所。まぁカップルも多いけど。
そんな庭園でわたしとアリサは、木陰のベンチに座ってボケーっとしてる。二人っきりなのはちょっとひさびさかも?
エレンたちは実家での用事があるようで、数日は帰ってこない。
なんでも弟君の教育もあるようだけど、その弟君がずいぶんとシスコンに進化? 退化? したようで、『将来はエレンと結婚する』と宣言したらしい。
そのせいか『少し躾けてきますわ!』ってエレンがちょっと怒っていたのが印象的だった。躾けるっていったい何をするのやら……。
「お嬢様、そろそろ来られるのでは?」
「あーもうそんな時間かぁ。面倒ではあるけど、約束は約束だからなぁ」
今日はショージ君とミスト君に与えた課題の結果を確認する日。
初日の様子を見た限り、達成できない可能性もあったけどどうなったかしら。やる気はあったから、もしかしたらもしかするかも?
そんなことを考えてたら三人がやってきた。さてさて、お仕事の開始ですよー。
「それじゃ早速だけど、魔石の状態を確認するね。判定は、ショージ君とミスト君は魔石の魔力残量が規定値だったら合格、アンジーさんは期日までまだあるから、今日のところは途中経過を見るだけね」
「よろしく頼む」
三人から魔石を預かる。さーてと、調べていきますかー。
魔石の状態を見る場合、一般的には専用の道具を使って測定する。
大掛かりな装置であれば成分まで調べることができるが、小型の測定器ではそこまで調べることはできない。魔石に限らず、対象を細かく見るには専用の設備が必要だからねぇ。まぁ今回はそこまでする必要はないけど。
ではでは、眼鏡型の測定装置を装備してサクッと計測。
いつもなら術式で調べるけど、学園の中では無許可の術の使用は禁止されてるからしょうがない。
あれ? どうしたのアリサ、そんなまじまじと見て。え? 眼鏡があるとなんか印象が違うって? 知的な感じはするけど、眼鏡がないほうが可愛いですか。
なるほど……つまり可愛さを捨てて知的になると。これはひょっとしたら印象操作に使えるかな? 使う場所はなさそうだけど。
計測は数分で完了、ズルはしてないようで大変よろしい。
しっかしこういう結果になったわけですか。これはちょっとおもしろいね。
「ど、どうだったんだ? 何度か頷いてるようだけど」
「気になってますね? んじゃ結果はっぴょーしましょう! せっかくなら雰囲気出すためにあの音楽を」
「お嬢様、ここだと目立つのでそれはやめましょうね?」
ソウダッタ。そもそもわたしって馬鹿みたいに目立つんだよねぇ。見た目、家柄、珍しい種族、圧倒的な力など、目立つ要素しかないんだもん。地味に生きるとかは絶対に無理だし、完全に諦めてる。
「じらすのもアレだし結果を先に伝えると、全員合格です。まずはそうね、アンジーさんだけどこの魔石、すでに満タンになってるよ? 2日前に満タンになったようだけど、気が付かなかった?」
「そうなのですか!? お恥ずかしい話ですが、このような魔石に魔力を込める経験があまりなくて」
あーそういうことね。
市販されている人工魔石の場合、魔力が満タンになると色が変わったりして術者が視覚で判断できるようになっている。
でも渡した魔石にはそんな機能は付いていない。あくまでバッテリーの素、加工前の状態だからついていないのよね。
「なるほどね。まぁどっちにせよ、もう一歩踏み込んでもらいたかったなぁ」
「もう一歩ですか?」
「うん。どの程度魔力が入るのか、魔力を込めると見た目は変わるのか、どうやって満タンになったかを判断するのかなど、状況を判断する部分を聞いてもらいたかったの。まぁ判定には関係ない、あくまでこうした方がもっと良かったと言う意見なんだけどね」
こういう細かいところが実践では重要だけど、それは言わないでおくか。いずれそういった部分も学んでもらう、もしくは誰かに教わるだろうし。
まぁアリサやノエルはこういうところもしっかりとできてたから、どうしても比較しちゃうんだよねぇ。手順を確認したり、目標となる状態を確認したり、行き詰まったら相談してもいいのかなど、最初がしっかりしてる。そういう姿勢、わたしは大好きです。
「次にショージ君だけど、自動回復の発動回数が3回だったので優秀です。しかもその3回って初日だけみたいね。もしかして結構頑張った?」
「男の意地もちょっとはあったかな。まぁ自分がどう行動すれば発動するのかが初日で大体わかったから、2日目以降は発動しないように注意して行動してたんだ」
ほほー、勇者なだけあって適応能力が高いね。
実は引き籠りになれば余裕なんだけど、ちゃんと授業にも出てこの結果だしね。うん、これは文句なしに合格ですね。
「最後にミスト君だけど、発動回数は9回でした。ショージ君より多いけど、判定を10回以下にしてたので合格です」
「やったなミスト!」
「よかったわねミー君」
「二人とも、ありがとう!」
三人が抱き合って喜んでる。うん、全員合格でよかったですね。
ただ正直なとこ、少し不安がある。
ショージ君とアンジーさんを鍛えるのは何とかなるとは思うけど、ミスト君はちょっと厳しいんだよなぁ。
9回って言ったけど、わたしに魔石を渡してる間も発動していたようで、正確には10回目が発動中だったんだよね。まぁ10回以下、つまり11回目が発動しなければ合格の予定だったからいいんだけど。
不安なのは事実だけど、条件を決めたのはわたしなんだし、ギリギリだったら鍛えませんとかは絶対にしない。やるからには全力であたるよー。
ま、それは置いといて
「とりあえずご褒美の装備一式作るから、ちょっと移動するよ」
校門の方へ移動する。ショージ君たちは『なんで校門に?』って顔してるけど、学園の中で装備作るわけないじゃんね。
まぁ作れるには作れるけど、すっごい目立つからやりたくない。フルーレ先生の授業日なら場所を借りることができたけど、あいにく今日は違うし。
なのでさっさと馬車に乗って家に帰る。
いつもの面子じゃないからか、乗るとき妙に視線を集めてたけど気にしないでおく。どさくさ紛れに乗り込もうとしたバカが居たけど、アリサにあっけなく排除された。誰でも乗れると勘違いしたのかな?
道中、夕飯用の食材も大量購入していく。たぶんこの三人、今日は泊まってくことになるからなぁ。装備自体はすぐに作れるけど、この三人それぞれに合わせて細かい調整はすることになるだろうし。
「はい、到着っと。ここがわたしの買った家ね」
「で、でっけぇ……」
「貴族様のお屋敷……」
「買ったって、いったいどれほどの額を……」
あらまぁ三人ともあんぐりしちゃったよ。
というかそうだよね、普通の人の反応ってこうだよね。わたしもエレンもお嬢様だからか、このくらいの家が普通って勘違いしちゃう節があるなぁ。金銭感覚麻痺してそうだし、気を付けよう。
とりあえず作業部屋に移動する。
アリサには休んでもらおうとしたけど、同行することになった。わたしを一人にしたくない気持ちはすっごくわかるけど、ちょっとばかり過保護じゃないかな? この三人が暴れたり、何か企んでるってことはないのにねぇ。
そんなちょっと過剰防衛状態のアリサを見ちゃうと、思いっきり抱きついて照れさせたくなる。わたしの中の小悪魔モードがやってしまえと囁いてるわ!
ただ残念なことに、三人が居るんだよなぁ。さすがにお客さんの前で堂々とやる度胸はまだないので、ここは我慢。
そんなこんなで部屋に到着。それじゃ早速始めますか。
「まずは武器からだね。ショージ君はどんな武器が欲しいの?」
「やっぱ日本刀が欲しいかな。俺が日本人だからか、武器を持つなら日本刀って言う変な拘り、というより憧れみたいなものがあってな」
わからないでもないよその気持ち、日本男児たるものうんぬんかんぬんってやつだね。実力が無いうちは刀よりも両刃剣の方が扱いやすいと思うけど、ここは希望を優先しましょう。
「ふむふむ、ショージ君は日本刀、つまり刀でいいと。アンジーさんは?」
「私は非力なので、弓などの距離をとれる武器があれば」
弓かぁ。でも非力ってなると、弓はきつい気がするんだよなぁ。距離を稼ぎつつ威力も出そうとした場合、弓力が強くないとダメだし、
いっそのこと魔法弓か魔法銃にするかな。どっちも魔力を使うものだし、武器に魔力を這わせれば近接もできる。よっしその方向で行こう。
「なるなる、遠距離の武器ね。最後にミスト君は?」
「僕はユキさんと同じような武器が欲しいです」
同じようなって月華みたく刀の二刀流ってこと? たしかにわたしが月華を使って戦うとこはよく配信されてるからか、真似して二刀流モドキする人がどんどん増えてる。ミスト君もそういうのですか。
「刀を使った二刀流ってことね。二刀流は簡単な修行じゃ使えないから、そこは覚悟しといてね」
「わかりました!」
内容は決まったし、それじゃ早速作っていきますか。




