111話 それでもわたしはケーキが優先
待つこと10分くらいかな、あの子がミスト君と他2名を連れて帰ってきた。
って、ここまで案内すればもういいだろって感じに、ミスト君たちを置き去りにしてわたしに飛びついてきたよ。ほんとこの子たちってわたしのこと大好きだよねぇ、わたしも大好きだけど!
「お使いありがとねー。はい、これはお礼の精霊力ね。ん? もうちょっと顕現してる? ふむふむ、他の小精霊の子も呼んでほしいのね、いいよ~」
風の小精霊がお願いしてきたので叶えてあげる。
精霊力を集めてさくっと火水土光闇の小精霊も顕現させてっと。うん、ちょっと目立ったけど気にしないでおこう。
あらまぁ、顕現させたら全員わたしにひっついてきたね。
いつもそうだけど、小精霊に限らずわたしが顕現させる子たちってだいたいこんな感じなんだよねぇ。まぁノーライフキングみたいに紳士的なのもいるけど。
そんな姿を見たからか、ミスト君たちが驚いた顔して近づいてきたわ。気持ちはわかるけど、そこまで驚かなくたっていいじゃない。
「えっと、久しぶりだなユキ。相変わらず規格外な感じがするが」
そう声をかけてくる只人族の青年。はて、誰かしら?
見た目は黒髪黒目で背丈はレイジよりも少し高い、顔は普通だね。5年前に会ってるはずなんだけど、わっかんないなぁ。とりあえずごまかしておこう。
「そうだね。そっちは変化があったのかな? 三人一緒にいるようだしね」
「あー、確かにちょっとあったかな。俺とミスト、アンジーの三人はあの事件の後、せっかくならパーティを組まないかって話になったんだ。なによりその方が安全だし、活動範囲も広がるしな」
「確かにそうかも。ソロだとどうしても限界があるからねぇ」
ふむふむ、どうやら猫族の女性はアンジーという名前みたいね。三人の名前、一応把握したわ。
そして三人は5年前の拉致事件の被害者で、その後からパーティを組んでいると。これは失敗からの改善ってやつですね。こういう行動ができる人、嫌いじゃないです。
とゆーか三人に対する記憶が無いの、バレてないっぽいね。この調子ならごまかし続けても大丈夫かしら? まぁごまかす意味自体無い気もするけど、せっかくならどこまで騙せるか試してみたい! 目指せ駆け引き上手なギャンブラー!
さーてと、話しをちゃちゃっと終わらせて目的のケーキを食べに……って
「ちょっと待った! アリサ、あのケーキ屋さんって何時まで?」
「えっと食べ放題のコースがあと1時間ほどで終了、そこから休憩時間を挟んで再開は18時からですね。あっ、となると急がないとダメですね」
「その通り! というわけで移動するよー」
サクッと馬車を出してっと。
んー、ケーキのためにこの三人との話を後日に延ばすのも失礼だし、ここは連れていきますか。なのでさっさと乗り込みなさい!
案の定、馬車に三人ともすっごい驚いた。そりゃまぁレグラスの最先端技術を惜しみなく投入してるからねぇ。
新しい技術が生まれればどんどん投入、日々バージョンアップもしてる。しかもママ様がわたしだけに教えてくれた技術もあるから、割ととんでもない馬車になってるけど。
馬車の中でも軽く雑談、おかげでどういう人物なのか大体把握できたわ。情報収集は大事だもんね!
しかし、なるほどねぇ
「どうしたんだいユキ様、僕の顔をじっと見るとか、カイルなら一発でアウトだよ?」
「うん、レイジが裏でこっそりと魅了耐性を強化してるのは知ってる。しかも耐性を解除すればレイジまで少し危なくなるのも知ってるよ!」
お母様譲りの外見と、狐族特有の魅了があるからね。本気を出せばレイジもいちころよー。
「まぁそれは置いといて、えっとね、同じ勇者でもやっぱ違うんだなぁって再認識してたの。ほんとレイジって化け物だよね~」
「ですわね。わたくしも学園で勇者の方を見ましたが、レイジとは比べようも無いほどの弱者でしたわ。見た目だけはレイジより上の方は何人かいましたが」
「見た目だけって、それって喜んでいいのか悔しむべきか、正直悩むんだけど……」
只人族の勇者と異なり、勇者族の勇者であるレイジはホント桁違い。最近はわたしとエレンの二人と完全に互角なんだもん、とんでもないよ。
だからかな、他の勇者に対しても一瞬警戒はするんだけど、実際に戦うとすっごく弱くて驚いちゃう。これは〝勇者=レイジ〟って考えちゃう弊害だね。
で、この只人族の青年であるショージ君も勇者、しかも日本から召喚されてた。
レイジとの共通点は多いんだけど差は歴然、正直言って雑魚なんだよねぇ。魔人には進化してるようだけど、同じく魔人に進化してるアリサと比べても弱い。まぁアリサは魔人なんて軽く超える強さになってるけど……。
一緒に居る猫族のアンジーさんと、犬族のミスト君も進化してるようで。
ただなぁ、こっちもヨワヨワなんだよねぇ。カイルの従者であるルーヴィちゃんよりも弱い。まぁあの子はカイルが直接鍛えてる恩恵もあるとは思うけど。
だけど三人とも素質は悪くなさそうだから、ちゃんとした師匠が付けばそれなりになるんじゃないかな?
馬車に乗ること数分、目的のケーキ屋さんへ到着。
うん、見るからに貴族向けって感じの高級なお店だね。建物も大きいし、周囲の装飾品もなかなか手の凝った感じでお高そう。
中に入って真っ先に気が付くのはお客の多さ。食べ放題の時間だからか学生っぽい子もいるけど、お客の大半は貴族様だねぇ。
わたしたちは案内されたテーブルに着き、食べ放題コースを全員分注文、それと単品で噂の桃のタルトも全員分お願いする。
やはり桃のタルトは大人気のようで売り切れ間近だった。わたしたちの注文で今日の分は終わったみたい、危なかったわぁ。
そういえば案内されるとき、わたしが小精霊の子たちを連れ添ってるのに店員さんがすっごい驚いてたね。
わたしとしてはよくある光景なんだけど、この国だとどうしても目立っちゃう。だけど自重はしません! この子たちが顕現したいって思うならその意思を優先したいもんね。
せっかくだし、タルトが来るまで食べ放題以外のメニューも確認してみる。
ふむふむ、これはなかなか期待できそう。商品の写真と使ってる材料、それにどういったケーキなのか説明も書いてあって親切。こういう気配りができるお店、この国だと貴重です!
うん、お値段は少し高めだね。
学園近くの喫茶店にあるショートケーキは銀貨4枚、でもこのお店のショートケーキは銀貨20枚。
しかも素材によって値段が異なるようで、一番高いショートケーキは金貨1枚というお値段。いかにも貴族向けって感じだねぇ。
でも気になるのでこれも全員分注文、ミスト君たちは驚いたけど気にしない。値段なんて関係ない、食べたい物を食べるだけなのだ!
「さてと、なんか三人とも話したいことがあるような顔だけど、何かな?」
「話したいって言うか、感謝と謝罪を伝えたいだけなんだ」
「感謝と謝罪? いったいどういうこと?」
三人ともちょっと真面目な顔をしてるけど、心当たりが無いんだよねぇ。覚えてないって方が正しいのかな?
未だに三人とどう会ってどういう行動したのか、全然思い出せない。アリサを助けるために兵士を倒しまくったり、ノーライフキングに殲滅させちゃったり、勇者を語るゴミ虫をズバッと切ったりしたのは覚えてるんだけどなぁ。
そんな困った状況を察したのか、ショージ君が説明してくれた。
どうやらわたしが兵士を倒したおかげで生き延びることができ、大きな傷を負うことも無かったみたい。なので感謝を伝えたかったようだけど、わたしはお母様に抱えられて転移したので伝え損ねたみたい。なるほどね~。
そして謝罪。
命の恩人とも言えるわたしに対し、無慈悲に神聖王国の兵士を倒すだけでなく、ノーライフキングたちを使って殲滅したことで、わたしに対して思いっきり恐怖を感じたみたい。
三人はそれでも感謝の方が強かったようだけど、一緒に居た面子の何人かは恐怖のあまり恩を仇で返す行為に走った。その一つがわたしの情報を神聖王国に売ったことみたいね。
でもなぁ
「んー、正直どっちもいらないかな。わたしはアリサのためにいろいろしただけ、やりたいからやった結果なんだよ。だから別に気にしなくていいよ~」
「だ、だけど」
「気にしない気にしない。おっと来たようだね、さぁさぁお待ちかねのタルトさんですよー」
納得してないようだけど華麗にスルー、変に恩を感じられても困るだけだもん。
それに、わたしは目の前にある桃のタルトの方が重要なのだ!
うん、見るからにおいしそうですね。果汁とかで色付けしてるようで、白色・黄色・桃色の三色に染められた桃がきれい。せっかくなので写真を撮っておきましょう、パシャリっと。
ではではナイフを入れてっと、おぉー生地はさっくりしていて中には桃のクリームがぎっしり。これはたまりませんな!
「ではでは、いっただきまーす。あーむっ」
もぐもぐ
うん、超おいしい! 小さくカットした桃の果肉をクリームに混ぜてるのがいいアクセントですね。
それにこの桃、糖度が高い品種を厳選してるね。しかも1種類だけでなく、3種類の桃を組み合わせて全体のバランスを完璧な状態にしている。
果肉だけでなく、皮の使い方も面白いね。
細かく刻んだものを桃の果汁で煮たのかな? それを乾燥させてチップ状にしたものを表面にまぶしてる。桃尽くしって感じで大満足だわぁ。
最初のタルトがこの完成度なら、他のケーキもすっごい期待できるね!
よーっし、ちょっと本気出して食べまくっちゃおー。
ケーキの魅力は強かった




