11話 精霊神様?お友達なので呼べますよ
お空の旅からさくっと帰還。街にある自然公園の噴水前に到着です。人はいるけどこの国の人だけだからよし。
「はぁはぁ、ちょ、ちょっと、ユキ様、あの、心臓に悪い、です」
そしてわたしは現在アリサに絶賛睨まれ中という。うん、反省しているよ、上昇スピード早すぎたからね!
「いえ、高速で空を飛ぶ方に、です……」
な、なんだってー!? というかさらりと心読まれた? う~ん、わたしって考えてることが顔に出ちゃうのかなぁ。
「とりあえず傷治しちゃうね~、体ペタペタ触るけど我慢してね」
「ふぅ、わかりました、お願いします」
ぺこりと頭下げられちゃった、そこまで気にしなくてもいいのに。
まずはアリサの魔力の流れや魔石の状態、あとどこに傷があるか把握しないと。お母様みたいに見ればわかるようになれば、こうペタペタ触らなくても済むんだけどなぁ。
「あの、少し質問してもよろしいでしょうか」
「ぺたぺた、いいよ~」
「その治療術は触らないとダメなのでしょうか? 神聖王国の治療魔法だと、触ることはないと記憶してましたので」
すごい気になっているようね。たしかに触らないで治療できるのに触る意味は何なんだって不思議がるのも当然か。
「簡単に言っちゃうと傷跡を残さないための確認だね。傷の位置とか魔力の流れとかいろいろ確認しているんだ。お父様やお母様、シズクさんとかなら触らなくても把握できるけどねー」
「そうなんですか。私の知っている魔法や術と違うところが多いのですね」
言われてみれば前世とも違う、それどころか術式や概念の使い方まで異なる全くの別物だし。
だからかな、前世で使っていた魔法や術のほとんどが使用できない、使えても思った通りの効果じゃなかったりする。
最初に使った封印術、あれも狙った効果と違ったものだったし。知識は呼び出せたけど、魔力や技術が封印どころか消失してるとはねぇ。
まぁ消失していても特に問題はない。それに消失はわたしの体、それも魔石が前世の力を取り込むのを拒否した結果もあるみたいだしねぇ。
転生したとはいえわたしの力だったのは事実なのに、それを拒否するとかちょっとおもしろいわ。
さらに知識の方も正直微妙なんだよなぁ。
魔法や術に限らず科学なんかもこっちの世界で教わってることの方がレベル高いし。転生初日に苦労して封印した意味がほんとないわ。
とはいえ前世の魔法も使えれば便利かもしれないし、いつか変換術を作ってみるのはアリかな。わたしが使えるかは微妙だけど……。
しかしアリサの傷を確認しているけど、結構えぐいな。いつも素肌あまり見せない服装だったのは無数にある傷跡を少しでも隠すためでもあったのね。
しかも最悪なことに傷跡の多くは普通に治せば跡が残らなかったもの。それなのにわざわざ跡が残るよう傷を治しているのが嫌でもわかる。
奴隷を人として思っていない国だとよくある状態なんだろうけど、実際に見ると結構くるなぁ……
「よっし把握できた、それじゃぜーんぶ治しちゃうね~」
お約束だけど、こういうのはさくっと治すに限るよね。傷跡どころかシミすらない綺麗な体にしてあげよう! 友達のためなら出し惜しみなしじゃー。
「ねーアリサ、これから起きることは絶対に神聖王国の人に言わないって約束できる?」
「それほど重要なことなのですね。わかりました、命に代えましても口外いたしません」
重いなぁ、命かけるほど……なのかな? 確かに今から使うのってお母様やわたしの様な一部の人しか使えないけど、まぁいいや。
「ならよし。それじゃまずは術式展開、隔離結界発動!」
術札が光り結界が展開される、よしよし成功成功。これで外から見えない隔離空間が完成って、あれ、アリサがびっくりして固まっている。
まぁ確かに結界の内部から見る外って歪んでるけど、そこまで驚くかな? もっと大げさな陣を構築しないと結界は発動できないとか思ってたのかしら。
「あ、あの、ユキ様、簡単に発動されましたが、これって相当強い結界なのでは」
「ん~、エンシェントドラゴンのブレス程度なら100発同時でも耐えれるかな。100発を100回繰り返せば、さすがに亀裂くらいは入ると思うけど」
あ、またアリサが固まってる。う~ん、これは想像を超える堅さってことかな?
だけどなぁ、そもそもエンシェントドラゴンは現存するドラゴン系の魔物の最強のやつではあるけど、わたしの感覚だと『ブレスが使えるただのトカゲ』としか思えないくらい雑魚なんだよなぁ。天魔に進化している一部の種族はそれだけ化け物っていうのもあるけど。
「次は尻尾の毛を1本プチっと。それを術札に結んで、これで準備万端。それじゃいっくよー」
「尻尾の毛をって、ユキ様、せっかく隠していた耳と尻尾……、あ、尻尾が3本も。それに輝いていてとっても綺麗……」
「術式展開、我が前に顕現せよ、水の精霊神!」
「えっ!? 精霊神って、まさか!?」
地面に大きな魔法陣が描かれる。魔方陣は強い青色の光を発し、その光に導かれるように魔法陣の上に巨大な水柱が姿を現わす。よしよし、いつも通りの流れだから大成功だね。
しっかし毎度思うけど、前世の苦労はホントなんだったんだろうねぇ。
前世だってそれなりの術者だったけど、精霊神どころかドラゴン系の魔物の複数召喚すらできないのをすごい悩んでたのに、今のわたしってお茶の子さいさいの片手間でできちゃうんだもの。
前世の私に謝れ今のわたし、って思ったり思わなかったり。
お、そうこうしてると水柱の中から出てくる水の精霊神のおねーさん、綺麗な青い髪が特徴ですね。
『お呼びでしょうか、ユキ様』
「来てくれてありがとー。急に呼んじゃったけど大丈夫?」
『大丈夫ですわ。もともと精霊界は時間の流れも異なりますので、お気遣いありがとうですわ』
そう言いながらさらっと抱っこされる。はたから見たらこれ、近所のお姉さんに抱っこされている子供の図だよね。
あらら、まーたアリサが固まってる。よく固まるなぁ。
「お願いしたいことがあるんだけど、この子、アリサの傷を全部治してもらいたいんだ」
『体の傷だけよいのです? 心の傷もありましたら記憶の操作で消せますわ。闇の精霊神ほどではないですが、必要でしたら別の記憶を植え付けることもできますわ』
「体だけでお願いね。さすがに記憶を消したりいじるのはいろいろとまずいから」
そうだった、基本的に精霊神はぶっ飛んでいるの忘れてた。
記憶を消すとかいじるとか、とんでもない事なのに平然とやろうとするとかね。しかも慈悲とか癒しの象徴の水の精霊神が言っちゃうとかねぇ。
あらら、今の記憶を消す発言でアリサがびくびくしちゃった。考慮してなかったけど、でも今の発言はわたしのせいじゃないよ!
『わかりましたわ。では』
そう言ってアリサの頭に手をのせる。するとアリサの体が青色に強く光りだす、水を司る精霊神だから青色なわけだね。
しかし治癒状態みてると……ほんとやるせない、光が強いってことはそれだけ傷が多いってことだから。わたしとそこまで歳が変わらないのに、今までどんな生活を強いられていたんだろう……。
『終わりましたわ。これでこの子の傷はすべて消えました。内臓機能も治しておいたので健康体ですわ』
「ありがとー。それと後出しでごめんね、念のためアリサに再生術の付与もお願いしたいんだ」
『構いませんが、ワタシの術でも1ヶ月しか維持できませんがよろしいのです?』
「うん、お願い。ないよりはあった方がいいものだし、効果切れる前に再付与できるかもしれないしね」
たぶんまた傷付く可能性が高いんだよね。いつまでこの国に居れるかわからないけど、せめてその間はこういう救いがあってもいいんじゃないかなーと思うわけです。
『それじゃ付与しますわ』
「は~い」
「あ、あの、そんな」
『はい終わりましたわ』
「ありがとー」
アリサがオロオロしている間にさくっと終わり。水の精霊神もニコニコしているし、これは完璧だね。再生術との相性が悪い時は難しい顔するけど、この顔だと相性バッチりなのは間違いないわ。
『それではユキ様、またご用がありましたら遠慮なく呼んでくださいまし』
「は~い、またね~」
『ではでは』
手を振りながら水の精霊神の姿が薄くなり、そして消えていく。相変わらず幻想的だねぇ。
いやぁ無事終わってよかったよかった。治療に失敗する可能性はほとんど無かったけど、再生術の方は精霊神との相性の関係でやってみるまで成功するかはわからなかったからねぇ。
ただ……
「おーい、アリサ~、茫然としすぎだよ~。そんな超常現象にあったような顔してないで」
「いやいやいや、あのユキ様、あなたとんでもないんですが! 何ですか精霊神様って、再生術とか、もうわかんなぃぃぃぃぃぃぃぃ」
「ア、アリサ、落ち着いて、ちょ、そんな勢いよく揺らさないでぇぇぇぇぇぇ」
パニック状態のアリサに両肩がっしりつかまれ、そのまま前後に揺さぶられて頭がっくんがっくん、あうあうあう。だめ、なんだか、気持ち悪……
補足:
傷跡が残る治療というのは、早い話しょぼい回復魔法を何度もかけて治療する方法になります。
ケア〇ガとかベホ〇を使わずにケ〇ルやホ〇ミを繰り返し使って回復させた状態ですね。
ケア〇ガとかベホ〇であれば一回で完全回復できたのに、ケ〇ルやホ〇ミを繰り返したので再生が段階ごとにしか進まず、その結果が傷跡として残るという設定です。
なお、魔力の高い人がホ〇ミを使い「今のはベホ〇では無い、ホ〇ミだ」といった魔力任せの完全回復は可能です。