108話 お手伝いですよお手伝い
「今日の講義はこんなところかしら」
今日はフルーレ先生の授業をうけた。いつも通りわかりやすく、そして楽しい授業だね。
わたしたち以外にも一緒に受講している生徒は居るけど、フルーレ先生は明らかーにわたしたち優先に授業しちゃってるんだよね。良いのかな? って思うこともあるけど。
「そうそう、来週から少しだけ人が増えます。でも去年と同じように見込みがない子はすぐに去るので、皆さんはあまり気にしないでくださいね」
フルーレ先生が笑顔でさらっとそんなことを言う。
これはフルーレ先生の授業は一部の人しか受けられないどころか、受け続けるのすら難しいものになってるから。
実際、わたしたちと同じ時期から学んでいる人で残ってるのはごくわずか。カイルのようにうちの勉強を少しでも受けた人なら余裕だけど、普通の人には相当厳しいみたいなんだよねぇ。新しく入る人もどの程度残るのかしら?
「それとユキちゃんたちはちょっとだけ残ってもらえるかな? 少し手伝ってもらいたいことがあるの」
「は~い」
「ありがとね。それじゃ今日はおしまい、みんなお疲れ様」
そう言って解散となった。
さてさて、お手伝いって何をするんだろ?
「ユキちゃんたちに手伝ってもらいたいのは、これから始まる新入生と編入生の実技試験の判定の手伝いをお願いしたいの」
ほほう、実技試験の判定ですか。
って、あれ? 実技試験なんてあったんだ、知らなかったよ。
「そもそもなんだけど、ユキちゃんたちは筆記だけで十分だったけど、普通の子は術の使い方や精霊力も見ないと判断できないのよ」
「なーるほど。確かにうちの勉強に近いことをしてないと、筆記で満点どころか合格点を取るのさえ無理っぽいですもんね」
「そうなの。それに筆記が悪くても潜在能力が凄い子もいるかもしれないから、結局自分の目で見ないとダメな状況が毎年なんだよ。しかも今年は例年よりも受験する子が多くて、私だけじゃとても間に合わないの」
うわぁ、フルーレ先生がすっごい嫌な顔してるってことは相当めんどくさいのね。でもわたしたちが見てもいいのかな?
「でも先生、わたくしたちがそのような重要な役目をしてもよいのです? ユキさんと違い、わたくしたちは精霊についてまだまだですし」
「エレンちゃんの心配はもっともだね。でもね、ユキちゃんはもちろんだけど、エレンちゃんにアリサちゃん、レイジ君にノエルちゃんも相当な物なんだよ? 今まで私が教えた生徒の中でも上から数えたほうが早いくらい優秀なんだよ」
うん、エレンとレイジがすっごい驚いてるね。アリサとノエルはうちのメイドなだけあって納得してるけど。
だってそうだよね、わたしたちはお父様やお母様、シズクさんといった超一流の人たちに教わり、ここでも超一流のフルーレ先生に教わってるんだから当然だね。
それに精霊神は呼び出せないけど、中精霊までならみんなも呼び出せるようになってる。教えが良いのもあるけど、才能も十分あるってことだからなーにも心配いらないんだよねぇ。
「でも心配になる気持ちはもっともだから、ユキちゃんはアリサちゃんと、エレンちゃんはレイジ君とノエルちゃんと一緒に見てもらえるかな? もしも判定に迷うようなら、遠慮なく聞いてくれていいからね」
「わかりましたわ! 先生のためにわたくしたちも頑張って見せますわ!」
「ありがとね。もちろん今回の手伝いも評価に上乗せしておくからね。それじゃ見てもらいたい人だけど、これがその資料ね」
そう言ってフルーレ先生はわたしたちにプリントを渡してくれる。
ただこれ……まじ?
「えっと、もしかしてもしかすると、この人数が全員じゃなくてほんの一部なんですか?」
「そうなのよ……。同じような束があと100部ほどあってね、ほんと頭が痛いの。これでも絞ったみたいなんだけど、多すぎてほんと嫌になるわ」
フルーレ先生がわたしたちに助けを求めた理由がすっごいわかったわ。だってこの束だけでも100人近いってことは、合計で10000人は居るってことなんでしょ。普通にありえないわ……。
毎年多いみたいだけど今年は特に異常。そしてその原因はほかでもない、わたしたちのせいだったようで……。
フルーレ先生いわく、今まではわたしたちに配慮して編入生は最小限しか受け付けないようにしてたけど、ずっとそのままはさすがに無理だった。
初等部の期間は特別扱いしてきたけど、中等部になったからもういいでしょってなったらしい。
今まで制限されていたのが解禁され、さらに学園で目立つわたしたちが居るってことになれば試験を受ける人も増えるわけで。それにしても多すぎだけど。
とはいえ、学園側の言い分もすごいわかる。
わたしたちだけ普段から超特別扱いしてるのに、さらに編入の制限までかけちゃってたからねぇ。
しかも売りである精霊科の超美人エルフ先生の講座でやってるから、なおさら問題になってくるわけで。
まぁそもそもだけど、新規受講や編入の試験をしたとしても、その人たちが実際に受講できるかは別のお話。
フルーレ先生の判定基準を見る限り、1000人いても数人受かればいいってくらい狭き門。新入生であれば多少は緩くなるみたいだけど、受講し続けられるかは別問題だしねぇ。なかなかすごい学科です。
そんなこんなでフルーレ先生と一緒に試験会場に来た。
うわぁ、人の多さで会場内の温度が外よりもだいぶ高いよ。けっこう広い空間で魔道具による空調も効いてるのにこれとか、ほんと多すぎるわ。
試験を受ける人たちは大体100人くらいの塊で分けられてる。そして的となる計測器もそれぞれ配置されており、それを使って判断していけばいいと。
まぁフルーレ先生が計測値なんて見なくていいってぶっちゃけてたけど。
計測器は魔力や精霊力の強弱を測ることができる。でもそれはあくまで現状、もしくは使った術の威力のみ。
フルーレ先生が重視してるのはその人の持つ可能性。術を発動させるときの魔力の流れや保持の状態、あとは周囲にいる精霊との相性も見ないと意味がないんだよね。そこが精霊科の他の先生との考えの違いでもあるみたいだけど。
細かい注意点をフルーレ先生から聞いた後、わたしとアリサは担当するグループのとこに来た。
このグループは編入生のみで構成されてる。ぱっと見だけど只人族が多いのかな? 進化してる人もいるようだけど、天魔になってる人はいないみたい。
年代も様々、下はわたしと同じくらいで上はお爺さんまでいるね。
「はい、それじゃ試験をしまーす。あなたたちは順番にこの的へ〝自分が一番得意な術〟を放ってください。術が使えない人は武器を使った技でも構いません。何か質問ありますか~?」
って簡単に説明したら、おおぅ、なんか手を挙げる人がいっぱいなんだけど!?
「ねぇアリサ、わたしの説明なんかまずかった?」
「いえ、フルーレ先生に言われた通りなので何も問題なかったです。でもそうですね、しいて言うならば」
「言うならば?」
「お嬢様に見惚れてちゃんと聞いてなかった者が多かったです」
そっちかよ! アリサが割と真面目な顔して答えたけど、結局それかい! って、まさかこの挙手の奴らって……。
「編入すればお嬢さんと一緒に学べるんですか!?」
「結果次第では踏み込んだところも行けるのでしょうか!」
「メイドさんも一緒になりますか?」
「年上ですが、いいでしょうか!」
……何これ? いやほんと何これ? 質問ってそういう質問じゃねぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!! って思いっきり叫びたいわ。
とりあえずアリサに抱き着いておこう。ぎゅーっと
「あ、あのお嬢様、皆さん見ていますので」
「いやだってアリサ、明らかに今術装出そうとしてたでしょ? さすがにそれはダメだよ~?」
「わ、わかりました。ですので、その、あまり上目遣いでそのように可愛く言われますと、その」
照れてるアリサもかわいいなぁ。
そういえばわたしって日に日にアリサに対する独占欲が出てきちゃってるんだよねぇ。知らない人がアリサと話すだけでちょっとムッとしちゃうとか、わたしも相当だわ。思い詰めてバカな考えにならないようしっかりしないとだね。
とりあえずお前ら、じろじろ見てるんじゃないよ。アリサは見世物じゃ、え? かわいい女の子二人がいちゃついてるからどうしても見ちゃう? な、なるほど……。
ちなみに野郎だけでなく、レイジ君目当ての女子も試験を受けてます




