106話 終わったような終わってないよーな
なんかぼーっとする。
気が付いたら日付が変わってて、しかもお昼近くだし。寝すぎじゃないかしら?
とりあえず状態をって、まーた体が動かないんですけど!? まいったなぁ、二日連続とかちょっと落ち込むわ。
って、やばい! お母様が傍にいるよ。うぅ、ぜったいに昨日のこと怒られそう……。
「あらあら、ようやく起きたのね。さてさてユキちゃん、今の状態が分かるかしら?」
「えーっと、昨日また暴走しちゃって、そして今は体が動かないってとこまでは……」
お母様がにこやかに聞いてくるけど、ぜーったいに怒られる。
約束破って天衣使っちゃったし、人をゴミ扱いとかしちゃダメって言われてたのまでしちゃったし、うぅ、お尻叩きの刑になるのかなぁ……。
「やっぱり体が動かなくなっちゃったのね。後遺症とかは無さそうだけど、あまり無理をしちゃだめよ? ユキちゃんが元気じゃないと、お母さんたちが悲しくなっちゃうからね」
「ごめんなさい……」
「感情を完全に制御することはまだできないからしょうがないけど、なるべく制御できるようにこれからは気を付けるのよ?」
そう言ってお母様がやさしく撫でてくれる。
あれ? 怒られない? ただ心配してくれてるみたいで、なんか申し訳ない気分。だからかな、余計にすっごい反省しちゃう。
「そうそう、気にしてるだろうからあの後のことを教えてあげるわね。あの二人だけど、鬼族の老人はそのまま帰ったわ。ユキちゃんとの純粋な力比べは認めたけど、周囲を巻き込んでの戦いはしないように強く脅しておいたから、安心してね」
脅したって、またなんかすごそうな気が……。お母様のことだから、心が折れるくらい徹底的にやってそうだしなぁ。
正直あのジジイに挑まれても、倒せるか倒せないかで判断するならば、間違いなく倒せる。
だけどそれは現状のままだった場合で、あのジジイが天魔に進化したり、強力な魔石を手に入れたらわからない。ほんと厄介な存在だねぇ。
「元狐族の子は……おそらくユキちゃんに惚れちゃったわね」
「え!? なんでそうなったんですか?」
予想外の答えでほんと謎なんですけど。お母様も呆れたような顔してるってことは、想定外すぎる事態ってことだよね。圧倒的な力を見せつけられて惚れるとか、どんな変態よ。
「ユキちゃんの気持ちはよくわかるわ。おそらくだけど、彼は強い者に対する憧れがあったと思うのよ。力を奪われて弱い人族になった反動で憧れた可能性もあるけどね。そんな彼の前に圧倒的な強さを持った者が、しかもそれが可愛いユキちゃんだったから惚れちゃったのかもね」
「な、なるほど……。むぅ、厄介そうな気がする」
運命だなんだって勘違いしなければいいんだけど。そういうタイプってほんとめんどそうなんだもん。
あとは惚れたからって付きまとったりしないでくれるといいなぁ。たとえば偶然を装っていく先々で遭遇とか……うん、想像しただけでも嫌すぎるわ。
そもそもカイルですら結構うんざりすることがあるのに、他の奴まで言寄ってきたらノイローゼになりそう。
もしもそうなったら、お母様に相談してどうにかしてもらおうかな?
説明が終わったところで、お母様に抱っこされて居間に。
こうなったことで予想はしてたけど、居間に入ったとたんアリサたちに泣きつかれた。ちょっと暴走しただけなのに心配しすぎだなぁ。
みんなが落ち着くのを待った後、シズクさんが作ってくれた朝ごはん、時間的には昼ごはんかな? 食べながら情報共有。といっても気になってるのはわたしの体の状態だけっぽいね。
お母様が細かく見てくれたけど、天衣を全開で発動させた反動は相当だった。
不完全な魔石では耐えきれないほどの負荷をかけたようで、魔石にひびが入ったみたい。それをお母様が話したら、アリサが絶望したような顔になって、逆に心配しちゃったよ。
アリサとしては、あそこで自分が掠り傷を負わなければこうはならなかった、って罪悪感を感じてるみたいね。
ただなぁ、わたしはそんなこと思ってもいないんだけどなぁ。むしろ感情を抑えられなかったのが恥ずかしいって気持ちのほうが強いし。
そもそも魔石は完全に破壊されなければいずれ治ってくれる。それに無理なことをしなければこれ以上酷くもならない。
まぁ完治まではさらに時間がかかるようになっちゃったけど、これは自業自得なのでしょうがないわ。
無茶をした代償は他にもある。
わたしの場合、天衣を顕現させる能力を失った。天衣の顕現だけで済んでよかった気はするけど、切り札を失ったことでもあるんだよなぁ。
お母様が調べたところ、天衣にわたしの魔石が耐えられない状態となってるらしく、顕現させようとしても魔石が拒否反応を起こして魔力を阻害するようになったと。わたしの体の一部なのに制御できないのが厄介だねぇ。
今の状態でもしも強制的に天衣を顕現させた場合、間違いなくわたしの魔石は砕けるという恐ろしいことまで聞いた。想像以上に深刻だったわ。
でも、魔石が修復されたらまた天衣を顕現できるようになるのと、今のわたしには精霊神衣もあるから悲観はしてない。だけど次が無いのは事実だから、ちゃんとしないとダメだねぇ。
「それにしてもロベールでしたか? 彼は何者なんですの? 元狐族と言われてもなんだかわかりませんわ」
「さらに勇者なんですよねー? レイジ君が勇者としては異常で意味不明な存在なのはわかってますけど、それにしても弱すぎじゃないですかねー?」
「さらっとディスられた!? でもそうだね、この世界の勇者として見ても弱すぎるって僕も思ったかな」
確かに三人の言う通りなんだよねぇ。興味はないんだけど意味が分からない存在ってとこかな。まぁそれはあのジジイにも言えることなんだけど。
ノエルが言うようにレイジと比較するのは無理があるけど、あのハーレム勇者との比較ならわかりやすい。
それでわかるのが、あきらかにあのハーレム勇者よりも弱い。一般市民以上冒険者未満ってとこかしら?
「力を奪われるっていうのはそういうことなのよ。奪われた反動で狐族から人族に進化、もしくは退化した反動で勇者として覚醒したの。もう一度狐族に戻るには、狐族の力を何らかの方法で取り戻すか、新たな進化が必要になるの。まぁ彼は奪われる前も弱かったから、自業自得の結果なんじゃないかしら」
お母様が説明してくれたけど、確かに自業自得の結果な気がするなぁ。
おそらく力比べかなんかであのジジイに挑んだ結果が今の状況なんでしょ? あのジジイは確かにヤバい感じだけど、弱者にまで無差別に挑むような戦闘狂には見えなかったし。
うん、やっぱり重要じゃないどうでもいいバカな人物だね! お食事券の人のことはもう忘れておこう。
さてと、気持ちを切り替えて次は何を食べ
チリンチリン
来客を知らせるベル(当然魔道具)が鳴った。
こんな時間に誰かな? 荷物の配達とかは頼んでないし、う~ん、なんかイヤーな予感がする。まさかお食事券の人が来たとかじゃないよねぇ……。
「誰でしょうか? 見てきますね」
「あ、私も行きますよー先輩。もしかしたらこちらにエレン様とレイジ君が住むので、二人の荷物を運んできたエレン様の実家の方かもしれないですしー」
アリサとノエルの二人が玄関に向かった。
ん~、やっぱ防御を兼ねての探知魔道具は常時起動した方がいいかなぁ。無いとは思うけど、来客がどこかの刺客だった場合も考慮した方が安全だろうし。過剰防衛にはなるけど、なんかいろいろと心配になっちゃうんだよねぇ。
それにしてもほんと誰なんだろ。ノエルの言った通りエレンの実家のって、おや? なんかアリサが大声で叫んでる?
『さっさとお引き取りください偽狐』
『そこをなんとか!』
『くどいです! 引かないというのであれば敵とみなし排除します!』
『ちょ、先輩!? ここで術装顕現させるのはまずいです! って、なんでお前は勝手に入ろうとしてるんですかー!』
……頭が痛くなってきた。当たらなくてもいい予感が大的中とかほんと笑えない。
「シズクさん、まーたアリサが過剰防衛モードだからちょっとお願い」
「畏まりました。それとデザートはどうしますか?」
「バカみたいに甘いケーキでお願い。もうね、いろいろと逃げたくなってきたよ……」
なんでわたしってこういうトラブルばっかりなのかなぁ……。
これで第3章は終わり、次回から第4章となります。
何となく入学編で終わった感じですが、学園内の行事とかは次章以降に持ち越しです(書く予定はあり)
4章も好き勝手に書いていきますが、引き続きお読みいただけたら幸いです。




