103話 謎の助っ人さん
ハーレム勇者君が助っ人を呼んだけど、どんな奴が来るんだろ。
でもさぁ、途中から呼ぶくらいなら始めから呼んでおきなさいよね。おかげで無駄な待機時間が発生してるし。しかもわたしたちまで配信されてるからイチャイチャできないじゃない!
コミ虫のせいで順調に進まないのって、結構ストレスになるなぁ。
「どうやら来たみたいですよ。一人だけのようですが、なんでしょうか? 不気味な感じがするというか」
「どらどら」
せっかくなのでアリサだけに周囲探知をしてもらっていた。わたしたちの中で一番劣ってのはアリサだから、ちょっとでも鍛えないとね。
どんな能力でも使い続けなければ成長しない。逆に使い続ければ進化の状態に関係なく成長することができる。
そして成長した分は進化後に当然引き継がれるし、強化されることもある。
もちろんアリサは進化による強化とか気にせず、常に成長できるよう頑張っているとってもすごい子。そのことを知ってるからかな、進化後のアリサがすっごく楽しみなんだよねぇ。早く進化してもらいたいなぁ。
それはさておき、わたしも探知してみる。
……確かに表現しにくいけど嫌な感じがする。強いか弱いかって言ったら断然弱いんだけど、調べれば調べるほど気持ち悪い。一体何者なんだろ……。
しばらくすると一人の老人が転移門のあるこの部屋に入ってきた。
70代くらいの鬼族、眼帯をしているから魔眼持ちかしら? 歳の割に筋肉質な体をしてて、腰には使い込んだ刀を差してる。おそらく刀を用いた近接主体で戦うんだろうね。
でもなぁ、実際に見ても強そうには思えない。なんだけど、それとは真逆ですごい嫌な感じがする。気持ち悪いのも増してるし、警戒した方がよさそうね。
「狐と狼、そっちは半竜か。それに人間の男と……あの女はなんだ? まぁいい、こいつらなら我の獲物として十分だな」
そう言って舐めるようにわたしたちを物色してきた。控えめに言ってすっごく気持ち悪いです!
それにしても、アリサを見たときの反応が気になる。もしかしてわたしが魔石をあげたせいで只人じゃない別の種族になっちゃったのかな? ちょっとだけ心配。
「まずは貴様らの中で一番強いお前から……なんだ?」
『なんだ? じゃねーよ! 着いたのなら早く来てくれ、こっちは急いでるんだからな』
わたしに挑んでくるかなぁって思ってたら、ジジイが電話で早く来るように催促されたわ。いきなり戦うは回避できたようでなにより。どんな能力を持ってるかなど、いろいろと調べておきたいしね。
ジジイはしぶしぶって感じで転移門に入っていき、ハーレム勇者と合流した。さて、どんな実力か見せてもらおうかしら。
『雑魚ばかりだな。我を呼ぶからには猛者が多いと思っていたのだが、拍子抜けしたぞ』
『アンタにとっては雑魚かもしれないが、オレ達には脅威なんだよ! 報酬は弾むからボスの撃破まで頼むぞ』
『報酬か、ならば我はあの狐と戦い、喰らうのを望む。お前の事だ、賭けに勝ったらあの狐を娶る気なんだろ? ならば我が喰らった後でもよかろう』
『まぁいいだろ。ならさっさと頼むぜ?』
無茶苦茶なこと言ってるなぁ、しかも食べるとか物騒だよ! まぁ捕らぬ狸の皮算用って感じだけど。
さてさて、ジジイの戦いを見て……あれ? ジジイの力がさっきまでとは全然違う。能力を抑えたとか隠してたとかそういうものじゃない、まるっきり別物になってる。しかもどこかで知ってる力の流れなんだよなぁ。
「むぅ、なぜあのご老人はわたくしたち竜族の魔力を持っているのです? 鬼族のはずですのに」
エレンが困惑した顔をしてるけど、なるほど知ってるわけだよ。模擬戦でエレンが使う竜族特有の魔力を何度も味わってるからなぁ。
というかあのジジイ、竜族だけじゃなくて他の種族の力もあるような。
……あぁそういうこと。ジジイが刀を手に魔物を簡単に倒してるけど、倒した後の光景を見て納得した。たしかに『食べてる』。なるほど、こういうわけね。
異なる種族の力を得ること自体は可能、その方法は主に二つある。
一つは魔石に蓄えられている魔力を吸収すること。
でも吸収する場合、魔石の魔力はただの力の塊に変化してしまうので、魔石の持ち主の力や魔法、術などを完全に再現することができない。あくまでも自己の強化に近い方法だね。
もう一つは魔石を『食べる』こと。
この方法であれば魔石をそのまま取り込めるので、魔石の持ち主の力や魔法なんかを使いこなせるようになる。ジジイのように鬼族でありながら竜族の力を使うのがまさにこれだね。
問題もある。どちらも生きた魔石に対して行うので、生きたまま取り出す、もしくは死後すぐに取り出さないといけない。
人と魔物の違いもここにある。
人は死後一定時間たつと魔石は力を失うけど、魔物の魔石は死後もその力を維持し続ける。この特性から、魔道具の材料として魔物の魔石を使うことが多い。
それに人は魔物の魔石は食べたところで力を得ることはできない。これは人と魔物は相容れない異なる存在だから。
でも魔物側は違って、人だろうが魔物だろうがなんでも取り込む厄介な性質を持っている。魔物が脅威になる理由の一つでもあるね。
そんな人と魔物の違いだけど、人でありながら魔物の魔石を取り込める特異体質の者が生まれることがある。
魔物の魔石を取り込むだけなら問題はない。だけど特異体質の者のほぼ全員が異常者なんだよね。
魔物同様に凶悪で残忍な者もいれば、自分を傷つけることに喜びを感じる変態、衣食住どころか睡眠まで捨て去って戦い続ける戦闘狂までいる。
そしてこのジジイもそんな特異体質の一人と。倒した魔物の魔石を食べた後、わずかだけど魔物特有の魔力が付与されたように見えたし。
でも残忍性と戦闘狂の面が色濃いけど、異常者って言うほどじゃない。まともな分、さらに注意した方がいいわね。
「ということは、あのご老人は竜族の魔石を食べたことがあるのです?」
「そうなるね。それが生きていた竜族なのか、死んだ竜族から急いで取り出したのかはわからないけど。さっきわたしのことを『喰らう』とか言ってたけど、あれはわたしの魔石取り出して食べるって意味。実際にそんなことになったら、あのジジイはわたしの月華まで使えるようになりそうだけど」
術装は魔石に宿ってるからなぁ。魔石をそのまま取り込まれちゃったら、当然術装も取り込まれるわけだし。
まぁジジイの装備を見る限り、今まで術装持ちの魔石を食べた様子はないね。術装まで持ってたら危険度マシマシだったよ。
「てかレイジ、あのジジイが来てから顔が青くなってるけど、どうかしたの?」
エレンは竜族の力うんぬんで困惑してただけで青くはなってなかったし、ノエルも平常運転でのんびり給仕をしてる。アリサは今からでもあのジジイを殺りに行こうって感じの平常運転なので、いつも通りわたしが抱きついてなだめてる。
そんな中、レイジだけ妙に青くなってるのがどうしても気になった。
「あ、あぁ。そうだね、話しておいた方がいいか。僕は日本に居たとき剣道を習っていたんだけど、見間違いでなければ彼は道場の先輩なんだ。僕の一つか二つ上のはずなんだけど、なんで鬼族の老人なのか分からない。何より優しい先輩だったのに、性格が全く違って正直こんがらがってる」
「なるほどね。んー、これは仮説だけど――」
異世界から転生召喚された者には転生ボーナスが与えられる。
この転生ボーナスは神様ってやつが直接与えに来る場合と、知らぬ間に会得する場合の二種類あるけど、まぁこれは正直どっちでもいい。
あのジジイは転生ボーナスとして魔石を食べることができる能力と、強い鬼族の体を得たと考えられる。ジジイが望んで得た能力かはわからないけど。
鬼族となり強くなったジジイは魔物を倒して魔石を食べたと思う。
でも魔物の魔石を食べるということは、少なからず魔物の意識も取り込むということ。性格が昔と違うのは、今まで取り込んだ魔物の魔石によって変化した結果と思われる。
そしておそらく、召喚されたのは何十年、もしかしたら何百年も前。
そもそも転生召喚は時間の概念が異なる。召喚主の条件に合った対象を、時代や時間を無視して召喚する儀式なので、大昔の人を呼び出したり、未来の人を呼び出すこともある。
変わったところでは召喚保存の陣がある。
これは仮に召喚陣を今起動しても発動せず、一定の期間が経つまで召喚が発動しないという特殊な物。
召喚対象は初回起動時に指定するので、途中で対象を変更することはできないという欠陥品だけど、転生ボーナスは強力なものになる利点がある。
この召喚保存で召喚される者は、初回起動時から召喚時までの記憶や能力を受け継い召喚される。
しかも〝保存〟の効果で、18歳の人が100年後に召喚された場合、118歳の肉体ではなく100年間の知識と経験を得た18歳の体で召喚される。1年の日数に差異があっても、なぜか同じ1年なのは不思議だけど。
で、このジジイは魔石の吸収を相当繰り返してるようだし、長い時間この世界にいるは間違いないね。
おそらくレイジに近い年齢で召喚された後、この世界の魔物とかと戦い続けてきたんだろう。それこそレイジのことをすっかり忘れるくらいの長い時間、かな。
そもそもわたしが召喚主だった場合、わざわざジジイを召喚なんてしない。
どうしてもジジイの知識や技術が欲しいのなら、それこそ召喚保存の陣を使って若い体で召喚するよ。
「なるほど。でもそっか、僕の知ってる先輩じゃなくなってるかもしれないのか」
「気になるなら後で話してみたら? あのジジイが完全に敵に回らない可能性があるならなんでも手伝うよー」
どうもあのジジイが完全に敵に回るとマズイ気がするんだよね。
それこそ未来で経験した結末と同じになりそうな、そんな予感。ここで完全に倒すか、取り込むかのどっちかはした方がよさそうだわ。
ちなみに魔石は揶揄ではなく、バリバリと本当に食べてます




