1話 勇者との最初で最後の戦い
ただの転生モノです。
主人公が最強ではないですし、TS要素は薄め、男キャラも出ます
※主人公と男がくっつく予定は今のところなし
好き勝手にだらだら書いているので、あわないなーと感じた方はそっと閉じるかブラバをお願いします。
今とは違う別の時間、別の世界。ある男の人生が今終わろうとしていた。
「ったく、こっちは四人なのになんてしぶとさだよ」
そう愚痴っているのは折れた槍を杖にして倒れまいとしている戦士風の女。鎧は破損がひどくほぼ形を成していない。全身には無数の傷があり出血をしているが戦意は喪失していないようだ。
「せ、拙者、これ以上は立つことすら……」
壁に寄りかかり意識を失いかけている侍風の男。腹部には大きく裂けた傷があり、そこからは今も大量に血を流している。見るからに致命傷、このまま放置すれば確実に出血死するだろう。
「げふぉ、ちくしょう、こんなげふぉげふぉ」
大の字に倒れ口から血を何度も吐き出しているのは軍隊風の男だ。重火器を使用していたがその多くは破壊した。撃たれた弾丸を全て弾き返し、逆に体中ハチの巣にした結果が今の状態だ。この男もいずれ死ぬだろう。
「はぁはぁ、でも、これで君ももう戦えないだろう。おとなしく降伏してくれ」
そしてこの学生風の男、四人のリーダーだ。傷は多いが致命傷は与えることができなかった。鎧も多少は破壊したがいまだに金の輝きを放っている。厄介なビーム状の剣と盾には傷を付けることすらできなかったが……。
「ふっ、勇者四人で私一人倒せないとはな。ここまで手加減されるとは、恐れいったよ」
対する私は皮肉を言うのが精一杯だ。倒されずに勇者二人を戦闘不能にしたことは奇跡かもしれない。その代償としてこちらも相当なダメージを負うことになってしまったが。特にダメージが大きいのは潰された右目と、肩から切り落とされた左腕か。出血も酷く、立っている事すら厳しい状態、ここから挽回するのはさすがに不可能か。
だが目的はほぼ達成することができた。
私はこの勇者たちを倒すために戦っていたのではない。この場で足止めし、ある程度の時間を稼ぐために戦っていた。全ては私の後ろにある、別世界につながる転移門のためだ。これは人間以外の種族が別世界に避難するため作られた門、最後の希望と言うべきか。
この世界には人間以外の種族が多数いる。だがいつしか人間はそんな他種族を全て魔物として殲滅するようになった。
人間と他種族の争いが長く続いたが、人間側は最終兵器として異世界から勇者を召喚しだした。最終兵器というのは比喩ではなく、事実勇者は異常な強さを持っていた。そして勇者により人間以外の種族は瞬く間に数を減らしていき、絶滅した種族も多数存在する状態に陥った。
どうあがいても人間によって滅ぼされる運命の中、人々は異世界への転移門を開発した。異世界へ逃げ、そこで生き残るために。
転移門は複数作られ、その一つがこの砦にも配置された。私は門を守り、砦内の人々の無時に転移できるのを守護する任務に就いていたわけだが、まさか砦にまで勇者が直接攻めてくるとはな。
だが人々の転移は完了した、時間稼ぎとしては十分だろう。問題は他の砦だが、恐らく別の勇者が攻めている。転移前に潰された砦もあるだろうな。
「なんで君は僕たち四人を相手にここまで戦うことができたんだ」
学生勇者の疑問はもっともだ。確かに勇者に対抗できる種族はほぼいないのだから。だがせっかくだ、『次』のためにここは時間を稼がせてもらおうか。
「簡単なことだよ。私も召喚された者だからだ」
ダメージの影響で喋るのもきついが何とかごまかせる。勇者に察知されないように進めなければ。
「まってくれ、ということは君も勇者なのかい?」
「人間のみ守る戦闘兵器のことを指すなら、私は勇者ではないな」
私も人間ではあるが、決して勇者ではない。そもそもこの世界の勇者は人間以外を殺す兵器だ、そのような物と同じであってなるものか。
「人間のみ守る戦闘兵器? それってどういう――」
「だーもううっさい、そんなのどうでもいいでしょ! 敵は敵、あたしたちは勇者で正義、それだけだよ! それより早くしないと床で倒れてるあいつが死んじまうよ」
「そ、それもそうだね。うん、もう迷わない!」
学生勇者を揺さぶっていれば時間を稼げたんだが、この女、それに気が付いたか。もう少し時間を稼げれば確実だったんだが、やるしかないか。
「闇より顕現せよ! デスウォーリアー、スケルトンソルジャーズ召喚!」
残りの魔力の一部を使いデスウォーリアーを団長としたスケルトンソルジャーの軍団を召喚したが、思ったより魔力の消費が大きいな。
「クソっ、あの野郎まだ軍団召喚できる魔力を残していたのかい。あんたたち、覚悟を決めな!」
「これ以上は拙者、もう、無理で、ござ」
「げひゅー、げひゅー」
「……僕たちは勇者だ。こんなところで負けられない!」
勇者軍団はやる気のようだな、死にかけもいるが戦闘開始状態だ。
転移門の状態を見ると完全に停止している。転移中の者はいない、この砦で守護する任務は完了のようだな。
あとは仕上げか。
「その死にかけを連れて、この場から立ち去ることを私はお勧めするぞ、勇者諸君」
軍団との戦闘を始めた勇者を見ながらふらついた足で転移門へ近づく。個々の戦闘力では圧倒的に不利、長くはもたないな。
諦めてこのまま転移門を再稼働させ私も転移すれば助かるだろう。だがこのまま転移門を残せばどうなるか。こいつらは転移して追いかける可能性が高い。
転移されたらどうなるか、考えるまでもない。ならば転移させないためにはどうするか、答えは単純だ。
〝壊せばいい〟
残りの生命力をすべて魔力へ変換する。そしてその魔力を圧縮していく。
「な、何をする気だ!」
学生勇者が言葉をかけてくる。軍団を相手にしながらこちらも警戒してたか、腐っても勇者と呼ばれるだけはある。
「早く逃げた方がいいぞ。まもなくここら一帯は完全に吹き飛ばす。今のお前たちに耐えることは不可能だ」
巻き添えにしてもよかったんだがな。どこかで同じ人間というのが引っ掛かっているのか、わざわざ説明するなんてお笑いだ。
「な、そんなことをすれば君だって。教えてくれ、どうして自分の命を懸けてまでそんなことをするんだ!」
「そんなのどうでもいいでしょ! こいつの話がマジならばあたしたちもやばい!」
……急にどうしたんだ。
この学生勇者、急に主人公っぽい状態になっているのだが。最後の最後でそんな主人公ムーブされても私も困る。どうでもいいって女勇者がキレるのもわかる。
「で、でもせっかく分かり合えそうなんだ、このままじゃ!」
いや待ってくれ。いつどこで分かり合えそうな会話になったんだ? 完全に物語の主人公のような行動になってきたぞ。
まさか謎の力で生まれ変わり、そして再会でもするのか? 物語の主人公と敵対した悪の幹部が運命的に、みたいな話になるのか?
……私も何馬鹿なことを考えてるんだ。まぁ準備はできた。
「さて、さらばだ勇者諸君。さっさと脱出魔法を使うなりして逃げた方がいいぞ」
圧縮した魔力を一気に開放する。解放した魔力はその反動で大きな衝撃となる。
「だめだ! まだ君には聞きたいことが!」
「このバカ! いい加減にしろ! さっさと脱出するよ」
最後にこれもなんというかな。
魔力の衝撃はさらに強まり、そして大きな光を発し、熱となる。
自分の体が消えていくのがわかる。痛みなどはない、血を流しすぎたからマヒしているのだろう。
夢があった
心残りもあった
しかしそれももう終わり、決して叶えることはできない
ただ最後に転移した人々が平和に過ごせることを確認したかったものだ
そして私は死んだのだった