8.雪ウサギのいる村へ行こう
転生して9日目。
いつも通りギルド裏で素振りをして、パンを食べる。
今日は干した果物が少し入った大きいパンだ。銅貨1枚で買えるけど人気なので午前中に売り切れてしまう。
お腹を空かせたレッドがやってきて、欲しそうに見ていたので少し分けてあげた。
「なぁ、雪が降ってからだと行くのが大変だから早めに雪ウサギの村にいかねえか?」
「向こうでも仕事があるのかな?」
「冬の準備とやらで人手不足らしいぜ。ギルドもちゃんとある。それよりなにより素晴らしいのは朝晩の飯がタダなんだ。」
「なにそのおいしい話。」
名実ともに美味しい話だ。
僕と同じく、いやレッドはそれ以上に食事に苦労していた。
僕たちはすぐに準備した。冬物を大きい袋に詰め込み、急いで辻馬車にのった。
本当の名称はプロセ村というが、通称『雪ウサギ村』なんだそうだ。
スノードロップを加工すると宝石のようにキラキラするので、貴族のアクセサリーに人気なんだとか。
村までは何の魔獣もでなくて安全だった。
リリーシュのときが異常だったんだな。
それにしても尻が痛い。雪があるとこれに寒さが加わるなんて最低だな。
◇
何度か馬を休めるための休憩をとりつつ、村に到着。
『ようこそ ゆきうさぎ村へ』
大々的に書いてあるアーチ状の看板をくぐってギルドへいく。
雪が降るまでの仕事として僕は力があるので腐葉土作りの手伝いに、レッドは屋根の修理をすることになった。
子供たちが集めてきた枯葉を穴に落としてぎゅうぎゅう踏みつける。
重労働だ。
大人たちにすごく助かるとほめられた。照れくさい。
お風呂はやっぱりサウナのようだ。
き・きもちいい~
日向ぼっこする猫のように伸びをする。
レッドは火魔法は得意だが、小さな風魔法は苦手らしい。
毎回強すぎて吹き飛んでしまい、探すのが大変なんだそうだ。
僕の服と一緒に乾かしてあげたらすごく喜んでいた。
夕ご飯は大きな鍋に木の実や野菜がたくさん入ったスープを食べる。
パンは食べないらしい。
おかわりもできるので沢山食べる。お腹いっぱい食べる幸せをかみしめる。
板の間に毛皮を敷いて雑魚寝をするみたいだ。
部屋の中央に大きな陶器にはいった灰とその上に炭が置かれてる。
なんだっけこれ?火鉢とかいうやつかな?餅を焼いて食べたいな。
修学旅行のようで楽しいな。
枕投げして遊びたい。大人も寝てるからやらないけどね。
これから僕たちは薪割したり、お手伝いをしつつ雪が降るのを待つことになるのだ。
◇
10日目。
ついに転生してから2桁の日数が過ぎてしまった。
まじ生活がきつかった。
生きていくのに必死なうちに時が過ぎてしまった気がする。
いまでも必死なんだけど。
今日は山頂にある山小屋まで食料を運ぶ。
大人より倍運べるので重宝がられた。
雪が降るとここに待機してた人たちが物音を立てて雪ウサギを村のある麓まで追い込むのだそう。
左右にも人を配置して、煙を合図に範囲を狭めていくそうだ。
村のそばの空き地に追い込んで網で一網打尽にする。
逃げだすのもいるが、そこは初心者が追いかけて捕まえる。
ただ、そこは女性の冒険者のほうがいいそうだ。
男性がやると乱暴なのでスノードロップに細かい傷がつきやすいのだそう。
雪ウサギは数日に一回現れるので僕たち男性初心者は左右にいて追い込み担当になりそうだ。
◇
11日目。
ついに雪が降る。うっすらと近くの山も畑も家も白くなっている。
冒険者たちがそろそろ集まってきていた。
雪を歩く道具(日本で言うカンジキとかスノーシューズとか)の履きごごちを確認する。
「おいなんだよそれ。」
「なんだよって僕たち雪の山を歩くんだぞ。ないと困るぞ。」
「まじかよ。やべえ。この村でも売ってるのかな。」
レッドは雪山初めてみたいだ。僕もスキー教室で一回いったきりだけどね。
僕たちは一つしかない村の店に急いだ。
店ではたくさんの雪対策商品が並んでおり、冒険者たちがこぞって買い物をしていた。
あ、これゴールデン商会のだ。
リリーシュが運んでいたのはこれだったのかな。
街で売ってるのより高い値段で売られていた。当然か。
「あら、レッドじゃない?」
そういって現れたのは、以前壁に魔法をぶつけて練習していた銀色髪の子だ。
「なんだ。デイジーも来たのか。」
「そりゃそうよ。むしろこれが目当てで街にいたんだもの。」
どうやら二人は知り合いのようだ。彼女はデイジーというらしい。
「ショウも魔法練習全然こなかったわね。あ、この子は友達のケイトよ。」
「初めまして。ケイトです。よろしくです。」
赤っぽい髪がケイトウっぽい。銀色デイジーってあったかな?白っぽいからいいのか。
女性はかわいい花の名前が多いな。
リリーにデイジーにケイトか、そう思っていたら声に出していたらしい。
「あらやだ!かわいいだなんて。当然じゃない。」
「「当然なのかよ。」」僕たち二人は同時に突っ込んだ!
「何か言いたいことでもあるの?」
「「ありません。」」
「もちろんそうよね?フフフ。」といいつつバシバシたたかれた。地味に痛い。
「おい、ケイトがあきれてるぞ。」
「そんなことないわよ。じゃあまたあとでね。」
レッドの買い物をすませて仕事にいこうとしたら、今日からは雪ウサギの準備のため休みなんだそうだ。
大人の男性たちは山小屋に登って見張り、女性は壊れやすいカンジキもどきを作っていた。
昼はまた雪が降ってきた。
寒いのでサウナで温まってこよう。
サウナの脱衣所をあけると男の子が3人。よくみたら一人の小さい子を取り囲んでいる。
「おい、キノコのくせにまたここに来たのかよ。」
「山に帰れよ、キノコだろ。」
「そうだぞ、キノコ。」
キノコキノコうるさいな。お腹が減ってしまうじゃないか。
キノコと呼ばれた子も反撃する。
「僕の名前はキノコじゃないぞ!キノーデンだ。」
「寄ってたかって一人に何してるんだよ。」レッドが飛び出していった。
囲んでる偉そうな子が「なんだこいつ?」という顔をしている。
僕も小さい子のほうに歩いて行って3人をじっとみる。
「別ににたいしたことない。キノコっぽいから間違えただけだよ。」
「だったら謝ったらどうだ。」レッドが強気だ。
「ちょっと間違えただけじゃん。」
「そうだそうだ。」残りの二人も言い出した。
めんどくさくなったので僕が言った。
「名前を覚えられないからって適当に言ったらだめじゃん。ちゃんともう一度教えてもらえばいいんだよ。」
「「「「はああああ?」」」」
レッドはなぜかヒクヒクしながら「そうか。覚えられなかったんだ。ぷぷっ。」苦しそうにしてる。
「ちっ。もう行こうぜ。」3人はサウナを出て行ってしまった。
それからレッドと僕と小さい子3人でサウナにはいる。
「あの、さっきはありがとうございました。」丁寧にお礼を言ってきた。
「えーと・・・キノコじゃなくて名前なんだっけな?」
「ちょっ、ショウってマジ覚えてないのかよ。冗談かと思ったのに。最高だな。」笑い出すレッド。
「あ、いえその、名前は覚えにくいって言われるんです。なので『キノ』ってよんでください。」
キノ君か。キノコのキノ。これなら何とか覚えていられそうだ。
僕たち3人はサウナの中でお互い紹介しあい、キノ君は冒険者じゃないけれどお手伝いで参加してるそうだ。
キノ君は去年も参加していたそうで、山での歩き方を教えてもらうことになった。
僕は滑り方は教えてもらったけど雪山歩きはやったことないからちょうどよかった。
雪が小休止したのを見計らって僕たち二人はキノ君の指導の下、よろよろしながら雪の上を歩く。
キノ君はさくさく歩いてる。普通に歩くより速くないか?
道中何度も倒れつつ村の広場まで歩いてみた。
「ほら、あそこにもう雪ウサギが来てるよ。」
「どこ?どこにいる?」
「ほらその盛り上がったとこの右側。」
そういわれてみても雪しか見えない。
キノ君が何かを唱えた途端、そのあたりの雪が消えていき、地面が顔をだして雪ウサギの白い姿がみえた。
「「うわーちっさい。」」
ほぼコブシ大。街にいたスライム並みだ。
「雪ウサギは『精霊のつくりしもの』とも呼ばれているよ。触っただけで溶けてしまうんだ。
だから木の棒で突っつくと、ほら。」
雪ウサギは消えてしまった。溶けてしまったといったほうがいい。
触って消えるときに『スノードロップ』を落としていくことがあるのだという。
こんな繊細な生き物、乱暴にやったら傷ついてしまうだろう。
これは予想外に難しそうだな。
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