5.帰る場所
6日朝。
ベッドはすごく硬いけど疲れてるせいでよく眠れる。やっぱり外でごろ寝とは違う。
あたりまえのことをすごい発見のように感じるショウ。
今日は朝一番で薬草を採ってくる仕事をするつもりだ。
背負う麻袋とくるむための油紙などを貸してもらう。
いよいよEランク初仕事だ。
「もうすぐ雪が降りますので薬草もあまりないかもしれませんが、お気をつけて。」
ギルド受付嬢に送り出された。
やっぱり冬ってあるんだな。
街のすぐ外にある川原。
この川を下ってここに来たんだなーと感慨深いものがある。
覚えたてなので薬草の冊子で確認しながら探す。
それっぽいのを見つけてはがっかりする。
もうすぐ冬なのか枯れかかってるのしかない。
一本採ってみたがヘナヘナしててさすがにこれじゃあ商品にならないよな。
探しつつ川の上流へ歩いていく。
もう一つの目的であるタマちゃんに会いに来たのだ。
渓谷にある小さな祠。
危うく見過ごしてしまうような位置にある。
丸い石が相変わらず鎮座していた。
「タマちゃん、ただいま。」
石のタマがほんのり光りだして「おかえりなさい。」といった。
なんだか胸の奥がじわーっとくる。
この世界でお帰りなんて言ってくれる人なんていない。
この小さな祠でも、相手が石であってもやっぱりうれしい。
「ショウさん今までどうされてました?街はどうでしたしたか?体は壊されたりしてませんか?」
「うん。大丈夫だよ。」
まるで親子の会話だ。
手短に今までのことを話してから僕は聞きたいことを聞いてみた。
まずステータスについて。
「ゲームなどでは自分のステータスを見ることができるけどここではどうなんだろう?」
「現在ショウさんの状態は一般冒険者になってますので、一般人としてみることはできません。
レベルなどもありませんが、冒険者のランクが一応それに相当するのではないかと思われます。」
「ということは使える魔法も一般的な魔法のみなのか。」
「そうなります。ショウさんはこの世界に来て日が浅いのでまだ魔素の量が圧倒的に足りません。
ですのであちこちの見学をおすすめしたのです。この世界のものを沢山食べてくださいね。」
「魔素が体にたまれば魔法ももっと使えるようになるのか。」
「そのとおりです。ショウさんは魔素を体に貯める量はかなりあるのでちょっと大きな魔法も使えるようになりますよ。」
このあたりは冬が多めの寒い地域であることや、王都のほうが暖かいこと。
雪によって閉ざされてしまうのでしばらくは来ないほうがいいとか話した。
薬草の話をしたら大量に出してくれた。
瑞々しい今とったばかりのような薬草だらけだ。
「これを売って風邪ひかないようにちゃんと宿屋で休んでくださいね。」
僕はお礼をいって意外と重い薬草を持つ。
実家に帰ったような気持ちってこういう感じなんだろうな。
僕はずっとこの感覚を待っていたような気がする。なぜだろう。
春になったらまたこよう。
そう思いながらメルクル街に戻っていった。
夕方やっと街に到着。
ギルド倉庫に行って薬草を渡し番号札をもらう。この時期は少ないのでとても喜ばれた。
それを横目でみていた冒険者が話しかけてきた。
「よお新人。こんなにたくさんどこで採ってきたんだ。俺にも場所を教えてくれよ。」
「えっと、初めてだったのでうろうろして、あちこち少しずつ集めました。」
「あちこちだと?そのあちこち覚えてるだけでいいから、なあ?わかるだろ?」
僕の肩に腕を回しがっちりホールド。
女性ならうれしいが男性はお断りしたい。怖い。
どうしよう。困った。タマちゃんに貰ったなんて言えないしごまかさないと。
僕がオロオロしていたら太った人が話しかけてきた。
「そういう話は冒険者ではタブーではないのかね?
薬草は同じ場所に生えるから、君は探さなくてもそこにいくだけで薬草が手にはいる。
それではショウ君が損をしてしまうじゃないか。」
「ちっ。ゴールデン商会の知り合いかよ。」うるさい冒険者は慌ててギルドを出ていった。
「ショウ君も気を付けたほうがいいよ。どこで摘んだかとかそういう情報は話さなくていいんだ。」
「あ、はい。気を付けます。ありがとうございます。あの、ところでどちら様でしたっけ?」
「おや、やはり忘れていたか。ゴールデン商会のゴール・デン・レトリバーだよ。よろしくね。」
うっすらと初日を思い出す。そういえば女の子を助けたあと、ご両親が来て名前も聞いた気がする。
それにしても繋げたら『ゴールデンレトリバー』じゃないか。髪も金髪だしあの犬に似てる。
いやなんでこんな覚えやすそうな名前を忘れてるんだ。
そして食事の招待を断ってしまった人だ。失敗したな。
その話をしたらゴールさんは両手をふって気にしてないという。
「わたしのほうこそ駆け出し冒険者がいかに忙しいのか失念しており、失礼した。
時間があるときでも商会のほうに遊びに来てほしい。わたしがいないときもリリーシュがいるので是非に。」
名刺なるものを初めて渡された。これを見せればすぐに中に入れるらしい。
懐にすこし余裕ができたので食事付きのちょっとお高い宿屋に泊まる。
贅沢だとは思ったが、宿屋の食事ってどうなんだろうという単なる好奇心だ。
薄味だが具沢山シチューが出てきた。パンは黒っぽいがギルドのものより柔らかいので食べやすい。
熱々なのがいい。ふぅふぅ言いながら食べるのは初めてじゃないか。
しかも風呂場らしきものもある。
中に入ってみると板が張ってあって水場もある。お湯は購入しないともらえないところは同じ。
なぜか中央に火のついた炭もおいてある。
どうやらお風呂じゃなくてサウナが一般的らしい。
久しぶりに汗をかく。
ゆっくりしすぎて部屋に戻ったときはベッドに直行だ。
タマちゃんという帰る場所もあることがこんなに安心できるなんて。
帰る場所なんて日本では当たり前すぎて考えたこともなかったんだろうな。
おやすみなさい。
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