4.チュートリアルの街
女神フローリア様が最初に作った街。
貧乏Fクラスのたまり場であるギルド裏庭。
数人がお酒飲んだり、話し込んでいた。
その中で情報交換してるグループがあり、中に大人の人もいるんだなと思いつつ見ていた。
僕に気が付いた大人のおじさんが手招きしてる。
「見ない顔だが新人かね?」
「はい。Fランクのショウといいます。こんばんは。」
「ほお?子供だと思ったらきちんと挨拶できるんだな。」
おじさんはにやりと笑って、コップの飲み物をのんだ。お酒だろうか。
「わしは冒険者を引退したジョンじゃ。皆はジョン爺と呼んでいる。
ここにいるのはほとんど金のないFかEランクの駆け出しのものたちだ。
Dランクになればダンジョンもいけてそこそこ稼げるからここにはおらんな。」
「この近くにダンジョンってあるんですか?」
「この街には今はないが昔は初心者ダンジョンがあったんだぞ。
ダンジョンマスターと仲がよかった初代領主様がお願いして作ってもらったんだそうだ。」
ダンジョンマスターと仲が良かった?
あれ?人間と敵対するんじゃないのか。
「そう不思議そうな顔するでない。ダンジョンマスターとはいえ、いろいろいるからな。
人間からアイデアをもらって作るダンジョンマスターがいてもおかしくない。」
「初心者講習会で、ダンジョンコアが壊されるとダンジョンマスターも消えるって聞きました。」
「そのとおりだ。だからコアは壊さないように領主様と打ち合わせしたらしいな。
この街が、別名『チュートリアルの街』って呼ばれてるのもそのせいじゃな。」
「今はないってことはダンジョンマスターは死んでしまったんですか?」
爺さんの横にいた赤い髪の子が聞いた。
「その通りだ。王都の調子に乗った冒険者が来てコアを破壊してしまったんじゃ。
君たちは慢心してあのような冒険者にはならないでくれよ。」
そうなんだ。死んでしまったんだ。
冒険者って怖いんだな。
ショウはダンジョンマスターがかわいそうだと思った。
それが学生の甘っちょろい考えだったとしても、まだこの世界になじんだわけでもないのだ。
「初心者ダンジョンがなくなったとはいえ、同じ場所にまたダンジョンができることもあるそうだ。
できやすい地形ってのもあるのかもしれん。
君たちも頑張ってDランクになればここの街も卒業だ。
それまでに冒険者の悪意も学んでおくといい。今日はこれでおしまいだ。」
ジョン爺さんはそういって立ち上がり家に帰っていった。
集まっていた僕たちはうるさくならないよう小声で自己紹介した。
Fランクで冒険者登録して間もない子やEランクで街の仕事専門の子もいた。
ここがあるからスラムがないのかもしれないなと思いつつ、眠すぎてそのまま就寝。
話した内容はほとんど忘れてしまったが、やはりDは目指しておきたい。
じゃないとダンジョンには入れないからね。
タマちゃんはあの冷たい石の部屋でずっと一人寂しくいるのだろうか?
そんなことを一瞬思ったが、硬すぎる地面と寒さで何度も寝がえりしてるうち寝てしまった。
◇
4日目朝。
僕は急いでギルドに入って午前と午後の掃除を2つ受注する。
ギルド講習・魔法も受けたいけど、Eランクをとらないと受講すらできないことがわかったためだ。
午前中は前回と同じ落ち葉を掻き集める仕事。
ギルドに戻る暇がないので、屋台の肉まんらしきものをたべて温まり、午後も地下の掃除。
こぶし大のスライムが増えたので足で踏みつけて倒すのだそう。
木刀の練習になるからとバシバシつぶしていった。3回に1回は外すへたれっぷり。
それでも終わるころには全部一度で当たるようになった。
本当は火の魔法ならイチコロらしいが、家に燃え移ると困るんだとか。
掃除完了届を依頼主にサインしてもらい、ギルドに提出したら終了。
Fランク3回クリアしたので明日からはEランクだ。
お金も少し入ったので明日は魔法だ!
異世界に来たからには魔法だ。魔法はロマンだよロマン。
ショウはものぐさだが興味あることだけは頑張る子であった。
◇
掃除2回分のお金をもってニマニマしていたらいきなりギルド受付に呼び止められた。
「ショウ様に手紙が届いています。」
手紙?だれだろう?
隅っこで開封してみたらゴールデン商会からお茶会の招待状だった。
だれだ?
お茶会とか知らないしスルーするか。
持ち前のものくさが発動する寸前で受付嬢がじっとみていることに気が付く。
「ちゃんと返事書いたほうがいいですよ。」
いかにも常識を知らなそうなショウに声をかけてきた。
それもそうか。
めんどくさいけど返事くらいならしょうがないよね。
レターセットとペンを買って丁寧にお断りを書く。
おそらく名前の間違いなのだろう。
返事の手紙を受付嬢に渡すと手数料も取られてしまった。
痛い出費だ。
食事付き宿屋で2泊できると思ったのにこれじゃあ素泊まり2泊だな。
できればギルド裏では寝たくない。
あちこち痛いし寒いし、日本人に外の連泊はきつすぎる。
涙目になりながら宿屋探しに向かった。
少し早めだったので空いてるところを見つけてほっとする。
お湯を頼みたいが今日は水で体をふいてがまんする。寒い。くしゃみが出る。
下着の替えを買っておいてよかった。
◇
5日目朝。
朝ごはんは昨日買っておいた売れ残りの小さなコッペパン一つ。物足りない。
昼はギルド講習で支給されるので我慢我慢。
下着を水で洗濯して干しておく。さすがに臭かった。
石鹸や洗剤は高級品だか泡の出る『バブル草』があるのでそれを使う。
これが2日連泊したかった理由である。夕方までには綺麗に乾いているだろう。
ギルド講習・初級魔法に申し込む。これも一日がかりだ。
時間があるのでギルド裏庭で木刀の素振りを練習する。
お腹がぐぐ~~となる。水を飲んで我慢我慢。
初級魔法は光・火・水・風・土という生活魔法というものらしい。
この世界ではほぼすべての人に魔力がちょっとずつある。
空気中に魔法のもとである魔素があるので呼吸してるだけで取り込まれるんだとか。
今回は女子が多い。魔法は女子に人気なのだろうか。
身体にある魔力を巡回させてというが、なかなかできない。
できた人に手をつないで魔力を送ってもらうとわかりやすいそうだ。
隣の子ができたらしいので手をつないで送ってもらう。
何やら暖かいものが感じられる。
僕も真似して送り返せるかがんばってみた。
難しい。魔力自体はなんとなくわかるが、動かすのってどうやるの?
赤くなってうなっていたら、周りにヒューヒューいわれた。
うるさいな!真剣なのに!
そう思ったら魔力が逆流して相手に伝わったらしい。
びっくりして手を放してしまったけど、なんとなくわかってきたぞ。
そう思ったら腹が鳴った。
ぐぐぅ~~~ぐぐぐ~。長い。
皆が吹き出し、隣の子もプルプル震えて笑いをこらえている。
僕そういうキャラじゃないんだからね!
午前中は恥ずかしいだけでおわってしまった。
やっと給食、もとい昼食の時間。無料昼食はほんとありがたい。
おかわりも自由なのでパン3個たべてしまった。
育ち盛りなんだよ。ほっといてくれ。
午後は小さな水の玉を出してぶつけたりして遊ぶ。
小さな水玉は親指くらいしかないので、ぶつけられたら端っこによって小さな風をつくって乾かす。
慣れてくると火と風を合わせてドライヤーみたいなこともできるみたいだ。
これも毎日練習あるのみ。
夜、宿屋でバケツに入った水に火魔法を何度かぶつけてみた。ぬるめの水になった。
贅沢は言わない。冷たくないだけでもいい。
風魔法も頑張れば洗濯も乾くようになるだろう。
異世界がちょっと楽になった。
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