短編 風・雑木林・拘束
お題ジェネレータを使った練習作品。
自分にあった視点(一人称/三人称)がどちらか客観的に見るため、そして小説を書くこと自体の練習として掲載します。
少女は、木々の枝同士が打ち付ける湿った音で目を覚ます。
強風が吹いているのだろう。それは複数の音源から発せられており、少女の頭上でも例外なく鳴っていた。
長時間閉じていた眼が段々と焦点を合わせるにつれて、やや前方の開けた場所に、自分と同じような格好のーー見慣れた制服に身を包んだ女生徒がいる事に気づく。
鉛色の空の下で、透けるような白さの少女に問いかける。
「なんで縛られてんの、あたし。」
首元、手首、胴、両足。きつく食い込んだその縄により、体重が支えられている。
一人の人間を地上2メートル程に留めるにはそれなりの本数が必要であり、縛られる者へ苦痛を与えるにはその本数で十分だった。
白い少女はそんな独り言など意にも介さず何かの作業を続ける。
「無視かよ。いいから解けよさっさと。」
この少女がこの木に縛り付けた張本人かは不明だが、関与はしている。そう確信したが故の発言。
拘束されている事への怒りと、何かしらの間違いでこの状況となっているのではないかという淡い期待もその言葉には篭められていた。
遠くに見える稲光。
それを見た少女ーー古賀は思い出す。
屋上へと呼び出され、誰かも分からぬ女に掴まれて、振り回された。そしてーーフェンスを飛び越えて地面へと落下したことを。
「落ちて、その後どうなったんだ」自身の体を辛うじて動く視界で見回す。
固く縛られた両足には何の痕跡もない。縄の締め付ける感覚以外には何も感じない。
しかし、制服の襟元に赤黒い何かが付着しているのを見つけてしまった。
恐らくは、血。
自分の体から、もしくは他人のものか。どちらにせよ血が出る状況が発生した。
それは非日常を指す代名詞であり、少女の混乱を加速させるのに適した起爆剤であった。
両手両足へと力を込めるが、縄が解ける気配はない。
ふと、何かの作業をしていた少女の手が止まった。
「ああ、無事に起きたんだ。」
木々の揺らめく音に負けることのないピアノのような力強さを持った声。
単音ながら和音にも聞こえるその声が、抜け出さんと試みる少女の耳へと届いた。
「そうでなきゃ困るし、あなたも困る。」
少女はややトーンを下げつつも、明確な目的が有っての行動だと言わんばかりに言葉を続ける。
それに対し古賀は、激高した獣のうなり声にも似た叫び声を上げる。
「早く解いてよ!」
「……しろしか。」
一言短く呟くと、古賀が縛り付けられている木へと近づいた。
はっきりとお互いの顔が認識できる距離まで移動し終えると、先程から持っていたーー白い紙片のようなものを両手で捧げ持つ。
「は?何それ。」
「知る必要もありませんし、アナタには分からないと思います。」
短いやり取りはそれ以上の交渉が無意味である事を示しており、あくまでも自分が優位であることを表すものだった。
少女が何かを歌い出す。
不思議な抑揚のある、誰かに捧げるための歌。
それが自分のためで無いことは古賀にも分かっていた。
強風の中に歌声が溶ける。
違和感に顔を顰める古賀とは対照的な、想定通りだと言わんばかりに上機嫌な少女。
歌う速度や内容に変化は見られないものの、口角の上がり具合から見るに笑っているに違いない。
歌が進むにつれて、古賀の四肢が脱力してゆく。
もう抗う必要が無くなったのだろう。
その様子を確かめるように歌を止め、その木へと近づく。
風が動きを止め、静寂が訪れる。
一本ずつロープを緩め、少女を解き放つ。
バースデーケーキから火の消えた蝋燭を抜いていくように。
最後の一本……首元を拘束していた縄が、するすると音を立てて樹上へと昇っていく。
少女の体が木の根元へとぶつかり、鈍い音を立てる。
ゆっくりと、急ぐ必要が無い事を示すような足取りで、少女へと近づく。
そして、古賀であった者の耳元に唇を寄せ、ささやく。
「新しいお友達と自分に、ご挨拶を。」
風・雑木林・拘束
を使ってなにか制作します。
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