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帝都前にて

 そして、魔物を狩りながら歩くこと数週間……ようやく帝都が見えてきた。丘の上から見える王城は立派なもので、遠くから見える街並みからは喧噪が聞こえてきそうだ。


「ふわぁ……人間の都市ってすごいのですね。こうして見渡すだけでも精一杯です」

「俺も帝都に来るのは初めてだな……ずっとプリーストギルドにいたから」


 そんな会話をしながら道に添って歩いて行くと……ふと小さな魔圧を感じた。何かに覆われているような奇妙な感覚。


「ロクト様?」

「……少しだけ寄り道してもいいか。あっちが気になるんだ」


 魔圧のする方へ走っていくと、そこには銀色のスライムがいた。それもただのスライムじゃない、どれだけ長く生きてるのか……その体躯は小さな家ほどもあった。


 たかだスライム程度の魔圧に押されるなんて……やっぱり俺はまだまだだな。


「だ、誰かぁ!」


 だが、そんな悲鳴が聞こえてくるとスライムの傍に数人の騎士がいるのも見えた。そして、俺がダガーを抜いた瞬間にはスライムから放出された銀色の槍に貫かれて弾けてしまった。


 たかがスライムと油断したのだろう、もしくはまだ新人だったか……いや、まだ生きてるのが二人いる。せめて彼女らだけでも守らなければ……!


 トゥイリーが爪を伸ばしてスライムを切り裂こうとするが、どうにか斬れたもののすぐに再生してしまう。スライムに決まった形はないから仕方ない。


「トゥイリー、使うぞ」

「……申し訳ありません。私とはどうも相性が悪そうです」


 しかし、トゥイリーのおかげでスライムの敵意はこちらへ向かった。俺はダガーで腕を斬ると即席の血長刀を作る。スライムが大きく飛び上がって俺を押し潰そうとする――それを逃すまいと俺も跳ねた。


 地上戦じゃ勝ち目はない。数トンはあるだろう体重で突進されればそれまでだ。だが、空中ならスライムだって身動きはとれないはず。


「十八連撃……『血桜花』」


 俺は長刀を振り回しスライムの体を分裂させる。どうせすぐに元通りになる……それを、人間は慢心と呼ぶ。


「見えた……魔核だ!」


 いくら形を変えようとも、スライムもまた魔物でしかない。心臓部は確かに存在するのだ。あの連撃はそれをあぶり出すためのもの……だが、位置が悪い。あそこまで斬り込むにはさっきの連撃が五十は必要だ。


 そして、俺にそこまでの力はない……だが、血で作られた長刀はそこらの名刀より優れた面がある。


 それは、血をさらに注ぐ事で形を変えるというもの。


 スライムに突き刺した長刀に血を込め……内部で爆発的に大きくする。さすがの長命スライムも、体内からの攻撃には慣れていないだろう。その感覚は正しく……スライムの魔核に刃が届くと同時に銀色のベトベトが飛び散ってスライムは原型も留めないままに死んだ。


「たかがスライムに……こんな激戦を強いられるか。俺はこれからちゃんとやっていけるだろうか……」


 長刀にしていた血を体内に戻し、俺はまだ無事だった二人に駆け寄り安否を確認する。


「大丈夫か?」

「うん……ありがとう。まだ上手く動けないけど……あなた達は、冒険者?」

「いや、無職だ」


 俺の堂々たる宣言にプラチナブロンドの髪をした十歳そこらに見える少女はどこか引いたような顔をする。だけど、見栄を張って良いことはないのだ。


「って、あれ!? もしかして先輩じゃないですか? あたしですよ、モカっすよ。プリーストギルド……グース支部長のとこで前にお世話になった!」


 そして、その隣にいた俺より少し年下に見える銀髪の魔法使いは……って待て。誰だっけ?


「……ごめん、覚えがない」

「えー!? マジすか。あんなことあって覚えてないんすか……先輩、変わってないですね。ま、いいですいいです。スノーフェアリーのモカです、名前だけでも覚えていってくださいね」


 モカはヘラヘラとした態度で……しかし周囲の警戒は怠らず、まるで隙というものが見えなかった。こんな腕の冒険者がいたら記憶に残っているはずだけど……。


「ごめんなさい、モカ。わたしが遊びに行きたいなんて言うから……護衛の方も……」

「まー、あんなのに出くわすなんて誰も思いませんから、仕方ないですよ」


 モカ達はどうにか、といったように立ち上がって改めて俺に頭を下げた。


「あの……お兄さん、ありがとうございました。あなたがいなければわたし達はどうなっていたことか……」

「いや、魔物に対しては相性というものもある。新人の騎士ならなおさらだ」

「すぐにでもお礼をしたいのだけど、ごめんなさい。すぐに家に戻らないと……」

「まあ、気にするな。大した事じゃない」


 ただスライムを一匹狩ったくらいで、お礼も何もない。そうして立ち去る前に、モカが俺達に声をかけた。


「どうせなら、先輩達も一緒に来ませんか? ご褒美もらえますよ、ごほーび」

「いや……ここで死者を悼むのが先だ。帝都にいるなら、また会うこともあるだろう。その時に飯でも奢ってくれ」

「……本当に、変わってないっすね。りょーかいしました! モカの特権でいい店紹介しまっす!」


 そんな二人が城門の中へ入った事を見届けると……俺は亡くなった騎士の前で呪文を唱え始める。あんなスライムに殺されて、きっと無念だったはずだ。


「……君達の仕事は確かに達成された。せめて、安らかに……『R・I・P』」

 ここまで読んで頂きありがとうございます!


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