一方その頃①
一方、ロクトを追放したプリーストギルドでは早くも綻びが生じていた。グースの居る支部長室に秘書が駆け込んできて声を張る。
「グース支部長! また霊魂が暴れてプリーストが四名重傷だと……」
「……ったく、何をしておる! どいつもこいつも気を抜きすぎではないか!?」
「しかし……対話の間もなく襲われるとのことで……それでは、まるで魔物でございます。とてもプリーストの分野じゃありません! 冒険者に狩っていただくのが一番かと」
そう提言する秘書に、グースは返って反発する。
「冒険者になど頼れるか! 浄化すべき霊魂の中に魔物が紛れ込んでいたなんて事が本当だったら、私の立場がどうなることか……!」
「しかし、既に他の支部へ移ると言っているプリーストも多々おります……どうか、何か対策を……!」
言われて、グースはぐぬぬと考え込む。これまでは順調に霊魂の浄化を行ってギルドとしての立場も高かったのだ。だからこそ、優秀なプリースト達が集まってきた。
その中で出来が悪かったのはロクトだけだった。だから、グースは汚名を雪ぐためにも追放したのだ。これで霊長や霊伯、果てには霊帝さえも夢ではないと……。
「くそっ……それがどうしてこうなった?」
「そのぅ、すごく言いづらいのですが……ロクトはやはり必要だったのではありませんか? いかなる霊との戦闘でも傷一つ付けられた所は見たことがありませんし……」
「っ……! 貴様、この私の判断が間違っていたとでも言うつもりか!?」
「ひっ……いえ、そんなことは……ただ、プリーストが愚痴っていたのを聞いただけです」
ロクトが必要……? そんなわけはない。あいつは何年経っても霊との対話すらできなかった聖職者を名乗る事自体恥でしかない存在だ。
だが、一つだけ学ぶ所はあったな、とグースは思い直した。
「よし、これからは戦闘カリキュラムを導入しよう。今まではロクトのせいで見えていなかった問題が浮き出ているだけに過ぎない。自分より下がいるから大丈夫、という怠慢が怪我を呼んだのだ。ならば、気を引き締める意味でもそうすべきだろう」
「既に数十名のプリーストが大なり小なり怪我を負ってるんですよ!? せめて治療班だけでも構成すべきです。光魔法では傷を癒やせないのですから!」
「ふん、すぐに死ぬわけでもなかろう。治療師ギルドから人など引っ張ってきてはプリーストギルド本部に漏れる可能性がある。いいか、今回の失態は包み隠すのだ」
秘書は「だからこそいっそ本部に応援を頼むべきだ」と口にしようとしたが……おそらく無駄だろうと飲み込んだ。
グースは徹底して保身しか考えない。プリースト達がどれだけ鬱憤を溜め込んで血を流しているのかも分かっていないのだ。
「では、その戦闘教官はいかがしましょうか……?」
「確か冒険者としても活動してみたいと旅に出た連中がいただろう。確か、最高で銀級まで行ったはずだ。そいつらにさせればよかろう」
「銀級クラスのプリーストは、霊魂が暴れ始めた初日に倒れておりますが……」
その言葉にグースはまた憤怒した。ガタリと椅子を蹴って机に両手を叩きつける。
「なんたる体たらくだ! そこまでなまっているとはな……だから霊魂ごときに舐められるのだ! これからは日に四時間は戦闘訓練をするからな!」
「そんなっ……ただでさえ浄化作業が滞っているんですよ!? まだ無事なプリーストも壊れてしまいます!」
「だから、その精神がいかんといっておる! 全く……この私が出よう。浄化作業の基本から見せつけてくれるわ。全く、役立たず共め……」
グースはそう言って支部長室から出て行く。その背中を見送る秘書は、それでも不安げな顔つきだった。
「銀級クラスのプリーストは鍛錬を怠っていませんでしたよ……ということは、今暴れている霊魂の相手を出来るのは膨大な数の冒険者のさらに上澄み……数パーセントしかいない金級クラスなのですよ……?」
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